2009/06/02
映画の精神医学 「グラン・トリノ」の人種・キリスト教的テーマとは・・・
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主人公のウォルト・コワルスキーは、ポーランド系という設定に なっていますが、なぜ「ポーランド系」でなくては、 いけなかったのでしょうか? それは、「カトリック」との兼ね合いから、必然的にそうなった のでしょう。 アメリカで、カトリック教徒といえば、 アイルランド系とイタリア系が有名です。 でも実は、ポーランド系の多くもカトリック教徒なのです。 「グラン・トリノ」では、ウォルトとカトリック教会の神父との 交流も重要な要素の一つになっています。 そういう意味で、主人公がカトリック教徒である設定は必要だった わけですが、アイルランド系というのはアメリカではかなりの人口を 占めていて、もはやマイノリティとは言い難い部分があります。 陽気なイタリア系は、どうみても頑固で偏屈なウォルトのイメージには 合いませんから、必然的にポーランド系という設定になっているのでしょう。 「グラン・トリノ」では、マイノリティ同士の交流が 意識的に描かれています。 ウォルトの友人は、イタリア系の床屋やアイルランド系の土建屋など、 いずれもカトリックの人たちです。 主要な登場人物として、アメリカの人種構成上マジョリティを形成する WASP(プロテスタント系白人)は一人も出てきません。 ■ キリスト教的なテーマ 「グラン・トリノ」は、非常にキリスト教的な作品です。 その辺のテーマについては、ネタバレなしでは説明出来ませんので、 このメルマガの巻末にネタバレ記事として掲載しておきましたので、 映画をご覧になった方はお読みください。 多少難しい解説となってしまいましたが、 人種や宗教的なテーマを完全に除いて、 「老人と少年の心の交流」という部分だけでも十分に 楽しめる作品となっています。 さらに、 ・アメリカにおけるマイノリティの居場所 ・アメリカにおける老人の居場所 ・アメリカにおけるカトリックの居場所 そうした部分にまで掘り下げて見られれば、 アメリカのマスコミで「グラン・トリノ」が大絶賛されている 理由も自然と理解できるでしょう。 樺沢の評価 ★★★★☆ (★★★★★が満点。☆は、★の半分) ───────────────────────────────── ■3 精神医学の目 ───────────────────────────────── ┌───────┐ 追悼 栗本薫 └───────┘ イギリス、湖水地方。 丁度、昼間に、ピーター・ラビットの作者、ベアトリクス・ポターの ゆかりの地を尋ねた夜。 久しぶりにインターネットに接続すると、 「5月26日、栗本薫さん死去」の文字が目に入ってきました。 不思議と悲しさはこみあげて来ないものの、 心にポッカリと空洞が空いたような感覚にとらわれました。 そういえば、栗本さんの闘病記のタイトルは、 「ガン病棟のピーターラビット」だった・・・とふと頭をよぎります。 ちょうどピーター・ラビットのゆかりの地を尋ねた直後に訃報を 知ったというのは、偶然といえば偶然ですが、 何か不思議な感覚にとらわれました。 昨年末に膵臓ガンの手術をしてから、 いつこの訃報が届いてもおかしくはないと それなりの覚悟はしていました。 当メルマガでも何度も書いておりますように、 私は栗本薫とグイン・サーガが大好きです。 「大好き」というか、 私に小説の本当のおもしろさを教えてくれたのは 栗本薫ではなかったか・・・と。 高校一年の夏休み。 友達からに「おもしろい小説があるよ」ということで まとめて借りた「グイン・サーガ」。 第11巻までを1週間でイッキに読み切りました。 あの感動と興奮の1週間は、一生忘れられません。 「こんなにおもしろい小説が、この世の中に存在していたのか」 という驚き。 そして、それを2ヶ月に1冊以上というハイペースで生み出し続ける 栗本薫という作家の凄さ。想像力。表現力。精神力。筆力。 文章を書くと言うことは、究極の「自己表現」です。 それを私は、栗本薫の「グイン・サーガ」から学びました。 そして、いつしか自分自身も文章を書くようになっていました。 今思うと、私にとって 栗本薫は物書きとしての「師匠」であった と気付かされます。 彼女の文体を模倣するわけでもなく、彼女のような文章を書けるはずも ありませんが、「グイン・サーガ」のあとがきからも伝わってくるように、 「文章を書く楽しさ」「表現する楽しさ」という、 作家にとって最も重要なマインドを 私は栗本薫からに教わりました。 彼女が亡くなった今、不思議と悲しさはありません。 私は、栗本薫の作品や彼女の生き方を通して多くのことを学びました。 それが自らの血肉となっている。 間違いなく栗本薫のマインドは私の中に生きている。 「心の中で生きている」というのは俗な表現ではありますが、 ここ数日間、ずっと感じています。 私の心の中で栗本薫は生きている・・・と。 ───────────────────────────────── ■4 DVD、家で楽しむおすすめ映画 ───────────────────────────────── クリント・イーストウッドと言えば・・・ 若い人だと、「ミリオンダラー・ベイビー」や 「硫黄島からの手紙」などの名作監督のイメージが 強いかも知れませんが、私の世代だと 「ダーティーハリー」に代表されるアクション・スターの イメージ。 私よりも上の世代の方は、テレビシリーズ「ローハイド」や マカロニ・ウエスタンの西部劇俳優というイメージになる のでしょう。 クリント・イーストウッドの主演作。 数えられないほどたくんさんありますが、 私が強く印象に残る一本が、この作品。 →→→ http://01.futako.info/a/dvd0000010.html 昔からの映画ファンでイーストウッドのファンであれば 当然ご存知でしょうが、若い方はまず見ていないと思います。 