紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/11/28

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第257号

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\ \\☆   
\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第257号

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      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第34回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 11.龍の唄(2)

 一方その頃、タナトスは。
 張った結界は早々に破られてしまい、彼は再び黒豹の背に乗って、弾幕にも
似た火閃銀龍の攻撃を、かわし続ける羽目になっていた。
 それも無理からぬことだった。相手は、宇宙を破滅に導くという紅龍すらも
凌駕(りょうが)するほどの力の持ち主なのだから。

 それでも、タナトスが龍に変身できたなら、万に一つの確率で、勝てる可能
性もあったかも知れない。
 しかし、魔族の第二形態すら持っていない、今の彼にできるのは、ひたすら
逃げ回ることだけだった。

「くそ、くそ、くそ……っ!
 こんなにも……こんなにも、俺は無力なのか!?
 たった一人の弟を助けることすら、俺にはできんというのか!」
 彼は屈辱と歯がゆさに頬を紅潮させ、火閃銀龍の口中にて、今や息も絶え
絶えに死を待つのみとなっている弟を見上げる。

“サタナエルよ”
 そんな折、“黯黒の眸”が背中の彼に、念話を送って来た。
 火閃銀龍の攻撃による爆発がもたらす、すさまじい音や爆風のさなかでは、
これほど近くにいても通常の会話は難しかったのだ。
“ああ、済まんな、カーラ。だが、今回ばかりはさすがに俺も……”

“いや、たった今、『焔の眸』の心を捉えることができたのでな。
 龍と唄に関する『禁呪の書』があれば、この場をどうにか収められるのだが、
と考えているようだ。
 当然だが我が兄弟も、伴侶を死なせたくはないのだろう”
 軽々と光線を避けながら、カーラは、ゼーンの方へあごをしゃくった。
 サマエルに抱きしめられた黒髪の少年は、血の気が失せた顔に涙を浮かべ、
しきりに首を左右に振っている。

“……禁呪の書か。たしかにまだ三冊あったはずだが、書名など知らんぞ”
 顔をしかめて、タナトスは答えた。
 封じられていた書の一つを使い、ベルフェゴール叔父がサマエルを操って
謀反を起こそうとしたことは、まだ記憶に新しかった。
 直後、彼の父、当時の魔界王ベルゼブルは、魔界に残る他の書を処分しよう
としたが、封印された状態では破壊できず、さらには解呪の法も発見できなか
ったことから、結局、そのままにされていたのだ。

“それよりも、本当にそんな書一つで、この修羅場を切り抜けられるというの
か?
 モトもだが、唄やら書物やらで、こんな巨大な龍相手にどうせよと……”
 タナトスは、火閃銀龍を仰ぎ見る。
 今日はもう、何度そうしたか分からないほどだったが、やはり見ずにはいら
れなかったのだ。
“……分からぬ。
 兄弟の心は千々(ちぢ)に乱れており、思考を正確に追尾するのは困難だ”
 魔界の王の問いに答える黒豹の思念もまた、困惑気味だった。

“では、直接聞いてみるがいい”
 するとカーラは、否定の念を返して来た。
“いや、それはやめた方がよかろう。
 『焔の眸』は、ただちに心を閉ざすであろうし、よしんばそうせずとも、
火閃銀龍が我らの会話に気づき、再び遮蔽(しゃへい)してしまうやも知れぬ。
 今は、漏れ聞こえる心の声から、密かに有用な情報を拾い集める方が、よい
と思われるが”

“ち、まだるっこしいが、仕方ないか。
 俺までが、この場を離れるわけにはいかんしな”
 タナトスが渋々同意したとき、火閃銀龍の攻撃がぴたりとやんだ。
 いきなり訪れた静寂の中、驚いたような龍の思念が、空間に轟(とどろ)く。
“まこと、其(そ)れで良いのか、ルキフェルよ!”

