2009/02/20
「兵庫県弁護士会メルマガ通信」(第51号)
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ◇◆◇◆ 「兵庫県弁護士会メルマガ通信」(第51号) ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ (2009.2.20配信) ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ http://www.hyogoben.or.jp/ ◇◆◇◆ 発行:兵庫県弁護士会 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ◆ 目次 ◇ 「冒頭陳述」って何? 執筆者:富田智和 弁護士 ◇ 今月の法律相談のページ 「突然の解雇−有効性判断に四つの要素」 執筆者:稲田 優 弁護士 「無断の離婚届−本籍地に不受理の申し出を」 執筆者:渡部秀樹 弁護士 「裁判起こしたいが…−弁護士たてぬ「少額訴訟」も」 執筆者:森川 拓 弁護士 ◇ ニュースの読み方 〜過払い金の返還〜 執筆者:石井龍一 弁護士 ◇ 編集後記 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■□■□■□■□ 「冒頭陳述」って何? ■□■□■□■□ 執筆者:富田智和 弁護士 1「冒頭陳述」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。新聞を見て いても、「検察官は冒頭陳述で『被告人は被害者に愛情を抱き、何度も電話した が無視されたことに腹を立てて被害者の殺害を決意した。』という事実を明らか にした。」(※この事案は全く架空のものです)という報道を目にすることがあ ります。今日は、この冒頭陳述について解説したいと思います。 2 「冒頭陳述」というのは「証拠調べのはじめに検察官が証拠により証明しよ うとする事実」のことをいいます。もっと分かりやすくいえば、「検察官が思い 描いている事件の全体像」ということができると思います。つまり、被告人がい かなる人物で、どのような経緯で犯行を決意するに至り、どのようにして犯行を 行い、犯行後はどのようなことをしたのか、などについて検察官なりの考えを述 べるのが冒頭陳述であると考えてください。49号のメールマガジンで、私は公 判前整理手続について解説しましたが、そこにも書いたとおり公判前整理手続に は裁判員は関与しません。そのため、裁判員は冒頭陳述で初めて検察官が思い描 く事件の全体像を知ることになります。 3 これまでの刑事裁判では、検察官のみに冒頭陳述を行う義務が課せられてお り、弁護人が冒頭陳述を行うことは必ずしも必要ありませんでした。そのため、 弁護人が冒頭陳述を行うのは極めて稀でした。 ところが、裁判員制度のもとでは、弁護人も冒頭陳述を行うことになります。 そのため、裁判員は検察官が思い描く事件の全体像と弁護人が思い描く事件の全 体像の両方を知ることが出来ます。 事件によっては、このふたつが全く異なるということも考えられます。例えば、 検察官が、被害者が死亡したのは被告人による殺人が原因であると冒頭陳述で主 張したのに対して、弁護人は、そもそも被害者が死亡したのは病気が原因であり 他殺ではないと主張し、事件性そのものを争う冒頭陳述を行うといったことも考 えられるでしょう。 いずれにせよ、裁判員は検察官と弁護人の冒頭陳述を聞き比べ、裁判の争点が どこにあるのかを知ることが出来ます。 4 この「冒頭陳述」は、検察官・弁護人が考える事件の全体像を裁判員にアピー ルする場として、非常に重要です。そのため、検察官・弁護人とも裁判員に分か り易い冒頭陳述をしようと試行錯誤を続けています。具体的には、パワーポイン トを使ったり、カラーの図表などを多用して、自らの考える事件の全体像がスムー ズに裁判員に伝わるようにする取り組みが、各地の模擬裁判などで行われていま す。 5 もっとも、注意していただきたいのは、この冒頭陳述はあくまでも「証拠に より証明しようとする事実」の主張に過ぎないということです。冒頭陳述の後に は証拠調べ(例えば証人尋問などを思い浮かべてください)という手続が控えて います(その意味で冒頭陳述は証拠調べという本編への導入という意味で映画の 予告に例えられることがあります)。そして、証拠調べで立証することが出来て 初めてその事実を認定することが出来るということになります。つまり、どんな に分かり易い冒頭陳述を行ったとしても、その後の証拠調べにおいて冒頭陳述で 述べた事実が立証されなければ、その事実を認定することが出来ないのです。 分かりやすい例で説明します。検察官が被告人による犯行の状況を冒頭陳述で 説明し、それを立証するために犯行の一部始終を目撃した者を証人として申請し たとします。ところが、その証人が「実は私は犯行を見ていませんでした。」