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2009/05/15

ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 124号 2009.5.15

 
 
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┃n┣━┫o┣━┫e┣━┓ ★ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン
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  ┗━┛ ☆━┛ ┗━☆    124号  2009.5.15

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 †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち
       自分について、自作について (2)  金井 勝
 †02 ■ワールドワイドNOW ≪パリ発≫
       『実録・連合赤軍』のフランス公開  高橋 晶子
 †03 ■映画時評
       『チョコラ!』(監督:小林茂、2008)  萩野 亮
 †04 ■neoneo坐 5月後半の上映プログラム
 †05 ■広場
     ■『バックドロップ・クルディスタン』DVD発売記念イベント第1弾!
       上映作品『バックドロップ・クルディスタン』『今、僕は』
        5/19 アップリンクファクトリー
     ■『シャル・ウィ・シング?』、好評につき再上映!
        5/28 アップリンクファクトリー
     ■第12回ゆふいん文化・記録映画祭開催のお知らせ
        5/29・30・31 大分県由布院温泉
     ■「自作を語る」などの原稿募集!
     ■上映の告知の有料化とカンパのお願い
 †06 ■編集後記 伏屋 博雄


    ★バックナンバー閲覧はこちらまで
     まぐまぐ配信   http://blog.mag2.com/m/log/0000116642/ 
     melma!配信   http://www.melma.com/backnumber_98339/ 



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┃01┃□日本のドキュメンタリー映画のかたち
┃ ┃■自分について、自作について (2)
┃ ┃■金井 勝
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●私の徒弟時代

私の人間不信、社会不信は、大学生になってから益々強くなりました。
しかし、或いはそれは誰しもが経験することであり、「左翼でなければ文化人に非
ず」といわれていた時代でしたから、当時の悩める多くの若者は社会主義や共産主
義に〈希望〉を求めてもがいていたのだと思います。
けれど共産主義国家の盟主・ソ連はスターリンの時代であり、(キューバを除く)
多くの共産主義国家の情報に、私はかつての日本帝国と重なる部分を感じてどうし
ても親近感を抱けませんでした。

それでは宗教はどうかと必死になって禅宗を初めとする仏教などの書物にも眼を通
してみましたが、納得がいくものは見つかりませんでした。
そんな苦悶の日々の中で、〈望み〉を世界に求めることにして、主にロシア、フラ
ンス、アメリカ等の文学に眼を向けることにしましたが、そこで出会ったのがフラ
ンスのアルベール・カミユです。

片田舎の読書会でカミユの『異邦人』を取上げましたが、後に島尾敏雄の研究者と
なる2歳年上の従兄から、カミユの実存哲学の何たるかを知らされ、その不条理の哲
学に惹かれるものを感じたので「カミユ全集」を購入〜〜全身全霊を傾けてそれと
格闘しました!
そこから得たものは沢山ありましたが、フランスと日本では情況も違いますので、
それを基にして私流の実存哲学を構築〜〜生きることへの肯定的な考え方が芽生え
てきたという訳で、それが私の初期作品の思想的基盤となっています。

さて、親の反対を押切って〈映画〉を専攻したものの、果たして大手映画会社に入
れるのかどうか〜〜当時の殆ど全ての劇映画は大映・東宝・松竹・東映・日活・新
東宝で製作されており、映画が花形産業に見えた時代ですから東大を初めとする超
一流どころの学生がどっと押寄せて、特に助監督としては、〈日藝〉などから採用
されるのは極まれだということが分かってきました。(笑)

また、ある芸術雑誌(「芸術新潮」だったと思いますが)の〈芸術大学訪問紀〉で
映画学科が取材され、かなり厳しく批判されていました。
「幾つか卒業製作を見せてもらったが、学生が作ったとは思えないほど良く出来た
作品もあった。しかし若いのだからもっと冒険をしなければ駄目だ!」〜〜といっ
たような内容だったと記憶しています。

