2008/04/03
「兵庫県弁護士会メルマガ通信」(第42号)
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ◇◆◇◆ 「兵庫県弁護士会メルマガ通信」(第42号) ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ (2008.4.3配信) ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ http://www.hyogoben.or.jp/ ◇◆◇◆ 発行:兵庫県弁護士会 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ◆ 目次 ◇・『遺言の日』記念行事のご案内について ◇・裁判員裁判・責任能力の問題(その1) 執筆者:朝本行夫 弁護士 ◇・あなたが裁判員です! パート4 〜刑事裁判の理念とは? 執筆者:富本和路 弁護士 ◇ 今月の法律相談のページ ・「相続させたくない−「廃除」の請求し権利奪う」 執筆者:濱本 由 弁護士 ・「前夫の姓に戻したい−「やむを得ない事由」なら」 執筆者:宮本由季 弁護士 ◇ 編集後記 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■□■□ 『遺言の日』記念行事のご案内について ■□■□ 「遺言を書きたいけど、どこの誰に相談すればいいの?」 そのような疑問をお持ちの方は是非ご参加下さい。 神戸・尼崎・伊丹・明石・姫路の各会場で遺言に関する講演会や無料法律相談会を 開催しますので、 お近くの会場にお越し下さい。どの会場も予約不要です。 なお、会場によって開催日や内容が異なりますので、ご確認のうえお出かけ下 さい。 ○神戸会場 兵庫県弁護士会館4階講堂(神戸市中央区橘通1-4-3) ☆2008年4月15日(火)1時〜3時 ☆対談「経験豊かな弁護士によるトーク」 出演:西谷良彦弁護士、中川勘太弁護士、 長谷部信一弁護士、新井大介弁護士、大原雅之弁護士 ☆遺言・相続問題等無料法律相談会(当日受付) ○尼崎会場 すこやかプラザ (尼崎市七松町1-3-1-502号 フェスタ立花南館5階) ☆2008年4月15日(火)1時30分〜4時 ☆講演「上手に相続をするには」 講師:古川 靖弁護士 ☆遺言・相続問題等無料法律相談会(当日受付) ○伊丹会場 伊丹市立産業・情報センター(伊丹市宮ノ前2−2−2) ☆2008年4月12日(土)1時〜4時 ☆講演「上手に相続をするには」 講師:石原周一公証人 ☆遺言・相続問題等無料法律相談会(当日受付) ○明石会場 明石市生涯学習センター学習室1 (明石市東仲ノ町6−1アスピア明石北館7階) ☆2008年4月19日(土)1時30分〜5時 ☆講演「相続と遺言」講師:大成裕教弁護士(元公証人) ☆遺言・相続問題等無料法律相談会(当日受付) ○姫路会場 兵庫県弁護士会姫路支部会館3階大ホール (姫路市北条1-408-6) ☆2008年4月15日(火)3時〜4時30分 ☆遺言・相続問題等無料法律相談会(当日受付) 各会場へは公共交通機関をご利用下さい。 ■□■□ 裁判員裁判・責任能力の問題(その1) ■□■□ 兵庫県弁護士会 裁判員制度実施本部 本部長代行 朝本行夫 弁護士 1 前回,このメルマガで,「実際に裁判員ないし補充裁判員に選ばれた方が,ど のようなことをするのかをご理解頂けるよう,裁判員裁判の流れ等をご説明させ て頂きます」と書きましたが,富本弁護士にこのメルマガで書いて貰っておりま すので,私は責任能力が問題となる裁判員裁判について,お話させて頂きます。 2 平成20年2月27日から29日までの3日間,神戸地方裁判所において, 神戸地方裁判所,神戸地方検察庁及び兵庫県弁護士が合同で裁判員裁判の裁判員 の模擬選任手続と模擬裁判を実施しました。 裁判員の模擬選任手続で選ばれた6名の市民の皆様には,次のような内容の事 件(森一郎事件)について,審理をご覧頂き,裁判官3名と一緒に評議をして貰 いました。 【事案】統合失調症にかかっていた被告人は,レンタカ−を借りたが返還期限を 過ぎ再三,催促を受けても返還しなかったため,レンタカ−会社の社員が被告人 には連絡せず,車両を引き揚げた。 被告人は,自動車は別の会社から借りたているという妄想を抱いていたことか ら,自動車が盗まれたと考え,自動車を取り返すつもりで刃物を持ってレンタカ −会社を訪問したが,当然返して貰えず,被告人と応対したレンタカ−会社の 社員の一人を,刃物で突き刺して死亡させた。 