2009/08/08
ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第249号
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: \ \\☆ \ \ \\ ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説 \ ★ \ ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢 ┃第249号 *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: ≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ □ 巻の六 ── 死の花嫁 / The Bride of Death ── ◇第26回 *……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*…… 9.龍の目覚め(3) “こ、こいつらは……” タナトスは、思わず息を呑む。 ようやく皆が目の当たりにしたロムルスとレムスの姿は、無残を極めたもの だった。 紅龍によってつけられたと思(おぼ)しい、惨(むご)たらしく噛み裂かれた傷 は未だに生々しく、まだ血が流れ続けている。 永遠に癒えない龍の爪痕(つめあと)を幼い体に刻みつけた状態で、彼らは、 この闇の中を彷徨(さまよ)い続けていたのだろうか……自分達が遥かな昔に、 死んでしまっていることにも気づかずに。 シンハは鼻にしわを寄せ、歯を剥き出して、恐ろしい顔つきになる。 見るに耐えないほど痛々しい傷跡のせいで、自身ともう一人の化身、ゼーン の悲惨な体験を思い出したのだ。 “……酷いものよ。 何はともあれ、サタナエルよ、疾(と)く『黯黒の眸』を呼ぶがいい” 彼は、頭を小刻みに揺すって不快な思いを押しやり、再びタナトスを促した。 “む、いかん、その前に──ストーラ!” 我に返ったタナトスは急ぎ呪文を唱え、自分とモトに服を着せつけてから、 伴侶の頭に触れ、声をかけた。 “カーラ、もういい、眼を覚ませ。 そして隠形の術を……いや、術を解かずに、モトだけを外に出せるか? すぐそこに、モトの息子達が来ているのだが” “左様。是非共、親子の対面させてやりたく思うのだ。 モトは元来、このカオスの闇に住まう者。出て行ったとしても、火閃銀龍は、 さほど疑念を抱(いだ)くまい。 もしくは、其処(そこ)な童子らを、中に取り込むがよいか?” ライオンは、前足で子供達を指し示す。 目覚めたカーラは、彼らの話を反芻(はんすう)する間、幾度か瞬(またた)き をし、それから答えた。 “隠形の術は、単に内部の者の気配を消すのみ。及ぼす範囲も、我が身の丈 (たけ)の二倍ほど。 それより出(い)ずるならば、おのずと、他人(あだびと)の眼に触れることと なる。逆もまた真なり” “つまるところ、出るも入るも同等に容易ということか、ならば……” “や、やめてくれ、『眸』達! 息子達はわたしを恨んでいる、憎んでいるのだ、わたしが彼らを殺したの だから……! どれほど謝罪を繰り返しても、過去は戻らない。 もはやわたしは、罪を贖(あがな)うこともできないのだ……!” モトは叫び、頭をかきむしった。 “うるさいぞ、モト、うだうだ言いおって! 貴様が罪を犯したと言うなら、それと向き合え、逃げるな! 逃げれば、いつまでも貴様を追いかけて来るぞ、それこそ永遠にだ!” タナトスは眼を怒らせ、先祖を怒鳴りつけた。 “う……し、しかし、わたしは……” モトの額から、汗が滴り落ちる。 “この、軟弱者めが!” “うわっ!” 激したタナトスは、拳を振り上げ、モトを殴り倒した。 シンハは、その巨体で前に出、倒れた青年をかばう。 “やめよ、サタナエル。 いかに汝が暴力に訴えようとも、他人の心は意のままにはならぬぞ” “──黙れ! こういう軟弱者は、力尽くで思い知らせてやらねば、分からんのだ!” “やめよと申すに” 再び伸ばされたタナトスの腕を、ライオンは前足で軽く払いのけた。 “貴様、まだ邪魔するか!” 烈火のごとき魔界の王の怒りを、柳に風と受け流して、シンハはモトを振り 返り、重々しい口調で述べた。 “モトよ。汝の息子らは、恨みを晴らすがために、汝を捜していたのではない ように、我には思えるのだがな” モトは眼を見張る。 “えっ、では、何ゆえ、ああしてわたしを……” “むしろ逆に、汝を慕(した)い、親の温もりを求めて彷徨っておるのではない か? 相手は幼(いとけ)ない童子、人を恨み憎む心など、持ち合わせておらぬよう に思えるが” これほど近くにいるとは知らず、父親を呼び、捜し続けている子供達。 それとも、ここに現れたのは、隠形の術を超え、父親の気配を感じ取った ためだろうか。 痛々しい双子達に向けて、魔界のライオンは、再び前足を振った。 “見よ。かくのごとき風姿を眼前にしても、憐憫(れんびん)の情を催(もよお) さぬのか、汝は? 疾(と)く、彼らを受け入れてやるがよい、エッセンティア。本質たる者よ” 魔界の王は、さも軽蔑したように鼻を鳴らした。 “ふん、親の温もりだと? 下らんな、そんなもの” そんな彼を、シンハは燃え上がる瞳で見据えた。 “何を申すか、サタナエル。汝にも覚えがあろうが。 篤(とく)と、幼き頃を想起(そうき)致してみよ” “貴様こそ何を言う、俺はそんなもの、欲しがったことなど……” 言いかけてタナトスは、思い出した。 母が、弟を産んですぐ亡くなった後。 胸にぽっかりと穴が開いたような淋しさ……一人でいることにいたたまれず、 叔母や父親を捜し、汎魔殿中をさ迷い歩いたことを。 そして、二人の会話を……運命の予言を聞いてしまったのだった。 “……むう。たしかに俺も、母を亡くしたとき、すぐには、サマエルに対する 恨みなどは感じなかったな。 あのときはただ、親の温もりを求めていた気がする……。 今さらだが、あの日、親父が、『予言など信じない』とでも言ってくれたら。 魂(こん)を持たんという俺でも、同胞の殺戮(さつりく)といった、極端な 行動に走ることはなかっただろう。 ……サマエルにも、もう少し優しく接することができたかも知れんな” そこでタナトスも、哀れな子供達を指し示した。 “俺の場合はもう手遅れだが、貴様の息子どもは、すぐそこにいる。 貴様が後悔に溺れておれば、こいつらは、いつまでもこんな姿で彷徨うのだ ぞ、その方が、よほど不憫(ふびん)だとは思わんか、モト。 許す許されるは二の次、おのれの罪と向き合う時がきたのではないのか” うなだれて話を聞いていたモトは、ようやく意を決し、口を開いた。 “お前の言う通りだな、サタナエル……” “ふん、やっとその気になったか。 さあ、さっさとガキどもに頭を下げて来い、たわけめ” タナトスは乱暴に腕を引き、モトを立たせてやる。 “……ああ……でも、息子達は、わたしを許してはくれないだろう……。 それでも、ちゃんと彼らの恨みつらみを聞いてやらなければ……それが親と しての義務だろうからね……” モトは噛み締めるように答え、ぎくしゃくとした足取りで、子供達の方へと 歩き出す。 それを見たタナトスは、ライオンの眼を捉え、闇に向けて顎(あご)をしゃく って見せた。 シンハは了解の印にうなずき、モトの後についていく。 さらにタナトスは、まだ意識が戻らないシュネとリオンの体を魔法で持ち 上げ、黒豹の頭に触れた。 “俺達も行くぞ、カーラ” “心得た” “父様だ!” “父様ぁ!” そのとき、少年達が歓喜の声を上げたのが聞こえ、タナトス達が急いでそば まで行ってみると、双子達は父親に抱きつき、キスの雨を降らしていて、モト はただ、彼らを抱きしめ涙にくれていた。 少年達の肌の色はモトと違って褐色ではなく、闇の中に浮き上がって見える ほど白かった。 “父様がいつも泣いてるから、僕ら、心配で……” “でも、僕らが行くと、父様は余計泣いちゃうし……” 双子達がそう言っている声が聞こえて来る。 “え?” “だから、父様の気分がよさそうなときに、会いに行こうとしたけど……” “やっぱり、父様、僕らを見ると逃げちゃうし……” “済まなかった……わたしは、お前達が、わたしを憎んでいると思っていた から……” “え? どうして?” 驚いて、双子の一人が顔を上げる。 その眼は右が緑、左が紫、そして、シンハのたてがみの光を受けて輝く、 三つ編みされた髪は銀色をしていた。 モトは、ぎゅっと眼を閉じ、答えた。 “……なぜなら、ロムルス。 わたしは、お前達を……殺してしまった、からだよ……” 双子の兄は、首をかしげた。 “え? 違うよ、父様。僕達を殺したのは……” “うん、父様じゃない。真っ赤で、大きな怪物だったよ” 同じく銀髪で、左右の眼の色は兄と逆になっている、レムスが言葉を継いだ。 モトは眼をつぶったまま、大きく息を吸い込み、意を決したように言った。 “レムス、その紅い怪物こそ、わたしが変身した姿だったのだよ。 お前達を、フェレス族を守るには、『紅龍』になるしかないと……なのに、 わたしは、カオスの力を制御できなかった……! 済まない、レムス、済まない、ロムルス……!” “そ、そんな……違うよ、父様は悪くない、だって……” “うん、僕らを助けようとしてくれたんだもの!” レムスとロムルスが、口々に父をかばう。 “しかし、……” “父様、大好き!” まだ何か言おうとしたモトに、ロムルスは力を込めて抱きついた。 レムスも兄の真似をする。 “僕も! ずっとずっと会いたかった!” 息子達に、揃ってそんな風に言われてしまうと、モトにはもう、返す言葉も なかった。 “ロムルス……レムス……ああ! わたしもだ、わたしも、お前達のことが……忘れたことはなかった、ずっと、 ずっと会いたくて、謝りたくて……!” モトが二人を抱きしめた瞬間、彼らの体がぱあっと輝き、傷が消えた。 “案ずるより産むが安し、とはまさしくこのこと” シンハは、ゆっくりと首を振る。 タナトスも肩をすくめた。 “まったくだな。 貴様、そいつらのどこをどうを見て、憎まれているなどと思い込んだのだ? さっぱり分からん” モトは、あふれる涙をそのままに、言った。 “サタナエル、シンハ、それにカーラ……皆、本当に、本当に、ありがとう。 永き年月の末、ようやくわたしは救われた……! どれほど礼を言っても、言い足りないくらいだ……!” “俺達は何もしておらん。貴様が勝手に勘違いしていただけだろう” タナトスはそっけなく答えたものの、まんざらではなさそうだった。 “いかなるときも、親子の情愛とは良きものかな。 これにて、汝の罪悪感も払拭(ふっしょく)されたであろう、モトよ” シンハも満足げに言う。 “……ふむ。これが親子の情愛、と申すものか” 興味深げに、黒豹は瞳を光らせる。 その後しばらくの間、ひたすら息子達を抱き締めて、涙を流し続けていた モトは、ふと我に返ってタナトスを見た。 そして、二人にだけ聞こえるように言った。 “ロムルス、レムス。 ほら、そこの黒髪の男性がサタナエル、母上の生まれ変わりだよ。 中に入ってみるかい、母上がいらっしゃるから” “え、母様に会えるの!” “母様に会えるんだぁ!” 双子達は顔を上げ、期待に眼を輝かせて、タナトスを見る。 モトは、さらに続けた。 “彼の内に入る呪文は、『アナムネーシス』だ” 何も知らないタナトス目がけ、双子達は飛びついてゆく。 ““──アナムネーシス!”” “な、何だ!? やめろっ!” 驚き、振り払おうとする腕をすり抜けて、子供達は彼の体内に吸い込まれて いった。 “ぐっ……!?” 事態を把握できないまま、タナトスは胸を押さえ、ひざをつく。 “我が王!” “サタナエル!” “黯黒の眸”と“焔の眸”の化身もまた、何が起こったのか分からず、ただ 声を上げてタナトスに駆け寄った。 to be continued... ====================================================================== ◆ 後記 ◆ ---------------------------------------------------------------------- 長いこと、番外編を放りっぱなしで済みません(汗)。 今、続きを書いているところです。来週か再来週に、UPできたらいいな、と 思ってますが……。 そこな【其処な】《「そこなる」の音変化》そこにいる。そこにある。そこ の。 あがなう【贖う】 罪のつぐないをする。 そうき【想起】 [1] 思い出すこと。前にあったことを思い浮かべること。 [2] (ギリシヤ) anamnsis プラトンの用語。人間の魂が真の知識であるイデアを得る過程。人間の魂が 真の認識に至る仕方を、生まれる前に見てきたイデアを思い起こすこととして 説明した。アナムネーシス。 ---------------------------------------------------------------------- ネット小説ランキングに参加中☆ ↓よろしければ、投票お願いします(お一人週一回です) m(_ _)m↓ http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪ ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK) m(_ _)m↓ http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507 ---------------------------------------------------------------------- ■発行者 :流河 晶 ■マガジン名:紅龍の夢 ■マガジンID:0000131099 ■発行周期 :週刊 ◎バックナンバー: http://archive.mag2.com/0000131099/index.html ◎発行者Webサイト: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/ ◎メルマガ配信中止はコチラ: http://www.mag2.com/m/0000131099.htm このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。 Copyright (C) 2004-2009 流河 晶 All rights reserved. ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。 ======================================================================


