ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第197号
☆☆∞∽∽∞∞∞∽∽∽∞∽…‥・・☆・・‥…∽∽∞∽∞∽∽∞∽∽∞☆☆
.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜ .:*・゜.:*・゜.:
┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説
┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢
┃第197号
.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜.:*・゜ .:*・゜.:*・゜.:
☆☆∞∽∽∞∞∞∽∽∽∞∽…‥・・☆・・‥…∽∽∞∽∞∽∽∞∽∽∞☆☆
□ 巻の五
── 緑柱石(エメラルド)の記憶/The Memory of Emerald ──
◇第31回
*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……
8.夜の宝石(1)
廊下に出ると、ダイアデムは頭の後ろで手を組み、ため息をついた。
「……やれやれ、あんなおチビちゃんに心配されてちゃ、世話ねーぜ」
サマエルはうなだれた。
「本当にそうだね。
だが、いけないのは私だ。いつもお前を苦しめてしまうばかりで……」
途端にダイアデムは瞳の炎を強く燃え上がらせ、サマエルを怒鳴りつけた。
「何言ってやがる、てめーが苦しめたのはオレじゃなくて、シュネだろが!
かあいそうな女の子まで巻き込んで、あんなに泣かせやがって!
──大体な! てめーらが二人揃って死んでるトコ見て、オレがどんな気分
になるか、考えてみなかったのかよ!
──この、大バカ野郎が!」
宝石の化身が発した言葉は、鋭い刃も同然にサマエルの心に突き刺さったが、
彼にできるのは詫びることだけだった。
「済まない、すべて私が悪いのだ……」
そんな王子の態度に、ダイアデムは余計に苛立った。
「マジうぜーんだよ、大体、祭りの時だって、最初っから行くなって言やあ
よかったじゃねーか!
そしたらずっとお前の隣にいて、ノドでも鳴らしながら、お前のご機嫌取っ
てたさ!
好きにしていいって許可したくせに、後でなんだかんだ言われたらよぉ──
オレ、頭がこんがらがっちまうぜ!」
少年は紅い髪をかきむしった。
するとサマエルの瞳に、暗く影が差した。
「……あの時は、お前の落胆した顔を見たくなかったのだよ。
駄目と言ったりしたら、ますます嫌われてしまいそうで、言えなかった……。
長い夜だったよ……誰と何をしたかもよく覚えていないほど、辛く、心の
痛む晩だった……。
そして……約束の朝になっても、お前は帰って来てはくれず……。
ついに見放されたのだと……恐れていた通りになってしまったと思い……
覚悟していたはずなのに、悲しくて苦しくて、胸が張り裂けそうになって……。
だからお前が戻って来てくれたときは、それはもう、うれしくて……けれど
私は、半ば正気を失ってしまっていたから、お前がすぐまた去ってしまいそう
な気がして……だからつい、言うつもりがなかったことまで……」
「──黙れよ、バカ!」
荒々しく彼の話をさえぎり、ダイアデムは足を踏み鳴らした。
「ほんのちょっと遅れたくれーで、何でうだうだ言うんだ、ちゃんと帰って
来たじゃねーか!
大体、オレらがいつ、お前を見放したりしたんだよ!