事実関係は概ね争いがなく,責任能力の有無,正確には,責任能力が完全に失わ れていたか(無罪),それとも完全には失われておらず,著しく減退していた だけであるか(有罪)が,検察官と弁護人との間で争いになりました。 3 刑法第39条の次のような規定があります。 1項 「心神喪失者の行為は罰しない」 2項 「心神耗弱者の行為は,その刑を減軽する」 この規定の適用が問題となる事件では,検察官や弁護人は審理の終わりに際し て,例えば次のように述べます。 検察官 「弁護人は,被告人は本件犯行当時,心神喪失の状態にあり, 責任能 力がなかった などと主張します。しかし,被告人の精神鑑定を行った○○医師の 証言によれば,被告人に 責任能力があった ことは明白です」 弁護人 「被告人は本件犯行当時,心神耗弱状態にあり, 完全な責任能力があ りませんでした。刑を減軽すべきです」 裁判員の方は,どのように考え,どう判断すればよいのか大いに悩むことにな ります(裁判官も当然悩みます)。 4 責任能力の有無・程度が問題となる裁判員裁判の事案では,裁判員の方に, 先ず,刑法における責任能力の概念・仕組みをご理解頂かなければなりません。 これをご理解頂けるよう,裁判官,検察官及び弁護人が務めなければなりませ ん。 2007年12月19日、日本弁護士連合会の裁判員制度実施本部・法廷用語 の日常語化に関するプロジェクトチームが、法律家がこれまで使用していた法律 用語・概念を,裁判員の方に,如何に理解して頂くかを検討して,その最終報告 書をまとめ公表しています。 そこでは,責任能力がないと処罰されないという刑法の原則について次のように 説明されています。 「なぜ,犯罪を行った人が犯罪者として刑罰を科されるかと言えば,やってよ いことと悪いこととを区別し,悪いことはしないという判断できるにもかかわら ず,あえて悪いこと=犯罪を行ったからです。これに対して,やってよいことと 悪いことが区別できない人が犯罪行為を行ったとしても,あえて悪いこと=犯罪 を行ったとは言えませんからその人を非難し,刑罰を科することはできません。 善悪を判断できる人が,自らの判断によって罪を犯した場合に処罰するのが, 刑法の大原則なのです」 「責任能力」については,「犯行当時の精神状態が,自分の行動に責任を負え るようなものであったこと」と説明されております。 5 責任能力は刑法学上の概念であり,刑法の条文に書いてある言葉ではありま せん。 そして用語自体が抽象的であり,法律家が自分の抱いているイメ−ジで「責任 能力」という用語を使用して裁判員に説明しても,法律家のイメ−ジを裁判員に 正確に伝えることは非常に困難です。 そこで,前記報告書は,『裁判員に対し,「責任能力があるかどうか判断して 下さい」と正面から問いかけるのではなく,「心神喪失の疑いがあるかどうか, 心神耗弱の疑いがあるかどうかを判断して下さい」というように,責任能力を他 の具体的な用語(心神喪失,心神耗弱等)に置き換えて話した方がわかりやすい でしょう。勿論,これらの言葉を使う時には,わかりやすい説明を伴うことが必 要です』と法律家に説いています。 勿論,心神喪失,心神耗弱についても,裁判員に理解して貰えるよう,平易に 説明することが不可欠です。 6 前記報告書は,心神喪失及び心神耗弱の概念とその適用について次のように 説明しています。 心神喪失 「精神の障害により,やってよいこととやってはいけないことを判断し,また はやってはいけない行為を抑えることが,全くできない状態。なお,精神の障害 というのは,病気などの長期的な障害だけでなく,薬物や飲酒などによる妄想な どの一時的な障害も含む」 心神耗弱 「精神の障害により,やってよいこととやってはいけないことを判断し,また はやってはいけない行為を抑えることが,非常に困難な状態」 「精神の障害」として典型的なのは,統合失調症など幻覚や妄想をともなう病 気ですが,統合失調症の場合でも重度であるかどうか,またその他の精神病や知 的障害の場合は,その症状や程度が,慎重に検討されることになります。 長期にわたる病気だけでなく,薬物の影響や,飲酒による病的酩酊による意識 障害なども,心神喪失と認められる場合があります。 7 次回も引き続き,責任能力の問題を,前記模擬裁判の内容を紹介しながら, できる限り具体的にご説明させて頂きます。 以上 ■□■□■ あなたが裁判員です! パート4 □■□■□ ■□■□■ 〜刑事裁判の理念とは? □■□■□ 富本和路 弁護士 1 はじめに これまで、パート1〜パート3において、捜査のこと、裁判のことなど、刑事 手続の一連の流れ及びその中での裁判員の方々の役割等についてお話させていた だきました。 