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2005/05/15

人事のブレーン社会保険労務士レポート 第19号

平成17年5月15日 第19号
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人事のブレーン社会保険労務士レポート
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目次

1.	業務上発生した損害に対する使用者と労働者間の賠償金負担の問題2


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1.	業務上発生した損害に対する使用者と労働者間の賠償金負担の問題2

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今回も前回に引き続き「業務上発生した損害に対する使用者と労働者間の賠償
金負担の問題」を述べたいと思う。
前回は、労働者から損害賠償金を確保するのは難しいと述べた。
今回は、それを踏まえて具体策をお話ししたい。

<1>	労働基準法第91条「制裁規定の制限」の問題

労働基準法第91条では、
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給
は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における
賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」
とされている。

具体的には、一制裁事案につき「平均賃金の1日分の半額」を限度とする。
複数の制裁事案があったとしても、実際に支払われる賃金(欠勤等の控除があ
る場合には控除後の賃金)の十分の一が限度である。一制裁事案について月を
替えて複数回控除することは認めれらない。(昭23.9.20基収1789
号)

91条の関係で、制裁金として損害額を確保することは困難である。
また、賞与についても、月次の賃金と変わりなく取り扱われる為、同様の制限
がかかる。(昭63.3.14基発150号)

しかし、運転手から助手へというような職種変更がなされた場合、それに伴い
賃金が低下することは問題ない。(昭26.3.14基収518号 
昭34.5.4基収2664号)
注意点は、あくまで職種変更が伴い、なおかつ、職種変更後の賃金制度に即した
形で賃金の決定がなされた場合である。

運送業における運転手が事故を起こした場合、従前通り業務を行っていれば、
賃金を下げることは難しい。
もっとも、合理性のある厳格な人事考課制度が確立している企業においては、
その人事考課制度の運用により、賃金が低下したとしても問題はあまり生じて
こないと考える。

しかし、一般的な企業において、91条の運用により制裁金として賠償額を補
填することはやはり難しいであろう。

<2>	賞与との関係を考える

(1)前提

賞与についても労働基準法第91条の規定は適用されると述べた。

では、損害を発生させた労働者に対して、当該損害の発生を理由とした賞与の
査定を行えるのかという点を検討したい。

賞与を支給していない企業において、賞与より損害額を補填することは困難で
あるから、前提として、毎期賞与を支給している企業ということになる。

(2)年俸制等の賞与の取り扱い

労働基準法において賞与とは、「支給額が決定していないもの」である。
(昭22.9.13発基27号)

年俸制において、月次賃金と賞与の配分がなされている場合の賞与は、労働基
準法上賞与とは取り扱われず、賞与を含めた賃金で割増賃金を算出しなければ
ならない。
また、その賞与の取り扱いも、予め決定した額であるから、労働基準法91条
が厳格に適用されることとなる。

であるから、査定を通じた損害額の補填は出来ないことになる。

(3)賞与査定の注意点

事故やそれに準ずる事由で、会社に損害を発生させたことを理由として、賞与
の査定をゼロにしたり、著しく低額にすることは可能であるか。
答えは可能である。
しかし、下級審では、「賞与とは労働者の貢献度に応じて支給されるにしても、
横領、詐欺には全く支給しないとう根拠がない」として、賞与の請求権を認め
ているケースもある。(ペイヴァロー事件東京地判平8.11.26労判71
5号106頁)

このような点を踏まえ、実務上では、賞与の支給要件について、「支給日在籍
要件」「6ヶ月以上勤務要件」「8割以上の出勤要件」等に加えて、「対象期
間に懲罰を受けなかったこと」等の要件を加えることが良いと考える。

<2>総人件費で損害額を補填する

(1)総人件費で考える

ある労働者に支払える人件費の総額を10と考える。
残業代を含めた月次賃金の割合を6、賞与を2、退職金を1、社会保険料を1
として、予算を立てる。

賠償額の補填を考えた場合、賞与か退職金の予算から考えるしかない。
前に述べた月次賃金と同様の取り扱いにされない支給の仕方をしたと仮定して
も、会社の業績に対する総人件費の調整は賞与で行わなければならない。

人件費管理上の賞与の意義は第一に、業績に対する調整。第二に、個人の成果
配分に対する調整。第二の成果配分の調整の過程で賠償額を補填することが出
来ればベストである。
しかし、50万円等の賠償額では、一回の賞与で調整できない。
その後も会社に在籍していれば、いつかは、損害額の補填が出来るのであるが、
いつ退職するかわからない。また、事故の多い労働者をいつまでも雇用してい
く訳にはいかない事情もある。

