紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/09/19

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第252号

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\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第252号

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      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第29回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 10.龍の邂逅(2)

「僕らもいるよ、それに、ほら、シンハも!」
 タナトスに続き、シュネとリオンが隠形術から出て行く。
 さらに黄金のライオンが、のそりと現れると、サマエルの声は意識せずに
震えた。
「ああ……シンハ……来たのか……」
 直後、兄の陰から出て来た夜色の豹に眼を止め、彼は問いかけた。
「おや、その黒豹は……?」

 タナトスは、カーラの頭を一なでし、誇らしげに答えた。
「こいつは“黯黒の眸”の化身、カーラだ。俺が名づけた」
「お前、また、性懲(しょうこ)りもなく……」
 思わず、サマエルは眉をひそめる。
「勘違いするな、俺が創ったわけではないぞ。
 こいつは、俺達の知らないところで、以前から存在していたのだ。
 それが、ここに来るとき、戦闘用の化身として現れた。
 テネブレと分離したばかりで名無しだと言うのでな、俺がつけてやったまで
のことだ」

“閑寂(かんじゃく)たる闇を乱す、浅ましき虫螻(むしけら)共めが!
 まったくもって、姦(かしま)しきこと、この上なし!”
 そのとき、伝説の龍の忌々しげな思念が割り込んで来て、サマエルを除いた
全員が、さっと身構えた。
“然(しか)れども、何匹が湧(わ)いて出ようと、吾(あ)が敵には非(あら)ず。
 速(すみ)やかに退治てくれよう。
 ──いざ!”
 言うが早いか火閃銀龍は、四つの頭をもたげ、黒い色の口をかっと開けた。

「──まずい、散れっ!」
 タナトスが叫び、皆はさっと四方に散った。
 直後、漆黒の光線が発射されて激しい爆発が起こり、息が止まるほどの熱風
が周囲に吹き荒れた。
 さすがは、魔界の救世主と謳(うた)われる火閃銀龍だけあって、発せられる
光の束の威力は、すさまじいものがある。
 さらに龍は、サマエルを捕らえている紅以外の口から、それぞれと同色の
光線を彼らめがけて吐き出し始めた。

 タナトスは避けつつも時折反撃するが、小山のような火閃銀龍のどこに攻撃
が当たっても、思ったようなダメージは与えられない。
 少量の煙が上がる程度だった。
 それを見たリオンやシュネ、そしてシンハやカーラも、それぞれに魔法で
攻撃を加え始めた。
 だが、やはり龍の巨体は、大した損傷を受けない。
 それにまた、あまりに強力な魔法を使うと、サマエルに影響が出る恐れも
ある。
 ならばと、うねうねとうごめく首や、弱そうな眼に攻撃を集中させてみても、
龍はそれを平気な顔で受け流し、小石が当たったほどにも感じていないよう
だった。

 それでも、相手の比較的動作が緩やかなため、光線を避けることは、さほど
難しいことではなく、これなら時間を稼ぎつつ、弟を取り戻せるかも知れない
と、タナトスが思ったのも束の間。
「──うっ、あ、ああ、くっ……!」
 彼は、サマエルが苦悶の表情を浮かべ、うめき声を漏らしていることに気づ
いた。
 さらには、弟の体の、火閃銀龍にまだ飲まれていない部分に、火傷に似た跡
までが次々と現れ出したことにも。
「何だ、サマエル、どうした!?」
 タナトスが叫んだことで、全員がそれに気づいた。

『まさか……ルキフェル!』
 シンハが、何かを悟ったように眼を見開いたのはそのときだった。
「どうしたのだ!? サマエルは、何ゆえ苦しんでいる?
 あの跡は一体何だ、火閃銀龍が、何かしているのか!?」
 焦って弟を指差すタナトスに、ライオンは苦々しげな視線を向けた。
『ここはルキフェルの内部。
 ゆえに、我らが光線を避ければ、彼に命中したも同然となる。
 先ほど、モトがあれほど傷を負っていたのも道理、避ければルキフェルが
負傷致すゆえ、その身に受けるしかなかったのであろうよ』

「ふん、ならば結界を張ればいいだろうが!
 ──」
 頭に血が上り、勢いで結界を張ろうとした彼を、シンハは冷静に止めた。
『待つがいい、サタナエルよ。
 弾き返した魔力は、何処(いずこ)へ参ると思うておる?』
 結界が跳ね返した光線……それは言うまでもなく、サマエルを傷つけるに
決まっていた。

「──くそっ、それでは、俺達はやられているしかないということか!?」
 タナトスは、苛立たしげに拳を振り回す。
 シンハは、捕らえられて苦しげにもがくサマエルから、片時も眼を放せない
様子で答えた。
『……口惜(くちお)しいが、今のまま方策を見出せねば、やはり一旦、退(ひ)
かねばなるまい。
 さもなくば、救いに参ったはずの我らが、ルキフェルの……死の使いとも
成りかねぬ……』

