紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/03/28

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第239号

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\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第239号

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      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第29回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 7.夢の罠(1)

 第二王子を連れた宝石の化身が去って、一人きりになったプロケルは、まず
は深呼吸し、気を落ち着けて頭の中を整理しようとした。
 事態は一応の沈静を見たが、主の容態を含め、今後のことを考えると、自分
の手には余るように感じられる。
 そこで彼は、魔法医エッカルトに相談を持ちかけようと思い立った。
 魔法医の代表である男爵は、職業柄、守秘義務があることに加え、個人的に
も信頼の置ける相手だった。
 彼は、急ぎ短い手紙をしたためて使い魔に持たせ、人目につかないところで
渡すよう命じた。

 引退したはずのプロケル公に、タナトスの私室に呼び出されたエッカルトは、
内心驚きつつも、まずはうやうやしくお辞儀をした。
「プロケル元公爵、ご無沙汰致しております。
 して、内密なお話とはまた、どのようなことでございますか?」
「おお、エッカルト殿、わざわざ呼び立て致して申し訳ない、実は……」
 さっそくプロケルは、第二王子が反逆すれすれの行為に及んだことも含め、
つい先ほどこの部屋で起きた、目まぐるしい出来事を詳しく話した。

 聞くうちに、エッカルトは徐々に難しい顔になり、彼の話が終わると、重々
しくうなずいた。
「……なるほど。お話はよく分かりました。
 まず、何はさて置き、タナトス陛下のご容態が気がかりでございます、陛下
は今、どちらにおいででしょうか?」
「おそらく、ご寝所だと思うのだが」
 そこで二人は、そっとタナトスの寝室に入って行った。

 広い豪華なベッドの上には、ついさっき倒れ込んだままの格好で、タナトス
とニュクスがぐっすりと眠っていた。
“どうだろうな、それがしが見たところ、さほどお弱りになっておられるよう
には感じられなんだが”
 彼らを起こさないよう、プロケルは念話で医師に話し掛けた。
“少々お待ち下さいませ”

 慎重に診察していたエッカルトは、やがて振り向き、心配そうな公爵に笑顔
を向けた。
「ご懸念は無用でございますぞ、プロケル公。
 幸いなことに、お二方共、取り立てて異常は見られませぬ。
 酷使した精神を回復させるため、睡眠を取っていらっしゃるだけのようです。
 この分では、数日もすれば完全に回復され、お目覚めになるでしょう」

「左様か、それは何よりだ……!」
 心から安堵してプロケルは言い、安らかな寝息を立てている二人を魔法で
着替えさせ、布団をかけた。

 足音を忍ばせて元の部屋に戻ると、老公爵は切り出した。
「ところで、サマエル様について、エッカルト殿はいかに考える?
 いかに、兄君をお助けしたいというお心からとは申せ、先ほどの振る舞いは、
あまりに過激であったと思うのだが。
 ベルフェゴールの謀反の時などもそうだったが、やはりご幼少時の体験が
原因で、時折あのように……その、少々度を越した行動に出なさるのであろう
か……?」

 エッカルトは顔をしかめた。
「サマエル殿下につきましては、わたくしもかつてベルゼブル陛下に、僭越
(せんえつ)ながらと、ご意見を申し上げたこともございました。
 なれど、まったくお耳を貸して頂くことはできませんでしてな……」

「おう、エッカルト殿も、とは……」
 プロケルは悲痛な表情になり、嘆息(たんそく)した。
「何ゆえベルゼブル陛下は、サマエル様のこととなると、ああも頑(かたく)な
になってしまわれるものやらな。
 また、そうまでされてもなお、お父君を一心にお慕いなさっておられる殿下
が、おいたわしくて、見ておられぬよ……」

「左様、サマエル殿下は、ご自分のことは、ベルゼブル陛下には何も言って
くれるなと仰っておいででしたな。
 周りがあまりに強く意見すると、意地になってしまわれるという陛下の性格
を、よくご存知だったのやもしれませぬが」
「あの方は、幼少の砌(みぎり)より、大層利発なお子だったゆえな。
 ……そうそう、ダイアデム殿が、『まだ洗脳が解けていない』と仰せだった
のだが、エッカルト殿は、心当たりがおありか?」

 プロケルの言葉に、魔法医は重々しくうなずいた。
「はい。虐待に近い行為が執拗に繰り返されれば、洗脳に近いものになって
しまうことは十分に考えられまする。
 されど、そのお言葉からすると、すでに“焔の眸”閣下が、解除を試みられ
ておられるのでしょう。
 さすがは長の年月、魔界の守護精霊を務められた方……こういうことにも
精通しておられるようですな。
 それでもやはり、洗脳から解放されるには、かなりの時間が必要と思われ
まする。
 何しろ、サマエル殿下が魔界をお出になるまで……つまりは一万年以上もの
間、みずから死を望むように仕向けられていたと申し上げていい状態が、続い
ていたのですからな……」

