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追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一〜四/完結、HP掲載。巻の五/緑柱石の記憶/配信中!

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2008/04/12

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第196号

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     ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説


                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第196号

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      □ 巻の五

      ── 緑柱石(エメラルド)の記憶/The Memory of Emerald ──

       ◇第30回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 7.罪と罰(4)

 そんな。誰でもいいから、彼らを助けて。
 ──そうだ、サマエル様はどこにいるんだろう。

 急いで周囲を見回すと、彼はずっと遠くにいて、海から人を引き上げては、
残った陸地まで連れてっている。
 魔力が残ってないのか、一度に運べるのはせいぜい二人か三人くらい。
 ふらつきながら、それでも必死に頑張ってるみたいだった。
 たとえこっちに呼べたとしても、その間に別の人達が死んじゃうだろう。

 上空でまだもめている二人は、下で起きていることには無関心。
 それに彼らも、あまり魔力が残ってるようには感じられない。
 ど、どうしたらいいんだ、このままじゃ……。

 僕がやきもきしていたら、意を決したようにダイが口を開いた。
「分かった。弟と妹を助けてくれ」
「お兄ちゃん!?」
 妹は、眼を丸くした。
 それまでぐったりしていた弟も、驚いたように眼を明ける。
 その瞳の色は、僕みたいな灰色だった。

“それでよいのだな”
 杖は念を押す。
「ああ。オレの残りの力も全部使って、二人を助けてくれ、オレはいい」
 ダイはきっぱりと言ってのけた。

「嫌よ、お兄ちゃんも一緒じゃなきゃ、駄目!」
 妹が彼にすがりつき、泣きじゃくる。
「お、お兄ちゃ、ん……」
 弟も何とか顔を上げ、ダイに手を伸ばした。
 その服の胸や手は、真っ赤に染まっていた。

「アフマル、妹を守ってやれな。聞き分けろ、イズムルート」
 ダイは弟の手をぎゅっと握り、それから銀と赤毛、二つの頭を優しくなでた。
「嫌よ、嫌!」
 妹は泣きながら、首を激しく振っている。

「……くっ、は、早く二人を連れてけ、杖……!」
 少年は、歯を食いしばった。
 強い意志を秘めた印象的な緑の瞳が、涙でうるむ。
「でもオレ、もっと生きてたかった……生きて、お前達を守ってやりたかった
のに……」
 ダイの顔から、どんどん血の気が引いていく。
 もう限界が近いんだろう。

「お兄ちゃん!」
「し、死んじゃ、嫌だよ……あ!?」
 その時、ダイに取りすがっていた二人の体が、不意に浮き上がった。
 “王の杖”が、彼らを連れて行こうとしてるんだ。

「お、兄ちゃ……」
 弟が、血まみれの腕を伸ばす。
「お兄ちゃん! ──お兄ぃちゃああぁん!」
 妹は、髪を振り乱して泣き叫ぶ。
 でも、杖はぐんぐんとスピードを上げ、宝石の紅い輝きと、幼い弟妹達の
悲しい声は、段々遠くなっていく。

「……これでいい。元気でな、アフマル、イズムルート……」
 ダイはつぶやき、板につかまっていた手から、力が抜ける。
 微笑んだまま、彼は、荒れ狂う波に飲み込まれていった。

         *        *        *

「……ダイアデム、キミ、キミの姿は……あの子、ダイの……」
 過去の映像が消え、我に返ると、またまた涙が出て来て、僕は最後まで言う
ことができなかった。
 彼らの悲痛な声が、まだ耳に木霊(こだま)している。
 ここまで二人の話を聞いてきて、僕の頭はようやく冷えた。
 どうして僕だけが、こんな目に遭わなきゃならないんだ、そんなやり場の
ない怒りも、消えてしまった。

 ダイみたいに、生きたかったのに生きられなかった人達のことを考えると、
簡単に命を捨てちゃいけない気がした。
 たとえこの後、僕が、どんないいことをしたとしても、僕の罪が消えるわけ
じゃない。
 でも、罪を(つぐな)うことと、死ぬことは別だって分かったんだ。
 それに、自分だけが人殺しじゃないって知ったことで、ちょっと気が軽く
なったのかも知れない。

