紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/06/27

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第246号

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\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第246号

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     □ 巻の六

       ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第23回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 8.光中の闇(4)

 モトの呼びかけに答えて、二つの人影が現れた。
“このシナバリンこそが二代目紅龍、そしてこちらが姉のベリリアス。
 ……弟を射る役を担(にな)った娘だ”
 初代の紅龍は、彼らをタナトス達に紹介した。
“何、二代目紅龍だと!?”
 タナトスが身を乗り出すが、彼らの顔は、闇に紛れて見えない。

 そのとき、闇の中から女性の声が聞こえて来た。
“神族が侵略して来たとき、お父様が初代紅龍となり守って下さったお陰で、
わたし達はどうにか、生き残りの人達とウィリディスを脱出できたのです。
 その後は、星系の最も遠い惑星に逃げ込んで、地下でひっそりと暮らして
いたのですが……”
 そこまで言うと、ベリリアスは口ごもった。
 ウィリディスから最も遠い惑星とは、無論、現在の魔界のことである。

“ほっとしたのも束の間、結局、ヤツらはぼくらを見つけ出して、再び大がか
りな侵攻を再開しました……。
 そのとき、フェレス族を……皆を守るため、二代目の紅龍となったのが、
このぼくだったんです……”
 姉の話にそう付け加えるシナバリンの声は、周囲の闇同様、暗く沈んでいた。

“さあ、子供達、もっと近くへおいで”
 モトは二人を手招きし、それから、リオンとシュネを指し示した。
“そして、ここにいる彼らをよくご覧。お前達の生まれ変わりだよ”
“えっ!?”
“生まれ変わりだって!?”
 シュネとリオンは眼を丸くして、歩み寄って来る彼らを見た。
 シンハのたてがみに照らし出された四人は、たしかに、まるで双子が二組
いるかのように似通っていた。


 サマエルの精神世界に入ったことで、大人の姿になっていたリオンは、ぽか
んと口を開けて先祖を見つめた。
 栗色の髪と朱色の眼……彼とシナバリンは、リオンが持つ、額の小ぶりの角
と黒い翼を覗けば瓜二つだった。

 そして、驚きに眼を丸くしているシュネを、微笑んで見ているベリリアス。
 やはりこちらの二人も、顔、緑の眼、赤みがかった金髪、すべてが生き写し
である。
 ただし、ベリリアスの方が髪は遥かに長く、地面に届くほどもあり、また
年齢も、子孫よりやや年長のようだったが。

 物珍しそうに四人を見比べていたタナトスは、ふと我に返った。
“待て、こんなところでうだうだしている暇はないぞ!
 サマエルはどうした、あいつは無事なのだろうな!?”
“乱暴はよすがいい、サタナエル”
“うるさい!”
 タナトスは、先祖の襟首をつかんで無理やり立たせ、止めるシンハを払い
のけた。

 モトは驚くでも怒るでもなく、されるがままになりながら、答えた。
“まだ大丈夫だ、わたしが、こうして存在しているからね。
 彼が消えれば、このわたしもまた、消滅するのだから……。
 しかし、今のお前達では、たとえ束になってかかっていっても、ルキフェル
を救い出すことはできないぞ”
“何だと! 火閃銀龍が、どれほどのものだというのだ!”
 モトを揺さぶりながら、タナトスは吼(ほ)えた。

“……おや? お前からは、カオスの闇の気配が感じられるな。
 フェレスの長(おさ)が、紅龍を兼ねている?
 いや、そんなことはあり得ない、第一、紅龍になってしまっては、その後の
治世(ちせい)が……いや、それとも……?”
 モトはサマエル同様、タナトスの怒りにも動じずに、一人、自分の考えに
没頭してゆく。
“おい、貴様、何をぶつぶつ言っている!”
 苛ついたタナトスが、モトの体をさらに揺り動かすも、当の本人は気づいて
いる風もない。

