紅龍の夢  RSSを登録する

追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一~五/完結、HP掲載。巻の六「死の花嫁」配信中!

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2009/01/24

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第230号

≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫
*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:

\ \\☆   
\ \ \\    ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
\ ★ \ 


                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第230号

*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:*・゜*.。.:
≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≫≪≫≪≫≪≫

      □ 巻の六

         ── 死の花嫁 / The Bride of Death ──

       ◇第20回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 5.闇の誘惑(1)

 得体が知れない不気味な怪物の彫像が、カッと開けている。
 その巨大な口こそが、地下迷宮の門だった。
 人の身長の二倍はあろうかというほどの高さ。無数に生えた牙から、まるで
涎(よだれ)のように、冷たい雫がぽたぽたと垂れてくる。
 タナトスはその口をくぐり、ついに迷宮に足を踏み入れた。

 夜目の利く魔族、その長である彼の視力をもってしても、底を見通すことが
できな深い闇が、どこまでも目の前に広がっている。
 太古からある天然の地形とも、強大な魔力を持った者により、ただの一夜に
して創り上げられたとも言われる、この暗黒の地下迷宮には、一巻きの地図
さえ存在しない。
 汎魔殿の地下深く、縦横無尽にトンネルが伸び、どこでどうつながっている
のか、正確に知っている者は、生者の中にはもはやいないのだった。

 タナトスは大きく息を吸い込み、無限の闇に向かって呼びかけた。
「──ニュクス……ニュクス! どこにいる、出て来てくれ!
 事情は“焔の眸”から聞いた、俺は、そんなことはまったく気にせん!
 それゆえ、帰って来てくれ!」
 しかし応えはなく、返ってくるのは虚ろな木霊(こだま)ばかりだった。
 いくら“黯黒の眸”が、気配を消す術には長けているとはいえ、迷宮の中に
入れば多少なりとも……せめてあの貴石の存在の片鱗くらいならば、感じられ
るのではないかという彼の淡い期待は、完全に裏切られた。

 (──くそっ、自分自身の愚かさ加減には、まったく愛想が尽きるな!
 自分を偽らずにいれば、こんなことにはならなかったのだ。
 ニュクスも俺を恐れたりせずに、何があろうとダイアデム同様、打ち明けて
くれたろうに!
 考えてみると、逃げていたのは俺の方だったのか……)

 タナトスはおのれを責めた。
 目前には依然として、冥界に通じていると密かに噂されるほど入り組んで
いる、果てさえ見えない暗闇。
 恋しい相手のためとは言え、その中を、あてもなく進んで行かねばならない。
 そう思うと、タナトスにしては珍しく、暗澹(あんたん)たる考えにのめり
込んで行きそうだった。

 無論サマエルは、そのことも考慮に入れて兄を一人で行かせたのだったが。
 彼は考えていた。
 “黯黒の眸”は、暗い思考に反応しやすい。
 あの単純なタナトスが、珍しくも負の思考に囚われている今なら、彼女も
それに引き寄せられ、戻っても来やすいだろう。
 その後、もし仮に兄が意識を乗っ取られるようなことがあったとしても、
代々の魔界王が施してきた強力な封印を破るのはたやすいことではない。
 それに、あのタナトスが、長い間取り憑かれているとは考えにくかった。
 すぐに兄はおのれを取り戻すはずで、それを待てばいいのだ。

(だが、もし万一、タナトスが“黯黒の眸”の呪縛から逃れられないときは、
情けは無用だ。
 こともあろうに、現役の魔界王が臣下に操られたなどと知れたら最後、デー
モン王達を始め、家臣達は、もはや魔界王家には従うまい。
 最悪の場合、口封じのため、プロケルにも気の毒だが消えてもらうしかない。
そう……名目は二人一緒に、転地療養ということにでもしておこうか)

 そう考えているうち、彼は、黔龍がいなくなるのは、魔界にとっては痛手
だということに気づいた。
 四龍がそろわなければ、魔族の戦いに勝利はないのだから。

(ふむ、ではぜひとも“兄上”には、ニュクスの説得に成功してもらわなけれ
ばならないというわけだな……)
 かつて、魔界一の策士と呼ばれた“カオスの貴公子”サマエルは、そんな風
に、様々な可能性を視野に入れ考えを巡らせていたのだ。

