紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2009/05/16

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第243号

≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫
*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:

\ \\☆   
\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
\ ★ \ 


                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第243号

*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫

      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第20回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 8.光中の闇(1)

“落ち着いて。ルキフェルの存在だけに意識を集中すれば、キミにも必ず見え
るはずだよ、頑張ってご覧”
 そう励ますモトの黒い瞳は、猫のように虹彩が細長くなっていた。
“分かったわ”
 フェレスは赤紫の眼を細めて意識を集中させ、眩(まばゆ)い光彩(こうさい)
の中を凝視した。

“──いた! 見えたわ! サマエル!”
 網膜が焼きついてしまいそうな光の洪水の只中に、サマエルはいた。
 しかし、かろうじて見分けられたのは顔を含む上半身だけで、いくら眼を
凝らしても下半身は見えない。
 飲み込まれつつあるというのは、やはり本当なのだろうか、信じたくはない
が……。

 まつわりつく嫌な考えを振り払い、フェレスは念話を送った。
“サマエル、眼を覚まして! 起きてよ、サマエル!”
 祈りにも似た、悲痛な彼女の叫びが届いているのかどうか、サマエルは微動
だにせず、眼を明けることもない。

 心の中に入り込み、こうして呼びかけているというのに……。
 一体何が、ここまで強く彼を呪縛しているのだろう。
 せめて、もう少し近づくことができれば、たとえ敵の正体は判明しなくとも、
自分の声を、サマエルに届けることができるかも知れないのに。
 彼女が唇を噛んだそのとき、何者かの思念が、光輝の最中(さなか)から二人
に届いた。

“侵入者よ、汝(なれ)は、もはや時機を失した。
 餌食(えじき)たる紅龍を得て、吾(あれ)は現世へと顕現(けんげん)し、吾を
次元の狭間より召喚致せし魔導師との契約は、いよいよ成就(じょうじゅ)致す
のだ”
“サマエルが餌食!? お前を召喚した魔導師って……いいえ、それよりもまず、
お前は一体、何者なの!? 名乗りなさい!”
 フェレスは恐怖心を押さえ、詰問した。

“此(こ)は喫驚(きっきょう)な。
 汝(なれ)は、かつて吾を呼び出(い)だしたる彼(か)の魔導師に、肖似(しょ
うじ)致しておる……神奇(しんき)なことよ。
 否(いな)、似通っておるは姿形に非(あら)ず、内面に燃ゆる炎の有り様か”
 輝きの中から、重々しい答えが届く。

“どうでもいいわ、それより早く、サマエルを自由にしなさい!”
 直視できないほど強烈な光の中にいる相手を、それでもフェレスは、睨み
つけずにはいられなかった。
 謎の存在を召喚したという魔導師のことも気にはなったが、今はサマエルを
取り戻すことが先決だった。

“ふむ、実際の声音(こわね)も、耳にしてみたいものだ。ならば少々……”
 直後、フェレスを抑えつけていた途方もない力がごくわずか緩み、どうにか
唇だけは動かせるようになった。
「サ、サマエルを、放し、て!」
 彼女は、懸命に声を絞り出した。
 謎の存在は、笑いにも似た思念を返して来た。
“思うた通りに、良き声音よ。されど紅龍は、もはや粗方(あらかた)、吾(あ)
が体内へと吸収されておるが”
 
「う、うるさいわ、お前が何であろうと構わない、今すぐに、サマエルを
返して!」
 必死にフェレスは声を張り上げる。
“くく、活(い)きが良いの。
 吾(あ)が真なる風姿を眼前にしても、左様な大口をたたけるものやら。
 どれ、吾が眩耀(げんよう)の衣(きぬ)を、取りのけてくれようか”
 謎の存在がそう告げると、眼に突き刺さるようだった強烈な光が、徐々に
弱まり始めた。

 そして、明るさが外の世界の昼間と同程度になったとき、フェレスの眼に
真っ先に映ったのは、捜し求めていたサマエルの姿だった。
「ああ、サマエル!」
 安堵したのも束の間、彼の体がかなり高い位置にあり、しかも下半身は、
ごつごつとした岩に挟まれていることに彼女は気づく。
 彼を捕らえていたのは、天を突かんばかりに巨大な岩山だったのだ。
 それは、青や銀、茶など様々な色の鉱物で構成されており、その間から時折、
熾火(おきび)のような鮮紅色の煌(きらめ)きが覗いていた。

「な、何? この、山みたいな鉱物の塊(かたまり)は……!?」
“この岩山が、敵の正体なのか!?”
 自身も宝石の化身とはいえ、想像外の事態に、フェレス、そしてモトもまた、
眼を見張っていた。
“吾は岩には非(あら)ず、山にも非ず。篤(とく)と見よ、吾が真の風姿を!”
 苛立った思念が、二人の頭の中に轟(とどろ)き渡る。

“くっ……!”
 とっさにモトは頭を押さえ、それから、はっと息を呑んだ。
“ああ、分かったぞ! ルキフェルを飲み込もうとしているところが、口の
一つなのだ、そして……”
「口の一つ? あ、動けるわ!?」
 フェレスも痛みを感じて頭に手をやり、体の自由が利くようになったことを
知った。
 輝きが薄らいだことで、彼らを拘束する力が弱まったようだった。

