2009/10/31
ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第255号
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: \ \\☆ \ \ \\ ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説 \ ★ \ ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢 ┃第255号 *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: ≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ □ 巻の六 ── 死の花嫁 / The Bride of Death ── ◇第32回 *……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*…… 11.龍の唄(1) 「サタナエル!」 唯一無事だった“黯黒の眸”の化身は、倒れた主に駆け寄り、素早く背中に 乗せた。 「──ムーヴ!」 それから移動呪文を唱え、火閃銀龍のさらなる攻撃を回避する。 カーラがいなかったらタナトスは、外の世界に放り出されるどころか、この 場で消滅の憂(う)き目に遭っていたかも知れない。 それでも、危機は完全に去ったわけではなかった。 今や火閃銀龍は分別をなくし、サマエルが傷つき、死ぬ可能性があること さえも忘れたかのように、見境なく光線を乱射し始めていたのだ。 龍の攻撃をかわしつつ、一刻も早く主を目覚めさせなければと考えたカーラ は、心の声を最大にして、タナトスに呼びかけた。 “──覚醒せよ、サタナエル! 我が主よ!” 「う……く、くそ、不覚……! まったく、忌々しい龍め……!」 幸いにも、タナトスはすぐに失神状態から回復し、意識をはっきりさせよう と、頭を振った。 「サタナエル、大事無いか」 「案ずるな、カーラ。今少し、背中を借りるぞ」 不安げな化身の背を軽くたたいて落ち着かせてから、タナトスは再度、モト と連絡を取ろうと試みた。 “モト! どんな子守唄だ! それを唄えば、本当にヤツを倒せるのだな!?” たが、応答はない。 “聞こえんのか、くそっ!” 悪態をついて呼びかけを打ち切り、しなやかに龍の攻撃をかいくぐり続けて いる豹の上で、タナトスは伸び上がった。 彼の視線の遥か先で、龍にくわえられているサマエルは、顔を歪めて苦しげ にあえぎ、身悶えていた。 しっかりと胸に抱きしめた黒髪の少年に、時折、何事かささやく。 唇の動きで、『もう少しだ、あと少しで終わる。この苦しみさえ乗り越えれ ば、私達は救われるのだ』などと話しているのが分かり、タナトスは、険しい 表情になった。 「ちっ、何が『救われる』だ、たわけめ! 苦痛を受けるのが快感だと……どこがだ。 どう見てもあいつは、苦悶しているようにしか見えんわ!」 タナトスは忌々しげに吐き捨て、またも先祖に呼びかけた。 “モト、モト! 答えろ! 聞こえんのか、どうしたのだ!” いくら呼んでも、やはり応えはない。 おそらく、完全にサマエルと融合してしまったのだろう。 (……む、たしか、同化してしまえば、『モト』という人格は消えてしまう… …そう言っていたな) タナトスはつぶやき、先祖との通信に見切りをつけて、黒豹に声をかけた。 「まあいい、カーラ、ガキどもを拾いに行くぞ! ──ムーヴ!」 倒れているシュネ達のそばに到着し、化身の背中から滑り降りたタナトスは、 通常の結界を張ることにした。 「──セーブル・ヴェイル!」 特殊結界は、もう役には立たない。 どうせサマエルは、今のままでも、火閃銀龍の滅茶苦茶な攻撃で傷つく。 普通の結界で光線を跳ね返しても、その傷つき具合に大差はないだろうと、 判断したのだ。 彼が結界を張っている間に、“黯黒の眸”の化身は、素早くシュネ達の容態 を診た。 「……ふむ。幸い、命に関わるほど酷くはやられておらぬ」 龍が的を定めずに光線を乱射していたお陰で、一旦気絶した後、二人には それ以上の攻撃が当たっていないようだった。 安堵したカーラは、彼らに回復呪文をかけた。 「──フィックス!」 「あ、痛ててて……」 「う~ん……あたし……?」 すぐさま効果は現れて、彼らは起き上がった。 「おい、貴様ら。子守唄を歌え。 よくは分からんが、子守唄があの龍の弱点らしい。モトがそう言っていた」 目覚めた途端、思ってみないことを命じられたリオンは、話がよく呑み込め ず、ぽかんとタナトスを見返す。 「え……えっ、子守唄、って……?」 「ど、どんなのでも、いいんですか? ……っていうか、ホ、ホントに、子守唄なんかが……こ、これの弱点な の?」 シュネは、目の前にそびえ立つ、巨大な龍を見上げた。 タナトスは、渋い顔で腕組みをした。 「それが、よく分からんのだ。 モトは、サマエルとの同化を果たしたようで、詳しくは聞けずじまいだった。 ……どの道、俺は子守唄など覚えておらん。 