2009/03/07
ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第236号
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: \ \\☆ \ \ \\ ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説 \ ★ \ ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢 ┃第236号 *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: ≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ □ 巻の六 ── 死の花嫁 / The Bride of Death ── ◇第26回 *……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*…… 6.裏切りの貴公子(3) 「ふふ……タナトス、お前が闇と同化するのももうすぐだ。 闇に囚われ漆黒の龍と化し、地下迷宮の主として、永遠に彷徨(さまよ)い 続けることになるのだろう……おのれが、かつて何者だったのかも忘れてね。 それとも、闇の支配に耐え切れずに死んでしまうのかな……。 うらやましいよ、どの道、お前はもうすぐ、悩みも悲しみも苦痛も、何も 感じなくなってしまえるのだからね……」 サマエルは、うっとりとした目つきで、息も絶え絶えの兄を見る。 「おお、サマエル、どうか、どうか、タナトスを許しておくれ……妾は、どう なってもよいから……」 懇願するその声に、第二王子は、思い出したように手の中の美女に視線を 戻す。 「ああ、ニュクス。可哀想に、お前の最愛の人は何も言ってくれないようだよ、 冷たいものだね。 でも、今ああしてタナトスが苦しんでいるのは、お前の力のせいなのだから、 仕方がないとも言えるかな。 さあ、もう終わりにしてあげようね。 ──エンサングイン!」 サマエルの呪文に応え、空中に、眩(まばゆ)い黄金の短剣が現れた。 「き、貴様、何をする気だ……!?」 はっと我に返ったタナトスの額から、嫌な汗がにじみ出て来る。 「お前も“黯黒の眸”の化身、そう簡単には死ねないだろう。 でも、これで心臓をえぐり出し、潰してしまえば、さすがに生きてはいられ ないだろうね……ふふふ」 魔眼を暗く輝かせて、第二王子は短剣を手に取った。 「やめろ、サマエル!」 そして、叫ぶタナトスを尻目に、ニュクスのドレスの胸元を切り裂いた。 びくりとする美女を、サマエルは、女性的な外見には似合わぬ力で押さえ つけ、露(あらわ)になった震える胸に、冷たく光る刃をあてがう。 「さよなら、ニュクス。もっと美しい体を創ってあげるよ。 こんなつまらない男のことなど忘れて、“焔の眸”と三人、楽しく暮らそう ね」 「やめろ──っ!」 弟の残虐行為を止めようと、タナトスは必死に叫ぶ。 だが、ごくわずか持ち上げることのできた拳を、狂った弟にたたき込むだけ の力は、彼には残されてはいなかった。 そして、彼の見ている前で、とうとう美女の豊かな胸に、鋭い短剣の切っ先 が、ざくりと食い込んだ。 「あああっ!」 激しく身もだえするニュクスの傷口から鮮血がほとばしり、白い胸を紅く 濡らしていく。 「タ、ナトス、助け……」 救いを求めて、“黯黒の眸”の化身は、血にまみれた手を差し伸べる。 「ニュクス──!」 タナトスもまた必死に腕を伸ばすが、周囲に渦巻く黒い霧に阻(はば)まれて、 彼女には届かない。 「無駄だよ、ニュクス。こんな男に助けを求めても。 自分一人の身さえ救えない、情けない男などに。 それにお前はずっと、私を求めていただろう? 私が人界に去った後でさえ、自分の下へ戻って来るよう、仕向けたりして。 だがもう私は、お前を拒絶したりしない、“焔の眸”と共に、魔界の玉座 に君臨する私のそばにいておくれ……これが誓いの印だ!」 サマエルは勢いよく、短剣をニュクスの胸に突き立てた。 「──ぎゃああっ!」 美女の艶(つや)やかな唇から、悲鳴と共に、ばっと血が吐き出される。 「ニュクス──やめろ、サマエル、この気違いめ!」 タナトスは声を張り上げるも、狂気に侵されたサマエルには聞こえた様子も なかった。 「可哀想に、ニュクス、痛いのだろうね? 私も痛かった……そして苦しんだよ、“カオスの試練”の間中ね。 でも死ねなかった……ベルゼブル陛下に、自分を認めてもらえるのはこの 機会しかないと思い、必死に耐えたのだ……今考えると、お笑い種だけれど。 やはり私はあの時に、死んでしまえばよかったのだね、そうしたら、お前を こうして殺さずに済んだのに。 本当に、私は罪を犯すためだけに、生まれて来てしまったのだな……。 ねぇ、タナトス。