 記憶の中のダイがそうしてたみたいに、サマエル様は、僕の頭を優しく
なでた。
「……分かったかい、シュネ。
 “焔の眸”は、若くして命を落としたあの少年の遺志を継ぐために、その姿、
性格をすべて複製して、新たに化身を作り出したのだよ。
 少年の最後の望み……『もっと長く生き、愛する者を守りたかった』は、
その時死んでいった者、全員の望みでもあったろうからね……。
 だから“焔の眸”は、この少年の姿を取るときには、数ある呼称のうち、
最も似たもの……ダイアデム──これは王冠、王位、王権という意味がある
──と名乗ることにし、今もキミ達を見守っているのだ、ダイとの約束を
守ってね」

「えっ、じゃあ僕も、彼らの子孫なんですか?」
 驚いて顔を上げると、それまで黙っていたダイアデムが答えた。
「あん時、自力で助かった者や、サマエルが助けた連中を合わせても、数千人
にも満たなかったから、お前がダイの弟妹の血を引く可能性は高いな。
 ……特にその赤毛と、灰色の瞳を見れば……。
 オレの髪は、どうしてもあいつより紅くなっちまうんだ……。
 眼と同じく、禍々しい血の色をしてるのが分かるだろ……」
 彼は、深紅の髪を持ち上げて見せる。

 僕は、彼と自分の髪色を見比べた。
「……そっか。
 キミがその姿をしてるのは、罪滅ぼしのためもあるんだね……?」
「でもよぉ、お前が一人二人殺したことで死ななくちゃならねーんだったら、
オレは、何度死ねばいいんだろーな?
 そのせいだけじゃないけど、オレだって……しょっちゅう死にたくなるんだ。
 シンハが暴れた時も、お前が止めてくれなかったら、サマエル殺して……オレ
も死んでたかもな……。
 サマエル……だからお前、よけも反撃もしなかったんだろ? 
 せっかく甦らせてやったのに、オレは全然思い通りにならない……それなら
いっそ……そう思ったんだろ?」

 ダイアデムの口調は、ものすごく不吉な響きを持っていて、僕はぞっと鳥肌
が立った。
「ねえ、お願い! 僕、もう、死にたいなんて言わないから! もう死のうと
しないから! だから二人も、死ぬなんて言わないで! 
 お願いだよ、死んじゃわないで……!
 僕もう、身近な人達が死ぬのを見るの、嫌なんだ……二人が死ぬ気なら、僕
も一緒に殺して!
 せっかく……家族ができたと思ってたのに、また誰もいなくなっちゃう……
僕のせいで……!」

「お前のせいじゃねーって」
「キミのせいではないよ」
 二人は同時に言った。
「じゃあ、死なないで! 約束して!
 せめて……僕より先には死なないで……やだよぉ、生きててよぉ……!」
 とうとう僕は感情が抑えられなくなり、布団に突っ伏して号泣した。

 サマエル様は、僕の背中を優しくさすった。
「分かったよ、シュネ。もう死のうとするのはやめるから」
「……ホント? ホントに?」
 僕は勢いよく顔を上げた。
「ああ、そこは任せとけ。今までだってこいつ、何度死のうとしたか知れや
しねーんだぜ。それを毎回、オレが何とか、なだめすかしてきたんだからよ。
 それにしても、お前すごい顔してるな、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだぞ」
 顔をふこうとするダイアデムを、僕は振り払った。

「僕なんかのことより、ダイアデム、サマエル様のこと、受け入れてあげて。
 昔何があったのか、僕は知らない。でも、過去のことは水に流して。
 キミが拒絶するから、サマエル様は余計死にたくなっちゃうんだよ、ね、
お願い!」
 僕は両手を合わせた。

「う〜〜ん」
 ダイアデムは唸り、腕組みをした。
「そんな困らなくたっていいじゃない。
 キミ、サマエル様のこと嫌いじゃないんでしょ?
 ううん、ホントは大好きなくせに!」
「……う、そりゃー嫌いじゃねーけどよ……まあ、女のこと以外でも、こいつ
とは色々あるんでな……」
 彼は、ぽりぽりと頭をかいた。

