紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/03/14

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第237号

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\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第237号

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      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第27回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 6.裏切りの貴公子(4)

 そのとき、怒りに沸騰しているタナトスの心に、静かな声が流れ込んで来た。
“待っておくれ、タナトス。何かいわくありげだ。
 そう急くこともあるまい、サマエルの話を聞こうではないか”

「話を聞くだと!? 何を言っている!
 ニュクス、こやつらは、俺とお前を裏切り、殺そうとしたのだぞ!」
 興奮冷めやらぬまま、魔界王は、二人に向かって指を振り立てた。
 それに対して、一番ひどい目に遭ったはずの美女は、至極(しごく)冷静
だった。
「なれど、妾はこうして生きておろう。
 それに、先ほどまでの様子では、どうやら“焔の眸”は、この件には関与
しておらぬように見受けられるが」
「しかしだな!」

「よしんばカオスの貴公子が、この肉体を消滅させたところで、再び新しき体
を、おぬしが創り出せば良いだけのこと。
 タナトスよ、何をいきり立っておるのだ?」
 いかにも不思議そうに尋ねる“黯黒の眸”の化身に、魔界の王は切ない眼を
向けた。
「ニュクス、俺達はそうは考えないのだ。俺にとってお前は、かけがえのない
ものだ……。
 傷つけられたり、消されたりすれば、心が痛む……」

「ふむ、生き物の心とは、そのような動きをするものか。
 されど、怒りに任せて行動するは、魔界の王に有るまじき行為であろう。
 ましてや“焔の眸”は、たった一つの我が兄弟。仮に、まきぞえで消滅する
となれば哀れだ……。
 おぬしの怒りは一時棚上げして、何ゆえサマエルが、このようなことを仕出
かしたか、理由を聞いてはもらえまいか。
 処罰は、その後でも遅くはあるまい、どうか……」
 ニュクスは、祈るように手を組み合わせる。

 最愛の女性に懇願(こんがん)されては、魔界の王も折れるしかなかった。
「……むう、お前がそう言うなら仕方がない、弁明の機会をやるとしよう。
 たしかに、“焔の眸”には罪はなさそうだ。
 どうせ、この下らん茶番はすべて、こやつが一人で考えたに決まっている
からな」
 そう言うとタナトスは、ライオンの滑らかな毛並みに顔を埋(うず)めている
弟の肩をつかみ、乱暴に揺さぶった。

「おい、サマエル!
 何ゆえこんなことをしたのだ、俺達に分かるように説明しろ!
 聞こえんのか! 理由を言え!」
 幾度も揺さぶられて、ようやく第二王子は顔を上げる。
「……あ、あ、誰……何?」
 だが、その表情は虚ろで、眼は何も見てはいない。
 タナトスは苛つき、弟のえり首をつかんだ。
「サマエル、俺だ、タナトスだ、わけを言えと言っているのだ!」

「何でしょう、兄上……もはや、私は死んでいく身……。
 今さら、あなたを騙した理由など、どうでもいいことでしょう……?
 早く殺して下さい……それが……それだけが、私と彼の望みです……」
 サマエルの答えは、眼差し同様、ぼんやりしていた。
「何、寝言をほざいている!
 このたわけ者めが、しっかり眼を覚まして説明せんか!
 せっかくニュクスが、貴様に弁明の機会をやると言っているのだぞ!」
 タナトスは勢いよく、弟の頬を張った。

『グルルル……』
 シンハは、不機嫌そうに喉の奥で唸り、元の主を睨んだ。
 それでもビンタを食らったことで、サマエルは多少なりとも頭が働くように
なったようだった。
 ようやく眼の焦点は兄に結ばれ、彼はのろのろと答えた。
「……なぜ、こんなことをしたか……?
 ああ、お前と同じことをしてみたまで、だよ……。
 お前は昔から、私やジルや他の人々に、よくこういった悪ふざけを仕掛けて
いただろう……それを、私も真似してみただけさ……。
 しかし、こんなことの、どこが楽しいのだ? 私には、さっぱり分からない
……」

「何ぃ、貴様! 悪ふざけをしただけだと言う気か!
 やはりぶち殺してくれる!」
「待てと申すに、タナトス」
 再び弟王子の首に手をかけようとする主をニュクスは押し留め、それから
カオスの貴公子に向けて言った。
「サマエル、それだけではあるまい、正直にわけを話しておくれ、“焔の眸”
を、道連れにするのを哀れと思うのなら……」

