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追放同然に人界へと出てきた魔界の王子サマエルは静かな暮らしを望むが、敵対する神族や兄との確執がそれを許さず、天界との最終戦争に巻き込まれてゆく。巻の一〜四/完結、HP掲載。巻の五/緑柱石の記憶/配信中!

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2008/04/05

ファンタジー長編小説「紅龍の夢」第195号

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     ┃フ┃ァ┃ン┃タ┃ジ┃ー┃長┃編┃小┃説


                  ┃紅 ┃龍 ┃の ┃夢

     ┃第195号

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      □ 巻の五

      ── 緑柱石(エメラルド)の記憶/The Memory of Emerald ──

       ◇第29回

*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……*……

 7.罪と罰(3)

「オレが恐くなったか? くっくっく……。
 この姿は、オレが自分の意志で殺したヤツの体を、まんま複製したもんなん
だぜ」
 ダイアデムは、わざと悪ぶっているみたいに笑い、自分の胸に手を当てた。
「え……?」
 僕は驚いて、彼の顔と体を交互に見た。

「だが、それは仕方なかったことだろう?
 そのお陰で、彼の弟妹は救われたのだし」
 サマエル様が口を添(そ)える。
「でもよ、お前の親父が、オレを使って人界を破壊し尽くしたんだぜ。
 そんなヤローを魔界王に選んじまったのは、このオレ……ってことを考え
りゃ、やっぱ責任があるだろ」
 ダイアデムは、打って変わって沈んだ口調で、そう言った。

「ええっ、人界を破壊し尽くしたぁ!? けど、どうもなってな……」
 びっくりして言いかけた僕は、途中で気づいた。
「──あ、それってもしかして、大昔のこと?
 神の怒りに触れて滅びたって言われる、伝説の魔法都市があったよね。
 ええっと、たしか、トリニティーとか言ったっけ……」

 ダイアデムはうなずいた。
「うん、オレが壊しちまったのはそいつだ。マジ勘いいな、お前」
「……ふーん、てっきり架空の物語だと思ってたけど、ホントにあったこと
だったんだねー。おまけに神様じゃなくて、キミが壊したの……?」
 思わず僕は、彼を指差した。
「そーゆうことだ。でもま、そんときゃオレはまだ、“王の杖”だったんだ
けどな」
「え? どういうこと?」
 僕は首をかしげた。

「ああ昔、オレの本体“焔の眸”は……こんなでっかい杖に、はめ込まれてて、
“王の杖”って呼ばれてたんだ」
 彼は両手を大きく広げて見せた。
「……魔界の王権の象徴兼、王族の魔力を増幅する魔法具としてな。
 そんでまあ、魔界とそのトリニティー……つまり人界との間に戦争が
起こったときに、オレは魔法具として使われて、人界はドッカーン。
 そして戦争が終わる頃に、オレは“これ”を手に入れたってわけさ……」
 ダイアデムは悲しげに、自分の胸に手をやった。

「へえ、魔界と人界が戦争したんだ。
 そういえば、シェミハザもそんなこと言ってたような……ねえ、ホントは
何があったの? 詳しく聞かせて」
 好奇心をかき立てられた僕がせがむと、サマエル様は、ほっとしたみたいに
微笑んだ。
「話してあげるといい、ダイアデム。手短にね」
「そーだな」
 うなずいて、彼は話し始めた。

「今から一万年以上も前、人界で栄華を誇ってたトリニティーの住人は、皆、
魔法使いだった。
 しかも、魔力も今の人族よか強くて、魔法のホウキや絨毯(じゅうたん)なん
かを、びゅんびゅん乗り回してたんだぜ」
「ふーん」
 僕の頭の中に、たくさんの空飛ぶ絨毯やホウキが、巨大な都市の上空を、
色とりどりの昆虫みたいに飛び回っている……そんな情景が浮かんできた。

「その頃、魔界と人界は天界にバレないように、こっそり手を組んでたんだ。
 神族は、大昔から卑怯な手ばっか使って、魔族を滅ぼそうと付け狙ってた
から、オレ達は人族と同盟して、一緒に戦おうと思ってたのさ。
 案外知られてねーけど、神族ってのは、実はとんでもねー食わせもんなんだ
ぜ。
 昔からこっそり魔族や人族の女達をさらって、天界でガキ産ませようとして
たんだからな」

「へーっ、神族って、そんなことやってたの? 全然知らなかった……。
 神様とか天使とかって、僕らを守ってくれてるもんだとばかり思ってたのに
……」
「騙されているのだよ、人族はね。
 たとえば、魔物にさらわられる姫君等の昔話は、実は神族の仕業だ。
 ヤツらは、滅ぼし損なった私達を悪者に仕立て上げて人族との分離を図り、
人界を支配しようと目論んでいるのだよ」
 サマエル様は冷ややかに言った。

