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2009/10/01

ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 132号 2009.10.1

 
 
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┃n┣━┫o┣━┫e┣━┓ ★ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン
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∽∽∽∽∽∽ HEADLINE ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


 †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち
       サンフランシスコで映画を学ぶ (3)  黒川 通子
 †02 ■自作を語る
       『犬と猫と人間と』  飯田 基晴
    ■自作を語る
       『あがた森魚ややデラックス』  竹藤 佳世
 †03 ■映画時評
       『あんにょん由美香』(監督:松江哲明)  萩野 亮
 †04 ■広場
     ■「読む映画祭」はじまります!
     ~『シリーズ 日本のドキュメンタリー』刊行のお知らせ  清水 浩之
     ■日独仏実験映画祭 10/1~9 シネ・ヌーヴォ(大阪)
     ■山形国際ドキュメンタリー映画祭2009 自主講座
       【山猫争議!】土本典昭の海へ  10/11(日)香味庵(山形)
     ■「今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭」 アンケート募集
     ■「自作を語る」などの原稿募集!
     ■上映の告知の有料化とカンパのお願い
 †05 ■編集後記 伏屋 博雄


    ★バックナンバー閲覧はこちらまで
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┃01┃□ドキュメンタリー映画のかたち
┃ ┃■サンフランシスコで映画を学ぶ (3)
┃ ┃■黒川 通子
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●秋学期に学んだこと

9/15号で大雑把にご紹介しましたが、私がアメリカで初めて参加した2008年秋学期
についてもう少し詳しく書きます。一年時の授業は5分の映画を完成するという大命
題を中心に進められ、実技の3クラスと理論の1クラスで構成されています。

まずは実技の「クリエイティブ・プロセス」ですが、Britta Sjogren(ブリッタ・
ショーグレン)という、華奢な印象とはうらはらなバイタリティ溢れる女性が担当
教授です。
このクラスでは5分映画の企画から脚本推敲までを、Pitch(ピッチ)、Treatment
(トリートメント)、Script(脚本)という段階を踏んでやっていきます。ピッチ
では企画を1センテンスで簡潔に伝えてプレゼンテーションします。私が「日系アメ
リカ人について無知だった日本人がアメリカでその歴史を学ぶ過程を描くパーソナ
ル・ドキュメンタリー」とピッチしたとすると、このピッチが企画した映画の内容
を正しく伝えているかをクラスで議論します。クラス全員がそれぞれ二つのピッチ
を発表し、一つを選んで次のトリートメントに進みます。
トリートメントでは、A4の紙1枚にあらすじをまとめ、Premise(プレミス:前提)、
つまりこの映画で何を描きたいのかを簡潔に書きます。例としてメキシコ系アメリ
カ人男性・Rafael(ラファエル)のトリートメントをご紹介します― 仕事にあぶ
れたメキシコ人が怪しげな車に同乗して砂漠にやって来て、そこで穴を掘って大き
な荷物を埋めるよう命じられます。作業中に車は去り、荷物を確かめると何と死体
です。埋め終えた彼が途方に暮れていると国境パトロールの車が近づいて来て、彼
を逮捕して車に押し込みます。ここで映画は終わりますが、この後、彼がメキシコ
送還されることをラストシーンは示唆しています。ラファエルのプレミスはメキシ
コ人労働者を扱う米国政府の二重基準の告発です。都合がいい時は利用し必要がな
くなったら簡単に捨てるというわけです。こういったトリートメントをグループに
分かれて読み合い意見交換します。

次にやっと脚本です。書き上がった脚本は二稿までクラスで読み合わせのうえ議論
します。議論は白熱しますが、女性が多い我がクラスでは、特に女性の描かれ方に
みんな敏感に反応します。ギリシャ人男性・ニコの脚本は、クローズアップの連続
と詩のようなナレーションで構成される独創的で興味深いものでしたが、女性陣か
ら矢のような批判を浴びせられました。議論は白熱どころか大騒ぎになり、私には
到底ついて行けません。
しかし断片的に聞き取った言葉から推測すると、どうやら女性の身体の各部(耳、
腹、足、胸など)を順に見せる手法に反感を感じた女性が多かったようです。議論
が功を奏したのか、翌年の5月に完成した彼の作品では女性の扱いはかなり違うもの
となっていました。
こうした議論を経てピッチのアイデアは変貌し、人によっては完全に題材を変えて
しまいます。かくいう私も脚本二稿目で、それまで企画していた個人的な体験を題
材としたドラマをやめ、サンフランシスコの日本町を題材にしたドキュメンタリー
を撮ることにしました。そしてDress rehearsal(ドレス・リハーサル:ショットリ
スト、スケジュールなどを提示)の段階でさらに、ピッチとしてご紹介したセル
フ・ドキュメンタリーに変えました。しかし最終的にできあがった映画はまた少し
違うものになっています(企画の変遷の過程は書ききれないので、次回以降に簡単
にご紹介します)。

さて二稿までクラスで発表した後、Critique session(クリティック・セッショ
ン)を迎えます。担当教授とは別に3人の教授を招き脚本を講評してもらうのですが、
かなり辛辣な意見が出るので戦々恐々です。そしてドレス・リハーサルを終え、予
算、スケジュール、ショット・リスト、脚本最終稿などをまとめたプロダクショ
ン・ブックを提出すると、ひとまず秋学期は終わりです。ピッチから脚本推敲の合
間に5分映画とは別な面白い課題が様々ありましたが、こちらもまた機会があればご
紹介したいと思います。

次の「プロダクション・プラクティス1」では撮影の実際的な技術を学びました。教
授はLarry Clark(ラリー・クラーク)という男性で(『KIDS/キッズ』の監督とは
別人)、フジフィルムびいきな彼は授業でしばしば日本映画に言及します。彼に限
らず我が映画学科の先生方はアジア映画に詳しく、特に日本映画好きな先生が多い
ことには驚きました。映画学科があるファイン・アーツ(Fine Arts)・ビルディン
グの廊下には、さまざまな映画の1シーンが描かれていますが、その中に黒澤明の
『隠し砦の三悪人』もあります。

