紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

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2009/02/07

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第232号

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\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
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                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第232号

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      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第22回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 5.闇の誘惑(3)

 もみ合う彼らの間にプロケルが割って入り、言い諭(さと)す。
「まあまあ、お二方とも落ち着きなされ。
 タナトス様、お怒りはごもっともなれど、この場は一時、お納め下さいま
せんかな。激情に駆られて闇雲に行動なさっては、何事もうまくは運びません
ぞ」
「くっ……!」
 タナトスは、歯ぎしりをしながらもダイアデムを解放した。

「ですがダイアデム殿、サマエル様がどうされるおつもりなのか、お分かり
ならば、教え願えませんかな」
 下手に出られたダイアデムは、ようやく答える気になった。
「う〜ん、オレもよくは分かんねーけど……。
 ハッキリしてんのは、あいつがニュクスに危害を加えるつもりはねーって
ことくらいだなぁ」
「どうしてそんなことが分かる!
 あいつは、女と見れば見境のない、下劣なヤツだろうが!」
 魔界の王は吼(ほ)えた。

 少年は口をとがらせた。
「そりゃヤツの罪じゃねーよ、勝手に女の方から寄って来るんだし。
 あいつは“カオスの貴公子”、生きてる媚薬みたいなもんなんだから。
 それに考えてみろよ、このオレを置いてってことだけで、ニュクスは大丈夫
だって分かるだろ」
 タナトスは、眉間にしわを寄せた。
「何ゆえそれが、大丈夫だという理由になる!?」

「だってマジにサマエルが、ニュクスを手に入れようと思ったんなら、オレも
連れてったさ。
 お前が激怒して、オレをどうにかしようとするに決まってんだから。
 あいつが、そこまで考えねーはずねーだろ。
 だからさ、『自分を信じて待っていて欲しい』ってことなんだと思うぜ」
「では、なぜあの馬鹿は、そう言って行かんのだ!」

 ダイアデムは、可愛らしく小首をかしげた。
「そこが、オレも引っかかるトコなんだよなー。ちょいと聞いてみっか」
「何、それでは貴様は、あいつがどこにいるのか知っているのだな、言え、
ヤツはどこにいる!」
 再びタナトスは少年に詰め寄る。
「こん中」
 宝石の化身は、サマエルが置いて行った、巨大な水晶球を指差した。
 そこには、たった今魔界王が出てきたばかりの、地下迷宮の入り口が映って
いた。

「迷宮の中だと!? 何ゆえヤツはあんなところに!」
「だから、今それを聞いてみるんだ、少し黙ってろよ」
 ダイアデムが意識を集中させるのを、タナトスとプロケルは固唾を呑んで
見守った。
 静寂が辺りを支配した。

 長い長い沈黙が続き、タナトスの苛立ちが頂点に達しようとしたとき、少年
はいきなり頭を抱え、しゃがみ込んた。
「サマエルの馬鹿……!」
 涙が滑らかな頬を伝って滴り落ち、美しい深紅の宝石となって床に散らばる。
 滅多に見ることができない宝石を目の当たりにして、魔界の王族達は驚愕
した。
「一体どうした、ダイアデム!」
「ダイアデム殿、いかがされた、サマエル様は!?」

 二人が“焔の眸”の化身を揺さぶると、ダイアデムはうつむいたまま、
低い声で言った。
「見る勇気があるか……? タナトス。
 ……とてつもなく、嫌なものを見ることになるかもしんなくても……?」
「どういう意味だ?」
「サマエルが何をしてるか、これに映せるっつったら、見る気があるかって
聞いてんだよ!」
 ダイアデムは、水晶球を小さな拳で殴りつけた。

 それはまだ先ほどと同じく、迷宮の入り口を映し出しているだけだったが、
タナトスの胸の鼓動は激しくなり始めた。
「な、何をしているのだ、ヤツは……」
「……もう始めちまったかな……オレ、一人で見る勇気ねーや。
 お前が見るんなら、一緒に見てもいいけど、さ」
 彼のひどく落ち込んだ様子から、タナトスは、弟が自分の恋人にどんなこと
をしているか、分かってしまった気になった。