“モトよ、聞くがよい。
 サタナエルは、昨今、この『黯黒の眸』を伴侶と為(な)すことを決意致した。
 そのためには、化身のうち、最も剣呑(けんのん)なる者を封ぜねばならず、
やむなく闇の一部をその身に取り込んだのだ。
 それゆえ汝は、サタナエルの内に、カオスの気配を感じるのであろう”
 とっさにシンハは、タナトスが闇の力を得た経緯の説明を始めた。
 こういう状態に陥ったサマエルを正気に戻すには、理性的な話をするのが
一番早い……ならば、モトの場合も効き目があるだろう、彼はそう考えたのだ。

“そうなのか”
 予想通り、モトは我に返り、微笑んだ。
“貴様の生まれ変わりが、サマエルというのも納得だな。
 ふん、たしかによく似ておるわ”
 タナトスは、手荒くモトを下に降ろす。
 先祖の表情や仕草だけでなく、思考回路までもが弟に酷似していることに、
彼は気づき、一層忌々しさが増した。

“そうだ。私はルキフェルの前世。
 彼に至るまで二度生まれ変わったが、いずれも紅龍の試練を受けることなく、
しかも短命に終わった……”
“その者とは、ベリアルとディーネのことであろうな”
 シンハが尋ねる。
“その通りだ。お前には分かるのだね、『焔の眸』?”
 黄金のライオンは、同意の印に首を揺すった。
 その喉元を、モトは愛(いと)おしそうになで、シンハはゴロゴロと喉を鳴ら
した。

“恨みを抱いて死んだがゆえに、紅龍に吸収された人々の魂と共に、我らも
カオスの闇を漂っていた。
 永き時、無明(むみょう)の闇の中を無為(むい)に彷徨(ほうこう)し続けたが、
火閃銀龍の登場により、それは一変した。
 彼(か)の龍の登場により、突如として常夜(とこよ)の世界にもたらされた光
は、我ら以外の人々を消去せしめた。
 我らのみが残ったは、お前達に力を引き渡すため……龍としての真の目覚め
を促すためだったのだろう……”

“力を引き渡すだと?
 ガキどもはともかく、俺は貴様の生まれ変わりではないぞ”
 タナトスは顔をしかめた。
“だが、お前もまた我が子孫にして、『焔の眸』に認められしフェレスの長だ。
 ……それにしても、まさしく天佑(てんゆう)だな。なおさら、力の引継ぎが
たやすくなる。
 闇を持たぬ者が、短期間にカオスの力を受け入れるのは、至難の業(わざ)だ。
 ただでさえ、黄泉(よみ)の客となる可能性の方が高いのだからね”

“つまるところ、童子らが未だ龍として覚醒せなんだは、魂魄(こんぱく)が、
分かたれておったがゆえか?”
 沈黙を守っていたカーラが、口を利いたのはそのときだった。
“そうだ。我が子らが死去した後、魂(こん)のみがカオスの闇に取り込まれた。
 今、ようやく時宜(じぎ)を得、魂は魄(はく)と一体となり、真に生まれ変わ
ることができるのだ”

“一体、何の話だ。魂(こん)だの魄(はく)だのとは……?”
 タナトスは眉を寄せ、二人の話に割り込む。
“魂(こん)は精神を支える気、魄(はく)は肉体を支える気のことだ。
 二つが揃うことなくしては、生物としての実在はあり得ないと言ってもいい。
 ここにいる二人は、例外的に、魄しか持たずに生まれて来た。
 それは、いずれこうして、魂であるシナバリンとベリリアスと一体化する
こととなっていたからかも知れない。
 ──さあ、子供らよ、時は来た。紅龍の紋章が、お前達を導くだろう”
 モトは答え、四人の方へ手を振った。

 それに応えてベリリアスが、鮮やかなグリーンのドレスの右肩をほんの少し
ずらし、紅龍の紋章を見せた。
“あれ? あたしと逆……”
 シュネが慌てて、自分の左肩を確認する。
 リオンもまた、はっとして自分の左手を見直す。
 すると、シナバリンが右手を上げ、その甲を皆に見せた。
 そこにもやはり、くっきりと紅龍の紋章が刻まれていた。