幼い頃に聞いたかも知れんが、母が亡くなったのは、もう一万年以上も前だ からな」 ようやく彼の話を理解したリオンは、小首をかしげた。 「子守唄……どんなだったかなぁ。 ぼくも、小さい頃に母を亡くしてますから……」 「待って。あたし、覚えてるかも。 最近記憶が戻ったから、子供の頃のことも、きっと思い出せてるはずです」 シュネが勢い込んで言った。 「ふん、ならば歌ってみろ」 タナトスは横柄に答える。 「は、はい。ええと……出だしは……」 可能だとは言ったものの、シュネは、なかなか思い出すことができなかった。 何しろ、今のこの状況と、子守唄……この二つほど、そぐわない組み合わせ もないと言ってもよかったのだから。 結界のすぐ外は巨大な龍が暴れ狂って、まるで戦場のような惨状を呈して おり、いくら眼を閉じ、耳をふさいでも、閃光は目蓋(まぶた)を透過して、 くぐもった爆発音や振動も伝わって来る。 そんな中にあって、幼子の心を和(なご)まし、眠りにつかせる優しい旋律を、 記憶の底から甦(よみがえ)らせなければならない……それはかなり困難な作業 だった。 「ふむ……この有様では、童子も意識の集中が難しかろう。 サタナエル、ここを遮蔽(しゃへい)しては如何(いかが)だ」 カーラが提案する。 「ふん、うるさいことは確かだな」 タナトスは、ぱちりと指を鳴らす。 刹那、結界内は闇に閉ざされ、音もぴたりとやんだ。 「えっ?」 いきなり静かになったことに気づいて眼を明けたシュネは、暗闇でも皆の姿 が見えることに、さらに驚いた。 「み、見える……な、なんで……!? こ、こんな真っ暗なのに……!?」 「キミが、サマエルの子孫だからさ」 リオンが言い、タナトスが続ける。 「魔族は夜行性だ。闇夜に行動できんと不便だからな。 それより、子守唄は思い出せたのか?」 「あ、いえ、まだです、え、ええっと……」 慌ててシュネは、記憶を手繰(たぐ)る作業を再開した。 最近記憶を取り戻した彼女にとっては、まるで昨日のような、過去。 思い返すことが辛くないと言えば嘘になるが、今はそんなことを気にかけて いる余裕はなかった。 「子守唄……お母さんの……いつ聞いたっけ……ええと……」 ぶつぶつつぶやくうち、徐々にシュネの体が半透明になっていく。 「シュネ!?」 リオンは思わず、彼女の腕をつかむ。 途端に、二人の姿はかき消えた。 「む、どうしたのだ、あやつらは!?」 慌てて辺りを見回すタナトスを制するように、黒豹が言った。 「夢飛行だな。目的の物を見つけたなら、いずれ戻るであろうよ」 「こんなときにか!」 「それが最も早く、確実な方法と思えるが」 「……ふむ、そうかも知れんな」 タナトスは闇の中で肩をすくめ、再び指を鳴らす。 またもや喧騒(けんそう)が戻って来たが、騒々しい外を見ている方がまだ、 待つ間の退屈をしのぎやすいと彼は思った。 * * * シュネ自身は、何をしたのか、まったく分かっていなかった。 夢飛行の存在を知らず、また、自分にそんなことが可能だとも思っていな かったのだ。 「あ、あれ……ここどこ? 皆は……?」 驚いて周囲を見回す彼女が立っていたのは、見覚えのある部屋だった。 揺りかごに赤ん坊が寝かされ、そばに母親らしき女性が座って、あやして いる。 「お、お母さんだ……お母さん!」 思わずシュネは、状況も忘れて抱きつこうとしたが、体は母親をすり抜けて しまう。 「あれっ、ど、どうなってるの? ね、ねえ、お母さん! あたし、シュ……ううん、ベリルよ! ほら、こっちを見て、ねえ!」 その上、何度声をかけても聞こえている様子がなく、母親の前に手を出して みても、まったく見えていないようだった。 ようやく彼女は、どうしてこうなったのか分からないものの、自分が過去の 記憶に紛れ込んでしまったらしいと気づいた。 「そっか……お母さんはもう、死んじゃってるんだもんね。 それにあたしは、子守唄を捜しに来ただけし……」 彼女は悲しげにつぶやき、母親を見つめた。 そして、この母が、記憶にある、死ぬ間際の母よりも若いことに気づいた。 「え、じゃ……ひょっとして、こ、この赤ちゃん、あ、あたしなんじゃ!?」 急いで揺りかごを覗き込む。 次の瞬間、シュネは、過去の自分と眼を合わせていた。 「きゃっきゃっ」 赤ん坊は、うれしそうな笑い声を立てた。 「え……もしかして、あたしが見えてる?」 ためしに手を振ってみると、赤ん坊は満面の笑顔で、小さな拳を振り返して 来る。 「ばぶばぶばぶ!」 そのはしゃぐ様子は、未来から来た自分自身を歓迎しているかのようだった。 「あらあら、どうしたの、ご機嫌ねー。でももう、ねんねの時間よ」 そんなこととは知らない母親は優しく赤ん坊をあやし、子守唄を歌い始めた。 「あ、覚えてる……この、唄……」 シュネは眼をつぶり、耳を澄ませた。 心に染み入るような母の歌声、決して戻っては来ない、遠い過去……。 固く閉じたシュネの目蓋から、抑えようもなく涙が流れ落ちる。 しばらくの間、子守唄に聞き入っていた彼女は、歌声がやんだことで眼を 明けた。 育児疲れからか、母は揺りかごにもたれかかり、寝入ってしまっていた。 