 並の者には決して窺(うかが)い知ることができない、フードの奥に隠された
第二王子の素顔をかいま見ることができたのは、妻である“焔の眸”の化身、
ダイアデムだけだった。

 サマエルは、その唇に浮かぶ温かい笑みで、いつもは優しい印象を人に与え
ている。
 しかし今、フードの陰の緋色の眼は少しも笑ってはいなかった。
 こんな時のサマエルにダイアデムは怯え、逃げ出したくなってしまう。
 と同時に、ひどく惹きつけられもするのだった。

 サマエルもまた、こういうときの自分にダイアデムが戸惑うのを知っており、
なるべく見せないよう心がけてはいた。
 が、自分が少し距離をおくと、かえって彼の方から近づいてきてくれること
が多いとも感じていて……それでわざと、冷たく取り澄ました顔を見せてみる
こともあった。
 それでも、今回はサマエルにも、そこまでできるほどの心の余裕はなかった。

 彼はパチンと指を鳴らし、愛用の、一抱えもある巨大な水晶球を呼び出して、
それを覗き込んだ。
「……ふうん、まだ出て来ないとはね。私が思っていたよりも、ニュクスは
タナトスのことを大切に思っているらしい、これは意外な展開だな……。
 それとも、彼女を創ったとき、タナトスはよほど、孤独を噛み締めていた
のだろうか?
 もしかしたら、他の誰をさて置いても自分を大事に思ってくれるように、
思いを込めてニュクスを創ったのかも知れない……あいつのことだ、無意識に
だろうけれどね」

 ダイアデムは、ぽりぽりと頭をかいた。
「そうかもしんねーけどさ……覗きかぁ? そーゆーのって、趣味じゃねーん
だけどな……」
 サマエルは微笑んだ。
「大丈夫、こちらの声は届かないようにしてある、あいつに、覗いていること
を悟られる心配はないさ」

「たしかにプライバシーの侵害ではありますが、この際は致し方ございません
でしょうな。
 まかり間違ってタナトス様が取り憑かれ、操られてしまうようなことにでも
なれば、それこそ一大事になりますぞ」
「ま、そりゃそーだ」
 自分達の声は向こうには聞こえないと分かっていながら、プロケルとダイア
デムの声は知らず知らずに低くなる。
 三人は、息を殺して水晶球に意識を集中した。

 魔族の王の力をもってしても、“黯黒の眸”の気配を探り出すのは難しい。
 タナトスは、いくつも枝分かれした通路の選択に苦慮していた。
(ちぃっ、サマエルめ、“黯黒の眸”の“気”など、まったく視(み)えんでは
ないか……!
 くそっ、何ゆえ、魔界王たる俺がいつまでも、こんな辛気(しんき)臭い穴蔵
に、突っ立っておらなければならんのだ!
 ──こうなったら、あいつが自分から出てくるように仕向けてやる!)

「ニュクス! “黯黒の眸”よ、出て来い!
 ──聞け! 貴様は空腹なのだろう、俺が魔力を分けてやる!
 そうすれば、誰かに取り憑いて闇の感情を吸い取る必要など、もはやなく
なるのだ!
 現にサマエルはそうやって“焔の眸”から魔力を与えられている、あいつは
もう、女の精気を吸わずにすむようになっているのだぞ!」

 気を高めてそう叫んだ後、タナトスは待ちの姿勢に入った。
「……遅い! “黯黒の眸”よ、出て来い! ニュクス!」
 しかし短気な彼はそう長くは待てず、すぐにまた叫び始めた。
 彼が大声を出すたびに、紅い魔力が勢いよく体からほとばしる。
 闇に棲(す)む者にとって、強大な魔界王の魔力は、暗闇で弾ける火花の輝き
も同様で、当然“黯黒の眸”もまた、それに惹きつけられるはずだった。

 だが……。
 いくらタナトスが気を高めて呼びかけても、“黯黒の眸”は、一向に姿を
現そうとはしなかった。
「──はぁ、はぁ……く、くそっ、サ、サマエルめ……!
 す、すぐ出てくるなどと、いい加減なことをほざきおって……!
 ──ウッ、ゲホ、ゲホッ……くっ、戻ったら八つ裂きにしてやる!
 くそぉ、もう堪忍袋の緒が切れたぞ、出て来んのなら、それでいい!
 “黯黒の眸”め、貴様ごと迷宮を破壊し尽くしてやる──!」