「……む、何だ、どうしたのだ?」
 タナトスが急いで顔を上げると、龍は首をすべて紅い頭に寄せており、その
ためサマエルの姿は隠れていたが、火閃銀龍に答える弟の静かな声は、彼の耳
にも届いた。

「無論だ、偉大なる龍よ。
 もう猶予(ゆうよ)はない……こう邪魔が入っては、じわじわと時間をかけて、
というわけにもいかないだろう。
 今すぐ私を殺せ。一つの口で私の頭を、一つで喉笛を、そして最後の一つで
心臓を食い破って、私を死に至らしめるがいい。
 そうすれば私の全身を飲み込むより早く、お前は私の夢から解放される。
“紅龍”の力を手に入れ、お前は全(まった)き龍となるのだ……!」

「な、何をほざいているのだ、あのたわけは!」
 タナトスは、我知らず青ざめていた。
 自分だけでなく、子孫達も必死になってサマエルを助けようとしているのに、
どうして弟は、これほど死に急ぐのか。
 彼にはまったく理解できなかった。

「ともかく、行くしかあるまい!
 ──ムーヴ!」
 タナトスは呪文を唱え、黒豹に乗ったまま、サマエルのそばへ移動する。
「火閃銀龍、貴様にサマエルは食わせんぞ!」
 彼はカーラから飛び降り、弟に迫る牙を防ぐ楯となろうとするも、それまで
も太刀打ちできずにいたものを、いきなり対抗できるようになるわけもなく。
「うわっ!」
 あえなく火閃銀龍に跳ね飛ばされて、地に這(は)いつくばる羽目となる。

「サタナエル!」
「──くっ、俺は大丈夫だ! それよりカーラ、サマエルを守れ!」
 空中で向きを変え、降りて来ようとする黒豹を、タナトスは手を振って追い
返す。
“なれど、我には荷が勝ち過ぎる……”
 主の命令に従いたくとも、彼より攻撃力の劣る“黯黒の眸”の化身が、偉大
な龍に敵(かな)うはずもなく、カーラは火閃銀龍の首をサマエルに近づけない
よう、周囲を飛び回るくらいのことしかできない。
“愚昧(ぐまい)なる奴ばらめが、障(ささわ)りにもならぬわ!
 火閃銀龍は気勢を上げ、首を振り回し続けていた。

「気をつけろ、カーラ! 待っていろ、今行く!」
 タナトスが、今度は自分で飛び上がろうと翼を広げたときだった。
 彼の目の前の空間が、明るく輝き始めたのだ。
 白い輝きは徐々に強くなり、やがて二つの人影となる。
「……ふん、ようやく戻って来たか」
 翼をたたんだ彼のつぶやきには、抑え切れない安堵の念が含まれていた。

 光が消え、現れた二人は、言わずと知れたシュネとリオンだった。
「あ、ここって、元のところよね?」
 シュネはきょろきょろ辺りを見回し、リオンは彼女に笑みを向けた。
「うん、火閃銀龍もいるしね。ともかく、無事に戻れてよかった」
「ホントね」
 彼らはほっとして、硬く握り合っていた手を離した。
 タナトスは、そんな二人を急かした。
「待たせおって。さあ、さっさと子守唄を歌え、貴様ら」

「は、はい、ええっと……」
 シュネは、祖父にもらった本を抱きしめ、過去で母が歌っていた子守唄を
歌い出した。
「……緑滴る沃野(よくや)、麗(うるわ)しの野よ、優しき御(み)腕に嬰児(み
どりご)を抱(いだ)く。いとけなき子よ、眠れ。母なる星の御胸に……」
 すると、書物が再び、緑の光を発し始めた。
「え、ま、また!?」
 驚くシュネの手を離れて、本は宙に浮き上がり、ばっと開いた。

「ふ、封印が解けた!?」
 眼を見張るリオンの胸倉をつかみ、タナトスは詰め寄った。
「あれは禁呪の書か!? あんなものを、一体どこから持って来たのだ!」
「あ、あの……シュネのお祖父さんが、先祖代々伝わる古文書だって……彼女
なら封印も解けるだろうって、くれたんです……」

 リオンの説明を聞いたタナトスは、眼を剥いた。
「何だと!? 過去からは何も持って来られんぞ、夢飛行で飛んで行くのは、
使い手の精神だけなのだからな!」
「ええ、それは習いましたけど、でも、何でだかあの本は……」
「でももくそもあるか!」
「や、やめて下さい……!」

 二人が言い合っている間にも、本は、風に煽(あお)られたようにばらばらと
めくれていき、やがてとあるページが開いてシュネの手に戻った。
「あ、ここ、読めるわ。ええと……」
「──やめろ! そいつは禁呪の書、ろくでもない呪文に決まっている!」
 タナトスはリオンを放り出し、シュネを止めようとしたが、時すでに遅く、
彼女はもう、その文章を読み上げ出していた。

「──悪夢を司る月よ、夜を支配する者よ、我は汝に帰依(きえ)し、その力を
以(もっ)て闇を支配せん!
 我が真の名はベリリアス・ブーネ、その名の許に“碧龍の封印”を解く!
 ──カウダ・ドラコニス!
 ……え、何、今の?」
 声高く詠唱してしまってから、シュネは口を押さえた。
 自分の意思とは関係なく、呪文を唱えていたのだ。