「何、今さら尻尾を巻いて逃げるだと!? そんなことができるか!」
 タナトスは言い返すが、その間にも、苦しげな声と共に、サマエルの傷跡は
増えていく。
 火閃銀龍は、わざと彼らを外して乱射しているようにも思え、彼は地団太
(じだんだ)を踏んだ。
「くそう、ここまで来て、みすみす……!」

「お、伯父さん、ぼくら、どうすればいいんですか!?」
 リオンは、ただおろおろしていた。
 サマエルを守りたいのは山々だったが、相手は伝説の龍である。
 その魔力の強さは、言語(げんご)に絶するものだろうということは、容易に
想像がつく。
 下手をすれば命を落とすかも知れないと思うと、うかつに攻撃を受けること
はできなかった。

「や、やっぱり外に出ましょう!
 こ、このままじゃ、サマエル様が死んじゃうよ!
 あたし達だって、無事じゃいられない!」
 シュネが振り向いて叫んだとき、その隙を狙いすましたように、光線が彼女
目がけて発射された。

「──危ない! うわっ!」
 彼女をかばったリオンは、光線をまともに浴びて、跳ね飛ばされてしまった。
「きゃあ! リオン兄さん! しっかりして!」
「き、来ちゃ駄目だ、大丈夫……かすった、だけ、だから……うっ!」
 唇から血を滴らせながらも強がって見せ、駆け寄ろうとするシュネを、手を
上げて止める。
 しかし、想像以上に火閃銀龍の攻撃は強力で、全身に鋭い痛みが走り、起き
上がることさえできずにいた。

 その彼に向けて、龍は、容赦なく追い討ちをかける。
「──うわあっ!」
 リオンは、転げ回って必死に攻撃を避けた。
 だが、そのことでますます、サマエルは窮地に追い込まれていくのだった。
「だ、誰か、助けて! 兄さんが……サマエル様も、どっちも死んじゃう……
死んじゃうわ!」
 シュネはどうすることもできずに、頭を抱えてその場にうずくまる。
 だが彼女も、無事では済まなかった。
「きゃああっ!」
 直撃はしなかったものの、シュネは爆風で吹き飛ばされ、ぐったりとなった。
「──シュネ!」
 リオンは叫ぶが、自分の身を守るだけで精一杯で、彼女に近寄ることもでき
ない。

『“黯黒の眸”よ、リオンをサタナエルの許(もと)へ!
 我はシュネを連れてゆく!』
 シンハは兄弟石に指令を出し、一飛びでシュネのところへ行き、彼女に触れ、
呪文を唱える。
『──ムーヴ!』
「心得た」
 カーラもまた、逃げ回るリオンのそばへ降り立つと、主の許へと運んだ。

 爆風のせいで獲物が逃げたことに気づかないのか、火閃銀龍は、二人がいた
辺りに、まだ攻撃を加えていた。
 その隙にと、ライオンは、ぐったりとしたシュネに回復呪文をかける。
 黒豹も同様に、リオンを回復させた。

 それが終わると、シンハは魔界の王に声をかけた。
『サタナエルよ。特殊結界を張るがいい。
 黔龍(けんりゅう)たる汝が焦点となれば、強靭(きょうじん)なる楯(たて)と
なろう』
「……特殊結界とは何だ? それに、結界を張るなと言ったのは貴様だろう」
 不審そうなタナトスの腕に触れて、シンハは一瞬で理由を説明した。

「なるほどな。
 ──ネガー・スクータム!」
 タナトスは、間(かん)髪(はつ)を容(い)れず結界を張り、それから声を張り
上げた。
「どこを狙っている、火閃銀龍!
 俺達はここだ、全員此処に集まっているぞ!」
“其処(そこ)におったか虫螻(むしけら)共!”
 火閃銀龍は、一斉に首を回し、今度はタナトスの張った結界に攻撃を集中し
始めた。

 シンハが伝えたこの結界は、相手の魔力を跳ね返さずに吸収するという特殊
なものだった。
 吸い取った魔力を結界の維持に回し、ほぼ無限に継続できるのはいいのだが、
結界内からは攻撃できないため、実用的でないとして、近年では使用される
ことがなくなっており、タナトスは習っていなかったのだ。

 そしてまた、無限に張っていられるはずのこの結界も、相対するのが無敵の
龍ともなると、話は別のようだった。
 四色の閃光が、半球状の結界表面を縦横無尽に行き交い、内部は帯電し、皆
の髪や体毛はぱちぱちと音を立てて逆立って、結界自体も不安定に揺らいで
いる。
 結界を支えるタナトスもまた、鈍い頭痛に襲われ続け、顔をしかめて、こめ
かみを押さえていた。
「ちっ、火閃銀龍め、さすがは、名にし負う伝説の龍、忌々しいほど強力だな。
 まだ実体化もしておらん癖に!」