と証 言し、他に何も被告人による犯行を裏付ける証拠がない場合には、検察官が主張 する事実を判決で認定することは出来ないということになります。 6 そして、刑事裁判では立証責任は検察官にあり、検察官は「合理的疑いを差 し挟まない程度まで」の立証責任が課せられているのです(この、「立証責任」 や「合理的疑い」の意味については、すでにこれまでのメールマガジンで繰り返 し説明されているため、ここでは詳しい説明は省略します)。 皆さんが裁判員に選ばれた場合には、冒頭陳述で事件の全体像や争いになって いる点を把握した後は、その後の証拠調べで検察官が冒頭陳述で主張した事実を 「合理的疑いを差し挟まない程度」まで立証できているかどうかに注意しながら 証拠調べ手続を見る必要があるといえます。 ■□■□■□■□ 今月の法律相談のページ ■□■□■□■□ ◇◆ 「突然の解雇−有効性判断に四つの要素」 ◇◆ 執筆者:稲田 優 弁護士 神戸新聞2008年12月2日掲載 Q:勤務先の会社で、経営不振を理由に解雇を告げられました。 解雇の前に社内の合理化などやるべきことはあると思うのですが、従わねばなら ないのでしょうか。 A:今回のあなたのケースのように、会社の経営不振を理由に、人員削減のため に行われる解雇のことを「整理解雇」と呼びますが、たとえ経営不振であっても、 会社が一方的に従業員の生活の糧を奪うことは許されません。 多くの裁判例の積み重ねの中で、この「整理解雇」が有効と認められるために は、(1)人員削減の必要性(2)解雇回避努力義務(3)被解雇者選定の妥当性(4)手続の妥 当性−の4つ要素について、会社側が十分に満たしていることが必要であるとさ れています。 (1)として、会社が人員削減措置をとることが、企業経営上の十分な必要性に基 づいていること、またはやむを得ない措置であると認められなければなりません。 (2)として、会社は、解雇回避努力義務つまり、配転、出向、一時帰休、希望退 職の募集などの他の手段を講じて解雇を回避する努力を尽くしていなければなり ません。 (3)として、会社が解雇の対象とする人を選定する際、勤務成績、会社への貢献 度、経済的打撃の低さ、雇用形態などをもとに客観的に合理的な選定基準を設定 し、これを公正に適用しなければなりません。 (4)として、会社は解雇一般または人員整理について、労働組合との協議、労働 組合からの同意を義務づけるような労働協約がある場合には、それに従わなけれ ばなりません。そのような労働協約がない場合でも、会社は、労働組合または労 働者に、整理解雇の必要性、整理の方針、整理解雇の基準、解雇・退職条件など について、納得を得るための説明をして、誠意をもって協議しなければなりませ ん。 今回のあなたの「整理解雇」についても、こうした要素が満たされているかに よって、その有効性が判断されることになります。 ◇◆「無断の離婚届−本籍地に不受理の申し出を」◇◆ 執筆者:渡部秀樹 弁護士 神戸新聞2008年12月16日掲載 Q:現在、別居中の夫と離婚についての協議をしています。夫は感情的になって おり、私に無断で離婚届を提出するのではないかと不安です。 防ぐ方法はありますか。また、受理された場合、離婚は有効なのでしょうか。 A:無断での届け出を防ぐ方法としては、本籍地の市区町村長に対して、離婚届 出不受理の申し出をしておくのが良いでしょう。 現在の制度では、離婚届出書を提出するだけで離婚が成立してしまいます。し かも、届け出の際、印鑑証明の添付などで意思確認をすることもなく、印鑑もい わゆる三文判でかまわないため、証人2人の署名押印があれば、届出書も受理さ れます。そのためには、届出不受理の申し出をしておくべきです。 この不受理申し出の手続きは、市町の窓口で書類を入手し、本人が署名押印し、 必要事項を記入して提出します。不受理申出書は、本籍地の市町に提出すること をお勧めします。本籍地以外の役所でも書類を提出することはできますが、書類 を受け付けた役場が本籍地の役所に書類を転送する間に夫から離婚届が提出され ると、離婚が成立してしまうおそれがありますので注意しましょう。 続いて受理された場合の効力です。 本人の意思に基づかない離婚届は無効ですが、無効な届け出であっても、いっ たん受理されて戸籍に記載されてしまうと、離婚の無効を認めてもらうのは容易 ではありません。 まず、家庭裁判所に離婚無効の調停を起こすことになります。無断で届け出た 相手方が、調停で離婚届の無効を認めてくれれば、離婚の無効が認められ、戸籍 から離婚の記載は抹消されます。調停で相手方が認めない場合、さらに離婚無効 の確定判決または審判を得たうえで、戸籍訂正の申請をしないと内容の訂正を求 めることができません。 ◇◆「裁判起こしたいが…−弁護士たてぬ「少額訴訟」も」◇◆ 執筆者:森川 拓 弁護士 神戸新聞2008年12月23日掲載 Q: 知人に30万円を貸したが、返済してくれない。裁判で取り返したいのだが、 弁護士に依頼するお金もない。どうすればいいのか。 A:弁護士費用を一括で支払えない方のために、「法テラス」(日本司法支援セ ンター)には費用立て替え制度があります。