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2006/08/11

陰陽師教師・橘麗華 「千鶴の一番長い1日」

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 六月三十日の祭りというのはすなわち「夏越祭(なごしのまつり)」である。
 この日の前後、茅で作られた丸い輪が鳥居に掛けられていて、それを子供たちが潜ったりするため、
「茅の輪潜り」という別名で知られている。
 もちろん茅島神社も例外ではない。
ただし茅島神社の正門というべき鳥居は一般的な神社に多く見られる「明神鳥居」であり、
輪潜り用の茅の輪を取り付けるための鳥居は別にあるのだ。
「これだろ?」
 楓はその「茅の輪」を掛けるための鳥居をたちどころに見つけたようである。「……正門というべき
鳥居が普通の神社の明神鳥居なのにこれだけが伊勢神宮と同じ冠木門みたいな神明鳥居というのも
変だからさ」
 一般的な神社に多く見られる「明神鳥居」なら二本の柱の間に「笠木」と「島木」を渡して
(一本の木を削って使う場合もあるが)それともう一本貫を渡し、島木と貫の間に神社名もしくは
祭神名を書いた額を支える「額束」と呼ばれる柱が一本あるのだが、その鳥居は笠木の下に島木がなく、
貫はあるものの額束がない。明らかに伊勢神宮や靖国神社などと同じ「神明鳥居」だった。
「それに奥に何もないようだしね」
 楓は言った。「……ここって摂社とか末社ってあるよね?」
「ええ。末社はなしで摂社だけですけど」
 千鶴は頷く。「……本殿の手前で参道のほうに向かって横になっているのが摂社の八重垣宮です。
名前は八重垣ですけど何故か京都の八坂神社から勧請したみたいですよ」
 八重垣というからには島根県の八重垣神社から勧請したと思うのが普通なんですけどね……と、千鶴は付け加えた。
「京都の八坂神社……ってことは祭神はずばり須佐之男尊」
 麗華は言った。「……関係はずばり『お父様』やろ」
「よくご存知ですね」
 美樹は言ってしまってはっと気が付いた。麗華の生まれ故郷はずばり京都の祇園。しかも実家……生家……は
御茶屋を営んでいるのである。つまり祇園の周辺に関して言えば麗華にとってはまるで庭のようなものである。
「まあ、ええよ、ええよ」
 麗華は言った。「……うちはそないなことは一切気にせんたちやさかい」
 まず市杵島媛尊、多岐利媛尊、多岐津媛尊のいわゆる「宗像三女神」だが、この三柱の神は
ずばり天照大神との天の安川での誓約の際に生まれた子で、女が生まれたことによって須佐之男尊に
邪心がないことが証明されたとなっている。それにもかかわらず須佐之男尊は高天原で大暴れを
してしまい、結局髭を抜かれて生爪をはがされて追放の憂き目にあってしまうのだが。
 もう一柱、宇迦御霊之神は「古事記」による限り須佐之男尊の娘だということになっている。
出雲の国に天下りした際に現地の大市媛命(オオイチヒメノミコト)という女神との間に生まれた
子供である。それにもかかわらず「古事記」にはこの神様がどんな神様なのか記述がない。
 だが、「日本書紀」によると国生みを終えられたイザナギノミコト・イザナミノミコトの二柱が
飢えを感じられてここに食物の神・宇迦御霊之神を作ったとあり、食物の神であるということは
明白になっているのだ。
「ちなみに私の家と千鶴の家はつかず離れずといった関係でしてね」
 舞が言った。「……墓地で見ると解るんですが『瑞鳳院累代の墓』と『安西家の奥津城(おきつき)』が並んでいるんです」
 どうも江戸時代までの神仏混交崇拝が関係しているのかも……と、千鶴は付け加えた。
「そういえば明治時代になってからやったな」
 麗華は言った。「……『神仏分離令』って何のことはない、ただ『神様を寺で祭ったらあかん』とか
『仏様を神社で祭ったらあかん』いう法律やったいうのに、それを『仏教廃止』というふうに誤解した
アホがいて、それで打ちこわしとか起こったんやな」

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