この〈訪問紀〉に刺激されたこともあったと思いますが、同級生の平野克己、神原
寛、谷山(康)浩郎の3名が中心となり、学校と掛け合って誕生させたのが〈日大映
研〉です。
その最初の作品は『釘と靴下の対話』(1958)でしたが、既に実験映画を作っていた
アメリカ人のドナルド・リチーや、松竹の助監督であった大島渚、新しいドキュメ
ンタリーを目指していた松本俊夫、野田真吉などを招いてその意見を訊き、多分に
その影響を受けていたようです。

後に知己を得る城之内元晴は一年後輩でしたが、学生時代には知りませんでした。
が、それらしい人物は眼に浮かんできます。
ガリ版刷りのチラシを片手に「シュール・レアリズムの巨匠、ルイス・ブニュエル
の『忘れられた人々』(1950)を見つけて来ましたので上映します!」と呼び掛けて
いたその男が、後で聞くとやはり城之内でした。
それはともあれ、私はこの映画との出合いによってシュール・レアリズムに惹かれ、
その芸術運動の根底となっている心理学者=フロイトの著作に没頭しました!

けれども、この〈映研〉に近づく訳にはいきません!
〈映研〉に深入りしたら卒業が危なくなりそうなので敬遠〜〜何がなんでも大手の
撮影課に入らねば親に合わせる顔がないと思っていたからです。(笑)
そんな訳で、学生時代には先の『釘と靴下の対話』以外の〈映研〉作品は見ておら
ず、1960年に大映東京撮影所の撮影課に就職した後、足立正生たち〈新映研〉が作
った35mm作品・『鎖陰』(1963)をATG・新宿文化のレイト・ショーで見て刺激を受け
ましたが、城之内の作品と出合うのは'70年代に入ってからのことなのです。

さて大映で、私が最初についたカメラマンは前年にアラン・レネ監督の『二十四時
間の情事』の日本の部分を担当した高橋通夫で、以後彼に認められて入所8ヶ月でセ
カンド助手(フォーカス・マン)に抜擢されました。撮影スタッフの編成は、カメ
ラマンと、チーフ助手、セカンド助手、サード助手、フォース助手から成っていま
したので、〈飛び級〉という奴です。(笑)

そのフォーカス・マンとして関わった作品には、『黒い十人の女』(市川崑監督
1961)、『春琴抄・お琴と佐助』(衣笠貞之助1961)、70mm映画・『秦・始皇帝』
(田中重雄監督1962)、『真珠の小箱から・夫が見た』(増村保造1964)などがあ
ります。

今になって思えば、衣笠監督には『狂った一頁』(1826)と『十字路』(1928)という
大傑作があり、日本の、否、世界の〈前衛映画〉の先駆者ですので、当時のことな
どいろいろと訊いて置くべきだったと後悔しています。
しかしそれでも、1999年の秋のロンドンで、その『狂った一頁』と拙作・『無人列
島』とがペアとなって上映されたことがあり、大変光栄に思っておるという次第で
す! (つづく)


■金井勝(かない・かつ)
1960年に日大芸術学部映画学科卒業。同年大映東京撮影所の撮影課に入り、高橋道
夫らに師事。'64年に同社を退社した後はフリーの撮影技師として様々な分野の映像
製作に携わる。更に'68年には〈かない勝丸プロダクション〉を結成――翌年から隔
年で『無人列島』、『GOOD−BYE』、『王国』の〈微笑う銀河系・三部作〉を自主製
作・自主上映――インディーズ・シネマの草分け的存在となる。その後、TVドキュ
メンタリー番組等の演出をしながら映像による詩歌集・『時が乱吹く』を'91年に発
表。最新作・『スーパードキュメンタリー前衛仙術』('03)は第50回オーバーハウ
ゼン国際短編映画祭で国際批評家連盟賞を受賞――また同第53回映画祭では《金井 
勝の回顧展》。'09年2月アメリカのイェール大学のイベント・《East Asia in Moti
on》に招待され、『無人列島』&『GOOD−BYE』の上映とシンポジュームに参加。
著書には「微笑う銀河系」(れんが書房新社)があり、また東京造形大学及びイ
メージフォーラム映像研究所等で後進の指導にあたってきた。
公式サイト「映像万華」: http://www.hinocatv.ne.jp/~katsu/index.html 