『さて、サタナエルよ。これでようよう落ち着いて話ができるな。
 ……何としてもルキフェルを救い出したきは山々なれど、左様な有様では、
汝の結界も長くは持つまい。
 断腸の思いで、此度(こたび)は一旦退(しりぞ)き、機会を改めて……』

 苦渋の表情で切り出すシンハの言葉を、タナトスは否定した。
「いや、それでは手遅れになりかねん。
 俺達のことを知ったからには、取り戻される前にと、サマエルを飲み込む
速度を上げるに決まっているからな、こやつは」
 彼は火閃銀龍の方へ、顎(あご)をしゃくって見せる。
『なれど、今のままでは……!』
 黄金のライオンは、苛立たしげに全身を震わせる。

 そのとき。
「少しの間、攻撃をやめてもらえないか、火閃銀龍よ」
 聞き覚えのある涼(すず)やかな声が、空間に響いた。
“何と、吾(あれ)を呼び出(いだ)したは、汝(なれ)ではないか。
 この期(ご)に及んで、変心(へんしん)したと申すか!”
 火閃銀龍は、黒い頭をサマエルに近づけ、大きく口を開けて威嚇する。

「そうではないよ、このままでは共倒れになってしまって、誰も得をしないと
思うからだ。
 お前も、私を……紅龍を飲む込む前に、私に死なれては困るのだろう?
 直接話して帰らせるから、私を彼らのそばに近づけてくれないかな」
 傷つきながらもサマエルは、静かな口調、落ち着いた眼差しで伝説の龍を
説得にかかる。

“……むう”
 火閃銀龍は、しばしの間、彼を捕らえた紅の頭に、他の頭を寄せて考えて
いた。
「この、のろまめ! さっさと話をさせろ! 
 いや、早くサマエルを返せ、解放しろ!」
 しびれを切らしたタナトスが叫ぶ。
“何と。此(こ)の吾(あれ)を愚鈍(ぐどん)と申すか!”

 龍が激昂(げっこう)しかけるのを、サマエルは冷静に諭(さと)す。
「落ち着くがいい、火閃銀龍。
 お前は伝説に謳われた偉大な龍、たかが土龍(もぐら)の囀(さえず)りなど、
聞き流しているがいい」
「も、土龍の囀りだとぉ……!?」
 こちらも憤激しかけるタナトスを、目顔でシンハが抑える。

“……ふむ。
 汝(なれ)が左様に申すのであれば、一度だけ機会を与えてやろう”
 心を決めた火閃銀龍はそう答え、サマエルをくわえた黒い頭を、ゆっくりと
タナトス達の方へと下ろし始めた。


                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 かしましい【姦しい・囂しい】 
 耳障りでうるさい。やかましい。かしがましい。

 しかれども【然れども】 
 そうだけれども。しかしながら。

 間(かん)髪(はつ)を容(い)れず
 少しの時間も置かないさま。
 「説苑(ぜいえん)」正諫から。あいだに髪の毛1本も入れる余地がない意。
 ◆「間、髪を容れず」と区切る。
  「かんぱつを、いれず」「かんぱつ、いれず」は誤り。

 かんじゃく【閑寂】 
 1 もの静かなさま。静かで趣のあるさま。かんせき。

 へんしん【変心】 
 考えや気持ちが変わること。心変わり。

 もぐら……普通は「土竜」と書きますが、ウチでは旧字体の「龍」をつかっ
ているので、「土龍」にしました。


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>新しくなった「ネット小説ランキング」の投票の仕方が分からない
 というメールをもらいました。

 実は、URLをクリックするだけでOKなんですよ。
 「投票ありがとうございました」画面が出なくなっただけなんです。
 他にも分からない方がいるかも知れないので、お知らせします。

 その他、ご不明な点は、ネット小説ランキングへ直接お問い合わせ下さい。
 私もまだよく分かっていませんし、あちらも試行錯誤中のようです。

 ところで、私がランキングに登録しているのは、あくまでも宣伝のためで、
ランクが上下するたび、一喜一憂してるわけじゃないんです(笑)。
 上位にランクされれば人の眼に触れやすくなり、アクセスや読者が増える
かもと思って、皆さんにもクリックをお願いしているんですが。
 あ、もちろん、上位に入ればうれしいですけどね~(←こら。笑)。

 それよりも、私としては、メールや掲示板で直接、感想や意見をもらう方が、
よっぽどうれしいんですよ(笑)。
 皆さんだって、直に言ってもらった方が、やっぱりモチベーションも上がり
ますよね(笑)。


 今回は風邪でダウンして、原稿がぎりぎりでした。
 インフルエンザも流行ってますし、皆さんもお気をつけて。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

 ◎バックナンバー:
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