それができたら……それができねーから……ええい、くそったれ!」
少年はくるりと背を向け、駆け出した。
「あ、待っ……」
追いかけようとしたサマエルは、不意にめまいを感じた。
とっさに壁に手をついたものの、支え切れずに、ずるずると床に倒れ込んで
しまう。
「う……!?」
短剣を呼び出す呪文を唱えようとしたが声が出ず、彼はようやく、自分の
魔力が底を尽いていることに思い至った。
(短剣で目玉をくり抜いてしまえば、彼が私を置き去りに、去っていく姿を
見なくて済むと思ったのに。
どうせ、数週間もすれば生えて来るのだから……ああ、ダイアデム……)
呼び止めることも、眼を逸(そ)らすこともできずにいるうち、宝石の化身の
後姿は、みるみる小さくなってゆく。
(“焔の眸”は魔界の至宝、本来ならば今も魔界にいて皆に崇(あがめ)められ、
宝物庫で静かに眠っていられたはずなのだ。
なのに、選択の余地もなくこんなところまで連れて来られ、さらには私の
ような狂人と嫌々暮らなければならない……。
ダイアデムは、そんな自分の不運を日夜嘆いて、私を避けているに違いない
……。
関わる者に、悲しみと苦痛、不幸をもたらす……こんな私がなぜ、生まれて
きてしまったのだろう……)
悲しみのどん底で、サマエルは身を震わせた。
彼の魔力が底をついた理由……それは、ワルプルギスの翌日、力が暴発して
倒れたシュネに分け与えたのを皮切りに、今まで食事も精気も補うことなく、
力を使い続けていたためだった。
まずはシュネ。彼女の命を救うためには、一刻の猶予もなく、魔力を補給
しなければならなかった。
それから、大急ぎでシンハの治療に取り掛かった。
シュネには気絶しただけのように言ったが、実際にはかなり重傷だったのだ。
彼女に分けたばかりでなく、前日には広大な砂漠に結界を張り、河童を蘇生
などしたせいで元から魔力はさほど残ってはおらず、治療は容易ではなかった
が、サマエルは必死の思いでやり遂げた。
しかし、ほっとする間もなく、せっかく助けたシュネは自殺を図り、いくら
慰めても生きることを拒絶し、苦しむばかり。
日頃から死こそが最上の安らぎと考えている彼は、それならばと、一緒に
死のうとした。
これで救われるはずだった、二人共。
なのに、土壇場でシュネは死を拒み、今また“焔の眸”も去って行き……
すべてから見放されたと思った瞬間、気力が尽きてサマエルは倒れたのだ。
先ほどシュネを操った際に、わずかに残っていた魔力を使い果たした彼は、
本当ならこの時点で、死んでいたはずだった。
だが、彼の中に封じられた巨大な力、“紅龍”が、宿主である彼を、簡単に
は逝(い)かせてくれない。
(もう眠るしかない……目覚めていれば、また誰かを不幸にしてしまう。
どうせダイアデムも、再び地下で眠りについている頃だ。
ここで倒れている私を見つけたら、タィフィンが気を利かせて、私を彼の隣
に運んでくれるだろう。
それに眠るだけなら、シュネとの約束も破ったことにはならない……。
私と違って彼女は強い、必ず立ち直り、光の中を歩んで行ける、一人でも
……)
眼がかすんでいき、意識が遠のく。
(百年でも千年でも、いいや永遠に、“焔の眸”の隣で眠り続けよう……。
せめて……それくらいの望みなら、こんな私にも許されるだろうか……)
祈りを込めて、彼がまぶたを閉じたとき。
「──おい、どしたんだ? サマエル、大丈夫かよ」
澄んだ声が、突然、頭上から降って来た。
やっとの思いで、サマエルは眼を明ける。
いつの間にか宝石の化身が引き返して来た……ようだったが、光を失った彼
の瞳には何も映らない。
「っ、うう……」
答えようとしても、うめき声しか出せず、まぶた以外はまったく動かすこと
ができなかった。
「……なんだよ、お前、声も出ねーくらい弱ってたのか?
