2009/05/01
ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo 123号 2009.5.1
☆━┓ ┏━┓ ┏━┓ ┃n┣━┫o┣━┫e┣━┓ ★ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン ┗━┫e┣━┫n┣━┫o┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━○ ┗━┛ ☆━┛ ┗━☆ 123号 2009.5.1 ∽∽∽∽∽∽ HEADLINE ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち 自分について、自作について (1) 金井 勝 †02 ■ワールドワイドNOW ≪ロス発≫ UCLA土本典昭追悼上映会〜企画者による私家版レポート 水野 祥子 †03 ■列島通信 ≪名古屋発≫ 「佐藤真の世界〜ドキュメンタリー映画の未来へ」 越後谷 卓司 †04 ■neoneo坐 5月前半の上映プログラム †05 ■広場 ■展覧会:ドキュメンタリー作家 土本典昭 6/30日―8/30(月曜日は休室) 東京国立近代美術館フィルムセンター展示室 ■「自作を語る」などの原稿募集! ■上映の告知の有料化とカンパのお願い †06 ■編集後記 伏屋 博雄 ★バックナンバー閲覧はこちらまで まぐまぐ配信 http://blog.mag2.com/m/log/0000116642/ melma!配信 http://www.melma.com/backnumber_98339/ ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃01┃□日本のドキュメンタリー映画のかたち ┃ ┃■自分について、自作について (1) ┃ ┃■金井 勝 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ こんにちは、自主製作を始めて丁度40年になる≪かない勝丸プロダクション≫の金 井勝です。これから3回にわたって「自分について、自作について」を語らせて頂き ますが、この〈ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン〉としてはちょっと 異質な、或いは場違いなものになるかも知れませんが、ご容赦のほど何卒宜しくお 願い致します。 ●映画界に入るまで さてその第1回目として、〈映画人=金井勝〉の前史ともいうべきものを記させて頂 こうと思います。 私はあの2.26事件のあった昭和11年(1936)の夏に、神奈川の片田舎で農家の次男 として生まれ育ちました。 物心がつくようになると時代の流れの中で愛国教育を叩き込まれ、将来の夢は他の 子供たちと同様に凛々しい軍人になることでした。(今としては、笑!) しかし国民学校(現・小学校)3年生の8月15日に、その夢は無残に砕け散ります〜 〜!国家が騙し続けてきた〈嘘〉、学校が教え続けてきた〈嘘〉〜〜それらの 〈嘘〉が敗戦と共に白日の下に晒された時、一切のものが信じられなくなり純真無 垢な幼心は不信地獄へと突き落とされます! 〈愛国主義〉に変わって現れた〈民主主義〉という代物も、結局は狡い奴が勝つよ うな仕組みのように思えて、世の中への不信感は募るばかり〜〜それがトラウマと なって何時までも私を苦しめることになるのです。 仲間たちが新しい社会に順応してゆく中で、ひとり取り残されてしまった私〜〜中 学生になり何とかしなければと、もがき苦しんでいた時に読んだ小説に、こんな場 面がありました。 多分それは志賀直哉の私小説だったと思いますが〜〜作者が乗客のいない最終バス に乗っていると、やがて三高(現在の京都大学)の学生2人が乗り込んできて、彼等 は主人公(=作者)の文学について熱っぽく語り合っており、それを後ろの席でじ っと聴いている主人公〜〜そのシーンに何故か贅沢な生き方を知らされ、生きるこ とへの一筋の光明のようなものを感じました。後になって考えると、それが私の創 作者への〈芽生え〉となっていたような気もします。 しかし小説家に成れるほどの筆力があった訳ではないし、かといって音楽や美術も 駄目だったのでアーティストへの夢は夢のまた夢と諦めていましたが、残された唯 一の可能性が写真で、高校生の時に写真部に入ってからの作品は、それなりに良か ったと思っています。 そんな折、麦畑が何処までも広がる相模原の開拓地のど真ん中に、映画の全盛期と いうこともあって建てられた映画館〜〜ある時そこに(後に私が就職する大映株式 会社製作の)奇妙な3本立てが掛かったので学校の帰りに寄ってみました。 