「左様か……」
 公爵は、またもため息をつき、それから気を取り直し、言った。
「ともかく、他の家臣達にも一応、今回の次第を聞かせておくとしよう。
 汎魔殿では噂が広まるのは早い。尾ひれがついて収拾がつかなくなる前に、
対処しておかねばならぬ。
 それから、これは申すまでもないことながら、今回のサマエル様の過激な
言動は伏せておいて頂きたいのだが。
 テネブレを封じるため、“焔の眸”閣下と共に、手助けにいらして頂いた、
とだけ……未だに殿下を王に担ぎたがっている輩(やから)に、不用意な口実を
与えたくもないゆえな」

「かしこまりました。
 されば、後でサマエル殿下も、内々に診察致しましょう」
「かたじけない。ではもう少々、お付き合い願うぞ、エッカルト殿」
「は、お供致します」

 そこでプロケルは、使い魔を通じ、主立った家臣達に招集をかけた。


           *       *       *


「……というわけで、陛下はあの者……“黯黒の眸”化身であるニュクスを
得るため、危険なテネブレを封じる必要があったのだな。
 本日、急に思い立ってそれを実行され、成功されたものの、お力を使い果た
され、お休みなっておられる」
 会議室に集まった家臣達を前にして、プロケルは大ざっぱに事の経緯を説明
し、エッカルト男爵が言葉を継いだ。
「左様、わたくしの見立てでは、陛下は数日もすればお元気になられ、お目覚
めになると存じます、皆様方、ご懸念は無用でございます」

 話を聞いた家臣達は顔を見合わせ、小声で意見を述べ合っていたが、パイモ
ンが、彼らを代表するようにゆっくりと手を上げた。
「プロケル公爵殿、少々よろしいですかな」
「それがしは、もはや元公爵だが」

 パイモンは顔をしかめた。
「左様な瑣末事(さまつじ)は、この際はおいておくとしましょう。
 陛下がすぐにお元気になられるとの、エッカルト殿のお見立てはよいとして。
 されど……たかが、女の姿をした化身を得るために、左様な危険を冒される
とは、魔界の王にあるまじき軽率な行為でございますぞ。
 第一、あの化身もまた、テネブレ同様、危険なのではありますまいか」
 会議室内にざわめきが走り、彼らが同じような考えを抱いていることが見て
取れた。

 プロケルは、即座に否定の身振りをした。
「いや、ニュクスはタナトス陛下ご自身がお創りになった化身。
 当然ながら陛下のお言葉にはすべて従うよう創られておる上に、今回の封印
でさらに従順になったゆえ、危険などはない」
 元公爵の言葉にも、デーモン王の眼差しは疑わしそうだった。
「……まことでしょうか?」
 プロケルは胸を張り、自信たっぷりにうなずいた。
「無論。陛下がお目覚めになられたなら、ニュクスにも会ってみるがよい。
 それがしの言葉に、必ずや首肯(しゅこう)して頂けることを請合おうぞ」

「左様ですか。
 なれどせめて、事前に一言仰って頂けましたなら、皆がお手伝いをすること
ができ、お力を使い果たされるようなことはなかったのでは?」
「テネブレの封印は、神族との戦いの前に、必ずやらねばならなかった
こと。
 それがたまたま今日だった、ただそれだけのことだ。
 何しろあの者は、結界を張る能力に長けてはおるが、気随気ままで、しかも
生き物の命を軽んずる、危険極まりない化身。
 あの者に、全幅の信頼を寄せることなど初めから無理だった。“黯黒の眸”
に魔界の結界を、安んじて守らせるためには、封印するほか、なかったのだ」
 元公爵は、皆の者に言い聞かせるように話した。

「……ふむ。ならば、陛下のお目覚めを待つことと致しましょう……。
 方々(かたがた)も、それでよろしいな」
「仕方ございますまい」
「今少し、お待ちしますか」
 彼に説得されたパイモン達家臣は、渋々ながら王の回復を待つことに同意し、
プロケル元公爵は、とりあえずの責任は果たしたと、肩の荷を降ろした。

 三日後、エッカルトの言葉通り、タナトスはニュクスと共に目覚め、心配し
ていたプロケル並びに家臣達は、あるじが元気を取り戻したことで歓喜に沸き
立ち、あのパイモンまでもが多少浮かれ気味になった。

 だが、紅龍城に運び込まれた弟王子の方は、一向に目覚めなかった。
 ダイアデムが片時も離れずに、念話で必死に呼びかけ続けても反応はなく、
一週間、十日と経っても、サマエルが覚醒する兆しはなかった。


                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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【首肯】しゅこう
 肯定の意味でうなずくこと。


 体調がなかなか戻りませんね〜。
 薬を変えてもらったら、少し落ち着いて来た感じはありますが。
 なんか、十年位前にも、おんなじようなことがあったような。
 私は抗生剤が効きにくい体質なんでしょう、多分。
 そろそろメルマガの原稿の在庫が減って来たので、続きを書きたいんですが、
思うに任せず、ちょっと焦ってたり。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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