●金井勝監督情報

☆DVD-Box「金井勝の世界:The world of Kanai Katsu」発売中!
金井勝の全作品を5枚のディスクに収録したワン・ボックス。全編〈英語字幕〉付き。
和文・英文の作品解説つき。限定500部。
個人価格:2万円(税込み&配達料込み)
ライブラリー価格:5万円(税込み&配達料込み)
下記の金井宛にメールでご注文していただければ、郵便口座及び銀行口座をお知ら
せ致します。振込みを確認したうえで、≪ゆうメール≫などで配送します。
ご注文先: k-katsu72@mail.hinocatv.ne.jp 
かない勝丸プロダクション:〒191-0022東京都日野市新井737−7
Tel&fax:042-591-6168
なお、新宿御苑前の模索舎でも販売を開始しています。
  http://www.mosakusha.com/ 

☆DVD 販売記念上映会〜「金井勝の世界」(neoneo坐にて上映)
5月30日(土)14:00〜『歌・句・詩シネマ 時が乱吹く』
15:30〜『聖なる劇場』+『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』
16:40〜トークイベント「金井勝の世界」
    金井勝×山田勇男(映画監督)
18:00〜いらっしゃんせ〜KANAI BAR

5月31日(日)14:00〜『無人列島』
15:30〜『GOOD-BYE』
16:40〜『王国』
18:00〜トークイベント「金井勝の世界」
    金井勝×望月六郎(映画監督)
19:30〜いらっしゃんせ〜KANAI BAR

【料金】1プログラム・・・・・・1,000円
    予約:2日通し券・・・・4,000円
    31日券・・・・・・・・2,000円

詳細は、neoneo坐のサイトをご覧ください。
  http://www.neoneoza.com/program/kanai_katsu_no_sekai.html 



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┃02┃□ワールドワイドNOW ≪パリ発≫
┃ ┃■『実録・連合赤軍』のフランス公開
┃ ┃■高橋 晶子
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これまでも何回か(2006年・2007年)フランスにおける若松孝二監督作品について
neoneoで触れさせてもらっている。また同じ監督の話題もどうかと悩んだが、やは
り『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のフランス公開については書き留めて
おかねばならないと思い、その一端を少し話したいと思う。

作品の内容については皆さんすでにご存じであると思うので、フランスでの公開に
ついて話をしたいと思う。ベルリン映画祭や東京国際映画祭で話題になっていた作
品だけに、外国から配給のオファーはいくつかあったが、その中でも最も熱心にア
プローチをしたフランスのブラックアウトという会社が、自国のフランスを含めた
国際配給権を取得するに至った。

2002年よりDVD配給を中心に行ってきた小規模の会社ブラックアウトにとって、劇場
公開に足を踏み入れる事、ましてやその映画が外国映画で、しかも『実録・連合赤
軍』だという事はかなりの勇気と賭けであると同業者から言われたという。映画の
尺が3時間以上で、ドキュメンタリーとフィクションを混合させた「ドキュ・フィク
ション」と呼ばれるジャンルが近年フランスで敬遠され、また、あさま山荘事件が
あまりにもフランスで知られていないからである。さらに、2007年にフランスで劇
場初公開された1966年の旧作『胎児が密猟する時』がフランス文化省の検閲により
18歳未満禁止令を受けて以降、Koji Wakamatsuの名前は配給会社にとってリスクを
意味していたのだ。
しかし、ブラックアウトの代表の女性は、映画を見た時の衝撃が忘れられず、この
映画は絶対に配給しなければいけないと確信し、迷うことなく東京の若松プロの扉
を自ら叩きに出向いた。

そうは言ってもいざ公開の準備を進めていくと、日本の60年代・70年代の闘争やあ
さま山荘事件が全くと言っていいほど知られていないフランスでこの映画を発表す
るのは容易ではなかった。政治的なルートを駆使して映画を売っていくのも方法の
一つだったが、それだけは避けたいという願いもあった。ピンク映画の監督として
知られている以上、そうした根強いファンがいるのも確かだが、今回はもっと違う
層に働きかけなければいけないとも確信していた。