今回は、刑事裁判における基本的な原則や理念などを説明させていただきたく 思っています。 2 刑事裁判の重要な目的 〜「無辜の不処罰とは?」 刑事裁判においては、「無辜(むこ)の不処罰」という言葉があります。「な んのこっちゃ?」と思われる方が大勢いらっしゃるかと思いますが、私も、はじ めてこの言葉を聴いたとき、まったく何のことか分かりませんでした。本筋をそ れてしまいますが、私がこの言葉をはじめて知ったのは本に書いてあるのを見た ときで、恥ずかしながら、何と読むのかさえまったく分かりませんでした。「辜」 は「罪」の意味であり、「無辜」とは「罪のないこと」あるいは「罪のない人」 のことをいいます。つまり、「無辜の不処罰」とは、簡単にいうと「罪のない人 を処罰してはならない」という、当たり前のことをいうのです。 刑事裁判は、この「無辜の不処罰」を忠実に守らなければならないのであり、 このことは、国民の誰しもが納得できることだと思います。 ただ、無辜の不処罰をもっと突っ込んで解釈すると、「たとえ10人の犯罪者 を見逃しても、たった一人の罪のない人間を処罰してはならない」という意味を 有しています。この解釈を聞いてみて、皆さんはどのように思われるでしょうか? 「犯罪者が得してるみたいでおかしい。けれど、無実の人が処罰を受けるのは かわいそうだし、正義に反する。」と思われる方が多いのではないでしょうか。 これは当然の感覚だと思います。しかし、犯罪者が見逃されるデメリットと無実 の人が処罰を受けるといういうデメリットを比べた場合、やはり、無実の人が処 罰を受けるというデメリットを最大限回避しなければなりません。 もちろん、誤解のないように言っておきますが、上記の10人の犯罪者を見逃 すというのは、一種の比喩であって、「無実の人を処罰してはならない → 犯 罪者をいくら見逃してもよい」ということではありません。無実の人を処罰して はならないという大前提をもとに、適正な手続によって、裁判を行い、犯罪者を 処罰していくということが求められているのです。 刑罰というものは、現実として、国家が、特定の人物に対して、その人の自由 や財産、場合によっては生命を奪うというものですから、それだけの正当性が認 められなければなりません。その正当性を手続的に保障するために、憲法や刑事 訴訟法などに従って、裁判が行われるのです。具体的には、後述するような諸原 則が定められているのです。 現実に、刑事裁判において無罪判決が出ていることを、皆さんも新聞報道など でよく見ていると思います。もちろん、無罪の理由は個々の刑事裁判によってさ まざまであり、個々の刑事裁判に携わっている人たちにしか分からない事情が多 くありますので、それぞれの無罪判決に対する意見を述べることはできませんが、 いずれも、憲法や刑事訴訟法に従って裁判所が判断した結論であることは間違い がありません。 3 刑事裁判における重要な諸原則 (1) 無罪推定の原則 皆さんは「無罪推定の原則」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 「失礼な!当然だ!」と言われる方もいらっしゃれば、「聞いたことがない」あ るいは「聞いたことはあるけどよく分からない」などと思われる方もいらっしゃ るかと思います。 無罪推定の原則とは、誰であっても、裁判で有罪判決を受けるまでは無罪であ ると推定される、ということです。これは、例えば自白事件においてもそうです。 被告人が自白している場合でも、有罪判決が出されるまでは無罪と推定されるの です。 では、なぜ、このような原則があるのでしょうか? 突き詰めていけば、大変 難しい問題になり、私自身、しっかりと説明するのは困難です。 簡単に説明しますと、犯罪というのは法律(主として刑法)によって決められ ていて、法を解釈・適用して法律上犯罪であることが間違いないということが確 認されるまでは、犯罪自体が成立しないのです。そして、法を解釈・適用するのは 裁判所ですから、裁判所において、有罪判決が出るまでは、犯罪自体成立してい ないことに加え、無辜の不処罰のためにも、無罪と推定される、という説明が可 能です。 もちろん、もっと根源的な国家対個人の人権という大問題も関係してくると思 われますし、その他の説明もありえますが、とりあえず小難しい議論は抜きにし て、被疑者・被告人は裁判所によって有罪であると認定されるまでは無罪であると いうことをしっかりと覚えていてください。 なお、「無罪の推定を受けるのに、なぜ、逮捕されて長い間留置されてもよい のか?」という疑問もあると思います。それは、憲法及び刑事訴訟法上、犯罪の 嫌疑があれば、適正な手続にのっとって、逮捕・勾留してもよいということになっ ているからです。