追っかけて来ねーから変だと思った……ったく、そんなになるまで無理しや
がって。
せっかくのべっぴんが台無しだぜ、おでこに傷はつけるしよ。
けど、治療よか魔力の補充が先だな」
ダイアデムは優しく王子の頭を抱えて、自分の膝に乗せた。
「そら、飲めよ」
信じられない思いでいるサマエルの胸に、少年は掌をあてがい、濃厚な精気
を送り込む。
「あ……ああ……」
心の準備もないままに、突如、全身が痺(しび)れるような恍惚(こうこつ)感
に襲われ、サマエルはあえいだ。
雲間から日差しが射しそめるかのごとく、白蝋(はくろう)のようだった肌に
はみるみる血の気が通い、虚ろだった瞳にも光が戻る。
今、彼が体感しているのは、眼も眩(くら)む悦楽の境地だった。
絶世の美女に抱擁され、その柔肌から伝わって来る熱い体温を感じながら、
甘く芳醇(ほうじゅん)な極上の蜜酒を口移しで飲まされているような感覚、と
でも言えば分かりやすいだろうか。
以前、兄タナトスに精気を与えられたときは、度数の高い酒を力ずくで大量
に流し込まれるに等しい不快感を味わったものだが、それと今回の感覚とでは
天国と地獄ほども開きがあった。
魔界にいた頃、叔母イシュタルから精気をもらうのは、とても気持ちがよか
った。
しかしこれはそれ以上……今まで経験したこともない快感、としか呼びよう
がなかった。
「あ、あぁあ……」
彼は無我夢中で、魔界の至宝から与えられるアムリタ(甘露=かんろ)の極上
の味わいを、貪(むさぼ)り続けた。
そんなサマエルの様子を楽しむように、宝石の少年は、にっと笑った。
「どうだ、なかなかイケるだろ?」
体中がとろけるような陶酔のさなか、サマエルは思考をかき集め、どうにか
感想を口にした。
「あ、あ、す、ごい……こ、の世の、物とは、思えない、ほどの……」
夢魔の王子であるサマエルを媚薬(びやく)と言うならば、“焔の眸”は、
麻薬に例えられるだろう。
魔力の弱い者ほど身も心も奪われ、溺れ込んだあげく狂死してしまう者も
出たほどだったのだ。
『“眸”にのめり込む者は破滅する』、そう言われる所以(ゆえん)である。
「けどお前、メシぐれーちゃんと食えよ。
んな、死人みてーな青白い面してるよりかさ、やっぱ、頬っぺたがちょいと
桜色してた方が、ぐっとくるぜ」
にやにやしながら、ダイアデムは彼の頬を指でつつく。
「ああっ……!」
そのごく軽微な刺激にも体が反応してしまい、サマエルは思わず声を上げる。
頬にますます赤味が差し、彼は、湧き上がる情欲を押さえつけた。
このまま欲望に負けてしまえば、二人の関係を改善する機会を永遠に失って
しまうかもしれない。
せっかくシュネがくれた話し合いの時を無駄にしないよう、彼は息を弾ませ
て耐える。
「──く、ダ、ダイアデム、……も、もう、やめ……これ以上……私はまた、
お前を……」
「あ、そっか、インキュバスをこれ以上興奮させちゃ、やべーよな。
前にそれで、食われちまったんだっけ」
そう言いながらも、大して焦る様子もなく、宝石の化身は彼の胸から手を
外す。
サマエルは、物足りなさと安堵感、両方を一度に感じて汗をぬぐった。
魔力が少し戻ったことで、彼の思考は正常に働き始めていた。
甘美な感覚の名残はまだ体の奥でくすぶってはいたものの、彼ほど力がある
魔族には、“焔の眸”の麻薬性もさほど強くは作用しない。
それでも、あのままでいたら欲望を抑えられなくなり、ダイアデムを押し
倒してしまったに違いなかった。
(だが、彼が私を受け入れてくれる可能性は、なきに等しい……。
たとえ力ずくで思いを遂げたとしても、彼は屋敷から逃げ出してしまうか、
あるいは地下室にこもって、二度と顔を見せてはくれないだろう……)
サマエルは、そう諦めていた。
「……んー、でもまだ、足んねーみたいだな、やっぱし」
しかし、サマエルの決意を無にするかのように、宝石の化身は再び胸に手を
置き、先ほどより慎重に、ごく少量ずつ魔力を注入し始めた。
そして、空いている方の手で絨毯に広がる銀髪の一束を取り、口づける。
そんなダイアデムの仕草に気づく余裕がないサマエルは、必死の面持ちで
言った。
「い、いけない、ダイアデム、危険だ。
もう、こうして話もできるし、動けもする、だから手をどけて」
「ゆっくりやりゃー、大丈夫だって」
少年はそう答え、やめようとはしない。
to be continued...