プレス用の試写をする度、上映後には何とも言えない重い空気が充満し、普段なら
感想を延々と語るおしゃべり好きな記者たちが皆一様に無言で去って行き、不安が
募った。ところがいざ監督をパリに迎えて宣伝用のインタビューが始まると、皆と
ても真摯に映画について考えている事が分かった。昨年は、ウリ・エデル監督がド
イツ赤軍を扱った『バーダー・マインホフ/理想の果てに』を発表し、イタリアの赤
軍を扱ったIl Sol dell'avvenireが昨年のロカルノ映画祭で物議をかもした後だっ
た故に、「なぜ今3国で赤軍についての映画が撮られるのか?」と問う記者も多かっ
た。監督は3日間で30件近いインタビューをこなし、その強烈な人柄にも皆ノックア
ウトされて帰って行った。大手の日刊紙やテレビ、ラジオをはじめ様々なメディア
が取り上げ、革命映画にありがちな「革命万歳」的な視点を排除した監督の視線、
俳優の渾身の演技、フィクション内でのアーカイブ映像の使われ方、キャメラの辻
智彦氏の映像などが挙げられ、軒並み絶賛である。

5月6日、パリではカルチェ・ラタンの映画館、サン・タンドレ・デザール館にて
ロードショーが始まった。観客の入りは好調だ。日によって上映後のトークも行わ
れ、そこではフランス人の観客だけでなく、在仏の日本人の方、特にあの時代を生
きた世代の方の意見も聞かれる。

フランス国内でのプリント数が4本という事で、地方の映画館には今後巡回していく
ことになる。いくつかの映画情報サイトの掲示板では、「自分の住んでいる街の映
画館でかからない!」と怒りの言葉が出た。そんな人たちに、ブラックアウトはこ
う答えているという。「そう、この映画のテーマはまさに反抗なのです。ぜひ、そ
の怒りを自分の街の映画館に伝え、上映してくれるようお願いして下さい。さもな
ければ、この国ではメジャーな商業映画しか上映されなくなってしまうのです!」


☆ブラックアウトBlaq Out
52 rue Charlot 75003 Paris  http://www.blaqout.com (仏語・英語)
DVDを販売するブティックも併設。他ではなかなか見つからない珍しいDVDも見つか
るので、パリにいらっしゃる際はぜひ足をお運びください。

☆「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」公式ホームページ国際版
  http://www.united-red-army.com (仏語・英語)


■高橋 晶子(たかはし・しょうこ)
横浜生まれ。フランスの言語・映画に魅せられ94年に渡仏。パリ第8大学映画学科
卒業。映画・TV関係のコーディネート・通訳・字幕翻訳及び助監督として活動。



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┃03┃□映画時評
┃ ┃■『チョコラ!』(監督:小林茂、2008)
┃ ┃■萩野 亮
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スワヒリ語で「拾う」を意味する「チョコラ」は、ごみを拾って生活するストリー
トチルドレンを名指す蔑称でもある。映画のなかで、小さい子どものからだを洗い
ながら若い母親はいう。「そんなに汚れていると、「チョコラ」って呼ばれちゃう
わよ」。ケニアのストリートに生きる子どもたちを取材した『チョコラ!』は、け
れどもタイトルの末尾にいかにも威勢よく「!」をつけてみせる。それは厳しい現
状を生き、蔑まれながらも決してうたと踊りと笑顔を忘れない彼らの生きざまその
ままのようにもみえる。
映画は、現地で孤児院の運営などを行なうNGO「モヨ・チルドレン・センター」の代
表・松下照美氏のしなやかな活動ぶりに寄り添うものの、けれどもその活動報告の
ようなものにはなっていない。彼女の活動をひとつの軸として、それぞれに魅力の
つまった子どもたちの点と点をカメラによってつないでゆくことで、いくつもの物
語を織物のようにつむいでゆく。子どもたちをいちばん近いところで撮影する、そ
の果敢ともいえる身のこなし。『チョコラ!』は、おどろくべき肯定形の文体に貫
かれている。