 そして次の瞬間。
 彼女の全身が、眩(まばゆ)い緑の光輝(こうき)を発し始めた。
「きゃっ、な、何、どうしたの!?
 か、体が……熱い、燃えちゃいそう……!」
「だから言ったではないか!」
 タナトスが、シュネの手から禁呪の書をたたき落とすも、輝きは強くなり
さえすれ、収まる様子はまったくなかった。

「ち、遅かったか! いや、封印が解けた今なら、破壊できるはずだ!
 ──」
 タナトスは、下に落ちてからも緑に発光し続ける書物に向けて、呪文を唱え
ようとする。
 リオンは、慌てて彼をさえぎった。
「ちょ、ちょっと待って下さい、壊しちゃう気ですか!?
 今、“碧龍の封印を解く”って言ってましたよ、ひょっとするとこれ、龍に
変身するための本なんじゃ……?」

「何、龍に変化するだと!?」
 眼を見張る彼らの前で、シュネの輝きは強さを増し、その体は徐々に大きく
なっていく。
「い、嫌、な、何!? 何なの、これぇ!? こ、怖いよぉ!」
 光の中から届くシュネの声は、悲鳴に近かった。
「大丈夫だよ、シュネ。落ち着いて聞いて。
 キミは今、龍に変身してるところなんだ……サマエルを救うためには必要な
ことなんだよ」
 どうにか心を静めたリオンが、優しく話しかける。

「り、龍……!? あ、あたし、が!? な、何それ、ど、どうして……!?」
 シュネは涙声になっていた。
「心配しないで。ぼくも朱色の龍になるから。
 サマエル父さんは紅い龍、タナトス伯父さんは、黒い龍になるんだよ。
 ぼくら四人は、魔族を救う救世主……四色の龍、なんだってさ」
「ええっ!?」
 シュネは絶句する。
 ダイアデムに見せられた記憶の中に、四頭の龍のこともたしかに出ては来た
が、まさか自分がそれだとは、思いもしなかったのだ。

「急だし、びっくりしただろ? 後で、ゆっくり説明してあげるから。
 でも、さっきの呪文には、ベリリアスの名前も入ってたし、彼女がキミを
お祖父さんのところへ連れて行ったんだろうね。
 あそこに“龍の唄”の書がある、って知ってたんだよ」
「そ、そっか……」
 彼女の声は、幾分落ち着きを取り戻した。

 タナトスは、まだ輝きを失わずにいる本を拾い上げた。
「モトが言っていたのはこのことか。
 子守唄が、封印を解く鍵だったとはな。
 だが、これはあくまでも碧龍……あの娘のための呪文だ……」

“ならば、残りの書にあるのではないのか、黒と朱の呪文が”
 “黯黒の眸”の思念が届く。
 カーラはまだ、サマエルを守ろうと奮闘していた。
“ふむ……よし、カーラ、もう少し踏ん張っていてくれ”
“心得た”

 それからタナトスは、声に出して言った。
「リオン、魔界にも書がある、俺が取って来る間、カーラの加勢をしろ。
 サマエルを守れ! いいな!」
「分かりました、やってみます!」
 リオンは、さっと胸に手を当てた。

                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 ちぢ【千千】 (千々)
 1 数が非常に多いこと。また、そのさま。「大波が―に砕け散る」
 2 種類・変化などに富むこと。また、そのさま。さまざま。「心が―に乱
れる」 

 よしんば【縦んば】   たとえそうであったとしても。かりに。

 ぐまい【愚昧】  愚かで道理にくらい・こと(さま)。 

 やつばら【奴儕/奴原】  複数の人を卑しめていう語。やつら。 

 ささわり【障り】 
 「さ」は接頭語。「さわり」に同じ。 さしさわり。さまたげ。

 みどりご【緑児・〈嬰児〉】 
  「新芽のような子」の意から。古くは「みどりこ」
 生まれたばかりの子供。あかんぼう。 

 いとけない【幼い/稚い】 
 「ない」は意味を強める接尾語。おさなくて小さいさま。あどけない。


 気温の変動が激しいせいか、ちょっと風邪気味です。
 あ、そういや今日は、私の誕生日でしたよ。
 もうこの年になると、あんまりうれしくもないですね(笑)。
 というか、子供の頃から誕生日って微妙だったな……。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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