2009/02/21
ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第234号
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: \ \\☆ \ \ \\ ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説 \ ★ \ ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢 ┃第234号 *.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.: ≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫ □ 巻の六 ── 死の花嫁 / The Bride of Death ── ◇第24回 *……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*…… 6.裏切りの貴公子(1) 「ふふふ」 その時突如、サマエルの口調、そして表情までもが一変した。 青ざめていた頬には赤みが差し、眼は爛々と輝き、端が持ち上げられた唇 からは鋭い牙が覗く。 「さすがは兄上。ですが、どれくらいもつでしょうね? “黯黒の眸”に操られて傀儡(くぐつ)と化したあげく、死んでいった哀れな 者達……その中には、あなたなどより遥かに強い力の持ち主もいたのを、私は 先祖の記憶として持っているのですよ」 「な、何だと……?」 あまりの態度の変わりようにタナトスは驚き、弟を凝視した。 サマエルは、紅い瞳に異様な光を浮かべたまま、兄を指差した。 「ほら、もう立ってもいられない。すぐにあなたも闇の力に飲み込まれ、意思 を持たない人形(ひとがた)と成り果ててしまうでしょうね。 さあ、意識を手放しなさい、そうすれば楽になれます。愛する“黯黒の眸” と、未来永劫(えいごう)一緒にいられますよ」 「ふ、ふざけるな! 魔界の王たるこの俺が、こんな程度の力に屈してたまるか!」 タナトスは怒鳴り返した。 しかし、それもまったく耳に入っていない風で、弟王子は続けた。 「ですが、テネブレに支配されてしまったあなたは、もはや危険人物、魔界に 害をなさぬよう、またもや地下迷宮にご滞在頂くことになるでしょうけれどね、 今度は永遠に。 ああ、ご心配なく、その際のニュクスの処遇は私にお任せ下さい。 “焔の眸”と“黯黒の眸”、両手に花として平等に扱って差し上げますよ。 誰にも文句など言わせません、何しろ他に適任者はなく、私が魔界王の位を 継ぐことになるのですからね、ふふふ……」 体の中を荒れ狂う闇の力を一瞬忘れ、タナトスは、想像もしなかった台詞を 言い放つ弟に、驚きの眼差しを送った。 「き、貴様! まさか、最初からそのつもりで……この機に乗じ、王位を簒奪(さんだつ) する気でいたのか!?」 第二王子は、冷たい微笑を艶(つや)やかな唇に張り付けたまま、兄である 魔界の王に視線を戻した。 「くくく、これほどうまくいくとは思いもしませんでしたよ。 ですが、これは私の一存でやったこと、ダイアデムを責めないでやって下さ い、彼は何も知らなかったのですから」 「サマエル殿下! 本気で仰(おっしゃ)っておいでなのですか!?」 彼の言葉を信じかねた、元魔界公爵が叫ぶ。 サマエルは笑みを消し、冷ややかに答えた。 「陛下と呼べ、プロケル。 私はタナトスとは違う。礼儀を知らぬ臣下に容赦はしない」 「な、何を仰います、タナトス様は未だご存命ですぞ! それに、あなた様が、次期の魔界王と決まったわけでもありませぬ! 第一、こんな卑怯なやり方で兄君を陥れるようなお方が、魔界の王にふさわ しいと言えるでしょうや!?」 プロケルは、わなわなと身を震わせる。 「……卑怯? ふっ、たかが闇の力の一部も制御できず屈してしまうようでは、 “闇の貴公子”を名乗る資格などあるまいぞ。 そうではないか、魔界の至宝、魔界王家の象徴である我が妃、“焔の眸” よ」 いきなり正式名称で呼ばれて、ダイアデムはびくっとした。 「……へ?」 「ほ、“焔の眸”殿! どうか、夫君(ふくん)を、サマエル殿下を、お諌(いさ)め下され! かような背信、許されるものではございませぬぞ!」 必死の形相で、プロケルは哀願する。 「え、いや、けどよぉ……」 事態が飲み込めず、面食らっている妻に向けて、サマエルは、優しいとさえ 言っていい声音(こわね)で問いかける。 「ねえ、ダイアデム。プロケルやタナトスなどより、私の方が大事だろう? タナトスが闇の力に負けた暁(あかつき)には、私を次の魔界王に選んでくれ るね?」 “焔の眸”の化身はそんな夫を呆然と見やり、それから昔の主に視線を移し、 次いで意識がない兄弟の姿に眼をやった。 そして、再びサマエルに視線を戻したとき、答えるその口調は、重く湿って いた。 「……プロケルの言う通り、サマエルのやり方は間違ってるとオレも思う……。 