ケニアのストリートチルドレンの厳しい現状に取材していながら、このフィルムは
底抜けの明るさでむしろ観るものを心地よく裏切ってくれる。その明るさは子ども
たちの持ち前の明るさなのであり、映画はその明るさをすこしも損なうことなく記
録している。サカキマンゴー氏の「親指ピアノ」のふしぎな音色が、そんな明るさ
をユニークに演出している。
ひとりの少年がこちらに向かって歩いてくるさまを写したファースト・ショットか
ら、まず何よりもフレームの切り取り方が絶妙だ。カメラの存在をすこしも意識す
ることなくフレームの中心に集合する少年たちをとらえた冒頭すぐあとのショット
や、ごみを満載したトラックが画面右奥に走り去ってゆくショットは、あたかも劇
映画のような完結性をもって挿入されている。佐藤真監督の『阿賀に生きる』
(1992)のカメラマンでもある小林茂監督と、そのもとで助監督やスチールを担っ
てきた吉田泰三氏がうみだす映像は、端整でありながら、同時に子どもたちにやさ
しく寄り添うしなやかさを兼ね備えている。子どもたちと同じ目線から、思い切っ
たクロースアップではじけるような表情を切り取ってみせてくれる。久しぶりに学
校へ行った少年の、授業中の不安と安堵の入り交じったような表情や、家出から久
しぶりに帰り、父親から烈しく責められる少年の複雑な表情といったような、いく
つものいとおしいクロースアップは、子どもたちとのたしかな関係から撮られた
『チョコラ!』のいちばんの見どころといっていい。

そしてどうしても語っておかなくてはならないのは、最後に語られるルシーダとい
う女性のエピソードについてだ。これは、モヨ・チルドレン・センターの活動を離
れて撮影された、二児の母親に向き合ったもので、フィルム全体のなかでも明らか
に違った気分をもっている。まだまだ小さい男の子のからだを洗い、外で水を汲み、
やがて夜が来る。彼女と同じくらいの年のころの女性が、ふいに近づいて来る。
「新しい石鹸。子どもの前で開けちゃだめよ、わかっちゃうから」と不敵な笑みを
こぼして、彼女は画面右手の扉の奥へと消えてゆく。ルシーダが何をして糧を得て
いるかがおぼろげながら判明する、衝撃的なショットだ。
「扉が閉められたあとに、存在可能な映画はない。それは恐怖であり、だから扉の
先へ行ってはならない。扉は見る者に向けて閉じられているのです。」
これは、ペドロ・コスタが自作『骨』(1997)について、溝口健二の『赤線地帯』
(1956)に重ねながら語ったことばだ(『ペドロ・コスタ 世界へのまなざし』せん
だいメディアテーク、2005年)。
『チョコラ!』と『骨』では、まるで映画的な気分が違いすぎることもまたたしか
だが、それでもこのショットで女性が消えてゆく扉は、まさにコスタが語るように
「見る者に向けて閉じられ」た扉としてある。その向こうには映画が耐えることの
できない「恐怖」が広がっており、それを写すことはもはや映画にはできない。そ
の直後の食事のシーンで、雑踏のノイズとともにオフの声として聞こえてくる先ほ
どの女性の声。「ねえ、わたしは別の男を探しにゆくわ」。先ほど扉の向こう、す
なわちフレームの外側へと押しやったはずのものが、声としてフレームに再帰する。
カメラは彼らをフレームの内側にあたかもいつくしむかのように、家族三人が同じ
ベッドに入り就寝してからも、固定したフレームをそのままにし続ける。フレーム
が、何かを暴き立てる力としてではなく、むしろその存在を束の間保護する皮膜の
ようにしてある、きわめて美しく強靭なショットだ。『チョコラ!』の底抜けの明
るさの外側にたしかに存在しているもの、それは想像することしか許されない。け
れどもこのフィルムのすばらしいショットの数々は、つねにフレームの外側を想像
させてくれる。