「──くそっ! 貴様は腹が立たないのか、サマエルに裏切られて!」
「……裏切る?」
 その紅い眼に、今にもあふれそうに涙をたたえたまま、ダイアデムは顔を
上げる。
 涙で一層美しさを増すはずの至宝の輝きが、裏切られた悲しみに曇っている
ように思えて、プロケルまでもが腹を立てた。
「そうではありませんか、あの方はあなたを捨てて、“黯黒の眸”殿に乗り
換えたのですぞ!
 ニュクス殿はたしかにお美しい、ですが、兄君様と奥方であるあなたを裏切
ってまで、手に入れようとなさるとは!」

 “焔の眸”の化身は、ぽかんと口を開けた。
「……何言ってんだ? おめーら……」
「まだあの方をかばうのですか、お話をなさったのでしょうに!」
「そうだ、場所を教えろ、直接行ってニュクスを取り返して来てやる!」
「え、だ、駄目だよ、邪魔しちゃ……」
「貴様は諦めがついているようだが、俺は許さんぞ! 今度こそ八つ裂きに
してくれるわ!」

 魔界王の剣幕に驚愕したダイアデムは、大慌てで立ち上がる。
「よせよぉ、タナトス、ンな馬鹿なこと!
 何勘違いしてんだ、今、サマエルは、お前らのために命賭けてんだぜ!」
 今度は、タナトスが眼を見開く番だった。
「何だと、命を賭けている? 一体ヤツは、何をしていると言うのだ!?」

 少年は眼を伏せる。
「あいつ……死ぬ気なんだ……うまくいく確率の方が低いのに……」
「何ぃ! どういうことだ、言え!」
「ダイアデム殿!」
 二人に促され、ダイアデムは重い口を開いた。
「……あのな、“黯黒の眸”は、ずっと力がない状態でいただろ? 長いこと
封印されてたし、この頃はどこも平和だしよ。
 ンなトコへ、タナトスが魔力をたくさん注入してやった。
 そんでサマエルは、闇の力すべてを取り込む、いい機会だと思ったみたい
なんだ」

「ちっ、見下げたヤツだ、さらに力が欲しかったと言うのか! あれほどの力
を持ちながら!」
 かつての主が大声を出すと、宝石の化身も負けじと叫び返した。
「違っげぇよ! まだ分かんねーのか、馬鹿!
 “黯黒の眸”が、お前に取り憑(つ)くのを防ぐためには、そーしなきゃなん
ねーんだよ! 
 ──ったく、少しは頭使えよな!
 ニュクスはお前が作った人格だから大丈夫だけど、“テネブレ”って厄介
もんがいるだろ!」

 思い出したくもない名を聞いて、タナトスは顔をしかめた。
「テネブレだと?
 俺はヤツとも一緒にいたことがあるが、別にどうということもなかったぞ」
「あったり前だろ、そんときゃまだ、魔法陣の中に封じられてたんだもん。
 けど、弱ってないときのテネブレは、どうしたって、血と殺戮(さつりく)、
憎悪と恐怖……それを欲しがっちまうんだ。
 それをオレとサマエル以上に知っている者はいねー。
 だからこそあいつは、テレブレを取り込もうって決めたんだ」

「それにしても、なぜだ? サマエルは俺を憎んでいるはず。
 “黯黒の眸”のため……貴様の兄弟のためにしても、なぜそこまでする必要
がある?」
 魔界の王は首をひねった。
「そりゃきっと……一瞬だけだ、ってゆってだけど、お前を、本気で殺そう
って考えちまったからじゃねーかな」
「ふん、迷宮に入るときか」
 タナトスは平然と答え、ダイアデムは眼を丸くした。
「お前、気づいてたのか?」

「ああ。迷宮に入ろうとした刹那、……いや、あいつと話をしていた時点で、
氷のような殺気を感じたぞ。
 もう、ここから生きて出られんかもしれんと、ふと思ったほどにな。
 だが、それも当然だろう、俺が貴様にした仕打ち……何より幼少の頃、俺が
あいつにしたことを考えれば、な。
 それより分からんのは、なぜ頭で考えただけで命を賭けねばならんのか、と
いうところだ。
 俺だとて、かつては常にサマエルを殺してやりたいと考えていた……それを、
あいつも知らんはずはあるまい」