最初の授業で、まずカメラクルーの役割分担が事細かく書かれたリストを渡された
ことを面白く思いました。D.P.(Director of Photographer: 撮影監督) が監督と相
談して撮影方針を決めてカメラオペレーターに指示を出し、オペレーターはその指
示通りに撮影し、第1カメラアシスタントはオペレーターのためにフィルム装填やレ
ンズ交換をし、第2アシスタントは第1アシスタントを補助しつつカチンコを叩き撮
影記録を取る、と言ったことが6ページに渡って書かれています。この序列を崩して
第2アシスタントが直接D.P.に指示を仰いでしまうと撮影現場に混乱を来すようです。
学生の場合は実際の撮影ではせいぜいアシスタント1人とD.P.ということが多いので
すが、D.P.が1人で全部やるような場合でも、絶対にカメラマンとは呼ばずD.P.と呼
びます。職業としてD.P.を名乗る人は、カメラはもちろん照明、録音など映画制作
に関することは一通り何でもできるようです。

次にフィルムの選び方です。コダックが自社製品用に作成した宣伝ビデオを教材と
して見たのですが、宣伝用とは言えフィルムの特性をアピールしつつ良質な短編映
画に仕上がっていることに感心しました。そして露出計の使い方ですが、自分の露
出計を持つことを薦められ、私も教授推薦のセコニックのスタジオデラックスを買
いました。その次にようやく16mmカメラに触れることができました。アリフレック
ス16SRをメインに、エクレールやボレックスの使い方も教わりました。さらにアス
ペクト比や被写体深度について講義を受け、時にはサウンド・ステージ(照明機材、
大道具、小道具が揃った舞台)で、照明技術やドリーの使い方のワークショップを
受けました。
そして授業の合間に撮影課題を仕上げます。週末に各自で撮影して次の授業で上映
し、撮影時のトラブルなどを報告しつつ、教授から技術的な助言を受けます。まず
はデイライト・フィルムを使って3人編成で100feet(3分弱)ずつ野外撮影し、次に
クルーの人数を増やし、タングステン・フィルムを使って照明機材を使わない室内
撮影と使った室内撮影をそれぞれ行い、最後に好きな場所とフィルムでドキュメン
タリー撮影を行いました。私のチームは16mmフィルム撮影未経験者が多く、経験が
浅い私にもドキュメンタリー撮影でD.P.を務めるチャンスが巡って来ました。ちょ
うどオバマ大統領が当選した時期だったので新大統領をどう思うか街頭インタビ
ューし、なかなか良いインタビューがとれました。しかしアリフレックスは予想以
上に重く、片目でファインダーを覗き続けることには苦労しました。撮影したフィ
ルムはテレシネして、「プロダクション・プラクティス2」の授業の素材として使い
ました。

さて「プロダクション・プラクティス2」ではポスト・プロダクション作業を学びま
す。
教授はPat Jackson(パット・ジャクソン)という陽気なサウンド・デザイナーで、
豊富な現場経験を交えた話は面白く、教え上手で面倒見が良いという何拍子も揃っ
た先生です。『イングリッシュ・ペイシェント』のようなハリウッド映画の仕事を
メインとするようですが、日系アメリカ人監督が収容所体験を綴った『Rabbit in 
the moon(月のウサギ)』というドキュメンタリーの編集もしています。春学期に
私がドキュメンタリー映画の編集過程に進んだ時にはさまざまな助言をしてくれま
した。

授業では、デジタル、アナログ両方の映像と音の編集に関して全般的に学びました。
パットの授業で出される課題はどれも楽しかったのですが、中でも私のお気に入り
はSound and Image (音と映像)という課題です。映像はシングル・スチールかシン
グル・ショットでなくてはいけません。そして722携帯録音機というすぐれものの録
音機材を使って、肉声を一つ、野外の音を三つ含んだ10の音を集めます。音と映像
をパソコンに取り込みFinal Cut Pro(ファイナル・カット・プロ)で編集しますが、
音の編集には2トラック以上使うことが条件です。私はニコと一緒に課題に取り組み、
まずはFoley stageという完全防音の部屋で録音を始めました。この部屋の床には砂
利や木片が敷き詰められた場所、木材や鉄板が敷かれた場所などがあります。その
上で歩き回り、ガラス瓶を転がし、悲鳴をあげ泣き真似をし、日本語とギリシャ語
で喋り、と思いつく限りのことをして録音しました。野外では路上でバスやオート
バイの音、海岸で波の音を録音しました。映像素材には、学校のエレベーター前の
フロアを撮影したシングル・ショットを使いました。フロアの床は市松模様になっ
ているので、それぞれの四角を踏むと悲鳴や波の音が聞こえるという設定で、四角
から四角へ跳ね回ったパフォーマンスを撮影しました。ニコと私それぞれで1バージ
ョンずつ撮影し、自分のパフォーマンスを各自が音編集しました。基本のアイデア
は同じですが、二人の特性が出た違う作品にそれぞれ仕上がりました。この基本ア
イデアは私が思いついたので、教授にもクラスメイトにもとても評判が良かったの
は嬉しいことでした。

学期の後半には、Monaco(モナコ)というサンフランシスコで唯一のフィルムラボ
へ行き、「プロダクション・プラクティス1」で撮影したドキュメンタリーをテレシ
ネしつつ講義を受けました。テレシネした画像データをファイナル・カット・プロ
で編集し、そしてまたフィルムに戻ってパソコンで編集した通りにワークプリント
を繋ぐのが秋学期最後の課題です。まずパソコンで編集済みの映画のKeycode
(キー・コード:フィルムに焼き込まれているコード)リストを打ち出し、ワーク
プリントのキー・コードを確認し、リスト通りにカットして繋ぎます。慎重に事を
進めれば難しい作業ではないのですが、我がチームはあらゆるミスを犯し、結果的
に学期を通じて一番大変な思いをした課題となりました。しかし今考えると課題で
ミスを経験できたのは良いことでしたし、当時のドタバタぶりも楽しい思い出です。