 次の瞬間、四つの紋章が一斉に輝き出した。
“うっ!?”
“あっ!”
 リオンとシュネは、反射的にそれぞれの紋章を押さえるものの、光は収まる
どころか、すさまじい勢いで強さを増し始めた。
 熱さと痛みさえも伴って、紅龍の紋章は光り輝き、それに引き寄せられる
ように、リオンとシナバリン、シュネとベリリアスが歩み寄ってゆく。

 そうして、ついに彼らの手が触れ合ったとき。
“──サングイス・ドラコニス!”
 シナバリンとベリリアスは同時に叫び、彼の姿はリオンへ、彼女はシュネの
体内へと吸い込まれていく。

“うわあっ!”
“あ、ああっ!”
 リオンとシュネは、相次いで胸を押さえ、倒れた。
“童子らよ、しっかり致せ!”
 シンハが急ぎ、彼らに駆け寄る。

 うめきながら脂汗を流し、地面とも床とも呼べない場所で、のたうち回る
二人を見ながら、モトがしみじみと言った。
“リオン、今からお前の真の名は、シナバリンだ。
 これで二人共、完全な龍となれる……よかったな”

“それはそうと、貴様と俺の方はどうなるのだ?”
 タナトスが尋ねた。
“ああ、わたし達……ね。
 ところでサタナエルよ、お前は誰の生まれ変わりか、知りたくはないか?”
“ふん。どうでもよいわ、そんなこと”
 タナトスはそっけなく言い捨てる。

 モトは、にっこりした。
“ふふ、本当は知りたいくせに。
 いいよ、意地悪しないで教えてあげよう、お前はね、アナテの生まれ変わり
なのだよ”
 タナトスは眼を見開いた。
“アナテだ!? たわけたことを!
 彼女は今も、女神として君臨しているではないか!”

“アナテはお前の魂(こん)、つまり、お前も魄(はく)しか持っていないのさ。
 本来なら、お前と一体化すれば、彼女は生身として生まれ変わることができ
るのだが……アナテは、それを望んではいないようだ。
 でなくば、お前が生まれた直後に、そうしているだろうからね。
 それゆえ、わたしが魂(こん)として合体し、お前を真の龍と為(な)してあげ
ようと思ったのだよ”

“お、俺も、そこの二人と同じだと……?
 ゆえに第二形態も持たずにいた……あの女神の予言……は、そういう意味
だったというのか……?”
 タナトスは、モトの話に愕然とした。
 胸に当てる手は、抑えようもなく震えている。

『第一王子サタナエルは、心を持たずして生を受けし子。彼(か)の者が王位に
就(つ)くならば、同族殺しに興ずる、血塗られし君主となるであろう』
 幼い頃、図らずも聞いてしまった、父ベルゼブルの言葉……女神が下された
と言う、無慈悲な宣告……。
 それは、決して変えることのできぬ宿命として、幼いタナトスの心に深く
突き刺さり、自暴自棄(じぼうじき)になった彼は、一人の少女を筆頭に、大勢
のクニークルスの命を奪ってしまったのだった。

“『心を持たぬ』とは『魂(こん)を持たぬ』ということか……そしてアナテは、
俺を見捨てた、のか……?”
 タナトスは頭を抱えた。
 今まで感じたこともない、名状しがたい戦慄が、全身を走り抜けてゆく。
 それでいつも自分は、見捨てられた、誰にも愛されていないという思いを
抱いていたというのだろうか。

“そんなに悩まないでいい、サタナエル。
 アナテ……真の名はアサンスクリタ……彼女の魄(はく)と一体となれること
は、わたしにとっても喜びだ”
 モトはタナトスの首に手を回し、耳元でささやく。

“何をする、放せ……!”
 タナトスは、その手を引き剥がそうとするものの、予想外にモトの力は強く、
しかもその息も眼差しも弟同様、甘く淫(みだ)らで、ただでさえ混乱している
彼は、体から力が抜けるような思いを味わっていた。

“ふふ、弟に操(みさお)でも立てているのかい、サタナエル?
 でもね、わたしと彼は同じものなのだよ……”
 モトはくすくす笑う。


      to be continued...