どうして子供の頃、私を殺してくれなかったのだい。そう していたら、私は、こんなひどいことをせずにすんだのに。 いや、お前だけでなく、ベルゼブル陛下もシンハも、私を汚した男達、女達 も……なぜ誰も、私を殺してくれなかったのだろう……」 サマエルの口調は暗く沈んでいたが、その手元はゆるぎない。 まるで見えているかのように手際よく、突き立てた短剣を下へと動かし、 宝石の化身の胸を縦に切り裂いてゆく。 「ああ……ああ、ああ……」 ニュクスの唇は血の気が失せ、大きく見開かれた黒い眼からも光が消え、 もはやどこも見ていなかった。 「ニュクス、ニュクス、ニュクス、ニュクス──!」 自分の身を切られてでもいるかように、タナトスは心に鋭い痛みを感じ、 最愛の女性の名をひたすら繰り返す。 そして、懸命に起き上がろうと床をかきむしるも、体はまったく動かない。 「……ああ……」 一声上げて、ついに“黯黒の眸”の化身は気を失った。 「よかった。ようやくこれで、終わりにできる」 ほっとしたように、サマエルは美女の体を横たえる。 「やめろ──!」 そして弟王子は、タナトスの悲鳴に近い声を背景に、短剣を持ち直し、傷が 十字になるよう、今度は横に切り裂いていく。 再び大量の血糊が飛び散り、返り血を浴びて紅く染まった弟王子の唇には、 凄艶(せいえん)な笑みが張りついていた。 「今度こそ私はお前を受け入れ、お前は私のものとなる。 だが“黯黒の眸”よ、案ずることはない。 これは死ではなく、再生の儀式なのだから……」 第二王子は、意識のないニュクスに顔を近づける。 血の気が引いた唇に、サマエルの唇が触れようとした、そのときだった。 タナトスの体を、内外から飲み込もうとしていた暗黒の力が、四方に飛び 散ったのは。 「ニュクスから離れろ、この色魔!」 解放された魔界王は、それまで彼を縛りつけていた闇の力を束ね、弟めがけ て投げつけた。 「おっと」 それを予期していたかのごとく、サマエルは、覆いかぶさっていた美女から 体を離し、優雅に身をかわす。 それまでのタナトスならば我を忘れ、そのまま弟に突っ込んでいったこと だろう。 しかし彼は深追いはせず、胸を切り裂かれ、血を流しているニュクスに駆け 寄った。 「ニュクス! しっかりしろ!」 急いで彼女の脈を取る。 幸いなことに、化身にはまだ息があった。 安堵して、彼は治癒魔法を唱えた。 「──フィックス!」 見る間に無惨な傷はふさがり、肌は元の滑らかさを取り戻す。 そしてニュクスは、ぱちりと目覚めた。 「タナトス……?」 「ニュクス!」 二人は固く抱き合う。 「ああ、間に合った……」 心から愛(いと)おしそうにニュクスの黒い髪をなでた魔界王は、一つ大きく 息をつくと、言った。 「少し待っていろ、ニュクス。あいつと決着をつけてくる」 「タナトス……?」 「大丈夫だ、すぐ戻る」 心配そうな美女を残して彼は立ち上がり、眼差しだけで殺しかねない勢いで、 弟を睨みつけた。 「覚悟はいいだろうな、貴様!」 サマエルは、刺すような兄の視線を、落ち着き払った態度で受け止め、微笑 んだ。 「ええ、とうに覚悟はできていますよ、兄上。 でも、どうか少し、お待ち頂きたいのですが。 妻を、安心させてやらなくてはいけないのでね」 「何だと!」 怒り心頭に発している兄を尻目に、弟王子は、がたがたと震えている少年の 肩に、そっと手を置いた。 それまでずっとダイアデムは、固く眼を閉じ、耳をふさいで涙をこらえ、 言われた通りに、すべてが終わるのを待っていたのだ。 “全部済んだよ、ダイアデム。顔を上げて” “焔の眸”の化身はびくりとし、いやいやと首を振った。 “大丈夫、ニュクスは生きているから。……タナトスも無事だよ” 「えっ!」 ぱっと眼を明け、ダイアデムは、恐る恐る顔を上げる。 その言葉が事実なのを確かめて、彼はサマエルに抱きついた。 「よかった! よかったよぉ!」 「よくないっ! サマエル、貴様、殺してやる! どけ、ダイアデム!」 険しい表情でタナトスは、二人を引き離そうとする。 ダイアデムは、懸命にサマエルをかばった。 「ま、待てよ、タナトス! よく分かんねーけど、ほら、見てみろ、こいつ、初めからこうなることを 予期してたって顔だ、話聞いてみよーぜ、その後で……」 「うるさい、どんな理由があろうと、オレはこいつを許さん! サマエル、貴様も、ニュクスと同じ目に遭わせてやる!」 魔界王は弟の首をつかみ、力任せに締め上げ始めた。 サマエルは抗議も抵抗もせず、されるがままになっている。 「待つがいい、タナトス!」 「ああ、もう、よせってばよ!」 止めるニュクスとダイアデムの叫びも、その耳には入らない。 「──エンサングイン!」 そのときサマエルが呪文を唱え、全員が凍りついた。 さらに皆が驚愕したことには、出現した短剣を、サマエルは兄に差し出した のだ。 「……タナ、トス。私を、ニュクスと、同じ目に、遭わせてやると、言ったな。 これを、使うが、いい……」 「な、何だと、貴様……?」 