最後に理論の「ノン・ナラティブ・フィルム」です。教授はJenny Lau(ジェニー・
ラウ)というやはり陽気な中国人の先生です。授業で読んだ『Unthinking Eurocent
rism(ヨーロッパ中心主義的思考を取り除く)』と『Romance and the “Yellow 
Peril”(ロマンスと「黄禍」)』はとても興味深い本でした。二冊とも日本語訳は
見つからなかったのですが、翻訳されていないとしたらそれが不思議なくらい、内
容的に日本人が面白く読めるものです。この他にもオリエンタリズムに関する文章
などさまざまなテキストを読みましたが、これらの中で、日本は国としては完全に
欧米側(搾取する側)として見なされていることに今更ながら気づきました。しか
し人種としては「黄禍」をもたらすアジア人として差別される側です。そうしたこ
とを考えていた時、アメリカ人のクラスメイトが台湾人のクラスメイトに言った
「日本はテクノロジーがあるから『西』、台湾にはテクノロジーが無いから
『東』」(台湾の技術力の高さは知られていないようです)という冗談を聞き、こ
れは『Unthinking Eurocentrism』そのままだと思いました。この本の中に「科学と
テクノロジーは西のものであると西の人間は考えるがそうではない。西と東が相互
依存してきた歴史を無視すべきではない」といったことが書いてあります。私はこ
のことをネタに提出課題を一つ書き上げました。アメリカ人のクラスメイトの冗談
をイントロダクションとして、アパルトヘイト政策下の南アフリカで日本人が「名
誉白人」という呼称を頂戴したこと、不思議にもその事実を喜ぶ日本人がいること
などを加え、『Unthinking Eurocentrism』に結びつけて書いたのですが、予想外に
良い成績をもらえました。書きかけの提出課題は二人に見せましたが、その時にア
メリカ人の彼は失言を認めて台湾人のクラスメイトに謝罪し、二人は仲直りしまし
た。サンフランシスコとはいえアメリカなので、この件のようにアジア人に関する
アメリカ人の考え方に疑問を感じることはしばしばあります。しかしこんな冗談を
みんなが言うわけではありませんし、彼はとても人柄がいい人で、アメリカに不慣
れな私と台湾人のクラスメイトを事あるごとに助けてくれました。

大急ぎなご紹介でしたが、秋学期はこういった調子でした。あまりにも大変でわけ
のわからぬままに終わってしまった学期でしたが、サイレントもしくは台詞なしで
も良い実技課題が多かったのが救いでした。

           (つづく)


■黒川 通子(くろかわ・みちこ)
1971年生まれ。明治学院大学芸術学科で映画理論を学ぶかたわら、イメージフォー
ラム付属映像研究所17期卒業。1996-2007年、財団法人多摩市文化振興財団で映画事
業の企画運営を担当。財団法人日本映像国際振興協会に短期務めた後、2008年より
サンフランシスコ州立大学映画学科大学院生として映画制作を勉強中。≪近況≫2年
生になって気が緩んだのか風邪をひいてなかなか治りません。1年生の時は異常な緊
張感のせいか、心身を酷使しても元気だったのですが。前回の原稿で誤解を招いて
しまいましたが、サンフランシスコの物価は東京並みに高いです!しかし私の近所
の中国人コミュニティでは比較的安くものが手に入ります。



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┃02┃□自作を語る
┃ ┃■『犬と猫と人間と』
┃ ┃■飯田 基晴
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●きっかけは猫おばあちゃんだった

「動物たちの命の大切さを伝える映画を作ってほしいの。お金は出します。」
劇場ロビーのベンチで見知らぬおばあさんにいきなりそう切り出された。
面食らった僕は「ハァ?」と口走りそうになりながら、一応は話を聞くことにした。

2004年4月、この日は僕の前作『あしがらさん』の上映があり、舞台挨拶のため劇場
を訪れていた。
おばあさんの話を要約すると、昔から猫好きで自宅で面倒をみたりノラ猫に餌をあ
げたり、何匹も世話してきた。しかし、自分ももう年で先も長くない。自由になる多
少のお金があるから、それを猫や犬のために使いたい。それで映画製作を思いつい
た、という。
しかしまったくの個人でドキュメンタリー映画の製作を依頼してくるとは聞いたこ
ともない。まして相手はけっこうなお年だ。悪いが僕は半信半疑だった。おばあち
ゃんのためにも、「もし動物のためにお金を使いたいというなら、映画製作よりも
動物愛護の団体とかに寄付するほうが確実で有効じゃないですか?」
と伝えた。
「あたしも以前は関わっていた団体もあったけれど、信用できないところもあるか
ら。」
そんな返事だった。しかし初めて会った僕は信用できるのか?
そもそも動物のことなんてこれまで関心もなかった。そんな僕に何を撮れというの
だ。
「あたくしは映画は素人ですから、具体的な内容は一切お任せします。」
うーん、こんな話ってホントにあるのか? 狐につままれたような気分だ。動物の
話だけに。もう夜も更けていた。とにかくまたあらためてお話を伺いますと、連絡
先を交換して別れた。

1ヶ月ほど経ってから、再び会うことになった。どうも猫おばあちゃんは本気のよう
だ。
僕には、断わる理由も、ない。
「僕でいいんですか?」「あたし、人を見る目はけっこう確かなのよ。」
ホンマかいな?と心の中でつぶやく。
「何にも注文はないんですよ。ただ、あたしが生きているうちに見せてくれれ
ば。」
こうして、僕の次回作が決まった。別れ際に、気になっていたことを訊ねた。
「何でそんなに猫なんでしょうね、思いの行き着く先が?」
「やっぱり何かを可愛がりたいんじゃないかしらねぇ。人も好きですけど、人間よ
りマシみたい。動物のほうが。」

そんなこんなで映画を作ることになり、気がつけば4年、東京、神奈川、千葉、山梨、
神戸、徳島、岩手、そして動物愛護の先進国イギリスまで、各地で取材をした。
主題にしたのは、捨てられた犬と猫。
日本国内では、年間30万頭以上の犬と猫が行政施設で処分されている。もしこれが
人間に対して行われたら、歴史に残る大虐殺だ。そのようなことを私たちの社会は、
毎年毎年行っている。
なぜこうなるのか、なんとかならないのか、そのヒントを求め、各地をさまよった。
見えてきたのは社会の矛盾というより、もはや人間の業。
苦しい取材になるに連れ、僕自身が希望を求めた。それは動物達が見せる素朴な
ユーモアであり、厳しい現実の中で捨てられた命を救おうと奮闘する大人やこども
たちの姿だった。
結局のところ、捨てるのも人なら、救うのもまた人なのだ。