けど、オレは、お前の望むことは全部叶えてやりたい、だから……ごめんな、 タナトス。 でも、サマエルなら、“黯黒の眸”のことも大事にしてくれるから……」 「う、裏切り者──っ!」 「ご、ごめんよぉ……!」 血を吐くような魔界王の叫びを聞くまいとして、貴石の化身は耳を押さえ、 夫の胸に顔を埋めた。 「ダイアデムを責める資格が、お前にあるのか、タナトス。 弱いお前が悪いのだ、常々魔界では強さがすべてと言い、“闇の貴公子” などという称号を冠しながら、闇の力の何たるかを知ろうともしなかった、 不明を恥じるがいい。 おのれの心の闇に永遠に囚われたまま、ここで朽ち果ててゆくのが、お前に は似つかわしい」 サマエルの口調は、ひどく冷酷な響きを帯び……そうなったとき常である ように、声も表情も兄のタナトスに酷似していた。 第二王子の背信行為を目の当りにしたプロケルは、血も凍る思いでいた。 サマエルを、大人しく気弱な……と言って悪ければ、穏やかで優しい人柄と 思い、子供の頃から同情を寄せていた元魔界公爵は、それが自分の勝手な思い 込みだったと知って、愕然としたのだ。 しかし、この王子の不遇な生い立ちを割り引いて考えても、こんな裏切り 行為が、許されていいはずがなかった。 老公爵の射るような視線をまったく気に止めた様子もなく、サマエルは ニュクスのぐったりした体を抱き上げた。 「さて、こうしているのも時間の無駄だ、行くとしようか、魔界の玉座へ」 「ま、待て、ニュクスを返せ、貴様! くうっ!」 タナトスは弟を追いかけようとするも、闇との戦いに力を取られ、動くこと さえままならない。 プロケルは意を決し、主の代わりに、第二王子の行く手に立ちふさがった。 「行かせは致しません、サマエル様」 「なんだ、プロケル。ここに残りたいと言うのならば、止めはしないぞ。 主に殉教(じゅんきょう)するというのもまた、家臣としての誉(ほま)れだろ うからな」 「左様なことではございません、私利私欲のために兄君を罠にはめ、王座の 簒奪を目論(もくろ)むなど、左様な卑劣な方をおめおめと見過ごしたとあらば、 かつて公爵を拝命した身にとっては、一生の不覚……!」 「私に歯向かう、と?」 元公爵に向けたサマエルの表情や声は、いつもの穏やかで優しげなものに 戻っていた。 プロケルは、わずかばかりの罪悪感さえ持ち合わせていない彼の態度に、 怒りを募らせた。 「お目をお覚まし下され、サマエル殿下! 兄君様は、あなた様の真の心をお聞きになり、もはや過去のことは水に流す と仰せになって、お助けに参ったのですぞ!」 途端に、またも魔界の王子の表情は豹変し、優しい光を帯びていた紅い眼は、 闇の輝きに満たされた。 「ふっ、笑止。何が水に流す、だ。 こやつの方がよほど私や“焔の眸”に大して、ひどい行為を重ねてきたのだ ぞ、それに陛下と呼べと申しつけたはずだ! ──漆黒の深き闇の中より生まれ出で、昏(くら)き輝きを放つ凶(まが)つ 星よ。汝の凍れる焔もて、我に仇(あだ)なす敵を焼き尽くせ。 ──マレフィック!」 サマエルの手から地獄の業火が放射される。 「うわあっ!」 プロケルは、激しく燃え上がりながら部屋の向こうまで吹き飛び、壁にたた きつけられた。 「ふん、たかが公爵の、しかも引退した老いぼれの分際で、魔界の王たる我に 歯向かおうとは片腹痛い! だが、長年の忠誠に免じて命までは取らない、そこで大人しく、かつての主 が、無様に狂い死にする様を見ているがいい」 第二王子は冷たく言い捨てる。 「く、お、お逃げ下さい、タナトス様、うう……!」 すさまじい炎によって全身焼けただれてしまったプロケルは、うめき声を 漏らすのみで、起き上がることができない。 そんな彼に、サマエルは、恐ろしいほど優しい口調で言った。 「……逃げる? 誰から? 私は、直接タナトスに手を下すつもりはないよ、 こやつは、おのれ自身の心の闇にむしばまれ、自滅してゆくのだからね。 そうだ、はなむけに、ニュクスの姿も消滅させてあげるとしよう」 「ふ、ふざけるな、この変態! ニュクスに手を出してみろ、殺すぞ!」 タナトスの叫びも聞こえていない様子で、淡々とサマエルは続けた。 「これもたしかに美しいが、お前が創ったものだしねぇ。 まったく別の美しい姿を創って妃とすれば、“黯黒の眸”は完全に私のもの となり、お前のことなど、問われれば思い出す程度のものとなるだろうさ」 「──やめろっ、貴様ーっ!」 魔界王は吼(ほ)えた。 「う、ううん……」 そのとき、ニュクスが身動きし、ぱちりと眼を明けた。 「あ、サマエル。妾はどうしたのか……?」 「おやおや、眠ったまま、楽に死なせてやろうと思ったのに」 サマエルは肩をすくめた。 「えっ?」 けげんそうな顔のニュクスに、サマエルは指差してみせる。 「そら、タナトスはそこにいるよ」 「ああ」 「ニュクス、来るな、逃げろ!」 床にうずくまる魔界王は声を上げ、近づかないようにと手を振り回した。 「……タナトス?」 眼が覚めたばかりのニュクスは事態を把握できず、タナトスの方に歩きかけ る。 と、突如サマエルが後ろから、その華奢な首をつかんだ。 「な、何を……サマエル!?」 