映画は記録メディアとしての本性上、肯定形でしか叙述を行なうことができない。
カメラで対象を写すという行為は、対象がそのときカメラの前にたしかに存在して
いたことを肯定することである。このフィルムで編集・構成を担当するはずだった
佐藤真がとりわけ『阿賀に生きる』や『まひるのほし』(1999)、『花子』(2001)で
行なったこととは、フレームに枠取られた彼らの生を、ひたすら肯定することだっ
たように思える。「特別協力」としてクレジットに流れる、いまはいない彼の名前
に、複雑な思いを抱いたのはきっとわたしだけではなかったはずだ。佐藤真論はわ
たしたちが書かねばならないものであり、そして映画において撮られねばならない
ものだ。今日ここに見ることのできる『チョコラ!』が、佐藤映画を継承する傑作
であることはおそらく間違いない。


☆『チョコラ!』
小林茂監督/カサマフィルム/2008年/94分/HD/スタンダード/カラー
公式サイト: http://www.chokora.jp 
現在ユーロスペースで上映中!
5月16日より新潟シネ・ウインド、十日町シネマパラでの上映を始め、
各地に拡大上映。


■萩野 亮(はぎの・りょう)
立教大学大学院現代心理学研究科修士課程在籍。映像身体学。この春からまた学生
になりました。今後は研究と批評の両輪で、ドキュメンタリー映画について考えて
いきたいと思っています。
ブログ「filmemo」: http://rhgn.dtiblog.com/blog-date-20090514.html 



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┃04┃□neoneo坐 5月後半の上映プログラム
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会場はいずれも神田・小川町のスペースneo(都営新宿線小川町駅B5出口より徒歩1
分JR御茶ノ水駅聖橋口より徒歩5分)です。詳細と地図はneoneo坐のHPをご覧下さい。
  http://www.neoneoza.com/ 

■DVD 販売記念上映会?金井勝の世界
2009年5月30日(土)・31日(日)
→巻頭に掲載した金井監督の記事の文末「金井監督情報」をご覧ください。



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┃05┃□広場
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■『バックドロップ・クルディスタン』DVD発売記念イベント第1弾!

昨年劇場公開され話題を呼んだ映画『バックドロップ・クルディスタン』がついに
DVDになります(6月5日発売)。DVD化を記念して、イベント上映決行!特別併映作
品は今年アップリンクで公開され、日本版ダルデンヌ兄弟と評判を呼んだ『今、僕
は』。くしくも83年生まれ25歳の両監督が現代日本に提示しているものは何なのか、
是非ご覧下さい。上映終了後両監督によるトークショーもあ
ります。

日時:5/19(火)18:30開場/19:00開演
料金:一律 ¥1,500(1ドリンク付き)
場所:アップリンクファクトリー
渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F tel.03-6825-5502

【上映作品】
『バックドロップ・クルディスタン』(2007/102分/日本語・トルコ語)
監督:野本大
2004年、映像系の専門学校の卒業制作の主題を探していた野本は、偶然埼玉県で開
催されたクルドの新年祭に参加する。彼はそこで日本で暮らすカザンキラン家の
人々と出会い、彼らを主役にした卒業制作を企画するが企画段階で却下される。そ
んな中、父アーメットに強制送還の危機が迫り、野本は専門学校を中退して彼らの
姿を追い始める。
※2008年劇場公開作品
ホームページ  http://www.back-drop-kurdistan.com/ 
予告編  http://www.youtube.com/watch?v=CWm6kjJjB1A 

『今、僕は』(2007/87分/日本語) 監督:竹馬靖具
母親とふたりで暮らす20歳のニート、悟。テレビゲームと漫画雑誌、ジャンクフー
ドと寝ること以外、すべてを拒否している。 ある朝、悟の前に母親の友人である
藤澤が現れ、半ば強引に彼を仕事場へ連れて行く。美しい自然の中に立つワイナ
リー。だがそこでは悟の社会的能力の欠落が痛々しいほど明白になる。悟を救おう
とする藤澤の必死の努力や、仕事を続けていくことの現実、予期せぬ悲劇が、徐々
に悟を狂気へと押しやっていく。
※2009年劇場公開作品
ホームページ  http://www.ima-bokuwa.com/ 
予告編  http://www.youtube.com/watch?v=Kzf0sw_b0XA 


     ◇────────────────────────◆◇◆    


■『シャル・ウィ・シング?』、好評につき再上映!

