ドイツ発 わが輩は主夫である RSSを登録する

コラムです。私はドイツの地方都市(妻の故郷)に家族5人で住んでいます。ドイツへの移住に伴い、「家庭内人事」でいわゆる主夫に。3人の子供と奮闘しつつ、育児とは家族とは何か。幅広い視点からお送りします。

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2006/11/28

ドイツ発 わが輩は主夫である

この記事を取り寄せる

●━━●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ●ドイツ発 わが輩は主夫である 【その49】  
 ● (2006/11/28 発行)
━━●━━━●━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 わたくし、高松平藏は
 妻の故郷、ドイツのエアランゲンという街に住んでいます。
 ここでは3人の子供たちに日々翻弄される、兼業主夫。
 そんな私のコラムをお送りします。  

(エアランゲンってどこ?? → www.interlocal.org/Erlangen.htm )

 □□ 今回の目次 □□

  ★【コラム】 発言予約!
  ★ 執筆後語

---【お知らせ】------------------------------------------------------
インターローカルジャーナルのサイトで新しいコーナー

    『高松 平藏のノート』 をつくりました。
    http://www.interlocal.org/note.htm

<最近の執筆分>
 ・ポップな携帯
 ・民主主義の実験、タウンミーティング
 ・福祉国家ドイツの行方
 ・忍者番組で感じた情報の偏り
 ・「棟梁ソルネス」の所感
 ・京都らしい会社の京都らしいお家騒動

------------------------------------------------------【お知らせ】---
──────────────────────────────────────
 発言予約!
──────────────────────────────────────
コミュニケーションといったときに、日本に比べるとドイツ社会では言葉を積み重ね
ていく手続きがきっちりしているのが特徴。そんな社会でわが家の夕食は時々おかし
なことがおこる。


■滑稽な夕食■
子育て中に夕食時に『早く食べなさい』と子供に促したことのある人は多いであろ
う。逆に子供のときに親から促された記憶のある人も多いのではないか。

わが家でも食卓で何度も『早く食べなさい』といわねばならないことがある。その理
由は右手を挙げているからだ。

右手を挙げているのは、発言の予約のためである。
例えば長女が学校でのことを話しはじめて、それに対して次女も自分のことが話した
くなる。子供のことである。話しはじめると一人の発言が終わるまでにどんどん話そ
うとする。そうなりはじめると、妻がそれを制する。すると『メルデン!(意訳する
と「発言予約!」)』と言いながら手を挙げるというわけだ。

日本からみるとやや滑稽に見えるが、いや、料理を前に右手をあげているので、当然
食べることができなくなるので、実際滑稽といえば滑稽だ。

私や妻は手を挙げた順番を間違えないように『はい、次』と裁いて、発言を許可して
いくわけだが、一番下の長男になってくると、発言予約すること自体が楽しいよう
で、発言内容は『ねえ、知ってる?』というドイツ語の小さな子供の常套句ではじま
り、どうでもよい話をする。こうなってくると、発言予約が過密になり、硬直してく
る。それで『話しはあとで、まず食べなさい』と促すことになるわけだ。


■コミュニケーションの手続き■
いずれにせよ、これは人の話をきちんときかねばならないという態度が底辺にある。
だから食卓で私と妻が話しているても、そこへ子供が割り込もうとすると『話が終
わってからにしなさい』と制する。そして話が終われば『はい、何かな?』と改めて
話をするわけだ。

子供たちが通う幼稚園でも『イス・サークル』というプログラムがある。これは一定
の期間、教室からおもちゃを地下室へ追い出すというものだが、どのおもちゃを教室
から追い出すか、イスを円形に並べて2週間かけて話し合う。それから、おもちゃを
教室へ戻すときもやはり 2 週間かけて話あう。当然のことながら気に入ったおも
ちゃは子供によって違う。だからこそ話し合いの論点が生じるわけだ。

話し方も訓練する。
ある先生によると、ドイツの小学校は4年生までなのだが、日本の5年生に相当する段
階ではドイツ語の時間に『学習のための学習』を行うという。その中で議論のすすめ
かたを学ぶそうだ。相手の顔を見る。相手の話をきいてから自分の話をする。自分の
言いたいことを整理してから発言する。一番重要なことを最後にもってくるといった
基本ルールを学ぶ。

政府の審議会などの会議では人々は言いっぱなし、著しく効率が悪い。議長の許可を
得てから発言するというルールができるまで1年もかかったという話を読んだことが
ある。審議会といえば一応、知識人やそれなりの社会的地位のある人がメンバーだと
思われるが、なんともため息の出る話である。日本の国会に野次が多いが、これも
『話すこと』『聞くこと』に関するプロトコル(手続き)が広く共有されていないと
ころにあるのだろう。