“相手が大き過ぎて、全体像がつかめないのだな。
 フェレス、もっと距離を取れば、キミにも判別がつくはずだ”
「ええ」
 モトの言葉に従い、フェレスは足早に後ろに退いた。
「あ、ああ……龍だわ、これは大きな龍なのね!」
 あまりに巨大で、ただの岩山としか見えなかったものが、こうして全体を
見渡せるところまで離れて初めて、彼女にも相手の形状が把握できた。

「でも、この龍、一体何なの? なぜ、サマエルを捕まえてるのかしら?」
“これが紅龍というのなら、まだ分かるのだが……”
 二人は困惑し、顔を見合わせた。
 紅龍はその名の通り、紅い鱗(うろこ)に覆われた龍である。
 しかし、今彼らの目の前にいる、まるで鉱物そのものが命を持ったかのよう
な巨大な龍は、何もかもが紅龍とは異なっていた。

“……ふむ。存外、吾は知られておらぬか。
 膾炙(かいしゃ)と豪語しておったは、吾が驕(おご)りであったのか”
 龍の思念が、ほんのわずか、落胆の響きを帯びる。
 しかしそれも束の間、巨大な龍は気を取り直したように、サマエルをくわえ
ている以外の三つの首をもたげ、四対の眼を同時に明けた。
 瞳の色はすべて銀、そして頭部はそれぞれ別の色……黒、紅、朱、碧色を
していた。

「四色の頭……ま、まさか、お前は!?」
 驚きに声を詰まらせるフェレスに向けて、龍は宣言した。
“吾は、唯一無二にして全(まった)き龍、生滅変転致す現象の背後にありて、
常住不変の実在!
 然(しか)して、吾が名は『火閃銀龍』なり!”

「か、火閃銀龍ですって!?」
 思わず、彼女は顔色を変える。
「で、でも、なぜ、お前がサマエルの中にいるの?
 それに予言は変わった……もう、出番はなくなったはずだわ」
 フェレスの言葉に、モトは弾かれたように彼女を見た。
 “この龍が出て来る予言があるのか!? それが変わった……?”

 魔界王家の紋章となっている火閃銀龍は、紅龍を制御できる唯一の存在と
され、その予言は、汎魔殿の礎(いしずえ)である要石に彫り込まれていた。
『──永劫(えいごう)の刻(とき)の果て、四ツ首の火閃銀龍、覚醒したりなば、
対の眼(まなこ)を瞠(みは)りて、蒼(あお)き大地にて祈りを捧げよ。
 さすれば、天地(あめつち)に棲(す)まいし者、悉(ことごと)く我らが力と
なりて、那由多(なゆた)の刻、平安を貪(むさぼ)りし仇敵(きゅうてき)を討つ。
 白き翼と黒き翼、雑(ま)じりし刻にこそ、宿願は叶い、凶(まが)つ影取り
払われ、我ら呪いより解き放たれん──』

 この序文の下に、紅龍となるべき者の資格、火閃銀龍に変化(へんげ)する王
の条件、儀式の方法、惑星の位置等が謎めいた文章で記されていた。
 それによると、紅龍は火閃銀龍の餌(えさ)であり、生け贄の儀式において
紅龍の心臓を食らった王が、伝説の龍へと変化する。
 この無敵の龍の力により、魔族は神族との戦に勝利し、故郷ウィリディスを
奪還できるとされた。

 だがこの“要石の予言”は、モトの時代には存在しなかった。
 それでも、敵による侵攻は、偉大な予知者の一人によって予知され、紅龍を
呼び出す呪文も遺(のこ)されてはいたが、侵攻の時期は明確になっておらず、
フェレス族が平和主義だったこともあって、アナテがその封印を解くまで、
呪文は忘れ去られ、ひっそりと神殿の奥に眠っていたのだった。

「ああ、あなたは知らないのよね、モト。
 ほら、紅龍を召喚すれば、味方にも被害が出てしまうでしょう?
 それに、神族が攻めてくるたびに、紅龍が死ななくちゃいけないのも痛いわ、
王族の血筋を継承するという意味でもね。
 だからあなたの子孫達は、様々な術を模索し、紅龍を制御できる存在、“火
閃銀龍”を召喚する方法の発見に成功したの。
 この龍さえいれば、必ず神族に勝てると言われていたわ。
 でも、サマエルの母が死ぬ間際、女神の言葉として、新しい予言を伝えたの
よ」
“新しい予言? ルキフェルの母君が?”