若尾文子と南田洋子主演による〈十代の性典〉シリーズ〜〜その2本に挟まれるよう な形で、そこにあの黒澤明監督作品・『羅生門』があったのです! 『羅生門』(1950)はベネチア映画祭のグランプリ作品として話題にはなってはい ましたが、それまで文芸作品と呼ばれるもので原作を凌ぐ映画を観たことはなかっ たので、正直なところそれほど期待はしていませんでした〜〜が、『羅生門』は全 く別でした! 芥川龍之介の小説は全て読んでいましたし、好きな作家のひとりでしたが、これを 見て、映画が初めて原作を超えたと思ったのです! 演出、脚本、美術、そして出演者などみな素晴らしく非の打ち所がありませんでし たが、特に撮影技師・宮川一夫の映像には驚かされました。当時のフィルムの感光 度は低く、暗い森の中での撮影は至難の業でしたが、太陽光線を大きな鏡を使って リレーするというアイデアで(その悪条件を)克服〜〜その確かな技術に、私は心 底魅せられてしまいました! その映画・『羅生門』が発表された1950年に、あの〈朝鮮戦争〉が勃発〜〜3年後の 7月に休戦となりました。 そんな中で日本経済は軍需景気(朝鮮特需)からやがて鍋底景気へと突入しますが、 他に娯楽がなかったこともあり、映画だけが輝いて見えました。 そして丁度その時期が高校卒業と重なったこともあって、私は日藝の映画学科(の 技術コース)に入学したという訳です。 世界的に見ると、TVの影響をもろに受ける形でハリウッド映画は徐々にその勢いを なくしていきますが、ヨーロッパからはちょっと難解で、魅惑的な個性を持った作 品が次々とやってきました。 一方邦画界も観客数が頂点に達した時であり、若者の映画への関心は高く同級生に は日比谷高校を初めとする名門校からきた者もかなりいて、そんな状況下で誕生し たのが実験作品を目指す〈日大映研〉でした。 話は飛びますが、一昨年オーバーハウゼン国際短編映画祭で〈金井勝回顧展〉が開 催されましたが、その時にヨーロッパの映画研究者の間で〈Nichi-Gei(日藝)〉や 〈Nichidai-Eiken(日大映研)〉が良く知られていたのには吃驚させられました! また今年、アメリカのイェール大学のイベント・〈East Asia in Motion〉に招待さ れましたが、ここでも〈Nichi-Gei〉や〈Nichidai-Eiken〉が英単語と化してパネ ラーの間を飛交っていました。 その〈Nichidai-Eiken〉の中心人物は、後にぼくのメイン・マンとなる〈Jonouchi Motoharu(城之内元晴)〉なのです! (つづく) ■金井勝(かない・かつ) 1960年に日大芸術学部映画学科卒業。同年大映東京撮影所の撮影課に入り、高橋道 夫らに師事。'64年に同社を退社した後はフリーの撮影技師として様々な分野の映像 製作に携わる。更に'68年には〈かない勝丸プロダクション〉を結成――翌年から隔 年で『無人列島』、『GOOD−BYE』、『王国』の〈微笑う銀河系・三部作〉を自主製 作・自主上映――インディーズ・シネマの草分け的存在となる。その後、TVドキュ メンタリー番組等の演出をしながら映像による詩歌集・『時が乱吹く』を'91年に発 表。最新作・『スーパードキュメンタリー前衛仙術』('03)は第50回オーバーハウ ゼン国際短編映画祭で国際批評家連盟賞を受賞――また同第53回映画祭では《金井 勝の回顧展》。'09年2月アメリカのイェール大学のイベント・《East Asia in Moti on》に招待され、『無人列島』&『GOOD−BYE』の上映とシンポジュームに参加。 著書には「微笑う銀河系」(れんが書房新社)があり、また東京造形大学及びイ メージフォーラム映像研究所等で後進の指導にあたってきた。 公式サイト「映像万華」: http://www.hinocatv.ne.jp/~katsu/index.html ●金井勝監督情報 ☆DVD-Box「金井勝の世界:The world of Kanai Katsu」発売中! 金井勝の全作品を5枚のディスクに収録したワン・ボックス。全編〈英語字幕〉付き。 和文・英文の作品解説つき。限定500部。 個人価格:2万円(税込み&配達料込み) ライブラリー価格:5万円(税込み&配達料込み) 下記の金井宛にメールでご注文していただければ、郵便口座及び銀行口座をお知ら せ致します。振込みを確認したうえで、≪ゆうメール≫などで配送します。 ご注文先: k-katsu72@mail.hinocatv.ne.jp かない勝丸プロダクション:〒191-0022東京都日野市新井737−7 Tel&fax:042-591-6168 なお、新宿御苑前の模索舎でも販売を開始しています。 