 サマエルは眠たげな目つきで彼女を見、それから、ゆっくりとライオンの
黄金の毛並みをなでた。
 シンハは紅い眼を細め、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らして、彼の手に頬を
すりつける。
 魔界の獅子の、信頼し切った様子を眼にした第二王子は頭を振り、意識を
ハッキリさせると答えた。

「そうだね……彼に罪はない。分かったよ、すべてを話そう。
 タナトス、どの道、すべての咎(とが)は私にある。
 たとえ私の話が気に入らなくても、処刑するのは私だけにして欲しい、
“焔の眸”を、壊したりしないでくれないか」

「ちっ、頼まれんでも壊したりはせん、御託(ごたく)はいいから、さっさと
話せ!」
「ありがとう。ああ……その前にまず、一つ、質問していいかな」
「回りくどいヤツだな、何だ、早く言え!」
 気の短いタナトスは、焦れて地団駄を踏む。

「では……タナトス、お前さっき、“闇の力”を屈伏させるのに、どれくらい
の時間がかかった?」
「ふん、三十分かそこらだ、あんな程度のものを押さえつけるのに、何時間も
かかってたまるか」
 その声は、幾分自慢げだった。
 サマエルは微笑んだ。
「……そう。では、愛しい女性が生きるか死ぬかの瀬戸際でなかったら、どう
だったのだろうね……」
「それはどういう意味だ!」

 サマエルは、遠くを見るような目つきになった。
「覚えているだろうが、かつて、私が“カオスの試練”を受けたとき、紅龍の
塔を出るまで二十年以上もかかった……。
 まだ子供だったし、吸収しなければならない闇の力や、祖先の怨念が膨大
だったこともあってね……。
 分かるかい、タナトス。あの苦痛が、何日も何年も、延々と続くのだ……
眠ることもできず、気を失うことすら許されず……いつ果てるとも知れない、
激烈な苦しみが……。
 やっとそれから解放されたとき、私はすべてを憎んでいた。
 何をどう努力しても、決して振り向いては下さらないベルゼブル陛下……
そして、ことあるごとに辛く当たってくるお前、この力を授けた“黯黒の眸”
……さらには、産んで下さった母上でさえもね……。
 そして何より、自分という存在を憎んだのだ……。
 お前の場合は、私よりは短く済むとは思った。だが、もし長引いてしまうと、
せっかく“黯黒の眸”を受け入れる気になったのが逆転して、憎むようになっ
てしまうかもしれない……ともね……。
 それに、私は軟弱者だから、自分と同じ苦痛を感じている者を目の前にして、
黙っていられなかったのだ……」

「ふん、それゆえ、わざと俺を怒らせて、早く終わらせようとしたとでも言う
気か?
 そんな見え透いた弁明が、俺に通じるとでも思っているのか、貴様」
 うさんくさそうに、タナトスは鼻を鳴らす。
 サマエルの目蓋(まぶた)は再び徐々に下がり始め、半ば眼をつぶった状態で、
彼はゆっくりと首を振った。
「信じてくれなくていい……ただ、私を殺した後は、“焔の眸”を再び魔界へ
……。
 宝物庫の奥で静かに過ごさせてやって欲しい……いえ、過ごさせて頂けない
でしょうか、兄上……タナトス陛下……」

「また始まったな、この性格破綻(はたん)者め!
 貴様の言うことなど、簡単に信じてたまるか!」
「ですから、信じて頂かなくていい……と申し上げているでしょう、兄上……。
 私はもう、自我のほとんどを“カオス”に食われてしまい、ただ“焔の眸”
……妻のことだけが気がかりで、こちら側……正気の側に留まっているのみ、
なのですから……」
 サマエルは大儀(たいぎ)そうに答えて完全に眼を閉じ、またも獅子の金色の
毛皮に頬をすり寄せた。

 その時、再度眩(まばゆ)い光がシンハを包み、紅毛の少年の姿になった。
 彼はサマエルの頭を自分の膝に乗せてやり、タナトスを見上げた。
「タナトス、残りの話は、もうちょい後にしてくんないかなぁ? 
 こいつ、心身ともに疲れ切っちまってるんだ……。
 オレが分かる範囲でなら答えるし、気が治まらねーって言うんなら、オレが
代わりに殴られるからよぉ」

