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英語に関心があり現代詩を創作する趣味をお持ちの皆さん、英語詩翻訳技法学習のメールマガジンです!2007年10月号からは、ソシュール言語学を応用した翻訳理論を用いて、アメリカの詩人ギンズバーグの「吠える」の新訳を試みております!

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2008/10/01

月刊 地球詩人

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月刊 地球詩人

2008年10月号

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英語詩翻訳の無料メールマガジン

編集・発行 杉本直隆
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目次
(1)はじめに
(2)ソシュール言語学と翻訳の方法論
(3)前号からの課題
(4)原文語句の連辞関係と範列関係
(5)訳文語句の範列関係と連辞関係
(6)新訳の提示
(7)次号への課題

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(1)はじめに

昨年の10月号からは、
アメリカの有名な詩人、アレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg)の代表作である、
"Howl"(邦題は「吠える」)の新訳を試みております。
ギンズバーグは、1950年代に生じたビート運動という反体制的文学運動の代表的詩人です。
そのギンズバーグを日本に紹介し、邦訳として定着しているのが諏訪優氏のものです。
私はかつて、ギンズバーグの"Howl"を、
諏訪氏訳の「吠える」と対照させながら読んだことがあります。
そのときに感じたのは、諏訪氏の訳は文学作品としては鑑賞に値する立派なものですが、
かなり誤訳が多いということでした。
そこで諏訪氏には申訳ないですが、その誤訳を指摘・修正させていただき、
日本の海外詩翻訳の質的向上に貢献すべく、
ここに"Howl"の新訳を試みるものです。


(2)ソシュール言語学と翻訳の方法論

翻訳とは、ある言語形式で表現された意味内容と同一の意味内容を、
別の言語形式に変換して表現することです。
それゆえ、言語学を応用することで翻訳というものの本質を理解できると考えました。
特にソシュール言語学は言語の本質を的確に把握しており、きわめて有効です。

ソシュールによると、言語は、シニフィアン(意味するもの)という記号形式と、
シニフィエ(意味されること)という意味内容とによって構成されます。
それなら翻訳は、意味内容は同一のままで、
ある記号形式をまったく別の記号形式に変換するということになります。
意味内容は同一に、記号形式はまったく別に、ということです。
もし意味内容が同一でなければ、それは誤訳(間違った訳)になってしまいます。
それに対して記号形式をまったく別にするということは、
変換前の原文ではなく変換後の訳文の言語に適応した語法を用いなければならないということです。
にもかかわらず原文の語法に引きずられてしまうところに、悪訳(読みにくい訳)の生じる原因があると考えます。

言語による叙述は一次元的な線状をなすという線状性も、ソシュール言語学の用語です。
線状性とは、言語による叙述には順序があるということです。
このことは特に、意味内容の把握にとって重要です。
例えば原文で「主文A→副詞句B」という叙述順序になっているとき、
訳文で「副詞句B´→主文A´」という叙述順序にしてしまうと、
読みにくい訳になってしまう場合があります。
それは原文の叙述順序と逆転してしまっているからです。
その場合は原文と同様に、
「主文A´→副詞句B´」という叙述順序にすることで読みやすくなることがあります。

ソシュール言語学には、連辞関係や範列関係という用語もあります。
どちらも、言語表現を構成する各語句の、他の語句との関係を述べたものです。

連辞関係というのは、実際に叙述された言語表現内の各語句と、
その文脈の中における他の語句との関係です。
単独ではいくつもの可能性がある語句の意味が、実際の連辞関係に組み込まれることで一つに決定されます。
翻訳において原文を読解するときに、この連辞関係を充分に把握していないと、
いくつもの可能性がある語句の意味を一つに決定するのに、連辞関係から外れた意味に誤読し、
そして誤訳に至ってしまう恐れがあるので注意しなければなりません。

範列関係というのは、実際に叙述された言語表現内の各語句と、
その各語句と類似した意味を有しているがその文脈では実際には叙述されなかった各語句との関係です。
翻訳において原文を読解するときに、この関係を考察するなら、
数ある類語の中から一つの語句が選択されて叙述された意味を読み取ることができます。
またこの関係は、翻訳において訳文を仕上げるときに、
類語の中からどの訳語がその文脈に最も適していて選択すべきかを判断する基準になります。

以上のような、ソシュール言語学を応用して考案した翻訳の方法論を用いて、
ギンズバーグの"Howl"の新訳を試みております。



(3)前号からの課題

"Howl"は、全78行の第1部と、全15行の第2部と、全19行の第3部と、
全15行の脚注(Footnote to Howl)とから成っています。
第1部の第14行は次のようなものです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   who chained themselves to subways for the endless
       ride from Battery to holy Bronx on benzedrine
       until the noise of wheels and children brought
       them down shuddering mouth-wracked and
       battered bleak of brain all drained of brilliance
       in the drear light of Zoo,  

