2009/10/17
ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第254号
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: \ \\☆ \ \ \\ ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説 \ ★ \ ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢 ┃第254号 *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: ≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ □ 巻の六 ── 死の花嫁 / The Bride of Death ── ◇第31回 *……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*…… 10.龍の邂逅(4) 「そんなに生まれて来たいの? キミ達、幸せなんだねぇ、消えたくないなんて……。 お母さんにお父さん、兄弟や友達もいて、楽しく暮らしてて……だから、 そんな風に思えるんだろう。 ……いいなぁ……」 サマエルは眼をうるませ、心底うらやましそうにリオンとシュネを見た。 いきなり連れて来られて、予想もしない出来事の連続、その上、サマエル までが子供に戻ってしまった……シュネは混乱し、先祖をまじまじと凝視した まま、声も出ない。 リオンも、子供姿のサマエルを、あっけにとられて見つめていた。 一年ほどサマエルと生活を共にしていたシュネとは違い、彼はこの先祖の 経歴についてはあまり多くを知らない。 だが、家庭の温かさを知らずに育って来たのだろう。 記憶までもが退行してしまった先祖を痛ましく思いつつ、話を続けるため にも、自分達のことを説明しておこうと彼は考えた。 「えっと……ぼくもシュネも親や兄弟はいないんですよ、小さい頃に死んじゃ って。 特にぼくは、母さんが死んでからずっと一人でいたから、友達もいないし。 たしかに辛いこともたくさんあって、幸せとは言えないかも知れないけど、 やっぱり消えちゃうのは嫌かな。 いつかは絶対幸せになるんだ、そのために生きてるんだって思ってるから。 自分で未来は変えられるはずなんだ、そう思わない?」 いつしかリオンは、小さな子供に言い聞かせるような口調になっていた。 「そっか、キミには希望があるんだね、それもうらやましいよ。 僕には何もないんだもの……。 ……じゃあ、どうすればいいのかな。 嫌なのに、消しちゃうのは可哀想だものね……」 幼い頃から、自分より他人を優先して考える子供だったサマエルは、小首を かしげて考え込んだ。 「あ、あのぉ、サマエル様……?」 ようやく我に返り、話しかけようとするシュネに、リオンは念話を送った。 “ちょっと待って、シュネ。まず、彼の考えを聞いてみようよ。 子供に戻ってるんだし、大人のときと違う考え方をするかも知れない。 それを聞いてみてから、また話をしよう” “あ、それはいいかもね” “ふん……無駄なことだとは思うが、待ってやるか” タナトスも同意し、貴石の化身達は、黙っていることで賛意を示した。 火閃銀龍も、時間をかけることについて、取り立てて異議は唱えなかった。 ややあって銀髪の少年は、ぱっと顔を輝かせると一人うなずき、口を開いた。 「それじゃ、キミ達を、兄様の子供に生まれ変わらせてもらおう! 兄様はホントは優しいんだよ、怖いときもあるけど。 お父さんが本当に王様の、王子と王女に生まれたら、絶対幸せになれるよ! ね! これならいいでしょ!」 「ええっ、あたしが王女!?」 「何、俺の子だと!?」 意外な答えに、シュネだけではなく、タナトスも面食らった。 「そ、そうじゃなくてね、ええと、何て言えばいいんだろ、その……」 無邪気な先祖に何と答えればいいのか、リオンは困惑して口ごもった。 シンハが、一声高く咆哮(ほうこう)したのはそのときだった。 皆の視線が自分に集中していることにも気づかない風で、黄金のライオンは、 苛立ちが頂点に達したように足を踏み鳴らした。 『ルキフェルよ! 汝がおらねば、我らは久遠(くおん)に隷属(れいぞく)の身分より、解き放た れることが叶わぬのだぞ!』 「大っきいにゃんこ……」 サマエルは、真実幼かった頃と同じ呼び方で彼を呼び、その眼はみるみる 涙で一杯になっていく。 『……!』 シンハは思わずびくりとし、動きを止めた。 「お前は僕のことなんか、好きじゃないんだろう? 僕が何度も、一生懸命お願いしても、朝まで一緒にいてくれたことなんか ないし、噛みついたりもするし……」 『ルキフェル、それは……』 弁解しようとするライオンの鼻面を、銀髪の少年は、小さな掌を広げて押し やり、首を振った。 「いいよ、もう、何も聞きたくない。僕は絶対、王様にはなれないんだから。 お前だって、こんな泣き虫の僕なんかより、強い兄様の方を選びたいんだよ ね? 分かってる、皆、僕が嫌いで、生まれて来なきゃよかったのにって思ってる んだ。僕、知ってるよ。 だから、もう終わりにしたいのに、そのつもりだったのに、なんで邪魔する のさ……?」 