 その言葉に、サマエルは、ぱちりと眼を開けた。
「それは駄目だ、ダイアデム。たしかに、今の私は筋道立てて話はできそうに
もない……けれど、殴られることはできる……意識を手放してしまえば……
苦痛は感じない……」
「ンなコトしたら、回復がよけー遅れるだけじゃんか、その方がダメだろ!」
「うるさいぞ、貴様ら!
 回復など必要ない、俺が今すぐ息の根を止めてくれる!」
 タナトスが緋色の眼を燃え上がらせると、ダイアデムは体を張ってサマエル
をかばい、叫んだ。

「だったら、さっきも言ったみてーに、オレも殺しゃいーだろ!
 大体、オレが全部悪いんだから。
 オレが肉体を持ってなきゃ、サマエルは魔力を封印されず、ベルゼブルも
もう少しこいつを可愛がっただろうし、そしたらタナトス、お前だって、サマ
エルに優しくしてやることができて……こんな風に、兄弟でいがみ合ったりも
しなくて済んだんだから……! 
 さあ、殺れよ、二人一緒に!」
「ふん、言われなくても……」
 タナトスは言いかけたが、腕を引かれてはっと振り向いた。

 眼に涙を一杯ためて、“黯黒の眸”の化身が彼を見ていた。
「これは……この感情が悲しみ、か……? 心が引き裂かれそうな……。
 この感情を妾は楽しみ、食らって来た……それが我が身に起こると、これ
ほど苦しいものとは、知らなんだ……。
 タナトス、助けておくれ。どうすればよいのだ、この胸の痛み、苦しみ……
妾は……」
 その漆黒の瞳から、ついに涙があふれ出す。

「どうしたのだ、落ち着け、ニュクス」
 タナトスは、美女の肩をつかみ、軽く揺さぶる。
「妾は……多くの死を見てきた……自身が手を下したことも数え切れぬ……。
 なれど今、我が兄弟、そして力を授けし“カオスの貴公子”……それが目の
前で死んでゆく……それを助ける術もない……何となれば、妾は主人たる魔界
王に逆らえぬゆえ……。
 “焔の眸”よ、おぬしの心、その悲しみを……妾は初めて理解した……」
 身を震わせる黒衣の美女の眼から流れ出、床に滴り落ちて出現するのは、
闇色をした宝石。
 それは、この世のどんな物質よりも硬い、最高級の黒ダイアモンドだった。

 今ここで彼らを殺せば、ニュクスの心も砕け散ってしまうに違いない。
 タナトスは密かに舌打ちしたが、彼女だけでなく、自分自身も弱り果てて
いるのに気づいた。

「分かった、こやつらは殺さん。言い訳を聞くのも後回しだ。
 疲れているのだろう、ニュクス。今日は、いちどきに色々ありすぎた」
 その刹那、ニュクスは、ふらっとタナトスの腕の中に倒れ込んだ。
「ニュクス!」
 ふらつく足を踏ん張り、タナトスは彼女を抱き上げた。

「ダイアデム、今度こそ俺達は休むぞ。一週間後に話を聞いてやるから、その
間は顔を見せるなと、そのたわけに言っておけ!
 ああ、そうだ、忘れずにプロケルも看てやるがいい。
 ──ムーヴ!」
 タナトスは、自分のベッドにニュクスを横たえると、その隣に倒れ込み、
あっと言うまに眠りに落ちた。

                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 目が悪いので、二週間装用コンタクトを使ってたのですが。
 先週、眼科に行って新しいのを作ろうとしたら、右目の角膜に傷があるので
治るまで無理と言われてしまいました。
 コンタクトが割れてたらしく、たしかに眼も痛かったんですが。
 メガネが大昔に作ったのだったので、もう全然度が合ってなく、かけても
パソコンの画面が見えず(汗)。
 夜、自転車に乗ると、電信柱にぶつかりそうでした。

 やっと治って新しいレンズを入れたら、これがまた大変で……。
 左眼だけ近視がすごく進んでいると言われて、度数を上げたんですが、今度
は近くが見えにくいったらありゃしないんですよ。
 小説も書きにくいし、ホント困りもの。
 訓練で視力を治すっていうのがありますが、うまくいくんですかねぇ。
 やってみようかなぁ。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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