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ポピーは魔法世界に住む少女。彼女たちは、キャビッチという不思議な野菜を使って魔法を行使する。ある時、親友のヨンベが恐ろしい鬼魔(キーマ)にさらわれてしまう。助けに行くんだ! ポピーの旅が始まる。冒険ファンタジー『魔法野菜キャビッチ』8月2日連載開始!

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2008/07/24

葵マガジン*多重人格の急須 31

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      ◇◆◇◆葵マガジン 2008年7月23日号◆◇◆◇

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          ◇◆◇◆多重人格の急須◆◇◆◇

              第31話(全32話)


              舞子、命令する 2


 そういうわけで舞子は“主”と、部屋に飾ってあるポトスを挟んで話をした
のだった。
“主”はその時、ふとこう洩らした。
「そういえば舞子さんの急須の人格たちも、面白い人格ばかりでしたね。あの
巨体の男や、白い服を着た、ずけずけとものを云う青年や――」
 舞子はその時、ただ笑っていたような気がする。
 けれど心底から楽しくて笑っていたわけでは、なかった。
 そう、そういえばブライドから地球に戻って来る時は、ブライドに行った時
とはずい分やり方が違っていたのだった。
 行きは木多丘の肩に担がれて飛んで行ったのだが、帰りは“主”所有のUF
Oに、皆で乗り込んだのだ。
 そして急須くんが魔法の結界を張り、NASAのレーダーなどに引っかから
ぬよう手はずを整えてくれたのだった。
 そう、行きの時とはずい分ちがっていた。
 行きの時はなんといっても、一人の男の肩の上だったから、不安定なことこ
の上なかったし、その上あの意地悪な木多丘がわざと上下に揺さぶったりする
ものだから、まったく恐怖に満ちた旅であった。
 それに比べて帰りは、UFOときたものだ。
 初めて乗ったけれども、下手な飛行機よりよっぽど乗り心地がよかった。
 舞子たちは何も恐れることなく、安心してリラックスして、地球まで無事帰
ってくることができたのだ。
 世間のエイリアン騒動も、ひと月経てば嘘のように鳴りを静めてしまった。
 舞子はまたもと通り、朝になれば気分の重さや母親の存在に押し潰されそう
になり、それでも自分を奮い立たせて学校へ行ったり、自分を甘やかしてこう
して海に来たり、しているのだ。
 そして急須は、今も舞子の元に常にあった。
 ――ただしそれは、もはや多重人格の急須ではなく、統一された人格「急須
くん」としてであった。
 それに関してひとつメリットがあるとすれば、もういちいち呼び出すために
それを持ち上げて二回お辞儀をしたりなどしなくてよくなったことだ。
 急須くんは常に存在していて、舞子がふと思いついて話しかければいつでも
即座に返事をしてくれた。
 相変わらず、明るい子どもの声であった。
 舞子は遠くの島々から、自分の足元に目を戻した。
 今日もそこには、変らず急須くんがいた。
「ねえ」呼びかけてみる。
「はい?」急須くんは即座に答える。
「遥香さんたち、元気に暮らしてるかな……わかる?」
「ええ、もちろん」急須くんは元気に答えた。「今は旦那さまも、単身赴任し
ていた今までの仕事をお辞めになることをご検討なさっているようです」
「ええっ、本当?」舞子は驚いた。
「ええ、一大決意をなさったようで、あの村の役場関係の仕事を、いろいろと
当ってみているようですよ」
「そうなんだあ……よかったあ」舞子は本当に安心して息をついた。
「きっと、お幸せになることでしょう」急須くんは蓋を元気にぱくぱくさせた。
「うん」舞子も頷いた。
 しばらく沈黙が続いた。
「あー」舞子はさも今思いついたかのように、言葉をつなげた。「そういえば
“主”さんの方は? 元気でやってる?」
「ええ」急須くんは別段怪しむ風でもなく即答した。「例の遺跡も今はちょっ
とした宮殿みたいになってますよ。“主”さんは舞子さんに、本当に感謝して
います」
「あはは、やだなそんな」舞子は少し笑った。照れ臭いけれど、嬉しいことだ
った。
「まあ次のすみか住処の星も、うまく見つかってくれたらいいんですけどねえ」
急須くんは言った。
「そうだね……でもずっとここにいても、いいんじゃない? なんかそうでき
ないでもない気が、する」舞子は足下の砂を手ですくってはさらさらと指の間
からこぼしながらそう言った。
「うふふ」急須くんはキュートに笑った。「実はぼくも、そんな気がしないで
もないです」
「でしょでしょ?」舞子は急須くんを見た。「いつか、ちゃんと地上に出て
“主”さんと地球人たちが話し合える時が来たら、いいよね」
「本当に、そうですね」急須くんは吐息混じりに言った。「世界中の子どもた
ちを介して“主”さんと地球人――もしかしたら“主”さんだけじゃない、他
の天体の生き物たちとも、対話が実現する日が来るかも知れない」
「うん――すごいよねえ」舞子は目を細めて青く晴れ渡った空を見上げた。
 二人――というか一人と一個は、それからしばらくして家に帰った。
 特に母親と言葉を交わすでもなく、自室へと上がる。
 舞子は急須を机の上に置いた。
「あの、さ」そして彼女は、ごく小さい声で切り出した。
「ええ」急須くんは即座に、いつもと同じ言葉で答える。
「あのね」
「ふむふむ」
「その――もう、あの四人の人格たちは、現れてはこないの?」舞子は思い切
って訊ねた。


                       ◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

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            ◇◆◇◆後記◆◇◆◇

葵むらさきです。ご購読ありがとうございます。

配信遅れがもはや常道になりつつあることを恐れるわたくし葵ですが、今回も
まことに申し訳ありません。

現連載『多重人格の急須』、いよいよ次号で最終回を迎えます。ご愛読いただ
き、誠にありがとうございました。

本作品の続編『多重人格の急須2』を現在執筆中でありまして、いずれ本メル
マガにて配信を開始したいと思います。ぜひご期待ください。

8月より、冒険ファンタジー『魔法野菜キャビッチ』を連載する予定です。
お楽しみに!

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           それでは次回をお楽しみに。

             発行者:葵むらさき
             aoi@xi.peewee.jp
       ◇◆◇◆葵むらさき言語凝塊事務室◆◇◆◇
         http://murasaki.aoi.peewee.jp/

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