現実世界では禁じられた涙が、紅い瞳から再び、堰(せき)を切ったように あふれ出し始める。 それはまるで、紅龍……カオスの貴公子になって以来、溜め込んで来た膨大 な量を一気に放出したかのようだった。 流れ落ちる涙は、龍の頭部を構成する鉱物に含まれた宝石の表面を洗い清め、 時折、ちかりと光らせる。 それだけの勢いで泣いているのに、サマエルは声も出さなかった。 涙だけが静かに火閃銀龍に滴り、染み込んでゆく。 時が逆行してしまった伴侶を前にしたシンハは、痛ましい顔で、返すべき 言葉さえ見失っていた。 それは、残りの者達にとっても同じことで。 さすがのタナトスも、もはやこの哀れな弟を怒鳴りつけたり、殴ったりする 気にはなれなかった。 気まずい沈黙の中、再びシンハの体が紅く輝き始めた。 またもはっとする皆の前で、ライオンは黒髪の少年へと変化を遂げた。 年は人間の十五歳くらい、浅黒い肌をし、白いシルクの襟つきシャツと、 黒いベルベットのベスト、同素材の、七分丈で裾が絞られたズボンを身につけ、 白いハイソックスと黒い羊革の靴を履いている。 突如現れた見知らぬ美少年に、リオンとシュネは揃って息を呑んだ。 「キミは誰……?」 「だ、誰なの、キミ……?」 「何だ、貴様は!?」 タナトスも、当惑して指を突きつける。 この化身のことが、すぐ分からなかったのも無理はない。 たった一度会ったきり、しかもその後サマエルによって救われ、以前とは 別人のようになっていたのだから。 ゼーンは周囲の驚きには構わず、涙ながらに訴えた。 「サマエル様! それでは、僕はどうなるのですか!? あなたが解放して下さらなければ、僕はあの惨めな姿のまま、果てしなく 続く苦痛を受けなくてはなりません……! 僕は、あなたなしには救われない……ああ、どうか、どうか、僕を見捨て ないで下さい!」 彼の頬を滴り落ち、床に転がる貴石……それは、かつて盲目だったときの ヘマタイト(赤鉄鉱=せきてっこう)ではなく、ダイアデムが流すものと同じ、 深紅(しんく)の宝石、ダグリュオンになっていた。 少年のサマエルは、初めただ呆然として、“焔の眸”の化身と彼が生み出す 紅い輝きを見ているだけだった。 「サマエル様、お願いです、僕を忘れないで! 思い出して下さい!」 しかし、ゼーンの浅黒い手が肩に触れると、全身に戦慄が走り抜け、サマエ ルは頭を抱えた。 「ううっ、あああっ!」 叫びと共に、体が紫の光に包まれる。 次の瞬間、大人に戻ったサマエルは、両腕を大きく開いた。 「では、おいで、ゼーン! 私と共に!」 「──はい!」 ゼーンは何のためらいもなく、彼の胸に飛び込んでいく。 「火閃銀龍、上げてくれ! そして、すべてを私の望み通りに!」 “委細(いさい)承知” サマエルの合図を待ちかねていた火閃銀龍は即答し、黒い首が勢いよく上空 へと持ち上げられていった。 「待て、火閃銀龍! 話はまだ終わっておらんぞ、サマエルを戻せ!」 拳を振り上げて叫ぶタナトスを無視し、火閃銀龍の三つ首は巨大な口を開け、 仮借(かしゃく)ない攻撃を再開した。 「……くっ!」 彼は“黯黒の眸”をかばいながら、第一波をかろうじて避けた。 「ああっ!」 「うわっ!」 だが、不意を突かれたシュネとリオンは、相次いで直撃を受けてしまった。 「カーラ、二人を頼む! ──ネガー・スクータム!」 気を失った彼らを、黒豹は大急ぎで引き寄せ、直後にタナトスは再び特殊 結界を張った。 「サマエルのたわけめが、“焔の眸”を手に入れた途端に豹変しおって! くそっ、どうしたら……」 歯噛みするタナトスの頭上では、結界にせき止められた火閃銀龍の光線が、 色とりどりに眩い輝きを放っていた。 光線が表面で弾けるたびに圧力が加わり、結界はみしみしときしみながら、 エネルギーを吸収し続ける。 それに伴い、タナトスの頭の痛みも、加速度的に強さを増していく。 このままではいずれ意識を失い、サマエルの精神世界から放り出されてしま うだろう。 そして、気がついたときには、すべてが終わっているに違いない。 弟は火閃銀龍に飲み込まれて消滅し、生まれて来なかったことになってしま うのだ……。 「くそう、いくら忌まわしい過去とはいえ、白紙に戻して、何もなかったこと にしていいのか、サマエル! 俺は嫌だ! 覚えていたい、貴様のことを! 忘れたくなど、ないのだ!」 届かないと知りながら、タナトスは遥か頭上にいる弟に手を差し伸べていた。 その、とき。 “……サ、タナエル、よ……” かすかな思念が、彼の脳内に届いた。 「だ、誰だ?」 “わたし、だ……モト、だ……よ” “モト!? 貴様、どこにいる!? サマエルとの合体に失敗しおって!” タナトスは頭を押さえながら、念を送り返した。 “いや、わたしは、すでに……ルキフェル……と一体化し……彼の中にいる… …。 だが、火閃、銀龍の、力が、強過ぎて……。 り、龍が……彼の、悲しみ、と狂気を、煽(あお)って、いる、のだ……” 火閃銀龍に阻まれているのだろう、モトの念話は途切れがちで、激しい頭痛 に襲われているタナトスには、聞き取るのが難しかった。 “こいつが煽っているだと!? 何とかならんのか!” 片手を頭から離し、タナトスは、火閃銀龍に向かって指を振り立てた。 “内部、からは……どうしようも、ない……だが、銀龍の、弱点と……言える か、どうか……一つ、見つけた……” “弱点だ!? 何でもいい、教えろ!” “こ、この状態は、長く保てない……も、もう……意識が……” “しっかりしろ、モト! 