http://www.mosakusha.com/ ☆DVD 販売記念上映会〜「金井勝の世界」(neoneo坐にて上映) 5月30日(土)14:00〜『歌・句・詩シネマ 時が乱吹く』 15:30〜『聖なる劇場』+『スーパードキュメンタリー 前衛仙術』 16:40〜トークイベント「金井勝の世界」 金井勝×藤岡朝子(山形国際ドキュメンタリー映画祭 東京事務局) 18:00〜いらっしゃんせ〜KANAI BAR 5月31日(日)14:00〜『無人列島』 15:30〜『GOOD-BYE』 16:40〜『王国』 18:00〜トークイベント「金井勝の世界」 金井勝×望月六郎(映画監督) 19:30〜いらっしゃんせ〜KANAI BAR 【料金】1プログラム・・・・・・1,000円 予約:2日通し券・・・・4,000円 31日券・・・・・・・・2,000円 詳細は、neoneo坐のサイトをご覧ください。 http://www.neoneoza.com/program/kanai_katsu_no_sekai.html ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃02┃□ワールドワイドNOW ≪ロス発≫ ┃ ┃■UCLA土本典昭追悼上映会?企画者による私家版レポート ┃ ┃■水野 祥子 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 4月17日金曜夜、 UCLAで土本典昭監督追悼の小さな上映会を開いた。映画学部の普 段教室として使っている上映会場は53席、座り心地いいとは言えない椅子でも、映 写やスピーカーのシステムは抜群である。 開演の7時。見慣れた人類学の先生、歴史学部の教授、日本文化や文学研究、中国研 究の学生さんたちも席について開演を待ってくれていたが、10席が埋まっていた程 度だった。この上映企画を監修してくれたセイジ・水田・リピット教授と顔を見合 わせて、大劇場だったら青くなってたね、と言いながら、土本さん、基子さん、シ グロ、スポンサー、そしてご来場者に感謝を込めて短い監督・作品紹介を始めた。 ところが私がもたもたとしゃべっている間に、三々五々と若い学生さんや一般の来 場者が現われ、15分後には会場の8割が埋まった。月並みな言葉だが、本当に嬉しか った。大劇場を使うドキュメンタリー上映会でも、こんなにお集まりいただくこと は度々あることではない。階下の大劇場だったらよかったのに、と後悔。 入場者の流れを横目に、『水俣〜患者さんとその世界』はノン・シンクロという、 ドキュメンタリー史の進化論ではハンディキャップと見なされる技術的制約だが、 この映画では、そこにむしろ証言者の声を解き放つような映像と音の関係があるか ら、とにかくじっくり見てください、というようなことを話して、この水俣シリー ズ長編第一作の上映をスタートさせた。 昨年2008年の6月に土本さんが亡くなられてからやがて一年。私が今年5月より暫く ロサンゼルスを離れることになり、ここでこれだけは絶対やっておきたい、と思っ たのがこの土本監督追悼上映会だった。年初に企画を始めて、水俣作品を全て見直 し、資料集めと勉強を続けた。映画に圧倒され、泣いて怒って、土本さんを心より 偲んだ。英語になった、または英語で書かれた水俣病に関する本が多くあるのには 驚いた。石牟礼道子さんの『苦海浄土』は、英語で読んでも、土本さんを再び水俣 へ導いた言葉に感動を受けた。ティモシー・S・ジョージ著Minamata: Pollution and the Struggle for Democracy in Postwar Japan (2002) も綿密な調査を基に、 患者さんの声を拾い上げた素晴らしい本であることも知った。しかし同時に土本作 品を語るものは少なかったことにも驚いた。いつか書いて見たいという気持ちを強 くした。 奮い立った後、ご著書を読み返しながら青くなった。私のような者にディスカッシ ョン進行という大役がつとまるだろうか、という不安だった。土本さんの著書には、 不知火海と患者さんたちへの「外者」としてのきっぱりとしたスタンスと同時に産 業によって失われた自然と健康、社会的抑圧を背負って生きる人々への強い思い、 繰り返される自己反省、幾度もの内省を乗り越えての新たな探求、その長い道のり を経て築かれた信条が、誠実に、明確に、論理的に語られている。恐れ多くなった が、もう後にはひけない。とにかく詰め込んで、考えて消化し、やってみようと思 った。 英文で6ページの今回上映作品『水俣?患者さんとその世界』と『ドキュメント・路 上』のクレジット、土本さんの(銃後の)戦争体験からはじまるバイオグラフィー に作品解説、水俣シリーズの概要を織り込んで配布することにした。これは、石坂 健治さん共著の「ドキュメンタリーの海へ」に追随し、映画前史が土本作品への理 解を深めると思ったからである。