つまり、捜査段階においても、「犯罪者」を逮捕しているので はなく、犯罪の嫌疑がある「被疑者」を逮捕していますので、無罪推定の原則に は抵触しないのです。したがって、もちろん、捜査段階においても無罪推定の原 則は妥当しているのです。 (2) 検察官が立証(挙証)責任を負担すること 先ほど説明した無罪推定の原則によって、裁判上「被告人が有罪である」と主 張している検察官が、有罪であることを立証、つまり、証明しなければなりませ ん。逆に言えば、検察官が有罪であることを証明できなければ、裁判所は無罪の 判断を下すことになります。これが、検察官に立証責任が課されているというこ との意味です。 では、具体的に検察官が有罪を「証明した」というのは、どういうことでしょ うか? それは、裁判上提出された証拠に照らすと、「被告人が有罪であること に合理的疑いがない」といえるのであれば、被告人が有罪であることを証明した ということです。 そうすると「合理的疑いって何?」というもっともな疑問が出てくるのですが、 それは、裁判に現れたあらゆる証拠に照らしてみると、皆さんが「常識的に」考 えて、被告人が有罪といえる、ということです。 裁判は、過去の事実について判断するものであり、タイムマシンでもできない 限り、過去の事実を裁判のときに見ることは不可能ですから、いわゆる白黒はっ きりさせるということを100%守ることは不可能なのです。したがって、憲法 や刑事訴訟法にのっとって、適正な手続で刑事裁判を行わなければならず、その 方法として、検察官に立証責任が課されるという手続きになっているのです。 裁判員制度の目的のひとつとして、国民の皆さんの経験などを裁判において反 映させるということがあります。皆さんの経験に照らした皆さんの常識で、被告 人が有罪かそうでないかを判断するということになろうかと思います。ただし、 皆さんが常識で判断する際に検討しなければならないのは、裁判上に現れ出た証 拠だけであって、世間のうわさやマスコミ報道などを根拠としてはなりません。 (3) 疑わしきは被告人の利益に、の原則 「疑わしきは被告人の利益に、の原則」とは、疑わしいことがあると、それは、 被告人に不利益に扱ってはならず、被告人に有利に扱わなければならないという 原則です。「疑わしいこと」というのは、証拠を常識的に判断した上で疑わしい こと、という意味です。つまり、裁判で、証拠調手続が終了した後、被告人が本 当に犯罪を犯したのかどうかについて、常識に照らして考えてみるとよく分から ない、という場合に、被告人を無罪としなければならないという原則のことをい います。なお、「疑わしきは被告人の利益に、の原則」は、無罪推定の原則と同 じ意味で使われることもあります。 もし、裁判員になられて、「被告人が犯人じゃないかとは思うけど、証拠だけ から判断すると、分からない、、、」というように思えば、それは無罪にしなけ ればならないということです。 「それはおかしいんじゃないの?」と思われる方もいらっしゃると思いますが、 これは、はじめに説明した「無辜の不処罰」を思い出してもらえれば、納得でき ると思います。怪しいということで有罪にしてしまって、もしも、被告人が無実 であったなら、取り返しのつかないことになってしまうからです。 4 終わりに 今回は、刑事裁判における諸原則等を説明させていただきました。もちろん、 他にもいろいろと大切な原則などがありますが、今回説明したものは、中でも特 に重要で、裁判員になられる方々にも、是非、知っておいて頂きたいものです。 ただ、若干抽象的になって分かりにくかった部分もあると思いますので、次回に、 具体例を交えながら、今回説明した諸原則等をお話したいと思います。 以上 ■□■□■□■□ 今月の法律相談のページ ■□■□■□■□ ◇◆「相続させたくない−「廃除」の請求し権利奪う」◇◆ 執筆者:濱本 由 弁護士 神戸新聞2008年2月5日掲載 Q:今年40歳になる長男に関する相談です。長男は成人してからも、仕事をす ることなく、私に金をせびり、暴力を振るうような状況です。このような長男に 私の財産を相続させたくありません。長男以外の相続人に財産を相続させるとい う遺言を書いておけばいいのでしょうか。 A:あなたがそのような遺言書を作成すれば、基本的に長男は法定相続分の相続 ができません。しかし、遺留分(民法1028条)という制度があるため、長男 に一切相続させたくないというのであれば、さらに別の手続きが必要になります。 遺留分とは、相続人の生活に配慮して、被相続人の遺言の内容にかかわらず、遺 産のうち一定程度の財産の相続だけは認めようという相続人保護のための制度で す。 