涙をぬぐい、そばにあった毛布をかけてあげようとしても、指がすり抜けて しまい、持ち上げることもできない。 「ああ……お母さん、ご免なさい……! あたしに優しくしないで、あやしたりしないで、お母さん……だってあたし、 あたし……大きくなったら、お母さんを殺しちゃうんだよ……!」 彼女が顔を覆った、そのとき。 扉が静かに開き、滑るように部屋の中に入って来る姿があった。 「サ、サマエル様……あ、ち、違うわ、この人は……!」 シュネは思わず息を呑む。 優しい緑の瞳、長い銀髪を後ろで束ね、いつも笑みを絶やさず、魔法に 長(た)け、この町一番の魔術師として、皆の尊敬を一身に集めていた……。 その人物は、シュネに眼を留めると、はっと息を呑んだ。 「あんたは誰じゃ? いつの間に部屋の中に?」 母には見えなかった自分の姿が、この人物には見えている。 我知らず、シュネは訊き返していた。 「お、お祖父ちゃん、あたしが見えるの!?」 「お祖父ちゃん、じゃと!? ……ということは、まさか……!?」 シュネの祖父は、揺りかごの中を急ぎ確認し、それから再び、彼女に視線を 戻す。 だがその眉は、不審そうにひそめられていた。 「髪も眼の色も、この子とは違うようじゃが……」 「でも、あたしはベリルなのよ、お祖父ちゃん。 信じられないかもしれないけど、大きくなると、こんな風に変わってしまう の……」 シュネは、自分の胸に手を当て訴える。 その緑の瞳からは、またも涙が流れ始めていた。 to be continued... ====================================================================== ◆ 後記 ◆ ---------------------------------------------------------------------- <お知らせ> 10月21日以降、まぐまぐ発行のメルマガ(有料を除く)の一番上に、必ず 広告が入るようになりました。 ……なんか最近、まぐまぐも必死だな~って感じがしますが(笑)。 ところで、社会保険事務所に申請書を出しに行ったんですが、3回も直され て、うんざりでした。 新しく係になったばかりらしいオジサンが、手際は悪いし、全部、完全に 規則通りにしなきゃいけないと頑張るし。 そのたび、診断書を書き直してもらわなくちゃいけないので、お医者さんも、 いつもはこうじゃないのにって、あきれてました。 こういうのを、お役所仕事、っていうんでしょうね。 9月に用紙を受け取ってから、診断書を書いてもらうのに約1ヵ月半。 役所は土曜は休み、病院も木曜の午後が休診、10月は連休もありで。 保険事務所も病院も、すごく離れたところにあるので、いちいち方向の違う バスに乗って、今日は病院、明日は……ってな感じで、ものすごく疲れました。 4度目、やっとOKと思ったら、2日後に電話が。 『1枚足りないんですが』 ……はぁ!? 受け取るとき、ちゃんと確認してよ! もう行く気力もないので、郵送しました……ぐったり。 ---------------------------------------------------------------------- 「ネット小説ランキング」が新しくなりました。 よろしければ、投票(クリック)お願いします。(お一人週一回です) m(_ _)m↓ http://nnr2.netnovel.org/ys/rank.cgi?mode=r_link&id=146 アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪ ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK) m(_ _)m↓ http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507 ---------------------------------------------------------------------- ■発行者 :流河 晶 ■マガジン名:紅龍の夢 ■マガジンID:0000131099 ■発行周期 :週刊 ◎バックナンバー: http://archive.mag2.com/0000131099/index.html ◎発行者Webサイト: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/ ◎メルマガ配信中止はコチラ: http://www.mag2.com/m/0000131099.htm このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。 Copyright (C) 2004-2009 流河 晶 All rights reserved. ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。 ======================================================================