 激しい怒りと共に魔力が放出されて真紅の渦となり、タナトスの体を取り
巻いてゆく。
 彼の怒りに、迷宮を覆っている結界が同調し、みしみしときしみ出した。
「あーあ……ついにキレちまった、もー、後先考えてないぜ、あのバカ。
 どーするよ、サマエル」
 あきれて振り返るダイアデムを、サマエルが制す。
「──お待ち。来たよ」
「おお、参りましたか」
「やっとかよ」
 元・魔界公と宝石の化身は、急いで水晶球に目を凝らす。

「魔界王よ、この地下迷宮を破壊すれば、上階部の汎魔殿も無事ではすむまい
ぞ」
 聞き覚えのある気配と声に、透明な水晶球の中に映し出されたタナトスの姿
がさっと振り向く。
 黒ずくめの美しい女が、闇の中から湧き出たようにそこに立っていた。

「き──貴様が、すぐに出て来ないからだっ!」
 しかし、緋色の眼を燃え上がらせ、荒い息遣いをしたタナトスの鋭い語気は、
ニュクスを怯えさせた。
「……っ!」
 声なき叫びを上げて、美女が身を退く。
 思わずダイアデムは、自分の額をぴしゃりとたたいた。
「あのバカ! せっかくニュクスが出て来たってのに……ったく、声くれー、
も少し優しくかけらんねーのかよ!」

 案の定、震え上がったニュクスは、再び闇に溶け込んでいこうとする。
 タナトスはその手をわしづかみし、力任せに引き寄せた。
「どこに行く気だ、ニュクス」
「離せ、タナトス。妾(わらわ)は咎人(とがびと)、魔界の王たるそなたの元に
いる資格など……」
「咎や資格などと四の五のほざくな!
 そんなことはどうでもいい、俺はお前を愛している、もうどこにも行かせん。
 お前は俺のものだ!」
 そう言うとタナトスは、荒っぽくニュクスに口づけた。

「ひょー、やったね!」
 ダイアデムは、パチンと指を鳴らす。
 サマエルは、取り立てて表情を変えなかった。
「……いや、これでようやく第一段階突破、というところだ。
 だがまあ、すぐ引っ張り出すのも気がひけるし、少し二人切りにしておいて
あげようか?」
「いーや、エサのやり過ぎが心配だ、あいつに恨まれてもいーからすぐ戻した
方がいい!」
 ダイアデムはきっぱりと言い切った。

 プロケルは、心の底からほっとしたように、深々と頭を下げる。
「お二方には、お礼の言葉もございません。
 ならばそれがしが、タナトス様にお声をおかけ致しましょう。
 なに、この年寄りが多少恨まれたところで、老い先短い身ですからな」
「よし、任せた!」
「そうか、助かるよ」

“タナトス様、即刻お出まし願います!”
“何だと、プロケル、貴様!”
 プロケルは、魔界王の抗議も怒りも意に介さず、強引に迷宮から引っ張り
出した。

                                    to be continued...

======================================================================

     ◆ 後記 ◆

----------------------------------------------------------------------

 <お知らせ>
 お待たせしてすみません、番外編BLUE MOON(15)をUPしました。
 ホントはこれ、お正月に一週休んだ時に書いてUPする予定だったんですが、
あのウイルス騒ぎでごたごたして、遅くなってしまいました。
 でも、大した被害がなくてよかったです。あのまま駆除できなかったら、HP
の閉鎖も考えなきゃ……とか思ったりもしてましたからね。
 ともかく、番外編はあと1〜2回で終わる予定でいます。

----------------------------------------------------------------------

 アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪
 ↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK)
   m(_ _)m↓
 http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015
 http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507

 ネット小説ランキングに参加中☆
  ↓よろしければ、投票お願いします(お一人月一回です)
   m(_ _)m↓
 http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon

----------------------------------------------------------------------

 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

 ◎バックナンバー:
 http://archive.mag2.com/0000131099/index.html
 ◎発行者Webサイト:
 http://www12.ocn.ne.jp/~tower/
 ◎ご意見・ご感想・連絡等はコチラ:
 http://www12.ocn.ne.jp/~tower/mailform.html 
 ◎メルマガ配信中止はコチラ:
 http://www.mag2.com/m/0000131099.htm

 このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」
 http://www.mag2.com/を利用して発行しています。

 Copyright (C) 2004-2009  流河 晶  All rights reserved.
 ※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。

======================================================================
最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る