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石川啄木の短歌から一日一首を読み、思い浮かんだイメージを歌にします。「三行日記」のつもりで気軽に書いていきます。「一握の砂」「悲しき玩具」「一握の砂以前」の短歌を終了し、現在は詩集「あこがれ」を取り上げています。

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2009/10/01

啄木の歌とともに・・・第236号

第236号 2009.9.30(毎週水曜日発行)              2004.6 創刊
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   啄木の歌とともに

    (その四) 


  「あ こ が れ」

      -32-


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啄木の歌を手本に手慰み
一日一首
ただあるがまま  (一郎)
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参考資料「石川啄木作品集 第一巻」昭和出版社(昭和三十八年十二月一日発行)

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 あ こ が れ    

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啄木

    寂   寥

片破月(かたわれづき)の淋しき黄の光
破窓(やれまど)洩れて、老尼の袈裟の如、
静かに細うふるひて、讀みさしの
書(ふみ)の上、さては默座の膝に落ちぬ。
草舎(くさや)の軒をめぐるは千萬(ちよろづ)の
なげきの絲のたてぬき織り交ぜて
しらべぞ繁き叢間(くさま)の蟲の歌。
夜の鐘遠く、灯も消えがてに、
  ああ美しき名よ、寂寥!
天地(あめつち)眠り沈みて、今こそは
汝(な)がいと深き吐息と脈搏の、
ひとりしさめて物思(ものも)ふわが胸と
すべての根ざす地心にひびく時。

壁には淡き我が影。堆(うづ)たかく
亂れて膝をかこめる黄巻は
さながら遠き谷間の虚洞(うつろ)より
脱け出で來ぬる『秘密』の精の如。――
かかる夜幾夜、見えざる界(さかひ)より、
  美しき名よ、寂寥(せきれう)!
汝(なれ)この窓を音なく月影の
鈍色被衣(にびいろかづき)纏ひてすべり入り、
なつかしき妻の如くも親しげに
ほほゑみ見せて側へに坐りけむ。

見よ、汝が吐息静かに吹く所、
人の心の曇りは拭はれて、
あたりの『物』の動きに、動かざる
まことの『我』の姿の明らかに
宿るを眺め、汝が脈搏つ所、
すべての音は潜みて、ただ洪(ひろ)き
心の海に漂ふ大波の
寄せては寄する響きのきこゆなる。
  美しき名よ、寂寥!
ああ汝こそは、鋭き斧をもて
この人生の假面を剥ぎ去ると
命負ひ來つる有情(うじやう)の使者(つかひて)か。

汝(な)がおとづれは必ず和(やは)らかに、
またいと早く、恰も風の如。
二人のあるや、汝が眼は一すぢに
貫ぬくとでも、胸にとそそぎ來て、
その微笑(ほゝゑみ)もまことに荘厳(おごそか)に、
たとへば百(もゝ)の白刃(しらは)の劔もて
守れる暗(やみ)の沈黙(しゞま)の森の如、
聲なき言葉四壁にみちみちて、
おのづと下る頭(かうべ)はまた起きず。
  美しき名よ、寂寥!
かくて再び我をば去らむとき、
涙は涸れて、袂をうるほへど、
あらたに胸にもえ立つ生命(いのち)の
石炭(うに)こそ汝が遺せる記念(かたみ)なれ。
  美しき名よ、寂寥!
嘗ては我も多くの世の人が
厭(いと)へる如く、汝をばいとへりき。
そはただ春の陽炎もゆる野に
とび行く蝶の浮きたる心には、
汝(な)が手のあまり霜には似たればぞ。
さはあれ、汝やまことに涯もなき
大海(おほうな)にして、不斷の動揺に、
眞面目と、常に高きに進み行く
心の奥の鍵をぞ秘めたれば、
遂には深き崇高(けだか)き生命(いのち)の
勇士の胸の門をばひらくなり。

  美しき名よ、寂寥!
たとへば汝は秘密の古鏡。
人若し姿投ぜば、いろいろの
假装(よそひ)はすべて、濡れたる草の葉の
日に乾く如、忽ち消えうせて、
おもてに浮ぶまろらの影二つ、―――

それ、かざりなき赤裸の『我』と、また
『我』をしめぐる自然の偉(おほひ)いなる
不朽の力、生火(いくひ)の燃ゆる門。
げに寂寥(さびしみ)にむかひて語る時、
人皆すべて眞の『我』が言葉、
『我』が聲をもて眞を語るなる。

  美しき名よ、寂寥!
汝(なが)また長き端(はし)なき鎖にて、
とこしへ我を繋ぎて奴隷(しもべ)とす。
家を出でて自然に對する時、
うづ巻く潮の底より、天(あめ)そそる
秀峰(ほつみね)高き際より、さてはまた、
雀躍(こほど)り出でて、胸をば十重(とへ)二十重(はたへ)
犇(ひし)と捲きつつ、尊とき天(あめ)の名の
示現(あらはれ)の前、頭を下げしむる、
それその力、ああまた汝にあり。

  美しき名よ、寂寥!
戀する者の胸より若しも汝(な)が
おとづれ絶たば、言語も闡(ひら)きえぬ
心の奥の叫びを語るべき
慰安の友の滅びて、彼遂に
たへぬ悩みに物にか狂ふべし。
またかの善(よき)と眞を慕ふ子に、
若し汝(なが)行きて、みづから自らに
敎ふる時を與ふる(なか)勿りせば、
遂には彼の心も枯るるらむ。

  美しき名よ、寂寥!
寂寥(さびしみ)人を殺すと誰か云う。
靈なきむくろ、花なき醜草(しこくさ)は
汝(な)がおごそかの吐息に、げに或は
死にもやすべし。朽木に花咲かず。
ああ寂寥よ、汝が脈搏つところ、―――
我と我とのはる所にて、
うちめぐらせる靈気の八重垣に
詩歌の花の戀しきみ園あり。
そこに我が魂しづかにさまよふや、
おのづと起る唸きの聲は皆、
歴史と堂の制規(さだめ)を脱け出でて、
親しく人と自然を司(つかさ)どる
慈光の神に捧ぐる深祈祷(ふかいのり)。
あふるる涙、それまた世の常の
涙にあらず、まことの生命の
源(みなもと)ふかく歸依(きゑ)する瑞(みづ)の露。

  美しき名や、寂寥!
汝(なれ)こそげにも心の在家(ありか)にて、
見えぬ奇(くし)かる界(さかひ)に門ひらき、
またこの生けるままなる世の態(さま)に
却りて大き靈怪(くしび)の隠れ花
かしこに、ここに各自(かたみ)の胸にさへ
咲けるを示し、無言の敎垂れ
想ひをひきて自在の路告ぐる
豐麗無垢の尊とき靈の友。
ああこの世界ひとりの『人』ありて、
若し我が如く、美しき寂寥の
腕に抱かれ、處と時を超え、
あこがれ泣くを樂しと知るあらば、
我この月の光に融け行きて、
彼には問はむ、『榮華と黄金の
まばゆき土の値(あたひ)や幾何(いくばく)と。
                      (甲辰八月十八日夜)

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参考資料「石川啄木作品集 第一巻」昭和出版社(昭和三十八年十二月一日発行)

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◇◇ひとりごと◇◇

長い啄木の詩をコピーするだけがやっと
いまは何も書けない
書く時間がないのを言い訳に
メルマガを休んでいた
何も書けなくても出すだけは出そう
 

一郎

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