本稿では、損害を発生させた労働者の解雇と賞与の在籍日支給要件の問題には
触れず、今後また別の機会にご説明したい。

では、損害額の補填に賞与を活用できない場合はどうすればよいのであろう。

(2)退職金の活用

最近筆者が勧めているのは、退職金の活用である。
もちろん賞与との併用で活用するが、詳細は以下の通りである。

まず、損害額の補填を総人件費で考え、前述のように、月次賃金、賞与、退職
金、租税公課で予算分けする。

仮に、10のうち1を退職金に振り分けたとする。

そしてこの1を原資として、生命保険等を活用して積み立てる。
ここでの注意点は、中退共や特退共は活用しないことである。
理由は、労働者に直接振り込まれてしまうからである。これでは、損害額の補
填は出来ない。

一度会社に入り、その中から退職金として労働者に渡す方法でないと成立しな
い。

(3)退職金と損害額の相殺

まず、退職金と損害額の相殺は可能かどうか検討する。
会社が一方的に相殺することは、労働者の不法行為に起因した損害額であって
も判例では認められない。(関西精機事件 最二小判昭31.2.2民集10
巻11号1422頁 日本勧業経済会事件 最大判昭36.5.31民集15
巻5号1482頁)

また、仮に合意があったとしても、合意時の労働者の意志が本当に自由な意志
で合意に至ったのかが後に争われるケースもある。

このような点を考慮すると、中退共や特退共といった労働者に直接渡される退
職金制度は、損害額の補填という観点からは役に立たないのである。

(4)懲戒処分による退職金不支給

懲戒解雇による退職金不支給が認められるかどうかは、判例、学説ともに分か
れている。

退職金の法的性格が、賃金の後払いなのか、退職後の生活保障なのか、功労報
償的なものなのかで判断が分かれる。賃金の後払い、退職後の生活保障と考え
るならば、懲戒解雇による退職金不支給は認められない。しかし、功労報償的
なものであれば、認められるということになる。

筆者は、功労報償的なものであるという立場であるが、実際問題として、退職
金を住宅ローンの返済のあてにしている方も筆者の周りには多い。30代で退
職金をあてにするのもいかがなものかと思うが、それだけ無理して住宅を購入
しているということであろう。
このような労働者が少なからずいる現状において、仮に訴訟で負けた場合でも、
損害額の補填を考える仕組みを考えておく必要がある。

(5)原資を考えた退職金規程の作成

1の予算で退職金を設計した場合、前述のとおり、退職金の不支給が認められ
ないケースも想定される。では、そのようなケースを想定して、原資は1とし
て積み立てをして、退職金規程は予算を0.5として作成する。そして、特別
功労金として、会社に貢献のあった労働者について最大0.5を上乗せして支
給する制度とする。

この場合、仮に退職金の不支給が認められないケースでも、0.5の金額は確
保でき、損害額の補填にあてられる。

(6)特別功労金

では、特別功労金についてはどの様に考えるか。退職金と同様に考えられるの
ではという心配もある。判例では、「特別功労金(増額退職金)を支給するか
否か、額をいくらにするのか等の支給条件」が不明確な場合には、増額退職金
の請求権はないとしたものもある。(東京高判 昭52.11.30労判28
7号41頁東京貨物運送健康保険組合事件)

特別功労金の支給基準を会社の裁量にしておき、本体の退職金について明確な
規定を設けておけば最悪でも0.5の原資が確保でき、賞与等の活用により、
損害額の補填が十分出来ることとなる。


<3>まとめ

本稿でご紹介した退職金制度は一つの考え方であるが、主に運送業や建設業に
おける労働過程の過失により損害額を発生させたケースについて、会社がいか
に損害額を補填するのかが経営上のテーマになっている。この退職金の考え方
はあくまで正社員に対しての損害額の補填である。退職金や賞与のないアルバ
イトに対しては、正攻法で補填するしかない。

しかし、このようなプランを議論することにより、会社幹部の意識が変わり、
結果として、実効性のある教育制度、マニュアルの整備等に繋がるケースが多
い。
むしろ、そちらの方が重要であり、前回のメルマガで述べた、労働者が負担す
る損害額の割合を高くすることに繋がってくる。

本稿を一つの考え方としてご検討いただくと幸いである。

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発行者 山本経営労務事務所 (URL http://www.yamamoto-roumu.co.jp/)
編集責任者 社会保険労務士 山本 法史
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