 ダイアデムはかぶりを振った。
「いーや、サマエルはよ、お前が思ってるより、ずっと恩義感じてるんだぜ。
 オレの左眼と、そしてオレの憑代にするために“盲いた瞳”を渡してくれた
ことにさ。
 それに……“闇”に取り憑かれるのが、どんなに辛いかってことも知ってる
しな」
「ふん、あいつが俺に恩義だと?」

 疑わしそうに鼻を鳴らすタナトスに、ダイアデムはうなずいて見せた。
「ああ。昔の……ジルのこともあるし。きっとお前は根に持ってて、絶対渡し
てなんかくれないだろうって思ってたみたいでさ。
 ほんの気紛れだったとしても、とてもうれしかった、って感激してた」
 タナトスは肩をすくめた。
「……あいつに感激などされてもな。大体、ジルのことは仕方がないではない
か。いくら望んだところで、相手が受け入れてくれねば意味がない。
 しかしそれとて、もはや済んだこと。俺はそれほど執念深くはないぞ」

「でもサマエルはずっと、ホントはジルは、お前のことが好きだったのに、
自分が彼女の師匠だったから、言い出せなかったんじゃないかって、誤解して
たんだ。
 彼女はオレのことを予知してて、そんで魔族にならなかったんだけどな」
「貴様のこと? “焔の眸”がサマエルの伴侶になる、とでも?」
 少年はうなだれた。
「ああ。彼女がたった二百年しか生きられなかったのは、オレのせいさ……。
 でも、それを言ったらサマエルは、ジルは予知を無視することもできたはず
なんだから、気にするなって言ったんだ。
 それを選んだのは、彼女なんだからって……」

 タナトスは深くうなずいた。
「色々な意味で強い女性だったからな、ジルは」
「それによ、たしかにサマエルはガキの頃、魔界を憎んでた。
 お前や親父、“カオスの力”、“黯黒の眸”……魔界だけじゃなく、今現在
存在してるすべての世界をひっくるめてさ……。
 でも、大人になってから、色んなことが分かって来て、お前も被害者だった
ってことを知った。
 オレといるから、“黯黒の眸”のことも前より理解できるようになった……
なのに……まだ遠い昔の憎しみに囚われ、引きずられてる自分が情けなくて、
許せないみたいなんだ。 
 『これは自分が落とし前をつけなきゃならないことだから、手を出さないで
くれ』ってあいつは言ってるよ」
「むう、しかしだ……」

「左様、いかにサマエル様が“カオスの貴公子”であられても、左様な大事を、
お一人で試みられるのは無謀ではないのですかな?
 よもやということもあるのでございましょう?」
 プロケルが心配そうに言う。
「ああ、もし失敗したら……その可能性が高いんだけど……サマエルは死ぬ。
 でも、“黯黒の眸”は無事さ。ニュクスが消滅してたら、そんときゃ、お前
がまた体を創ってやればすむことだ」

 タナトスは眉をしかめた。
「気楽そうに言っているが、あいつが死んだら、貴様、どうするつもりだ」
「自己破壊するよ、オレも。もう呪縛は解かれたからな。
 ま、オレには魂なんかねーから、地獄の底まで付き合ってやるこたできねー
けど。あいつがいない世界なんかにゃ、未練はねーし」

(ちっ、こいつらは、いつもこうだ。
 大して努力もせず、すぐ生きることを諦めたがる。皆がうらやむ美しさと、
能力を持ち合わせていながら。
 ニュクスが、このたわけ者どもに感化されんように気をつけねば)
 タナトスは、心の中で舌打ちした。

                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 ここら辺は、もうちょっと後のところまで書いて、ほっぽって最終巻書き
始めちゃったんですよね〜実は(汗)。
 どうまとめつけたらいいか、そのときは全然考えつかなくて。
 でも、改めて書き足していくと、そのときには見えなかったものが色々見え
て来ました。
 そういや、最終巻に行く前に、書かなきゃいけないことがあるじゃん!
 とか気づいた(遅っ)ところを、これから連載していきますのでよろしく(笑)。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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