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これを諏訪氏は次のように訳しておられます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ある者らは わが身を地下鉄に縛りつけバタリーから聖なるブロンクスまで
  ベンゼドリン嗅ぎながら果しなく往きかえり 
  車輪と子供たちの騒音に身ぶるいしながら
  口は荒れ 脳をたたきつぶされ 全く輝きをうばわれ
  その果に動物園の荒涼たる明るさの中に立たされた 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

果たしてこの訳で妥当かどうか、検証していくことにします。



(4)原文語句の連辞関係と範列関係
                                   


言語の線状性に従い、各語句の連辞関係と範列関係を、叙述される順序ごとに考察してみます。

○who

これは第4行の who と同じです。
主格の関係代名詞で、以下の語句はこれを主語とする継続用法の関係詞節です。
その先行詞は第3行の、
  angelheaded hipsters burning for the ancient heavenly
        connection to the starry dynamo in the machinery of night
 (夜の機械類にある星のような発電機との
   古代的な天国のごとき繋がりに焦がれている天使の頭をしたヒップスターたち)
という名詞句の全体となります。 

○chained themselves to subways for the endless ride from Battery to holy Bronx on benzedrine

「地下鉄に自分を縛りつけ、ベンゼドリンを飲みながらバッテリーから聖なるブロンクスまで果てしなく乗車した」
という意味です。

○until the noise of wheels and children brought them down shuddering mouth-wracked 

「そのあと車輪と子供たちの喧騒が口の荒れた震えを彼らにもたらした」という意味です。  

○and battered bleak of brain all drained of brilliance in the drear light of Zoo

「そして売春宿の物憂い光の輝きからすべてを抜き取られた脳みその荒涼とした男娼をした」という意味です。


(5)訳文語句の範列関係と連辞関係

ここでも言語の線状性に従い、各語句の範列関係と連辞関係を、叙述される順序ごとに考察してみます。

○ある者らは

この who の訳語は第4行と同様に、「ある者らは」ではなく、「彼らは」となります。   

○わが身を地下鉄に縛りつけバタリーから聖なるブロンクスまで/ベンゼドリン嗅ぎながら果しなく往きかえり

これは、
chained themselves to subways for the endless ride from Battery to holy Bronx on benzedrine
を訳したものです。

この訳はほぼ妥当と思われます。

筆者としては、
「地下鉄に我が身を縛りつけ、ベンゼドリン片手にバッテリーから聖なるブロンクスまで果てしなく乗車し、」
と訳すことにします。 
  
○車輪と子供たちの騒音に身ぶるいしながら/口は荒れ

これは、
until the noise of wheels and children brought them down shuddering mouth-wracked
を訳したものです。

ここでは、「そのあと」を意味する until の訳が抜けています。

筆者としては、
「そのあと車輪と子供たちの喧騒で口の荒れた震えがもたらされ、」
と訳すことにします。
  
○脳をたたきつぶされ/全く輝きをうばわれ/その果に動物園の荒涼たる明るさの中に立たされた

これは、
and battered bleak of brain all drained of brilliance in the drear light of Zoo
を訳したものです。

battered を「たたきつぶされ」、Zoo を「動物園」と訳していますが、
ここではそれぞれ、「男娼をした」、「売春宿」という意味になります。

筆者としては、
「そして売春宿の物憂い光の輝きからすべてを抜き取られた脳みその荒涼とした男娼をした」
と訳すことにします。


(6)新訳の提示

以上より、"Howl"の第1部第14行の新訳は以下のようになります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 彼らは地下鉄に我が身を縛りつけ、
  ベンゼドリン片手にバッテリーから聖なるブロンクスまで果てしなく乗車し、
  そのあと車輪と子供たちの喧騒で口の荒れた震えがもたらされ、
  そして売春宿の物憂い光の輝きからすべてを抜き取られた脳みその荒涼とした男娼をした 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(7)次号への課題

第1部の第15行は次のようなものです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  who sank all night in submarine light of Bickford's
       floated out and sat through the stale beer 
       afternoon in desolate Fugazzi's, listening to the crack 
       of doom on the hydrogen jukebox,
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これを諏訪氏は次のように訳しておられます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ある者らは ビッグフォドの海底のような光線の中に一晩中もぐっていた
  浮き上ると 荒涼としたフガッジイの気の抜けたビールのような午後ずっと
  水爆的なジュークボックスからきこえる運命の破裂音をききながら坐っていた
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

果たしてこの訳で妥当かどうか、次号で検証していくことにします。

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