東京、渋谷の映画館アップリンクで、拙作のニューヨーク男声合唱団のドキュメン
タリー『シャル・ウィ・シング?』の20分短縮版が、再度上映されることになりま
した!

インド、ドイツ、イランからの短編と併せて「世界の短編映画ドキュメンタリー
編」特集で上映されます。前回見逃された方など、是非、お知り合いにも宣伝いた
だき、お誘い合わせの上お越しいただければと思います。

渋谷アップリンクにて 1日2回の上映
日時:5月28日(木) 一回目の上映開始:19:30- 2回目の上映開始:21:00-
1000円(ドリンク付き)上映時間 約60分
詳細は以下のウェブサイトでご覧いただけます。
  http://www.uplink.co.jp/factory/log/002945.php 

「シャル・ウィ・シング?」の公式ウェブサイト
日本語のページ
  http://www.un-nun.org/japanese/productions/shall-we-sing/index.html 
英語のページ
  http://www.un-nun.org/productions/shall-we-sing/index.html 


     ◇────────────────────────◆◇◆    


■第12回ゆふいん文化・記録映画祭開催のお知らせ

12回目を迎えるゆふいん文化・記録映画祭が5月29・30・31日の3日間、大分県由布
院温泉で開催されます。同時に第2回松川賞の大賞が発表されます。今回のテーマで
ある「ゆうゆうたる持続」は、故松川八州雄監督が「諸橋轍次と『大漢和辞典』」
の中で使った言葉です。文化・記録映画祭はこの尽きることのない「ゆうゆう」と
流れる「ジカン」楽しむ、あるいは認識する映画祭です。
今回もその魅力たっぷりの作品が揃いました。

5/29(金)前夜祭〈追悼土下典昭監督〉として『路上』『わが街わが患者―石川さ
ゆり水俣熱唱』の2本を上映します。土本監督は第1回から第10回までほとんど毎回
のように取り上げ、土本監督自身も何度も当映画祭へ足を運んで下さいました。松
川監督同様、当映画祭の発展に大変ご尽力いただきました。今後も土本作品は継続
して上映してゆきたいと思います。今回はその最初の2本と思ってください。

5/30(土)松川八州雄監督作品は『飛鳥を造る』(1976年)と「諸橋轍次と『大漢
和辞典』」(1995年ポルケ)を上映します。
坂本雅子監督『花はどこへいった』(2007年シグロ)は昨年の話題作ですが、ゆふ
いんでは上映終了後、坂本監督とドキュメンタリー作家吉岡忍さんの対談を行いま
す。2人が1960年代末と現在のヴェトナム、そして日本をどう語るか興味津々です。

松川賞受賞5作品を一挙に上映します。第2回松川賞の受賞作は以下の通りです。
・『波の記憶 舟大工新城康弘の物語』 床田和隆監督 2007年
・『団旗の下に』 大須賀康之監督 2007年
・『面打/men-uchi』 三宅流監督 2006年
・『住民票を返せ』 金稔万監督 2008年
・『にっぽんの記憶 第二話 盆のはなし』 平田潤子ディレクター 2008年

5/31(日)『佐久間ダム』(1958年 岩波映画 高村武次監督)の上映後、松川賞
大賞の発表、及びシンポジウムを行います。参加者は吉岡忍、森達也、森まゆみ、
池内了の各氏を予定しています。
『型染め 江戸小紋と長板中形』(1985年 英映画社 山添哲監督)『木工芸 中
川清司のわざ』(2000年 日経映像)の2本は、文化庁の企画による職人者映画の新
旧の秀作です。
『嗚呼 満蒙開拓団』(2008年 自由工房 羽田澄子監督)はご存知の通り今年の
話題作です。
上映後に羽田監督のトークを予定しています。