長男の遺留分率は2分の1ですから(1028条2号)、大まかにいうと、あなた の 遺産からあなたの借金を引いた額に、この2分の1と長男の法定相続割合を 掛け合わせたものが長男の遺留分となります。遺言書があったとしても、長男 が遺留分減殺請求をした場合には、この額が長男に支払われてしまうことになり ます。 遺留分の相続を防止するためには、家庭裁判所に対して長男を相続人からはず す手続き(「廃除」の請求)をとる必要があります(892条)。廃除とは、遺留分 を 有する推定相続人が被相続人に対して虐待や侮辱をしたとき、または著しい 非行があったときに、被相続人が家庭裁判所に請求することで、その推定相続 人の相続権を奪ってしまう制度です。廃除が認められた場合には、その推定相続 人は、遺留分を含め一切の相続ができません。 ただ、廃除が認められるためには、長男の言動が客観的に「虐待」や「著しい 非行」にあたると判断される必要があります。お聞きした内容がすでに「虐待」 や「著しい非行」にあたると判断される可能性はありますが、普段から長男の言 動をさらに詳しく記録しておくとよいでしょう。 また、長男に廃除の請求をしたことがばれて暴行がエスカレートしては大変で すから、遺言によって廃除をすることもできます(893条)。この場合は、遺言 執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることになりますので、遺言書に 遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。 ◇◆「前夫の姓に戻したい−「やむを得ない事由」なら」◇◆ 執筆者:宮本由季 弁護士 神戸新聞2008年2月19日掲載 Q:4カ月前、夫と離婚し、旧姓に戻りました。旧姓に戻したのは、前夫の両親 の意向を考慮したためですが、前夫と結婚以降、20年以上も前夫の姓を使って いたため、旧姓での生活に大きな不便があります。いまから、前夫の姓に戻すこ とはできますか。 A:結婚して姓を変えた女性が、離婚した場合、その女性の姓は、旧姓に戻るの が原則です。 しかし、結婚後長年使用してきた前夫の姓を旧姓に戻した場合、あなたがおっ しゃるように、さまざまな不便を伴います。そのため、法は、離婚の日から3カ 月以内に、本人の本籍地あるいは住居地の市町村に、結婚していた時の姓を名乗 りますという届けをすれば、結婚時に使用していた姓を使用することができると しています。ですから、あなたが離婚後3カ月以内にあなたの本籍地あるいは住 居地の市町村に届け出れば、あなたは、前夫の姓を使用できたのです。 ただ、あなたの場合は、離婚してから既に4カ月が経過しています。ですから、 この方法で、あなたの姓を結婚時の姓に戻すことはできません。このような場合 には、一般的な姓の変更方法に従うことになります。 姓を変更するには、戸籍法上「やむを得ない事由」が必要です。この「やむを 得ない事由」とは、一般的には、漢字が常用漢字になく、読むことが困難である とか、長年自分の本当の姓とは違う姓を使用し続けていて、戸籍上もその姓を使 わなければ、混乱を招くような場合です。長年とは、一般的には7年前後とされ ています。そして、そのような事由があると家庭裁判所に認められ、許可されて 初めて姓を変更することができます。 ただ、あなたの場合は、戸籍上はいったん旧姓に戻ってはいるものの、20年 以上の間、前夫の姓を使用していたという事情があります。 同様に長期間、前夫の姓を使用していたケースで、「離婚後余り日時の経過し ない時期にその氏を婚氏に戻すのであれば、混乱が生ずる可能性は少ないので、 右のような場合には『やむを得ない事由』を一般の場合よりゆるやかに解して差 し支えない」として、姓の変更を認めた裁判例があります。婚氏とは、結婚して いた当時の姓のことです。 この裁判例に照らせば、あなたの場合も、今直ちに申請すれば許可される可能 性が高いと思われます。 ※「今月の法律相談」のページは、神戸新聞に毎月第1、3火曜日に掲載され ている「くらしの法律相談」から、神戸新聞の了承を得て転載しています。 なお神戸新聞のサイトは、 http://www.kobe-np.co.jp/ です。 ■□■□■□■□編集後記■□■□■□■□ 兵庫県弁護士会メルマガ通信第42号をお届けします。桜が咲き始めました。 桜といえば西行。私は人口に膾炙した「その如月の」の歌よりも、次の歌の方が 好きですね。 春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり 西 行(山家集) (健)


