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追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一〜四/完結、HP掲載。巻の五/緑柱石の記憶/配信中!

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2008/06/28

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第203号

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     ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説


                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第203号

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      □ 巻の五

      ── 緑柱石(エメラルド)の記憶/The Memory of Emerald ──

       ◇第37回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 10.緑柱石の貴婦人(2)

 何が起こったか分からず、あたふたしていた僕は、ようやく光が消えて、
タィフィンの姿が再び現れたとき、息が止まりそうになった。
「あっ、タ、タィフィン、キミ、か、顔がっ!?」

「──顔!? わたくしの顔が、どうかしたのですか?」
 彼女は、自分の頬に両手を当てた。
「ちょ、ちょっと待って、タィフィン。
 ……た、たしかここに……あった。
 とにかく、これで見てごらんよ。キミ、ものすごく変わっちゃってるから」
 僕は、机の引き出しを探って見つけ出した手鏡を、彼女に渡した。

「え、わたくしの、何が変わったと仰るのですか?」
 タィフィンは、きょとんとした顔で鏡を受け取る。
「きゃっ!?」
 顔が映った途端、彼女は小さく悲鳴を上げ、鏡を落とした。
 それから大慌てで拾い上げ、もう一度覗き込む。

「な、何、これ……一体、誰?
 ……も、もしかして、わたくしなの……!?
 う、嘘……!」
 しばらくの間タィフィンは、鏡を見ながら頬っぺたをなでたり引っ張ったり、
ピタピタたたいたりしていた。

「あのね、タィフィン、変わったのは顔だけじゃないんだよ。
 でっかい鏡に、体全部映してみたら?」
「えっ、まさか……体もですか!?
 ──カンジュア!」
 彼女は大急ぎで呪文を唱え、大きな鏡を呼び出した。

 髪は白く、結い方も地味……そこは変わらない。
 でも、顔中にあったしわや染みは全部消えているし、曲がっていた腰はしゃ
んと伸びて少し背が高くなり、ローブから見えている手の指も、すべすべに
なっている。
 その背中には、妖精のような透明な羽が虹色に輝いていた。
 鏡に映っているのは、さっきまでの、よぼよぼのおばあさんじゃなかった。
 美人とまではいかないけど、そこそこ可愛い、十代の女の子だったんだ。

 自分の顔、そして全身をよくよく眺め、やっと納得が行くと、タィフィンの
黒い瞳が喜びに輝いて、涙があふれ出した。
「わたくしに掛けられていた呪縛……天使の呪いが、ついに解けたのですね…
…ああ、シュネ様!」
「──わっ……!?」
 いきなり抱きつかれて、僕は尻もちをついた。
「ありがとうございます、ありがとうございます、シュネ様……!
 わあああん……!」
 タィフィンは僕に抱きついたまま、大声で泣き出した。

「よかったね、タィフィン……よかった……」
 彼女の涙につられて、僕の眼からも涙が流れていく。
 そのとき、サマエル様の心の声が、優しく語りかけてきた。
“それがキミの力だ……破壊や死をもたらすだけではなく、上手に導くことが
できれば、そんな風に人を幸せにすることもできるのだよ”
「ホ、ホントに人を幸せに……? 僕の力で……?」
“そうだよ、キミの力でだ”

 サマエル様と話している僕を、タィフィンがうっとりと見つめていた。
「素晴らしいお力ですわ……さすがは“レディ・オヴ・ベリル”様……」
「え、何、それ?」
 僕が首をかしげると、サマエル様が教えてくれた。
“『エメラルドの貴婦人』と言う意味だよ。
 魔界ではよく、そういう称号をつけて人を呼ぶのだ。
 キミの力は、エメラルド色の龍の姿をしているからね”

「たしかに、僕の力が暴れるとき、緑色の龍みたいに見えるけど……貴婦人、
なんてガラじゃないですよ、サマエル様……」
“そんなことはないさ。だが、無理は禁物だ、もうお休み、シュネ。
 タィフィンの呪いを解くために、かなりの魔力を使ったはずだからね。
 明日の朝、私の部屋に来てくれないか?
 渡したいものがあるから”
「はい、分かりました。お休みなさい」
“お休み”