面食らったタナトスの手から、思わず力が抜ける。 「だから、私がニュクスにしたように、これで私の胸を切り裂くがいいと言っ ているのだよ、タナトス」 世間話でもするかのような、ごく普通の口調でサマエルは言う。 「いい覚悟だ!」 ようやくその言葉の意味を理解したタナトスは手を伸ばし、短剣を引っつか んだ。 「望み通り、貴様の心臓を引きずり出して、二度とこんな振る舞いができん ようにしてやる!」 「よせよ、タナトス!」 「やめておくれ、タナトス!」 貴石の双子が叫ぶ中、魔界王は、弟王子の胸に向け、光る刃を突き出そうと した。 「──死ね!」 次の瞬間、少年の体が紅く発光し、黄金色の獅子が現れた。 一声高く咆哮(ほうこう)したシンハは、タナトスに飛びつき、短剣を持つ手 に鋭い牙を食い込ませた。 音を立てて床に転がった短剣を、素早くニュクスが拾い上げ、呪文を唱えて 消滅させる。 「──アベオ!」 「何をする! 邪魔をする気なら貴様も殺すぞ、シンハ!」 彼を振りほどき、眼を怒らせる魔界の王に、ライオンは、こちらもまた紅い 瞳を爛々(らんらん)と光らせ、答えた。 『ならば、ルキフェルもろとも我も消せ、かつての主、黔(けん)龍王よ。 我はもはや王権の象徴ではなく、儀式の際にも不要なれば、構いはせぬ』 「すまないね、シンハ。私の我がままのせいで、お前まで……。 でもこれで、私達を引き裂くものはもうなくなる……ずっと一緒にいられる のだね。 さあどうぞ、魔界の王、タナトス陛下。ご存分になさって下さい」 サマエルは、獅子の首に腕を回し、黄金の毛並みに顔を埋めると眼を閉じた。 シンハは大きな舌で、彼の顔の血糊を優しくなめ取る。 「おのれ──貴様ら……ふざけおって! もう我慢できん、望み通りに二人共々、息の根を止めてくれるわ!」 タナトスは怒りのままに、強力な呪文を唱えようと、大きく息を吸い込んだ。 to be continued... ====================================================================== ◆ 後記 ◆ ---------------------------------------------------------------------- なんか最近体調がよくなくて、熱っぽいな〜と思ってたら、風邪じゃなく。 どうも腎臓の調子が悪いみたいです。 ポテチとかの食べすぎかな(笑)。 ……どうも私は、甘いものたくさん食べても体重が少し増えるくらいで済む んですが、塩分を取りすぎると、すぐ腎臓が悪くなるような? 来週、エコー検査します。 ↓ネット小説ランキングの投票が、月一から週一に変わったそうです。 よろしければ。 ---------------------------------------------------------------------- ネット小説ランキングに参加中☆ ↓よろしければ、投票お願いします(お一人週一回です) m(_ _)m↓ http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪ ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK) m(_ _)m↓ http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507 ---------------------------------------------------------------------- ■発行者 :流河 晶 ■マガジン名:紅龍の夢 ■マガジンID:0000131099 ■発行周期 :週刊 ◎バックナンバー: http://archive.mag2.com/0000131099/index.html ◎発行者Webサイト: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/ ◎ご意見・ご感想・連絡等はコチラ: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/mailform.html ◎メルマガ配信中止はコチラ: http://www.mag2.com/m/0000131099.htm このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。 Copyright (C) 2004-2009 流河 晶 All rights reserved. ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。 ======================================================================