何とか映画を完成させることができた。
しかし、猫おばあちゃん、稲葉恵子さんは2007年2月、映画の完成を見ることなくこ
の世を去った。
せめて僕はこの映画を、彼女と、取材で出会った今は亡き猫や犬に奉げる。

☆『犬と猫と人間と』2009年/HD/16:9/日本/118min
企画:稲葉恵子、監督:飯田基晴、撮影:常田高志・土屋トカチ・飯田基晴
音楽:末森樹、製作:映像グループ ローポジション、配給:東風、
宣伝協力:スリーピン、助成:芸術文化振興基金
『犬と猫と人間と』オフィシャルサイト: http://www.inunekoningen.com/ 
問合せ:東風 Tel: 03-5389-6605/Fax:03-3369-8228
E-mail: info@inunekoningen.com 

<上映情報>
東京:ユーロスペース 10月10日(土)よりロードショー
上映時刻 11:10/13:40/16:10/18:40  初日1、2回目には舞台挨拶あり
大阪:第七藝術劇場
愛知:名古屋シネマテーク、
神奈川:川崎市アートセンター/横浜・シネマジャック&ベティ
京都:京都みなみ会館
北海道:シアターキノ/苫小牧シネマトーラス
兵庫:神戸アートビレッジセンター
静岡:浜松 CINEMAe_ra
広島:横川シネマ
岡山:シネマクレール
新潟:十日町シネマパラダイス


■飯田 基晴(いいだ・もとはる)
1973年生まれ。95年、原一男監督の「CINEMA」塾に参加。その後、96年より新宿で
ボランティアとして野宿の人々と関わる。98年よりビデオ、テレビなどで野宿者の
状況を発表。フリーで映像制作をおこなう。06年、仲間と映像グループ ローポジシ
ョンを設立。他の監督作品は『あしがらさん』(2002年)、『今日も焙煎日和』(2007
年)など。



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┃ ┃□自作を語る
┃ ┃■『あがた森魚ややデラックス』
┃ ┃■竹藤 佳世
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●あがたさんって?

あがた森魚さんのことを何と呼べばいいのか、私は未だに迷う。
ミュージシャン、ボーカリスト、エッセイスト、詩人、俳優、そして映画監督、
プロデューサー、映画祭ディレクター…。
ここ数年、あがたさんが続けている、日記映画の月刊上映会という活動からすれば、
映像作家、というのも加わるかもしれない。
多才なアーティスト、という漠然としたイメージはあったものの、直接ご本人と関
わることになるとは思っていなかった私が、あがたさんのドキュメンタリーを撮る
ことになったのは、あがたさんと20年来の親交がある、監修の森達也さんの紹介に
よるものだった。
まずはスタッフから話を聞こうと赴いた新宿のカフェに、突然、あがたさんが現れ
た。
まだ、やるともやらないとも決まっておらず、ご本人に会うとは思っていなかった
ので、いささか面食らったと同時に、あがたさんのフットワークの軽さ、構えなし
に人に会える人柄が、ドキュメンタリの対象として魅力的に思えた。
あがたさんの数々の歴史を知る以前に、単純に「このおっさん、面白そう」という
ところから、私とあがたさんの映画づくりが始まった。
	
●歌うドキュメンタリストをドキュメントする

あがたさんのキャリアは、1972年に『赤色エレジー』でデビューし、それが大ヒッ
トしたことから始まっているが、さまざまな活動を経て、今あがたさんにとって、
「歌う」ということが、改めて大切なものになっている。映画は、60歳の節目を迎
えたあがたさんの「惑星漂流60周」と題したツアーに密着しながら進んで行く。印
象的なのは、どの会場でも、お客さんの顔がよかったこと。その土地の小さなライ
ブハウスで、20-30人のお客さんを前にして行われるライブは、逆に何も誤魔化す
ことができない、真剣勝負の場でもある。
そんな場所に、あがたさんはヒョッコリ現れるのだが、その時に、弾き語り用のギ
ターと共に、必ず小さなビデオカメラもステージに持参する。忘れた時には、一旦
ステージにあがった後でも、楽屋まで取りに帰る。ある意味、ライブを含めた日常
を、映画監督として演出しながら生きているようにも思える。
その虚実の隙間を、どうカメラではぎとっていくか。しかし、こちらから提案した
インタビューの機会はことごとくキャンセルされる。映画のことをよく知っている
だけに、そう簡単にお前の手の平で踊らないよ、といっているようでもある。
結局、あがたさんのルーツである、北海道まで夜行列車で追いかけることとなった。

●天然記念物に指定して、国が保護したら?

そんなあがたさんを、周りはどう思っているのか。あがたさんと親交のある方への
取材の中で印象に残ったのは、数十年来のお付き合いのあるアーティストたちの言
葉だ。
無謀とも思える構想を語るあがたさんを、時には諭すような場合もあるのだが、そ
の背景には、あがたさんとその作りだす音楽への、深いリスペクトがある。あがた
さんを表して「天然記念物」といった矢野顕子さんの言葉には、それが端的に表れ
ていた。
また、矢野さん始め、鈴木慶一さんや、あがたさんの音楽を支えてきたアーティス
トたちが集結した、九段会館でのライブは、とても贅沢でデラックスであると同時
に、その贅沢さはお金で買えないような種類のものであるということを感じさせて
くれた。
この映画のタイトルである「ややデラックス」は、そんなところに由来している。

●目標90歳

あがたさんは1948年生まれ、いわゆる団塊世代に当たる訳だが、この世代のパワフ
ルさに、到底かなわないと思うことがある。60歳にして60か所のツアーというのも、
その一つで、果たして自分が60歳の時にそんな気力があるのかというと、全くおぼ
つかない。
あがたさんの目下の目標は90歳まで歌うこと、なのだが、私もせめてそれを手持ち
で撮れる程度には、元気に年を取りたいと思うばかりである。
この映画を見た人に、そのパワーが伝わることを願っている。

☆映画『あがた森魚ややデラックス』
(2009年、カラー、90分、デジタル上映、アメリカン・ビスタ、ステレオ)
出演:あがた森魚、鈴木慶一、矢野顕子、久保田麻琴、緑魔子
監修:森達也、撮影・編集・監督:竹藤佳世、プロデューサー:石毛栄典