 サマエル様と話し終わると、タィフィンは立ち上がり、僕に向かって、うや
うやしくお辞儀をした。
「レディ・ベリル様、改めてお礼申し上げます。
 このご恩は一生忘れません、ありがとうございました!」
「べ、別に……僕はただ、キミが十七歳で、普通の……そう、人間の女の子
だったら、どんな風かなーって、勝手に想像したら、なんか勝手に魔法が発動
しちゃって、たまたまそれがうまくいっただけだから……。
 そ、それに、その言い方はやめてよ。『ベリル』って僕の本名だし、そう
呼ばれるの、好きじゃないんだ、悪いけど」

「それは存じませんで、失礼致しました、申し訳ありません、シュネ様……」
 タィフィンは、またていねいに頭を下げた。
「そ、そんなに気にしなくていいよ、やめてくれれば」
「ですが、重ねてお礼は申し上げさせて頂きます、ありがとうございました!
 わたくしが欲しかったのはまさしく、普通の少女の姿だったのです!
 うれしくてうれしくて一晩中鏡の前で踊っていたいほどですわ……なんて
素晴らしいのでしょう……!
 今日ほど、生きていてよかったと思えた日は、ございませんわ……!」
 彼女は涙ぐんだ。

「そっか。とにかく、よかったね、ホントに」
 僕のまぐれが、こんなに喜んでもらえるなんて。
 タィフィンの喜びにあふれる心が伝わってきて、僕は久しぶりに、とっても
ハッピーな気分になれた。
 その後も、彼女は何度も鏡を覗き込んだり、しわが消えたのを触って確かめ
たりしてはうれしそうにしていた。
 けど、しばらくして、僕がにこにこしながら見ているのに気づくと、ぽっと
顔を紅くした。

「す、すみません、一人ではしゃいでしまいまして。
 シュネ様、お疲れでしょう、今日は本当に、もうお休みになられた方がよろ
しいですよ」
「うん。あ、ホントだ……もう、体に力が入らないや……」
 気づいたら、疲れ切っていて、立っているのもやっとだった。
「大丈夫ですか、シュネ様」
 そんな僕の手を取り、タィフィンがベッドまで連れて行ってくれた。

 布団をかけてもらって、ほっとした途端、僕は気づいた。
「あ、そういえば、サマエル様に、話し合いがどうなったのか、聞くの忘れ
ちゃったな……」
 でも、さっき、念話したとき、サマエル様は、何となく幸せそうだった。
 そうだ、いつもよりも声が弾んでいた。
 きっと、うまく行ったんじゃないだろうか。

 でも、僕とサマエル様の会話の内容を知らないタィフィンは言った。
「昔から“焔の眸”様は、王権の象徴であると同時に、不吉の象徴とも言われ
ていまして。
 『不必要に関われば、魔界の統治者にさえ不幸が降りかかる』とも言い伝え
られてきました……。
 そういうこともあって、ダイアデム様は、お館様とも距離を置こうとなさっ
ているのではないでしょうか……」

「ふうん、そうなの……でも、少しだけなら分かる気がするな……。
 僕もついさっきまでは、自分を……おぞましい、バケモノみたいに感じてた
から……」
「シュネ様、そんな……」
 黒い瞳を翳(かげ)らせるタィフィンに、僕はにっこり微笑みかけた。
「ああ、今は違うよ。キミのお陰だ、ありがとう、タィフィン」
「え? わたくしが、何を致しましたのでしょうか?」
 タィフィンは眼を見開いた。

「キミが、僕のまぐれを、とっても喜んでくれたからだよ。
 この力を使って、ただ壊すことだけじゃなく、人に喜んでもらえるような
こともできるなら、僕の生きてる意味も少しはあるかな……って、思えてきた
のさ」
 僕は元々単純なせいか、喜びに眼を輝かせて、僕を崇拝の眼差しで見てる
タィフィンのお陰で、立ち直りのきっかけをつかむことができたんだ。
 僕の言葉に、彼女は、にっこりした。
 とても可愛らしい笑顔だった。
「お役に立てて光栄でございます。
 ほんの少しでも、ご恩返しになったでしょうか?」