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    ◆ 後記 ◆

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 けんのん【剣呑/険難】  《「けんなん(剣難)」の音変化という》
 危険な感じがするさま。また、不安を覚えるさま。

 むい【無為】
 1 何もしないでぶらぶらしていること。また、そのさま。
 2 自然のままに任せて、手を加えないこと。作為のないこと。また、その
さま。ぶい。
 3 《(梵語)asasktaアサンスクリタの漢訳》仏語。人為的につくられたもの
でないもの。因果の関係を離れ、生滅変化しない永遠絶対の真実。真理。
 ⇔有為(うい)。

 てんゆう 【天佑・天祐】  天のたすけ。天助。

 じぎ【時宜】  1 時がちょうどよいこと。適当な時期・状況。

 操(みさお)を立てる
 1 志を変えない。節操を守る。 2 女性が貞操を守り通す。

                          (yahoo辞書より)


 朱色「シナバー cinnabar(シナバリン cinnabarine 朱色の)」と「バー
ミリオン」の違いについて。

 cinnabar 辰砂(たんしゃ)
 別名に、賢者の石、赤色硫化水銀、丹砂、朱砂、水銀朱などがある。
 日本では古来「丹(に)」と呼ばれた。水銀の重要な鉱石鉱物。

 不透明な赤褐色の塊状、あるいは透明感のある深紅色の菱面体結晶として産
出し、錬丹術などでの水銀の精製の他に、古来より赤色(朱色)の顔料や漢方
薬の原料として珍重されている。

 中国の辰州(現在の湖南省近辺)で多く産出し、「辰砂」と呼ばれるように
なった。日本では弥生時代から知られ、いわゆる魏志倭人伝の邪馬台国にも
「其山 丹有」と記述され、古墳の内壁や石棺の彩色、壁画に使用されている。

 朱色とは、元来は天然赤色顔料、辰砂の色であるが、後に硫黄と水銀から、
人工顔料の銀朱(バーミリオン)が作られたため、天然顔料としての朱色
であることを強調する場合には、真朱(しんしゅ)・本朱(ほんしゅ)という。
 銀朱よりも赤みの強い深い色合いである。朱肉にも古くは真朱が用いられて
いた。
                      (ウィキペディアより抜粋)


 リオンの先祖の名前を何にしようか色々調べてたら、ウィキに、たどり着き
ました。
 へー、元々朱色は辰砂の色(シナバー)で、バーミリオンは後で人工的に
作られた色だったんですか。
 話の内容にもぴったり当てはまる感じがしたので、名前はシナバリンに決定。
 でも、“賢者の石”に“錬丹術”ですか。
 なんか、鋼の錬金術師を連想しちゃいますね〜(笑)。

 辰砂はまた、燃えるような朱色をしていることから、ペルシャでは竜の血
(zinjifrah)に例えられていたそうです。
 始皇帝の時代には、不老長寿の霊薬と信じられてもいました。
 唐の皇帝のうち少なくとも6人が、水銀中毒で死亡したと言われているとか。

 ベリリアス(beryllus)はラテン語で「緑柱石」です。 
 サングイス・ドラコニス(sanguis draconis)ラテン語で「龍の血」。 

 巻の四の15−1で、紅龍と化したサマエルがミカエルを捕まえ、強制的に
見せた過去の映像の中に、二代目紅龍がちょっとだけ出てきます。
 そのシーン後に、ベリリアスの放った金の矢によって、シナバリンは絶命
したんですよ。
 そして、彼らの子供が魔界の王族の先祖、というわけです。

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 ■発行者  :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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 ◎発行者Webサイト:
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