10/10(土)より渋谷・シアターNにてモーニング&レイトショー
公式ホームページ  http://www.yayadeluxe.com/ 


■竹藤 佳世(たけふじ・かよ)
映像作家集団「パウダールーム」代表として、上映会・ワークショップを等を企
画・開催。
若松孝二監督『17歳の風景』『実録・連合赤軍』にシナリオ・メイキングなどで参
加。
河瀨直美監督『殯の森』で監督助手務める。初の劇場長編監督作品『半身反義』
(2007)はロッテルダム国際映画祭ほかに出品された。



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┃03┃□ドキュメンタリー時評
┃ ┃■『あんにょん由美香』(監督:松江哲明、2009年)
┃ ┃■萩野 亮
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●1
『あんにょん由美香』は、一本のビデオテープをめぐって語り起こされる。『東京
の人妻 純子』と題されたその韓国製エロ映画のビデオテープは、映画作家の訪問を
受けた韓国文化研究者の室の、そっけない灰色をしたロッカーの奥にあまたのビデ
オテープとともに積まれていた。日本では、この一本しかないという。韓国でもっ
とも有名なコメンテーターであるという野平俊水さんによって収集されたそのビデ
オテープは、韓国で500ウォン(およそ50円)という値段で買い求められたものの、
処遇に困ってあるいは捨てられそうになってさえいた代物だ。野平さんにとって
『純子』は、きっとロッカーに横たえられた何本ものビデオのうちの一本にしか過
ぎないし、それらの映画は、一本、二本と数えあげられる「作品」という体裁をか
ろうじて保ってはいるものの、むしろマスとして取り扱われるべき「資料」として
所蔵されているに違いない。しばしば映画は、産業や芸術、また政治といった複数
の領野を横断する多義性ゆえに、あらゆる学問領域の研究資料としての役割を担っ
てきた。そのビデオは、まずもって「資料」だったのだ。韓国のエロ映画全体の傾
向について、饒舌に、人なつっこく語るにくめない野平さんは、けれど『純子』の
ことをよく記憶し、その主演女優についても「虜になりましてですね」とつよい印
象を抱いてさえいた。この韓国のエロ映画は、日本人の女優を主演に迎えていたか
らだ。

たとえば韓国国内だけでもどれだけの数が生産されてきたかもわからないビデオ
テープのなかで、とりわけ『東京の人妻 純子』が、柳下毅一郎さんをはじめとする
日本の批評家に発見され、さらにはイベントで上映され爆笑とともに迎えられたの
は、門間貴志さんが「フリクショナル・フィルム」として「とりあえず」定義した
ような、「ある特定の文化を異文化の側から描く際に生ずるギャップや文化的摩擦
をテーマにした映画、あるいは作者の側に必ずしもそのような意図がなくとも、そ
ういう観点で鑑賞し得る映画」(『アジア映画に見る日本I』、社会評論社)であ
るばかりではむしろなく、そのフィルムで欲求不満の淫乱な人妻を演じた主演女優
が「林由美香」という特権的な存在であったからにほかならない。林由美香という、
1970年6月27日に生まれ、2005年6月26日に急逝した女優について、ここで深く立ち
入る紙幅も資質も、わたしにはない。90年代から2000年代の前半を通じて、400本と
も500本ともいわれる数のピンク映画やAVに出演し、熱狂的な支持を得ては、多くの
映画作家に代表作を撮らせたこの女優については、『女優 林由美香』(柳下毅一郎
監修、洋泉社)という稀なる名著が多くを語ってくれている。『東京の人妻 純子』
が発見され、迎えられたのは、「林由美香」という女優が、いまも彼らのうちに二
度目の生を生きているからに違いない。

●2
このフィルムを駆りたてているのは、松江哲明監督のどこまでも個人的な由美香さ
んへの思慕だ。これまでの作品同様、きわめて主観的なテロップをつけることで全
篇を構成する『あんにょん由美香』は、ひとりの映画作家がひとりの女優に向けて
贈る、個人的なプレゼントでもあるだろう。これは、作中に引用される『硬式ペナ
ス』(監督:カンパニー松尾、89)や『由美香』(監督:平野勝之、97)における
ふたりの監督が「本人にさえ見てもらえればいい」、「由美香が80歳になったとき
にでも見てほしい」という構えで撮った、ラブレターならぬ「ラブビデオ」の方法
論を独自に継承するものであるといっていい。松尾監督がその作品において、由美
香さんに対するインタビューの流れに沿ってあまりにもなめらかに、けれど唐突に
さしむけた愛情の告白を、あるいは北海道の最北端で、平野監督が唐突にさしむけ
たある告白をあまりにもしなやかに受け入れた由美香さんの回答を、けれど『あん
にょん由美香』は持つことができない。いうまでもなくそれは、思慕の対象である
「林由美香」という女優が、もう存在してはいないからだ。

由美香さんはもういない。けれど彼女の出演した作品を記録したビデオテープやビ
デオディスクは、世界中に数え切れないほど「存在」している。この「不在」と
「存在」との非対称性は、なにも彼女の出演した作品に限られたものではもちろん
ない。複製芸術としての映画は、写真は、いまはもういないひとのすがたを生き生
きと甦らせる。だからこそ晩年のロラン・バルトは、一葉の母の写真にあれだけの
思いを注ぎえた。林由美香の幼げで大人びたすがたは、ピンク映画で無数のフィル
ムに焼き付けられ、AVでは無数の磁気テープに記録された。たくさんの由美香さん
が、いまも世界中に「存在」している。わたしたちは、彼女にふいに出会うことが
ある。彼女に会いにゆくこともできる。「スクリーンやビデオテープの中の由美香
さんこそが一番リアル」(公式パンフレット、柳下毅一郎さんとの対談より)だっ
たと語る、いわば遅れてやってきた松江監督の素直なことばは、由美香さんと実際
的な親交を持つはずもなく、作品を通じてしか出会いえないわたしたちにとって、
より真実であるだろう。だからこそこのフィルムは、たとえば林由美香の作品を一
度も見たことのないひとにとっても真に感動的でありうる。『あんにょん由美香』
は、作り手が求めたように、林由美香との出会いに開かれている。それは否定的な
ものを介して肯定へと至ろうとする、弁証法的な過程といえるかもしれない。かつ
てヴァルター・ベンヤミンは、顧みられることのないふとした過去の蓄積のなかに
こそ、救済の契機を見ようとしていた。