 やっぱり駄目なんだろうか、この二人。
 彼が受け入れてあげなければ、サマエル様はまた……。
 そう思った途端、また涙が込み上げてくる。
「うううっ……!」

 僕が泣きそうになっているのに気づくと、ダイアデムは、慌てて手を振り
回した。
「──ま、待てって、シュネ。
 分かった、オレ、女に泣かれるの、超苦手なんだ……と、とにかく、この場
は落ち着け、な?
 オレとサマエルのことは……まあ、その、なんだ、ガキが口を挟むような
ことじゃ……」
 言いかけた彼は、僕の眼からぼろぼろ涙があふれ始めると、ため息をついた。

「……ったく、しょーがねーなぁ。
 ともかくよ、こりゃー、オレ達で解決しなきゃなんねー問題なわけだ。
 だから、これから二人で、じっくり話し合うことにする、それでいいだろ。
 ──ただし、どういう結論が出るか、それはやってみなきゃ分かんねー。
 ま、問題点をはっきりさせれば、何か解決策が見つかるかもしんねーしな」
「う、うん、分かった……」

「さ、後は休んでいなさい、シュネ。
 そんなに泣いたのでは疲れただろう、タィフィンをつけておくから」
「はい……」
 ホントに、僕はくたくただった。
 最近は泣いてばかりで、我ながらよく、涙が涸(か)れてしまわないもんだと
思う。
 でも、お互いを避けていた二人が真剣に話し合ってくれる、それだけでも
ほっとする出来事で、僕は枕に頭を戻した。

 サマエル様が、温かいタオルで顔を拭いてくれた。
「では、ゆっくりお休み。いい夢をね」
「はい、でもあの……」
「そんな顔をしなくても、私達は大丈夫だから。ね?」
 僕はきっと情けない顔をしていたんだろう、サマエル様は微笑み、優しく
僕の頬に触れてくれる。

 これまでは、ただうっとりと眺めていただけだったこの美しい笑顔の陰に、
一言じゃとても表現し切れないないほど、ものすごく複雑な事情があるなんて、
僕は今まで考えもしなかった。
 マジに涙が止まらない。

「そうだ、そうやってたくさんお泣き。
 泣きたい時には、感情を抑えずに泣いた方がいい。
 今感じている感情をとことん感じ切ること、それが心の傷を速く癒すコツな
のだそうだよ、シュネ。
 ……私には、できないけれどね。
 幼い頃からずっと感情を殺し続けてきたから、自分が一体今、何をどう感じ
ているのか、私にはもう、よく分からないのだ……」

「サ、サマエル様は、悲しいん、でしょう、ダイ、アデムが、相手、して、
くれない、から。
 さ、淋しいん、でしょう、ひ、一人ぼっちだ、って、思って。
 で、でも、それは、違います、ダ、ダイアデムは、意地っ張りな、だけで、
だから……」

 僕がしゃくりあげながら言うと、ダイアデムは、僕の顔を覗き込んで来た。
「ああ、シュネ、だからよ、オレ達はこれから、そーゆう話をしに行くトコ
なんだってば。
 心配しねーで待ってろ、な?」
「う、うん、分かった、よ……」
 彼に見つめられると、僕はいつも、なぜかすぐにうなずいてしまうんだ。

「さて、シュネを頼んだよ、タィフィン。
 それから、この部屋も片付けておいてくれ」
 サマエル様が、空中に向かって呼びかける。
 緑の龍が暴れてから、僕の部屋は目茶目茶になって、そのままだった。
「かしこまりました、お館様」
 どこからか、眼に見えない使い魔の答えがする。

「では、シュネ、私達は行くからね」
「大人しくそこで寝てんだぞ、メシもちゃんと食えよ」
「うん」
 僕がうなずくと、二人は部屋を出て行った。
 うまくいくといいな、僕は心からそう願わずにはいられなかった。


                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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