「見よ、タナトス、そして、おのれの無力を思い知るがいい! お前が闇の力に屈伏するように、“黯黒の眸”の化身もまた、我が力の前に 無惨に散り果てるのだ!」 能面のように冷たく取り澄ました顔のまま、サマエルは両手に力を込めて ゆく。 「やめろ──っ! 俺が憎いなら俺を殺せ、ニュクスに手を出すなっ!」 タナトスが絶叫すると同時に、ダイアデムが、必死の面持ちで夫の腕に取り すがった。 「ど、どうしたんだ、サマエル! いくらオレらが石だからって、タナトスが 憎いからって、ンなコトするの、いくらなんでもひでーよ、やめてくれ! “黯黒の眸”を放してくれよっ!」 第二王子の表情が動いたが、それも一瞬のことだった。 「すまないな、ダイアデム。だが、いくらお前の頼みでもこれだけは譲れない。 “黯黒の眸”に新しい体を授けた後は、こんな野蛮な真似は絶対にしないと 約束する。 今だけは好きなようにやらせてくれないか、この埋め合わせはきっとする から」 「埋め合わせなんていらねーよっ! 今すぐやめてくれっ!」 ダイアデムは涙目で叫ぶ。 「やめる気はないよ」 「ンなコト言わねーで、お願いだよぉ! サマエルってば!」 「何と言われても、ニュクスには消えてもらう」 「ど、どうしてもか!?」 「どうしてもだ」 ダイアデムがどれだけ懸命に食い下がっても、突き放したような冷たい返事 が返って来るばかり。 それどころか、第二王子の瞳には、暗い闇の炎が燃え上がり始めていた。 これ以上追いつめると、その力が爆発しかねない。 そうなってしまえば、ニュクスは無論、誰も助からないことを、“焔の眸” の化身ほど、よく知っている者はなかった。 彼の結晶面には、遥かなる過去、暴れ狂って世界を滅ぼしかけた“紅龍”の 禍々しい姿が、今も鮮明に記録されているのだから。 to be continued... ====================================================================== ◆ 後記 ◆ ---------------------------------------------------------------------- さんだつ【簒奪】 帝王の位、政治の実権などを奪い取ること。 さて、6はまた、サマエルがメインなんですが。 この人が出て来ると、途端に話がこんな風に(笑)。 ところで、昨日の朝からずっと雪が降り続いていて、もう30センチくらい 積もってます。 半端に温かいせいで、湿った重い雪なので、雪かきが大変。 まあ、家の前の道路は、大きな除雪機が何度も往復してくれてるので、前に いたところよりは、道も歩きやすくて助かってますけどね。 南の方からは、もう桜の便りが聞こえてきますが、ここら辺は、花粉症どこ ろか、春もまだまだ先、って感じです……。 ---------------------------------------------------------------------- アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪ ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK) m(_ _)m↓ http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507 ネット小説ランキングに参加中☆ ↓よろしければ、投票お願いします(お一人月一回です) m(_ _)m↓ http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon ---------------------------------------------------------------------- ■発行者 :流河 晶 ■マガジン名:紅龍の夢 ■マガジンID:0000131099 ■発行周期 :週刊 ◎バックナンバー: http://archive.mag2.com/0000131099/index.html ◎発行者Webサイト: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/ ◎ご意見・ご感想・連絡等はコチラ: http://www12.ocn.ne.jp/~tower/mailform.html ◎メルマガ配信中止はコチラ: http://www.mag2.com/m/0000131099.htm このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。 Copyright (C) 2004-2009 流河 晶 All rights reserved. ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。 ======================================================================


