2009/12/24
シーラじいさん見聞録~バックナンバーは、http://www.mamcorp.netで
オリオンは訓練所に戻った。 いつもだと、訓練生は、三々五々集って自分の意見を声高にしゃべっているものだが、今はちがっていた。 誰も、一言もしゃべらず、一人でぐるぐる回っているだけだった。そして、一様に思いつめた表情をしていた。 いよいよ自分の存在を見せつけることができるんだという思うことで、この不安を打ちけそうとしているかのようだった。 その雰囲気の中に入ると、オリオンにも、「海の中の海」の開放が現実になったのだということが実感された。 あの気弱な訓練生が、オリオンを見つけるとにやってきた。 「きみ、ぼくらはどうなるんだろう?」と小さな声で聞いた。 「ぼくらは、長老や改革委員会が決めたことをやるだけだから心配ないよ」 「でも大勢来るんだろう?」 「向こうも、けがをしたり、お腹がすいたりしているだろうから、ぼくらに感謝してくれるはずだよ」 しばらく黙っていたが、「そうか、ぼくらはいいことをするのだから、恐がらなくていいんだよな」と思いなおしたように言った。 「そうだよ」オリオンは、その訓練生を励ました。 「ありがとう」訓練生は、ようやく不安を払いのけたようだった。 そのとき、教官たちが入ってきた。オリオンは、その真ん中に幹部がいるのがわかった。訓練生が整列したのを確認すると、「よろしい」と教官の一人が叫んだ。 幹部が、教官の間から出て、扇状に整列している訓練生に近づいた。 「今聞いたように、海の中の海は、しばらく開放されることになった。おれたちを代表する長老たちは苦渋の決断をした。 もしクラーケンが攻めてきたら、ここは壊滅するだろう。 しかし、平和のために何かしなくてはならないという意思が残っていれば、たとえ何万年、何十万年後であっても、またおれたちの後をついでくれる者が出てくるはずだ」 幹部は、訓練生を見まわした。 「おまえたちも『海の中の海』の一員だ。そのために、今何をするべきか分かるだろう」 そう言うと、幹部は出て行った。教官たちが、その後を追ったが、数人の教官は残り、訓練生に指示を与えた。 「おまえたちは、今担当して場所に戻れ。そして、見回り人が連れてきた者たちを、ここに案内する任務を担当する。 見回り人は、すぐに引きかえすから、おまえたちだけで遂行しなければならない。 助けを求めている者に対して毅然とした態度を取ること。以上」 訓練生は、すぐに担当区域に戻った。 第二門と第1門には、海ヘビやサメの門番だけでなく、見回り人も配置された。 それで、巨大な穴となっている門の両側全体を警戒することができるのだ。 そして、「海の中の海」に通じる道の何ヶ所かにも見回り人がついた。訓練生が案内する一群以外の者がいないか警戒するためだ。 そこには、呼吸を整えるために「海の中の海」に戻らなくてもいいサメやマグロなどの見回り人が配置された。 担当区域に戻ったオリオンは、あちこち動きまわった。やがて遠くから近づいてくる一群を感じて、すぐにそちらに向った。 しばらくすると、その一群から、「訓練生はいるか」という声を察知した。見回り人が連れてきたのだ。 オリオンは、すぐに「います。もうすぐ着きます」と返事をした。 肉眼でも見えるほどになった。一群の前にはイルカの見回り人がいた。同じ種なので、何回か話しかけてくれたことがある見回り人だった。 しかし、今は、任務を遂行中なので、私語は一切はさまず、「「ご苦労。それではすぐに海の中の海に案内してくれ。 後は門番たちの指示に従ってくれ」と言った。 「わかりました」オリオンが答えると、見回り人は、くるっと向きを変えると、すぐに泳ぎさった。 一群を見ると、20頭ぐらいのマグロが不安そうな顔で、オリオンを見ていた。 大人だけでなく、子供も数頭いたが、誰も声を出さなかった。 オリオンは、「それでは、ぼくについてきてください」と声をかけて、前を泳ぎだした。 そして、「海の中の海」に通じる道に着いた。 そこには、何組かの固まりがいた。それぞれに訓練生がついていた。 3,4人の見回り人が厳しい目で、それぞれの固まりを調べていた。 そして、ようやく許可が与えられると、再び訓練生の先導で動きだした。 途中、オリオンが先導する一群の中から声が聞こえた。オリオンが振りかえると、かなり年配の男が近づいてきた。 「これから行くところには、食料もあり、ゆっくり休むこともできるとのことだが、それは本当か?」と話しかけてきた。 「はい、そうです。元気が出るまで、ゆっくりしてください」 「それはありがたい。この前、岩陰に休んでいると、大勢に囲まれて、『すぐにここから出ていけ』といわれたことがある。『 子供が弱っているので、しばらくでも』と頼んだが聞きいれなかった」 「安心してください。けがをしていれば、病院で治療を受けることもできます」 その男は、ホッとしたようにほほえんだ。