「え、人界を支配!?」
 今まで信じていたことが嘘……どころか、真逆だったことに僕は驚いた。
「でも、じゃ、余計に人界を壊したら駄目なんじゃない。どうして……」
「そいつをこれから、話してやるトコだろーが」
 ダイアデムは、うるさそうに髪をかき上げた。
「あ、ごめん、続けて」
 謝る僕を僕をじろりと見て、彼は話し続けた。

「まず、神族と対等に戦うためには、人族の力が魔族並みになるまで待たな
きゃいけなかったのさ。
 でも、あと三世代くらい……百年もあればオーケーになるはずで、それまで
は共存共栄で行こうって、人界の王達とは話がついてた。
 なのに、だ。いきなり王の一人が、一方的に協定を破って、オレ達に宣戦
布告してきやがったんだ。
 しかもそいつは魔界から、“黯黒(あんこく)の眸”っていう、大事な石を
盗み出し、その力を利用しようとまでした。
 しょうがねーから、オレ達は戦った……売られた喧嘩だしな。
 でも、そこまでだったら、まだよかったんだけど。
 やっとこさ捕まえたってのに、こいつ、石のありかを吐かなくてよ」

 ダイアデムはそこで一息ついて、また髪をかき上げた。
「“黯黒の眸”がないと、魔界を防御する結界が、すごく弱くなっちまうんだ。
 オレ達は、いつ天界に攻撃されるかって、気が気じゃなかった。
 苛々してた当時の魔界王ベルゼブルは、しまいにぶちキレて、オレを使い、
人界をぶっ壊しちまった……ってなわけなのさ」

「そっか……でも、嫌って言えなかったの?」
 僕が訊くと、ダイアデムは、勢いよく手をバッテンに交差させた。
「バーカ、言えるわけねーだろ、王の命令は絶対なんだから。
 逆らえば壊されちまうんだぜ」
「責められるべきは彼だけではない。
 私もその場にいたけれど、止められなかった……」
 サマエル様はうなだれた。

「いーや、お前のせいじゃない、オレの責任だって」
 悲しい顔でダイアデムは言ってから、僕に向き合い、ぺこっと頭を下げた。
「……ごめんな。その後、お前ら……人族は、ほんのちょっとの生き残りが
原始時代に逆戻りして、そっからもういっぺん、文明を発達させてったんだ。
 今さら謝っても、取り返しはつかねーけど……」

「謝らなくていいよ、キミのせいじゃないって、僕も思うもの。
 でも、知らなかったなー、そんなことがあったなんて……。
 で、その後、キミはその姿を……?」
 僕がもう一度彼を指差すと、ダイアデムは顔をしかめた。

「ご、ごめん、嫌なら……」
「……辛い話だからね。
 そうだ、ダイアデム、彼女に記憶を直接、見せてあげてはどうかな」
 サマエル様がまた、取り成すように言ってくれる。
「そーだな。そいつが手っ取り早いか。シュネ、手ぇ貸せ」
 彼は僕の手を取り、おでこに当てた。

          *       *       *

 いきなり大きな岩が、僕目がけて飛んで来た。
(──うわっ!)
 思わず僕は頭をかばい、声を上げそうになる。
 あちこちで噴火が起きてて、逃げ惑う人々の上に、真っ赤に焼けた岩が降り
注いでいるんだ。
 どろどろの溶岩に、大勢の人が巻き込まれていく。
 地鳴りと悲鳴、船もあるけど、少な過ぎて、皆は乗れない。
 そのうち、ものすごい地震がきて、陸だったところがあっという間に崩れた。
 船に乗れずにいた人達は、海のど真ん中に投げ出されてしまう。

 地獄絵図としか言いようがない光景だった。
 でも、これは過去の出来事だ。
 いくら酷いと思っても、実体のない僕は、ただふわふわと漂って、見ている
ことしかできない。

 上空には、三人の人影が浮かんでいた。
 一人は、ああ、サマエル様だ。でも、今よりかなり若いみたい。
 後の二人は、一本の杖を取り合って、激しく言い争っていた。
 その杖は、上の部分に、ダイアデムの眼みたいなでっかい宝石がついている。
 多分これが、“王の杖”なんだろう。

 そう思ってると、サマエル様が黒い翼を広げ、急降下し始めた。
 傷だらけで、ふらふらなのに、どこへ行くんだろう。
「……惨(むご)い、惨過ぎる。これでは神族と同じではないか……私だけでも
助けなければ、人族は滅んでしまう……」
 彼のつぶやきが聞こえる。
 そうか、皆を助けに行くところなんだ。