■みんな分かってる?■
もちろん、こういった日本の様子は言語と文化を見る必要もある。

興味深い考え方で、コミュニケーションについて『高文脈コミュニケーション』『低
文脈コミュニケーション』と分類したアメリカの学者がいる。

かの学者によると日本は『高文化コミュニケーション』と分類されている。簡単にい
えば情報共有をしている割合が多いということである。日本で『阿吽(あうん)の呼
吸』があったり『察すること』の能力の高い人が多いのは、皆の基本的な了解範囲が
高いからできることだ。きめ細かい日本のサービス、時には過剰すぎるサービスもこ
うした文化背景が反映されているのだろう。

『阿吽(あうん)の呼吸』を醸成するたために企業などでは『飲みニケーション』が
あったし、かつて盛んに行われていた社内旅行やスポーツ行事などは情報の高い共有
化を保つことにつながっていた。また会社でなくとも集落の意思決定などは一晩中か
かって、なんとなく決まるということがあったそうだ。阿吽(あうん)の呼吸や察し
で成り立つ共同体では対話の手続きはおろか、主述を明確にする必要もあまりないと
いうことだろう。

それに対して、ドイツなどは基本的な了解範囲が『低文脈コミュニケーション』とい
うことになる。そのため主語述語をはっきりさせ、きちんと話を聞くことが必要だと
いうわけだ。だから感情的に話すことをかなり忌避しているし、子供にもそれをずい
ぶん教え込む。


■冷静な抗議■
ドイツのコミュニケーションのスタイルは抗議という行動でもよくわかる。たとえば
共同住宅で隣人がうるさい場合も感情的にならずに抗議できるし、場合によれば家主
を通して、抗議の手紙を送ってもらうということもできる。『うるさい』というだけ
で、他の隣人たちの賛同が集まれば警察を通して抗議することも可能だ。

日本のアパートなどで抗議という行動に出るときは感情が表に出ることが多いであろ
うし、今のご時世、抗議をすると逆上して殺されてしまうリスクもある。昨年、『騒
音おばさん』なる奈良のご婦人のことがニュースになっていたようだが、ドイツだっ
たら問題はもっと早く解決したのではないかと思える。

しかし、よくよく考えると、こうなるのも当然で、日本では言語による冷静なコミュ
ニケーションの訓練をすることはドイツほどないし、そのくせ『察しあい』を高める
ような従来の共同体はすでに崩壊している。コミュニケーションの手段に感情を爆発
させることしか術がないのだ。いじめも昔からあったが、ここ十数年のものは、共同
体をベースにした人間関係が崩れていく一方で、それに代わる人間関係の様式のよう
なものを開発をしてこなかったことが遠因になっているように思えてしかたがない。

ドイツの話にもどると、実はわが家の隣人にも平日でも深夜まで騒ぐ困った若者が住
んでいたことがある。抗議するとしばらくは静かにしているのだが、そのうちに、い
かにも頭の悪そうな彼の友人たちがやってきて夜中までパーティだ。この隣人は知性
をあまり感じることのない若者であったが、抗議すると殺される危険を感じるという
ことはこれっぽっちもなかった。そして日常的には顔をあわせるときちんと挨拶もし
た。こんな若者でもドイツ式のコミュニケーションのプロトコル(手続き)は持って
いたわけだ。

いずれにせよ、今の日本ではかつての『高文脈』のコミュニケーションを維持するこ
とが難しくなってきているし、民主制がきちんと機能するにはコミュニケーションの
手続きの共有化から見直すべきだと思える。また、グローバル化で別の文化背景の人
と話すためには、言語はより機能的に使う必要がある。

今回は話があれこれ飛んでしまったが、わが家も時々、誕生パーティにどうするか、
クリスマスをどう過ごすか、といった他愛もないテーマについて、家族会議をするこ
とがある。ただし、幼稚園でやるような『イス・サークル』ではなく『ザブトン・
サークル』、車座である。(了)

──────────────────────────────────────
  執筆後語
──────────────────────────────────────

◆先日は久々に取材でベルリンへ。帰りのアウトバーンで突然『ピシッ』と何か割れ
たような音。小石でも飛んできたのでしょう。見れば、フロントガラスが欠けてい
る。危ないので早速取り替えました。保険が大半をカバーしてくれているのですが、
高くついた取材でした。

◆今回は長くなってしまいました。2度に分けようかとも考えたのですが、編集作業
が大変なので、読者の方に申し訳ないと思いつつ、一気にお送りします。お許しくだ
さい。なお、ここまで読んでくださった方には長文読破深謝。(高松平藏)

──────────────────────────────────────
【ご意見、ご感想をお寄せください】

当メルマガにご意見やご感想などお送りください。
○送り先→ pro@interlocal.org
──────────────────────────────────────

この記事を取り寄せる
最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る