======================================================================
◆ 後記 ◆
----------------------------------------------------------------------
久しぶりに三人称で書こうとしたら、どうもうまくいきませんね…(涙)。
おまけに、ずっと子供っぽいシュネの視点で書いていた反動ですか、話が
いきなりアダルトっぽく…すみません(汗)。
ずっと一人称で書いてきていて、突然三人称で書くのは反則かも……とは
思いましたが。
全部シュネに語らせた方がいいのはたしかですが、彼女はまだお子様だし、
彼らの複雑な話に絡んで来れるほど、過去を知らないですしねー。
でも7歳で記憶喪失、8年間さ迷い、ネスターに拾われて5年、サマエルの
屋敷に来て1年、本来なら21歳……もう完全に大人のはずなんですけど(笑)。
アムリタ(Amrita)
インド神話で、飲む者に不死を与えるとされる神秘的な飲料。
アスラ族との戦いに疲弊した神々が、アスラ族に協力させて造ったとされる。
乳海と呼ばれる海に様々な素材を投げ入れ、マンダラ山を攪拌(かくはん)棒
に、ヴァースキ竜王を綱として1000年の間攪拌した末に、ダヌヴァンタリ神が
アムリタの入った壺を携えて出現した。
神々とアスラ族は互いに独り占めにしようと争ったが、ヴィシュヌ神の機転
により、アムリタは神々のものとなった。
仏典では阿密哩多と音写され、漢訳では中国の伝説の飲料、甘露の名で呼ば
れた。
ウィキペディアより
----------------------------------------------------------------------
メルマガ小説検索サイト ニコラス ランキングに参加中☆
↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK)
m(_ _)m↓
http://nicolas-mmnovel.net/cgi-bin/rank.cgi?mode=r_link&id=114
アルファポリス、HPとWEBコンテンツランキングに参加しています♪
↓どうぞ応援(クリック)お願いします(毎日でもOK)
m(_ _)m↓
http://www.alphapolis.co.jp/site_access2.php?citi_id=200061015
http://www.alphapolis.co.jp/cont_access2.php?citi_cont_id=875003507
ネット小説ランキングに参加中☆
↓よろしければ、投票お願いします(お一人月一回です)
m(_ _)m↓
http://nnr2.netnovel.org/rank05/ranklink.cgi?id=aw72sqon
----------------------------------------------------------------------
■発行者 :流河 晶
■マガジン名:紅龍の夢
■マガジンID:0000131099
■発行周期 :週刊
◎バックナンバー:
http://archive.mag2.com/0000131099/index.html
◎発行者Webサイト:
http://www12.ocn.ne.jp/~tower/
◎ご意見・ご感想・連絡等はコチラ:
http://www12.ocn.ne.jp/~tower/mailform.html
◎メルマガ配信中止はコチラ:
http://www.mag2.com/m/0000131099.htm
このメールマガジンはインターネットの本屋さん「まぐまぐ!」
http://www.mag2.com/を利用して発行しています。
Copyright (C) 2004-2008 流河 晶 All rights reserved.
※メールマガジン内の文章等を無断複製・転載することを禁じます。
======================================================================


![転職なら[en]社会人の転職情報!転職成功者続出 転職なら[en]社会人の転職情報!転職成功者続出](http://kamogawa.mag2.com/bn/recommend/sya.gif)
![派遣のお仕事探しなら[en]派遣のお仕事情報 派遣のお仕事探しなら[en]派遣のお仕事情報](http://kamogawa.mag2.com/bn/recommend/haken.gif)
![アルバイト探しは[en]本気のアルバイト アルバイト探しは[en]本気のアルバイト](http://kamogawa.mag2.com/bn/recommend/baito.gif)
![就職サイトは[en]学生の就職情報 就職サイトは[en]学生の就職情報](http://kamogawa.mag2.com/bn/recommend/gakusei.gif)
![転職なら[en]転職コンサルタントキャリアを活かした転職に! 転職なら[en]転職コンサルタントキャリアを活かした転職に!](http://kamogawa.mag2.com/bn/recommend/consul.gif)