 彼に続こうとした時、悲鳴みたいな心の声が聞えた。
“──誰か助けて! このままじゃ弟も妹も溺れじゃう!”
 僕は振り向き、息を呑んだ。
 逆巻く波に激しくもまれる板切れに、しがみつく三人の子供達、その中に、
ダイアデムそっくりな男の子がいる。
 髪は僕みたいな赤毛、瞳は緑、でもそばかすもあるし、顔つきは彼に瓜二つ
だった。
 その少年は、弟達が溺れないように支え、海水を飲みながら、念話で必死に
助けを求めていた。

 そのとき、紅い輝きが僕をかすめて降りていった。
 “王の杖”だ。きっとこの声を聞いたんだろう。
 やがて、シンハの声に似た重々しい念話が、僕の心にまで聞こえて来た。
“我は『王の杖』。汝の呼び声に惹かれて参った”

「きゃっ!」
「杖がしゃべった!?」
 面食らう子供達に、杖は尋ねた。
“年長の童子よ、汝の名は”
「オ、オレ? ダイ。お前は一体、何だ?」
“我は魔界の王権の象徴。なれど、この惨劇は、我が望みに非(あら)ず”

「魔界? 敵じゃねーか、あっち行け、敵に助けてもらうなん……ううっ!」
 叫んだ少年は、急に痛そうな声を上げ、足に手をやった。
 彼の両足は、膝から下が、引き千切られたようになくなっている。
 その傷口からは、たくさん血が海に流れ出していた。

「くっそう! 魔力が残ってたら、お前なんかやっつけて、皆も助けられたの
に……!」
 ダイは悔しげに拳を握り締めた。
“我を拒絶するか。なれど、弟妹は如何(いかが)致す? このままではどの道、
命を落とすのみぞ”
「何っ!」
 少年は杖を睨みつけた。

 杖は、彼の態度を気にした様子もなく、話し続けた。
“ダイよ、選べ。
 我及び汝が残りの魔力にて、汝一人を救い足を再生致すか、あるいは、汝の
弟妹二人のみを、遠き安らかなる地まで運び癒すか……二つに一つだ。
 我が魔力も、もはや残り少なきゆえ”

「どういう意味? お兄ちゃん」
 難しい言い回しに、妹が首をかしげた。
 ダイと同じ緑の瞳と、銀色の髪をしている。
 残る弟は赤毛で、具合が悪いのか、板に頭を乗せたまま眼をつぶり、ぐった
りしていた。

「お前は黙ってろ、イズムルート。
 じゃあ、まずオレの足を治せ。そしたら後はオレが魔法で、皆……」
 言いかけるダイを、杖はさえぎる。
“それは無理と申すもの。
 足の再生には、我が、汝の残るすべての魔力を吸い取ることが必要不可欠。
 なれどその暁には、汝は魔法を二度と使えぬ身と相成ろうぞ”

「えっと、つまり……足を生やせば、魔法が使えなくなるってことか?」
“左様”
「……そんじゃあ、血だけでも止めてくれよ、弟とオレの。
 それから陸まで運んでくれりゃ、後は何とかなる」

“いいや、二人に治療を施せば、誰一人、陸へは運搬できぬ。全員、海の藻屑
(もくず)と消えようぞ。
 逆に三人共運ぶならば、治療を施す力は一切残らぬ。汝も弟も傷は深手、
早晩、二人揃って逝(ゆ)くは必定(ひつじょう)。
 生き残るは、幼き妹のみとなろうな”
 杖は重々しく宣言した。
「ええっ!」
 子供達は凍りついた。

                                    to be continued...

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     ◆ 後記 ◆

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 トリニティーの話は巻の二に出て来るので、ここでは簡潔に(笑)。

 さて、ようやく、“焔の眸”が、ダイアデムの姿を手に入れた話を書くこと
ができました。
 特別号を読んで頂いた方には、ちょっとだけ説明していたんですが、彼の体
は、大昔に実在した少年「ダイ」の複製、つまりクローンなんです。
 ファンタジーには、ちょっとそぐわない設定かもしれませんが、最終巻の
天界での話にもクローンは出てきます…っていうか、必須(笑)。

 ところでダイアデムの服装は、アラビアンナイトのイメージです。
 シンドバッドの冒険とか、アラジンの魔法のランプとか。
 ターバンはしてませんが(笑)、似合うかも。


 イズムルート アラビア語でエメラルド。
 アフマル   同じく、赤。

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 ■発行者   :流河 晶
 ■マガジン名:紅龍の夢
 ■マガジンID:0000131099
 ■発行周期 :週刊

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