ラスト15分の銃撃シーンは、映画史に残ります。 →→→ http://01.futako.info/a/dvd0000010.html ──────────────────────────────── メール送信者:(株)樺沢心理学研究所 佐々木信幸(樺沢紫苑) 連絡先: kzion@kabasawa.jp メール送信者情報の詳細: http://www.saikyo.bizshin.com/semi1/hyouji_eisei.html メールマガジン登録/解除: http://www.mag2.com/m/0000136378.htm サイト http://www.kabasawa.jp/eiga/home.html ブログ http://eisei.livedoor.biz/ ビジネス心理学プレミアム ニュース・芸能・映画の心理学 http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/69/P0006963.html ■注意・お知らせ 映画の見方は、人それぞれです。このメルマガは、発行者の個人的な見 解であり、他のいろいろな考え方を否定するものではありません。 みなさんから、お送りいただいメールは、メルマガ、ホームページ上で 紹介するかもしれません(もちろん、匿名で)。 ──────────────────────────────── 「映画の精神医学」は、以下のURLより解除することが可能です。 メールマガジン解除:http://www.mag2.com/m/0000136378.html ──────────────────────────────── ■ 「グラン・トリノ」 ネタバレ解説 以下、「グラン・トリノ」の結末を含む重要なネタバレが書かれています。 まだ映画をご覧になっていない方は、ご注意ください。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ギャングたちの住むアパートに単身で殴り込みをかけた主人公ウォルト。 ライターは持ってないか? 言い、ポケットに手を入れた瞬間、 ウォルトが銃を抜くと勘違いしたギャング団は、 ウォルトに向けて機関銃を連射します。 ウォルトは、蜂の巣状態となり、命を失います。 しかし、ウォルトの手には銃はありません。 暴力に訴えるつもりは全くなかった。 イーストウッド。 「ダーティーハリー」の銃による制裁のイメージからは 全く想像できない結末です。 ギャング団は、逮捕され長い懲役刑を受けるだろうと・・・示唆されます。 映画を見れば、「非暴力の重要性」や「本当の正義とは何か?」という問い かけなど多くのことが、心に伝わってきますが、 やはりキリスト教的な解釈・・・というのは、不可欠だと思います。 この映画のファースト・シーンが、教会のシーンです。 そして、最後から、二つ目のシーンがやはり教会のシーンです。 そして、ウォルトの妻デイジーの頼み、 「ウォルトに懺悔させて欲しい」を実現するために、 必死にウォルトに関わる若い神父。 この映画はキリスト教的な解釈をしなさい・・・ということが、 強く示唆されています。 さて、キリスト教的な解釈をする上で、重要なワンカットが 「グラン・トリノ」には存在するのですが、 あなたは気付いたでしょうか? ギャング団で機関銃に撃たれて、蜂の巣となり地面に倒れたウォルト。 そのポーズてす。 手を真横に180度、開き、足はピタリと閉じています。 はい、十字架に掛けられたイエスのポーズと同じです。 偶然に倒れてこのようなポーズをとるということはありえない話で、 敢えて意識的に、イエス・キリストとウォルトを オーバーラップさせて描いている・・・ということです。 十字架の意味は、一言で言えば「贖罪」です。 「罪を贖(あがな)うこと」。 ウォルトは朝鮮戦争で人を殺したことに対して、強い罪の意識を 持っていました。 それがウォルトが心を開けない偏屈な性格になった原因でもありました。 劇中のセリフでは、ウォルトが殺した人の数として、 「13人」という数字が出てきます。 「13」は、「13日の金曜日」でも有名なように、 イエスが十字架に掛けられて死んだ日です。 つまり、「13」という数字は、ラストの 「ウォルトの自己犠牲的な死」に対する間接的な伏線 になっています。 ウォルトは、ギャング団の元へと向かう前に、教会に行き、 神父に懺悔したい・・・と告げます。 ウォルトが懺悔した内容は、 妻ディジー以外の女性とキスした話、 ボートの売却代金の税金を払わなかったこと、 そして、自分の息子たちに優しく接することが出来なかったこと この3点だけてす。 神父はガッカリしたように言います。 「それだけ・・・?」と。 この懺悔のシーンでは、「朝鮮戦争での殺人」についてはウォルトは、 全く口にしなかったのです。 つまり、「朝鮮戦争での殺人」については、 神の赦しがまた得られていないし、ウォルト自身が懺悔によって 神の赦しを得たいとは思わなかった・・・ということを示します。 懺悔したくらいで赦されるものではない・・・と強く認識していたわけです。 そして、ギャング団に殺されるラストです。 ギャング団との対決は、 タオとその家族を救いたい。 ギャング団を懲らしめたい。 という目的がありますが、もう一つ重要な目的があります。 それは、「自らの戦争での殺人の罪を贖う」ということです。 「殺人」に対して、自らの「命」を捧げることで、 彼は一生苦しみ続けてきた「罪の意識」から解放されたのです。 自己犠牲の精神で、 ウォルトはタオとその家族を救います。 「贖罪」と「自己犠牲」。 キリスト教のエッセンス。 それが、ウォルトの最後のシーン。 十字架にはり付けられたイエスの姿と重なるというところで、 見事に表現されているのです。 (終)