「私たちの心に羨望の念を呼び覚ますことがありうるこの幸福は、語りあえていた
やもしれぬ人びととともに、私たちに身をまかしていたやもしれぬ女たちとともに、
私たちが呼吸した空気のなかにしか存在しない。言いかえれば、幸福のイメージの
なかには、救済のイメージが、絶対に譲り渡せぬものとして共振している。」
(「歴史の概念について」、『ベンヤミン・コレクションI』、ちくま学芸文庫)

●3
故・土本典昭監督は、「ドキュメンタリーとは人と出遭う作業である」という美し
い一行をわたしたちに遺してくれた。『あんにょん由美香』もまた、「人と出遭う
作業」を積み重ねることでたえずゆたかにされてゆくドキュメンタリー映画の地平
に立っている。『純子』を見て、ただ笑い飛ばすのみの映画作家ではない。「これ
を作ったひとは、絶対にわるいひとじゃないと思った」と上映後のトークなどで何
度も語った松江監督の、おそらくは本人だけが触れえた直感。それをもとに、映画
作家はいかにも軽やかにひとと出会ってみせる。由美香さんの周囲にいた男たちの
表情はさまざまだ。この映画に対して、由美香さんに対して、それぞれが微妙な距
離を保ち続けているのがなまなましく記録されている。そうしてじわじわと『純
子』に接近してゆくなかで、ピンク映画のキャメラマンであり、『純子』の制作に
かかわった柳田友貴さんに出会う。35ミリはもう重いといってキャメラマンを引退
した柳田さんは、公園のベンチで少し遠い目をしながら、淡々と話を継ぎ、ふいに
こちらを見据えて「韓国、行こうねえ」とつぶやく。この一言からめくるめく韓国
への旅、映画への旅がはじまる。
映画が企画された段階から、そこへ行くことはあるいは決まっていたのかもしれな
い。おそらくはそうだろう。けれどもそうした作り手の企図とははなれたところで、
ひととの出会いが映画を駆動してゆく。作り手の思いと撮られる者の思いとが重な
り、映画は一本の奔流となって、流れてゆく。

ところで『東京の人妻 純子』のシナリオには、映画では採用されなかったラスト
シーンが書きこまれていた。純子に翻弄された男たちふたりがバーでことばを交わ
す。「純子はだれも所有できない女だ」。『あんにょん由美香』を見るものは、こ
のときだれもが「純子」と「林由美香」をそっと重ねるだろう。このラストシーン
が映像化されずにただ文字としてのみ遺されていたという事実を、だれもが胸に秘
めておきたいと思うだろう。けれども松江哲明の天才は、わたしたちのそうした感
傷的な思いを、渡航した韓国で直接『純子』を撮ったユ・ジンソン監督に伝えるば
かりか、その撮られなかったラストシーンを日本で撮ってほしいとさえ願い出る。
その無粋さ、あるいは無垢さ。信じられないと思う。けれどもその粋でもなく垢抜
けてもいない願いこそが、『あんにょん由美香』の奇蹟的というほかないラスト
シーンを用意するのだ。
撮影当日の朝。とくに何の思い入れもなく『純子』を撮ったユ監督、『純子』に出
たことで俳優の職を追われたキムさん、食えないときに仕方なく出演した入江さん、
そして柳田さん。かつての面々が笑顔でその映画のためにふたたび集まり、いかに
も自然に、なめらかに、「映画」と呼ばれる営為をはじめてゆく。「ready go!」と
いう監督の掛声でフィルムは回り、役者たちはせりふをいう。そして「cut!」の掛
声。これまであらゆる時代のあらゆる場所で、「映画」がそうして撮られてきたに
違いない。そして今日のそれはほかでもなく、女性スタッフのひとりがぽつりと口
にしたように、「由美香さんのため」に為されたものだった。

●4
『あんにょん由美香』において、映画作家が女優への思慕とともにたどり着いたの
は「映画」だった。松江監督は、制作中身の回りに不幸が続けて起きるなかで「自
分のなかで信じられるのはもう「映画」しかなかった」(前掲、パンフレットよ
り)と述懐している。わたしたちが真におどろくべきなのは、松江監督がこの作品
のあと、矢継ぎ早にというべきか、『ライブテープ』(09)というまったくスタイ
ルの異なる新しい映画を撮ってしまったことだ。これまで編集の見事さで数々のフ
ィルムを撮ってきた監督が、74分をワンカットで撮りきってしまった。前野健太と
いう稀代の唄い手が、元日の吉祥寺を唄いながら夕暮れに向かって歩き続けるさま
を、『あんにょん由美香』で35ミリのパートを撮影した近藤龍人さんの即興的セン
スに瞠目するほかないキャメラワークと、山本タカアキさんの立体的な録音でとら
えてみせた、空前絶後と評すべき傑作である。ごく自然にフレームインする松江監
督のいつもの軽快さを保ちながら、その実、作品全体の底面は死の色調で塗りつぶ
されている。『あんにょん由美香』で由美香さんへの思慕とともに「映画」へと降
り立っていった作家の営為を一種の「道行」としてとらえるならば、『ライブテー
プ』はそこから「生きていかなきゃね」という唄い手のシンプルでそれゆえ強靭な
メッセージとともにふたたび生(ライブ)の世界へと再誕してゆく作家自身のプロ
セスを記録しているのかもしれない。『純子』という一本のビデオテープから「ラ
イブテープ」へ。『ライブテープ』においておそらくはじめて自身を「監督」とし
てクレジットした映画監督・松江哲明の、まさに第二の生誕がここにある。ドキュ
メンタリー映画の地平は、『あんにょん由美香』と『ライブテープ』でたしかに更
新された。それは作家のフィクティヴな働きかけによって被写体の未知なるすがた
を記録し、主客ないまぜになって虚構とも記録ともつかぬ「映画」と呼ぶほかない
営為を生きてゆく、まさに「ライブ」としての映画表現の地平にほかならない。


☆『あんにょん由美香』
松江哲明演出・構成/2009年/DV/カラー/119分
現在全国公開中。山形国際ドキュメンタリー映画祭2009「ニュー・ドックス・ジャ
パン」にて上映。
☆『ライブテープ』
松江哲明監督/2009年/HD/カラー/74分
第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門にて上映。