最後に松川賞にご応募、ご協力下さいました皆様に、心よりお礼申し上げます。今
年も65本の力作を応募頂き、審査員ともども拝見させていただきました。多くの作
品が撮り続けられていること、「ジカン」に流されるのではなく、「ジカン」に刻
み込まれる映像に出会えることは、私たちのこの上ない喜びです。今後ともゆふい
ん文化・記録映画祭、松川賞をどうぞよろしくお願いします。
皆様のご来場を、豊かな自然と温泉あふれる由布院盆地で心よりお待ちしています。
詳しいお問合せは、下記映画祭事務局までお願いします。
TEL/FAX 977−84−4424または
URL: http://movie.geocities.jp/nocyufuin/home.html 


    ◇────────────────────────◆◇◆    


■「自作を語る」などの投稿、歓迎!
「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や
撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま
す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー
ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。
原稿締め切り:配信日(1日&15日)の3日前までに、下記に送信ください。
E-mail: visualtrax@jcom.home.ne.jp  伏屋まで


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■上映の告知の有料化とカンパのお願い
■伏屋 博雄(本誌編集長)

neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の
告知は有料にしています。なお皆様にカンパもお願いしていますので、ぜひご協力
ください。

(1)上映等の告知の有料化 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき、2,000円
です。それ以上の行数の場合は比例して加算します。

(2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。
送金方法:郵便振込み:00160-8-666528 neoneoの会、又は、
みずほ銀行池袋支店、普通口座、2419782 (有)ネットワークフィルムズ
(銀行振込の場合は、その由を visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛にお知らせく
ださい。)
以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。



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┃06┃■編集後記 伏屋 博雄(ふせや・ひろお)
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●金井勝監督が、学生時代の思想遍歴を綴っている。アイデンティティを求めて共
産主義や宗教の森を彷徨い、ついには実存主義に到り共鳴、とりわけアルベール・
カミユから大きな影響を受けたという。カミュの影響は金井監督の「初期作品の思
想的基盤となって」いるそうで、このくだりは、金井作品を理解するうえで興味深
い。

さらに注目すべきは、大映(撮影部)に入社後、「最初に師事したカメラマンは前
年にアラン・レネの『二十四時間の情事』(『ヒロシマ・モナムール』)の日本の
部分を担当した高橋通夫」だったことである。(そういえば、先ごろ刊行された写
真集『HIROSHIMA 1958』(インスクリプト)は、この作品に主演したフランスの女
優エマニュアエル・リヴァがロケの合間をぬって復興期の広島のスナップを収めた
もので、そのリリシズムは写真の隅々に満ちていて、感銘した。)

で、驚いたのは、金井さんがセカンド助手(フォーカス・マン)として取り組んだ
作品の中に、私が観た作品が数本あったことである。−たとえば市川崑の『黒い十
人の女』は、黒を基調にしたスタイリッシュな画面で貫かれ、山本富士子、岸恵子、
中村玉緒、岸田今日子などの顔のアップ、しぐさの妖しさは今思い出してもゾクゾ
クするが、そのフォーカスは金井さんが担っていたのだ!そして、金井さんの第一
作『無人列島』の映像の素晴らしさは、『黒い十人の女』から触発されたこと大な
のではないかと密かに想像したのであるが、いかがであろうか。

さて次回は最終回である。金井作品の背景にはどのような「びっくり箱」が隠され
ているのか、今から待ち遠しい。

●高橋晶子さんの「実録連合赤軍」のフランス公開レポートは、公開に至った経緯、
作品の反響を伝えていて、面白い。当初、本作品のフランスでの興業は危ぶまれた
という。政治(事件)を題材にしているうえに、連合赤軍についての情報は驚くほ
ど少なく、しかも3時間を超える長尺はリスクが大きすぎるというのが理由である。
しかし若松孝二監督は精力的にインタビューをこなし、その迫力はメディア動かし
たようだ。それにしても、したたかな配給会社だなぁ。

●萩野亮さんの『チョコラ!』(監督:小林茂)についての映評は、視覚的な書き
方に富んでいて、映像が鮮やかに眼に浮かぶ。なかでも、後半に綴る「ルシーダと
いう女性のエピソード」は、叙述が際立っている。映像の余韻は耳をそばたてずに
はおかない。すぐにでも確かめたくなり、劇場に足を運んでみたくなる。



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