貴様が意識を失ったら、サマエルはもう仕舞いだぞ!” タナトスは叫ぶ。だが、モトの声はそこで途切れてしまった。 “──起きろ、モト! 意識を保て! 弱点を教えろ!” 焦った彼が、心の声を最大にして呼びかけると、ようやく、かすかな返答が 戻って来た。 “こ、子守、唄だ……それ、を……それが、龍、を……” “子守唄がどうした、モト!?” 彼は尋ね返したが、先祖の思念はもう消えてしまっていた。 「……子守唄だと? そんなもの、俺は知らんぞ。 それに、唄ごときで、本当にこいつを倒せるのか、こんなデカブツを……」 タナトスが、巨大な龍を振り仰いだ刹那だった。 「うわああっ!」 すさまじい衝撃が、彼の全身を貫いたのは。 光線の効果がないことに業(ごう)を煮やした火閃銀龍が、堅固な岩石ででき た頭部を、直接、結界に打ちつけて来たのだ。 魔力ならどれほど強くとも、一時にせよ無効化できる特殊結界も、物理的な 力の行使には無力だった。 結界はガラスのようにもろくも砕け散り、最初の打撃により半ば失神状態に 陥っていたタナトスは、激しく下にたたきつけられた。 to be continued... ====================================================================== ◆ 後記 ◆ ---------------------------------------------------------------------- あれ…? 隔週のはずだったのに、9/26と10/3、続けて発行しちゃってたんですね、 どうりでなんか忙しいと思った……って、今頃気づいてます(笑)。 ぼけててすみません。 それはともかく、久しぶりに小説を読みましたよ。 アン・マキャフリィの「パーンの竜騎士」シリーズ10「竜と竪琴師」、と、 8「竜の挑戦」上下巻です。(ハヤカワSF文庫) 7巻までは読んでたんですが、その後新刊を待つ間にすっかり忘れてました。 10巻を書店で見かけて買ったら、これがもう、面白いのなんの。 900ページ超えてるのに、2日かからず読んじゃいました☆ 8巻も速攻でWebで探して買い、こっちも2日で読破(笑)。 9巻もこれから買います(笑)。 巻ごとに話が独立してるので、多少前後しても困らないんですよ。 最近は視力&体力低下で、読書からかなり遠ざかってまして。 昔みたいに、時間も忘れて読みふけってしまうような面白い小説がないなあ、 なんてぼやいてましたが。 きちんと構築され、自分の趣味に合う物語(ファンタジーとSFがいい具合に ミックスされてて、かつ長編)って、探せばちゃんとあるもんなんですねぇ… …って、単に忘れてただけですけども(笑)。 最近増えて来た、ページも内容も薄っぺらい小説に飽き足らない方に、お勧 めのシリーズです。 ハリーポッターやナルニアにも引けをとらない……っていうか、お子様向け じゃないだけに、厚みのある人間ドラマという点では、「パーンの竜騎士」の 方が上を行くかも。 もっと評価されてもいいと思うんですけどねー。 ちなみに1巻のタイトルは「竜の探索」ですが……ドラゴンクエスト? ……違うか(笑)。 ---------------------------------------------------------------------- 「ネット小説ランキング」が新しくなりました。 よろしければ、投票(クリック)お願いします。(お一人週一回です) m(_ _)m↓ http://nnr2.netnovel.org/ys/rank.cgi?mode=r_link&id=146 アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪ ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK) m(_ _)m↓ http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507 ---------------------------------------------------------------------- ■発行者 :流河 晶 ■マガジン名:紅龍の夢 ■マガジンID:0000131099 ■発行周期 :週刊 ◎バックナンバー: http://archive.mag2.com/0000131099/index.html ◎発行者Webサイト: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/ ◎メルマガ配信中止はコチラ: http://www.mag2.com/m/0000131099.htm このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。 Copyright (C) 2004-2009 流河 晶 All rights reserved. ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。 ======================================================================