「うん、とっても役に立ったよ。
 それにさ、さっき話したとき、サマエル様の声、とっても明るかったんだ。
 きっと、ダイアデムと仲直りできたんだよ」
「まあ、そうですか、よかった!
 でも、もうお休み下さいませ、明日は、もっともっと素敵な日になりそうな
予感がしますわ」
 彼女は、眼をキラキラさせてる。
「うん、そうだね……きっと……すごく、いい……日……」
 その眼に吸い込まれるように、いつの間にか僕は眠り込んでいた。
 とても安らかな眠りに。
 それまで毎日見ていた悪夢は、今夜は訪れては来なかった。

        *        *        *

 次の日、僕はかなり早くに眼が覚めた。
 起きてみると、まだちょっとふらつく感じが残ってる。
 昨日はやっぱり、思っていた以上に魔力を使ったみたいだった。
 なるべくゆっくりとベッドから降りたんだけど、やっぱり頭がふらふらする。
 タィフィンを呼び出そうとして、僕は思い留まった。
 昨夜のあの様子じゃ、彼女は夜遅くまでずっと、鏡を覗いていたに決まって
いる……僕なら絶対、そうするもの。
 そしたら、当然、まだぐっすり眠ってるはず。起こすのは可哀想だ。
 
 あ、そういえば、サマエル様に呼ばれてたんだっけ……でも、この時間じゃ、
彼もまだ寝てるな、きっと。
 久しぶりに会うんだし、顔くらい洗いたいな……そう思ったけど、この調子
からいくと、魔力はまだ戻ってないみたいだった。
 無理をしないことにして、僕はそろそろと壁を伝いながら、バスルームに
向かった。
 ありがたいことに、ドアにたどり着いた頃には、ふらつきは治まっていた。
 頭を振ってみたけど、もう何ともない。僕は胸をなで下ろした。

「よかった。あ、じゃあまだ時間も早いし、ついでにお風呂入ろっと」
 ここんところ体力がなくて、魔法で綺麗にしてもらっていたから、たまには
入浴してさっぱりしたかったんだ。
「──やっほう!」
 裸になって豪華な湯船に飛び込むと、水しぶきが上がり、湯気がもうもうと
上がる。

 僕は、湯船の中をばしゃばしゃ泳いだ。
 ちょっとお行儀が悪いけど、誰も見てないし、構わないよね。
 でも、はしゃいでばかりもいられないし、のぼせちゃう。
 僕は掛け流しの温泉にゆったりと漬かり、生き返った気分になった。

「……あれ……?」
 湯船から上がり、体を洗い始めたとき、僕は左肩に、紅い痣(あざ)が戻って
きていることに気づいた。
 でもそれは、幼い頃見慣れていた痣とはまるっきり形が変わってしまって、
燃え上がる炎のような形になっていたんだ。

「前はこんな形じゃなかったのに、なんで……あ!?」
 目線を下ろしたとき、僕はまた、はっとした。
「む、胸……が」
 触ってみたら、やっぱりある。
 昨日までぺったんこだったのに、かなり大きくなってるみたい……って、
これは一体、どういうことなんだろう。

「な、なんか変だぞ、僕の体。何が起きてるんだ!?」
 大急ぎでお湯をかぶって石けんを洗い流し、裸のまま、僕は脱衣所の鏡に
突進する。
「──な、なんだよ、これぇ……!?」
 そこに映ってるものを見た僕は、思わず絶叫してしまった。
 ほっぺたをつねってみたけど、夢じゃない。
「ぼ、僕、い、一体全体、どうなっちゃったんだあ……!?」
 自分の眼が信じられず、僕は頭を抱えた。
 僕の体は、何から何まで……それこそ劇的に変化してしまっていたんだ。


                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 番外編 Blue MOON(12)をUPしました。
 ずいぶん間が開いてしまって、済みませんでした
 ホントは(3)くらいのところで、このエピソードを解決して、二人はお山に
帰る予定だったんですけどね。
 話が浮かぶままに色々書いていたら、こんなに長くなっちゃいました……
まだ続きそうです(汗)。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
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