■萩野亮(はぎの・りょう)
立教大学大学院現代心理学研究科修士課程在籍。映像身体学、映画批評。『ライブ
テープ』は本当にすばらしいフィルムです。中盤からわけもわからず涙が止まりま
せんでした。同じく東京国際映画祭の「日本映画・ある視点」部門では、劇映画の
『TOCHKA』(松村浩行監督)もとてつもない強度をもった問題作。ぜひ多くの方に
見ていただき、議論を交わしてみたいフィルムです。おっと、でもその前にヤマガ
タだ!
ブログ「filmemo」: http://rhgn.dtiblog.com/blog-entry-148.html 



┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃04┃□広場
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■投稿:「読む映画祭」はじまります!
     ~『シリーズ 日本のドキュメンタリー』刊行のお知らせ
■清水浩之(neoneo坐・短篇調査団)

一年ぶりの投稿ということで、御無沙汰しております。
私は今、10月6日に岩波書店より刊行が開始される『シリーズ 日本のドキュメンタ
リー』(佐藤忠男さん編著)の編集をお手伝いしています。このシリーズは、今ま
で研究や分析の届かなかった日本の記録映画・テレビドキュメンタリーを、テーマ
別に分類・再発掘していこう…という企画です。今年から来年にかけて書籍5巻・
DVD-BOX3巻を刊行しながら、その全貌に少しでも迫ることができれば…と考えてい
ます。そもそもなぜ私がこの企画に参加することになったか、その経緯についてご
報告したいと思います。

一年前の七月、いつもの神田小川町での「短篇調査団」の上映会(第70回・発電の
巻)に、岩波書店の編集者・渡辺勝之さんがいらっしゃいました。その頃渡辺さん
はドキュメンタリー映画のDVD化を考えていて、「会社の近所でなんか変な上映会を
やってる!」ということで覗きに来たのだそうです(笑)。発電/病/戦争/若者/
造船/しつけ…と続く「短篇調査団」のテーマ別プログラム(当てずっぽうです
が)が面白いとおっしゃる渡辺さんからはその後、彼が発足させた「ドキュメンタ
リー研究会」にお誘いいただきました。ここでグループ現代プロデューサーの川井
田博幸さん、映像作家・東京ビデオフェスティバル審査委員の佐藤博昭さん、岩波
映像顧問の井坂能行さん、元国際放映プロデューサーの鎌倉悦男さんといったメン
バーが定期的に集まり話し合った結果、「ドキュメンタリー作品を見る機会が少な
い!」という事実と、「ドキュメンタリー作品を知るための資料も少ない!」とい
う盲点に気付きました。そこで、書籍とDVDを連動させて「知る資料」と「見る機
会」を同時に提示し、様々な関心を持つ人に向けて、テーマ別の作品情報を構築し
ていったら…という企画が浮かんできました。

なぜテーマ別なのか?というと、ゆふいん文化・記録映画祭や山形映画祭をお手伝
いしてきて、新作の上映や作家別の特集とともに、そのときどきの関心に即して旧
作をテーマ別に編成すると、とても面白い発見があることを知ったからです。ヤマ
ガタ2007の科学映画特集が「映画ファン」とともに「科学ファン」を惹き付けたの
をはじめ、「鉄道」「建築」「環境」「食品」「祭」「万博」など、根強い“ファ
ン層”を持つジャンルが幾つも存在することがわかってきました。また、東京のお
客さんには“東京ならでは”の関心が、地方に住む方々にはその地域の現状ととも
に“東京とは違う”関心があるわけで、そうした人々の「見たい、知りたい」とい
う欲求には、膨大なドキュメンタリー作品をあらためて分類し直すことが、その活
用の場を広げるのではないか…と考えるようになったのです。

研究会を重ねるごとに企画は進展し、「政治・社会編」「生活・文化編」「産業・
科学編」という三つのテーマに大別しようということになりました。この試みに賛
同してくださった映画評論家・佐藤忠男さんが執筆する日本ドキュメンタリー史と、
監督、カメラマン、映画祭スタッフなど様々な立場の方によるコラムで縦横に構成
される書籍版、そしてそれぞれのテーマで注目すべき作品を集めたDVD-BOXが同時に
刊行されていく予定です。シリーズ全体の入門編として10月6日に刊行される書籍第
1巻「ドキュメンタリーの魅力」では、私は付録DVDの構成・編集を担当しました。
佐藤忠男さん・吉岡忍さん(ノンフィクション作家)・森まゆみさん(作家)・池
内了さん(宇宙物理学者)の四人が語る「ドキュメンタリーの魅力(見かた、作り
方、オススメ作品など)」。フィルムセンター提供による戦前作品のダイジェスト
版(1899年の『紅葉狩』、1912年の『日本南極探検』、1923年の『關東大震大火實
況』ほか)、そして来年1月から刊行されるDVD-BOX収録予定作品のダイジェスト
(『母子手帳』『流血の記録 砂川』『潤滑油』ほか)がご覧になれます。日本のド
キュメンタリーをあらためて「見る・知る」きっかけとして、220ページの本の中で
開催される「読む映画祭」のオープニングとして、多くの方に楽しんでいただけれ
ば幸いです。

岩波書店「シリーズ 日本のドキュメンタリー」紹介サイト
  http://www.iwanami.co.jp/j_doc/ 

また、刊行記念のトーク&DVD上映会を、山形映画祭期間中にアズ七日町向かい・八
文字屋本店で開催します。
10月9日(金)14時~:佐藤忠男氏のトーク、土本典昭監督作品『ある機関助士』
         『ドキュメント路上』DVD上映
10月10日(土)14時~:井坂能行氏・川井田博幸氏・清水浩之によるトーク、羽仁進
監督作品『教室の子供たち』『法隆寺』DVD上映
会費各日1000円、お問い合わせは八文字屋本店(023-622-2150)まで。


■日独仏実験映画祭
10月初旬に大阪で開催される日独仏実験映画祭で、この映画祭の今年のテーマは
「水/都市」です。
日独仏の興味深い作品上映、シンポジウムやワークショップが実施されます。なお
本誌執筆者、梶村昌世さんの作品『traveling time series : Ahrenshoop #01』、
『Envelope : Affectionately』が上映されます。