「ええ。その予言では、火閃銀龍がいなくとも、四頭の龍が力を合わせて戦え
ばいい、そう解釈できるのよ。
 現魔界王タナトスとサマエルが、朱龍と碧龍を従えて立ち上がれば、神族と
の戦いに勝てるはずだと。
 それだから、もう紅龍……サマエルを生け贄にする必要はないのだと思い、
わたくし達はほっとしていたのに」

 そのとき、不服そうな龍が口を挟んで来た。
“気随(きずい)な真似を。
 それゆえ吾が熱願(ねつがん)を伝えんと、現魔界王の赤子へと宿ったのだ。
 なれど、脆弱(ぜいじゃく)なる彼(か)の赤子は、生まれ出(い)ずるやいなや、
忽(たちま)ち不帰(ふき)の客となった”

「えっ、では、タナトスの子は、お前のせいで死んだと言うの!?」
 フェレスが驚くと、火閃銀龍は、否定の思念を送って来た。
“否。吾は、赤子を生かそうと試みた。
 なれど、吾が力を以(も)ってしても、運命は如何(いかん)ともし難(がた)し。
 彼(か)の赤子は、元より死ぬ定めであったのだ”

「そう……。
 タナトスは『もはや予言など不要だと知らしめるために、あの子は生まれて
きたのかもしれない』と言っていたけれど、そうではなかったのね。
 でも、お願い、火閃銀龍。わたくしは……わたくし達は、サマエルを死なせ
たくないの。
 彼を返して。そして、次元の狭間とやらへ帰って」
 フェレスは、祈るように指を組み合わせた。

 しかし返って来たのは、またも否定的な心の声だった。
“左様なわけには参らぬ。
 第一、彼(か)の魔導師との契約を果たさねば、吾が帰還も叶わぬ。
 今のまま実体を持つことも叶わず、幽鬼のごとく彷徨(ほうこう)するのみ。
 それゆえ、吾は須(すべから)く、紅龍を食せねばならぬのだ”

「でも、女神は、予言はひずんでしまったって……それに、タナトスに関する
予言は外れているし、朱龍や碧龍の存在も、要石の予言には……」
“もはやこれより先の問答は無用!”
 フェレスは新しい予言について説明しようとしたが、火閃銀龍は聞く耳を
持たず、三つの口から黒と朱と碧色の光線を吐いた。

「待って、火閃銀龍!」
“危ない!”
 モトが彼女をかばい、かろうじてそれをかわす。
“フェレス、加勢を呼んでおいで。
 それまでは、わたし一人で何とかするから”

「えっ、一人では無理よ」
“いいから、早く!”
「分かったわ!」
“『黯黒の眸』よ、わたくしを連れ戻して!”
 フェレスは、ニュクスに呼びかけた。


                                    to be continued...

======================================================================

     ◆ 後記 ◆

----------------------------------------------------------------------

 今回、やたらめんどくさい言葉が一杯出てきてすんません(汗)。
 火閃銀龍は、大昔かつ異世界の存在ということで、難しい言葉遣いにしよう
としたら、こんなんなってしまいました。
 ま、国語の勉強だと思って(笑)。


 なれ【汝】 
 二人称の人代名詞。おまえ。なんじ。

 えじき【餌食】 餌(えさ)。

 あ・あれ【吾/我】 
 一人称の人代名詞。われ。わたし。
 ◆上代語。中古には慣用表現に残るだけで、「われ」が多く用いられた。 

 けんげん【顕現】
 はっきりと姿を現すこと。はっきりとした形で現れること。

 こは【此は】 
 これは。これはまあ。疑問・感動の気持ちを表すときに、多く用いる。 

 きっきょう【喫驚・吃驚】  驚くこと。驚天。

 しょうじ【肖似】  よく似ていること。酷似。 

 しんき 【神奇】  不思議なこと。 

 げんよう【眩耀】  まばゆいほどに輝くこと。 

 とくと 【篤と】  よく念を入れて物事を行うさま。じっくりと。

 かいしゃ【膾炙】 
 世の人々の評判になって知れ渡ること。《「膾」はなます、「炙」はあぶり
肉の意で、いずれも味がよく、多くの人口に喜ばれるところから》

 まったき【全き】  完全で欠けたところのないこと。

 しかして【然して/而して】 
 そして。それから。多く漢文訓読文に用いられる。 

 驪龍(りりょう) 黒い龍。りりゅう。

 不帰(ふき)の客となる  帰らぬ人となる。死ぬ。

 うだい【宇内】 天下。世界。

 ほうこう【彷徨】  さまよい歩くこと。あてもなく歩きまわること。

 すべからく【須く】  当然。
 漢文訓読に由来する語。「すべくあらく(すべきであることの意)」の約。

----------------------------------------------------------------------

  ネット小説ランキングに参加中☆
  ↓よろしければ、投票お願いします(お一人週一回です)
   m(_ _)m↓
 http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon

 アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪
 ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK)
   m(_ _)m↓
 http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015
 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507

----------------------------------------------------------------------

 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

 ◎バックナンバー:
 http://archive.mag2.com/0000131099/index.html
 ◎発行者Webサイト:
 http://www12.ocn.ne.jp/~tower/
 ◎ご意見・ご感想・連絡等はコチラ:
 http://www12.ocn.ne.jp/~tower/mailform.html 
 ◎メルマガ配信中止はコチラ:
 http://www.mag2.com/m/0000131099.htm

 このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」
 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。

 Copyright (C) 2004-2009  流河 晶  All rights reserved.
 ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。

======================================================================
最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る