ただ、今回は請求金額が比較的少額 なので、少額訴訟という手続きを使い、ご自分で裁判されることを考えてみては いかがでしょうか。 少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを請求する場合に限って認められ る裁判手続きで、原則として1回の期日で審理が終わり、判決となります。もち ろん、話し合いで和解という形で解決することもできます。 このような少額の事件については、弁護士に依頼しても費用倒れになることが あるため、弁護士に依頼せずとも一般の方々だけでも手続きができるよう、通常 の裁判に比べて手続を簡易なものとしたのです。そのため、判決に不服があって も異議の申し立てしかできないなどの制約もあります(控訴はできません)。 少額訴訟を起こすための訴状の書き方については、裁判所のホームページにい くつかの書式が記載されているので参考になります。費用については、訴えを起 こす際に必要な印紙、郵便切手など若干の費用が必要となりますが、弁護士に依 頼することを思えば、安くすむといえます。 ※「今月の法律相談」のページは、神戸新聞に毎月第1、3火曜日に掲載され ている「くらしの法律相談」から、神戸新聞の了承を得て転載しています。 なお神戸新聞のサイトは、 http://www.kobe-np.co.jp/ です。 ■□■□■□■□ ニュースの読み方 ■□■□■□■□ 〜過払い金の返還〜 執筆者:石井龍一 弁護士 「消費者金融業者などからの借り手が,利息制限法の上限を超えて支払った 『過払い金』の返還を求める際,どの時点までさかのぼって請求できるのかが争 われた訴訟の上告審判決が22日,あった。最高裁第一小法廷(泉徳治裁判長) は『時効は取引終了時から始まる』との初判断を示し,最終的な借入や返済から 10年以内であれば,すべての過払い金の返還を求められるとした。〜朝日新聞 平成21年1月23日朝刊」 お金を借りる際の金利は,借りる側の大きな負担となります。そこで法律は, 貸金の利息を,元本の金額に応じ年15%から20%を上限利率として,これを 超える利率で契約しても,制限を超える利息の支払いは無効だと定めているので す。 最近は法律の整備によって利率が引き下げられるようになりましたが,それま で消費者金融業者などは,利息制限法を超える利率でお金を貸していましたから, 本来無効であるはずの利息をとってきたことになります。 無効である以上,借り手が制限を超過して支払った利息は,支払うたびに借入 金の元本に充当されていきます。ですから,ずっと支払いを続けていくと,残っ ている元本は次第に減って,ついにはゼロ,即ち借金を完済したことになり,そ れでもなお支払いを続けると,その分は,借金がないのに返済をした,つまり返 しすぎたお金として,逆に貸金業者に対して返還を請求することができることに なるのです。これが「過払い金請求」といわれているものです。 さて,借金をしたのがずいぶんと昔だった場合,いくら過払い金請求ができる といっても,時効で請求できなくなってしまうのではないか?という問題が生じ ます。 民法は,いくら権利を持っていても長い間それを行使しないでいる人は,権利 の上に眠っていると言われても仕方がないし,権利を主張される側の立場として も,長い間放っておかれた末に突然権利を主張されても反論のための証拠など失 ってしまっていることが多くて困る,などの理由で,権利が行使できるのにしな いでいる状態が始まった時から一定の年月が経過したときには,権利が消滅して しまうと定めているのです。これが消滅時効という制度で,その期間は原則10 年です。 では、借金をずいぶん昔から始め,10年以上前に既に過払い金が発生してい たのに,その後も取引を続けていた場合,過払い金を返してもらう権利は,いつ の時点から10年をカウントすれば時効で消滅してしまうのでしょうか。この点 を判断したのが,冒頭の記事の最高裁判例なのです。 最高裁は,過払い金が発生した時点からカウントするのではなく,取引がすべ て終了した時点からカウントすべきだから,最後の借入や返済から10年経って いなければ,10年以上前に発生していた過払い金も,返還を求めることができ る,と判断したのです。 ふつう,借り手としては過払い金の仕組みやそれがいつ発生したかなんていう ことは知る由もなく取引を続けていますし,取引がすべて終了しないうちから貸 し手に過払い金の請求をすることなど考えられませんから,過払い金が発生した 時点から「権利が行使できるのにしないでいる状態」が始まるとして時効期間を カウントするのはおかしいですよね。今回の最高裁の判断は,常識的でもっとも なものといえそうです。 ■□■□■□■□ 編集後記 ■□■□■□■□ 兵庫県弁護士会メルマガ通信第51号をお届けします。 春はそこまで来ています。わたしにとって憂鬱な花粉とともに。 春日野の雪間をわけて生ひでくる 草のはつかにみえし君はも みぶのただみね(古今集478番) (健)