開催期間:2009年10月1日?9日
開催場所:シネ・ヌーヴォ(大阪市西区九条1-20-24)

なお、梶村作品の上映は以下の通りです:
10月6日 16:40時~ と 19:20時~
10月8日 18:00時~
10月9日 16:40時

詳しくは下記をご覧ください:
  http://www.cinenouveau.com/cinemalib2009/experimental3/jikkenn.html 
  http://www.goethe.de/ins/jp/osa/ver/ja4966186v.htm 


■山形国際ドキュメンタリー映画祭2009 自主講座
【山猫争議!】土本典昭の海へ

映画祭の期間中に、土本典昭監督をめぐる自主講座を、有志により「山猫」的に
開催いたします。ビール片手に(もう片手には柿の種♪)、どうぞご参集ください。

日時:2009年10月11日(日)22時─24時
会場:香味庵1階奥(山形市内)

登壇者:山根貞男+上野昂志+鈴木一誌+諏訪敦彦+
石坂健治(予定)+中村秀之+藤井仁子

ツチモトを忘れるな。記録映画作家・土本典昭(1928─2008)。その偉業をヤマガ
タの地で顕彰するのは、ドキュメンタリー映画を愛する者の務めであろう。これは
追悼シンポジウムではない。遺された映画のいまだ見尽くしえぬ「光」を、映画の
歴史・映画の現在へと召還するための、ワイルドキャットなアクションである。そ
の光にみちびかれ、山形の秋の一夜、幻視の党が編まれ、無償の言葉が放たれるの
だ。

*通訳無し、日本語のみ。 *聴講無料。参加退出自由。カンパ歓迎。

  http://wcnt2009.blogspot.com/ 
 企画:岡田秀則・中村大吾


■「今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭」 アンケート募集
山形映画祭(10月8日~12日)が間近い。今年のヤマガタはどんな相貌を見せるので
あろうか?インターナショナル・コンペティションやアジア千波万波で上映される
作品を始め、実力派作家による「ニュー・ドックス・ジャパン」、特集「シマ/
島」、さらに各種のセミナーやシンポジウムなど、今年も山形は映画の都になる。
本誌では、作品評のみならず、企画や運営面において気付いたことなど、アンケー
トを募集します。忌憚のないご意見を期待しています。奮ってご応募ください。

字数:原則として400字以内。
    (お名前とお仕事を明記ください。)
宛先: visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛
締切:2009年10月25日
掲載:本誌2009年11月1日号

   ◇────────────────────────◆◇◆    


■「自作を語る」などの投稿、歓迎!
「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や
撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま
す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー
ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。
原稿締め切り:配信日(1日&15日)の5日前までに、下記に送信ください。
E-mail: visualtrax@jcom.home.ne.jp  伏屋まで


     ◇────────────────────────◆◇◆    


■上映の告知の有料化とカンパのお願い
■伏屋 博雄(本誌編集長)

neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の
告知は有料にしています。なお皆様にカンパもお願いしていますので、ぜひご協力
ください。

(1)上映等の告知料は、 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき
2,000円(税別)です。それ以上の行数の場合は比例して加算します。

(2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。
送金方法:郵便振込み:00160-8-666528 neoneoの会、又は、
みずほ銀行池袋支店、普通口座、2419782 (有)ネットワークフィルムズ
(銀行振込の場合は、その由を visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛に
お知らせください。)
以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。



┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃05┃■編集後記 伏屋 博雄(ふせや・ひろお)
┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

●サンフランシスコ州立大学(大学院)で、黒川通子さんは毎日、映画漬けの生活
だ。英語に翻弄されながらも耳をそばだて、5分の映画づくりに邁進している。当初
に構想した題材はどんどん変容しているようで、この軌道は次回以降に明らかにな
るだろう。

ところで、この連載は3回をもって一時中断します。黒川さんが映画完成に向けて心
身を投入しなければならないからだ。続き(4回以降)は12月1日号より再開するこ
とになる。その間は、東京に最近誕生した素晴らしい試写室を紹介したい。オー
ナーのインタビューを掲載する予定である。

●「自作を語る」に二人の監督から寄稿があった。一人は『犬と猫と人間と』 の
飯田基晴さんからで、旧作『あしがらさん』は路上生活をする老人を追った作品だ
った。もう一人は『あがた森魚ややデラックス』の監督、竹藤佳世さんである。
『半身反義』に次ぐ2本目の作品だ。今回の投稿で、お二人が今なお制作を持続して
いることを確認し、心強く思った。新作は共に10月初旬に公開される。

●「ドキュメンタリー時評」の萩野亮さんは、松江哲明監督の『あんにょん由美
香』と『ライブテープ』を取り上げている。両作品とも琴線にふれる作品だったよ
うで、文章から熱がほとばしっている。

●山形映画祭について、アンケートを募集することになった。本誌読者の多くがヤ
マガタに参加するのでこの企画を温めていたのだが、当映画祭の矢野和之さんの投
稿(9月1日号)が後押しとなった。このなかで矢野さんは予備選考の方法を示した
うえで、次のように吐露していた。

「上映作品を実際に見て、批判なり何でも言ってほしい。かつて大阪で、映画新聞
という月刊の新聞が発行されていた。毎回の山形の映画祭について、各作品の批評
から運営まで、特集号のような形で、様々な観点からの批判が載った。実際に山形
で映画祭を目にして作品を見て書かれた多くの文章には大いに励まされたものだっ
た。」

優れた批判は今後のヤマガタにとって、大きな糧を生み出し、感動の言葉は何より
の励ましになるだろう。今年も盛り沢山の作品が上映され、シンポジウムやセミ
ナーも注目のイベントだ。おまけに、有志による自主講座「【山猫争議!】土本典
昭の海へ」もある。作品評はもちろんのこと、企画・運営面ついての発言もいただ
きたい。いずれにせよ多彩な視点による応募を期待している。応募方法については、
「広場」欄をご覧ください。



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■責任編集:伏屋 博雄
■編集デザイン:能川 悦子
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お手数ですが、ご自身でお願い致します。
注」デザインが崩れて見える場合は等幅フォント(MSゴシック、Osaka等)でご覧
ください!
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