(実際、中国友好協会についてと上映作品につい ての質問があった。)末尾には、2004年のフィルモグラフィー展のカタログを基に、 英語のフィルムリストを添えた。英語版があるものに印をつけたのは、英語圏で、 特にアメリカで、これからますます上映されていくことを願ってのことだ。 何度もここで書いてきたが、私が土本さんとニューヨーク北部の大学で開催された ロバート・フラハティー・セミナーを前に、ご挨拶で仕事部屋をお伺いしたのは 2002年。翌03年、セミナー前後の10日間をご一緒させていただいてから6年が流れて いる。土本さんもフラハティーセミナーでのご体験を各所で思い出されて書き残し ているが、「ツチモト」、「ミナマタ」を知らない観客に果たして数時間でどの程 度水俣と土本が見た水俣を理解してもらえるだろうか、という疑問が私にもあった。 異文化圏の観客を前にしての大きなチャレンジである。 フラハティー・セミナーでは土本さんも同じようなことを考えていたと書かれてい る。しかし、ご自身は控えめに書かれているが、土本さんの映画には、言葉や文化 や時空を越えた力がある。『ドキュメント・路上』上映後のディスカッションにて、 土本さんは私も全く知らなかった製作の秘話を披露してくださったが、観客がそれ を本当に理解していたかは十分に把握できなくても、映画が観たひとたちを惹き付 けていた。土本さんは様々な肌の色の若い学生や映画作家たち、大学教授らに取り 囲まれて、感謝の言葉を受けながら質問攻めにあっていた。 土本さんは逝ってしまわれたが、この追悼上映の最中にも後にも、この小さな会場 もあの時のような観客をつくった、と感じた。泣いている人もいたし、笑う声も。 鼾をかいて居眠りする20歳ぐらいの学生を後の先生が起こしていたとき、土本さん と大津幸四郎さんが、カナダの映画上映の旅の途中で、上映中でも落ち着きのない 子供たちがなにかひとつの鮮やかなイメージを覚えてくれていれば、と願ったと書 かれているのを思い出した。 ディスカッションでは、撮影当時から今日までの水俣に関する質問から、土本さん の水俣作品の移り変わりについてまで、主題的にも、映画的にも映画が観客を掴ん だことが手にとれた。発話体と声の関係というテーマはドキュメンタリーの倫理的 な視点からも非常に重要なテーマであるだけに、質問や意見も多かった。この映画 は、話し手である患者さんや支持者の声を生かしながらも、患者であることだけで 受けた偏見や差別、チッソ城下町というカンパニータウンの複雑さ、意図的な企業 と行政側の管理の怠慢を、イメージと音の拮抗でも表現されることに触れると、特 に株主総会での浜本フミヨさんの声は状況音がない状態であるが、これに関して当 時から今日までなにか批判的言及があったか、という質問も。ユージン・スミスと の接触があったのか、土本さんはスミス氏をどう評価していたのか、という質問も。 一問一答をご披露したいが、またの機会に。 ■水野 祥子 UCLA 映画史研究。近況:明後日から東京へ。打合せ、資料の整理と100冊以上の図 書館に返却する本の整理に追われて、飛行機に乗っている自分すら想像できませ んー。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃03┃□列島通信 ≪名古屋発≫ ┃ ┃■「佐藤真の世界〜ドキュメンタリー映画の未来へ」 ┃ ┃■越後谷 卓司 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 去る2月7日(土)から11日(水・祝)にかけて、名古屋シネマテークにて「佐藤真の世 界〜ドキュメンタリー映画の未来へ」が開催された。2007年に逝去された佐藤真監 督は、小川紳介、土本典昭といった、現代日本のドキュメンタリー映画の礎を築い た作家たちを継承する、正統的なドキュメンタリーの作り手として精力的な活動を 続け、常にこのジャンルの表現の可能性を切り開き、牽引していてゆく存在だった。 それだけに佐藤真の不在というものが持つ意味は重く、もともとは正統的ドキュメ ンタリーに対するアンチテーゼであったはずの、プライベート・ドキュメンタリー と呼ばれる私映画的なアプローチが、実質的な主潮流となってしまった日本の現状 において、佐藤真の作品にどう向き合い、乗り越えてゆくかは、ドキュメンタリー とは何かを真正面から問い掛け、思考することに等しいと言えはしないか。 佐藤監督とは、2001年に愛知芸術文化センター開催された「第6回アートフィルム・ フェスティバル」で、『SELF AND OTHERS』(2000年)の愛知初上映をさせていただい た他、『まひるのほし』(1998年)や『花子』(2001年)を上映した名古屋シネマテー クの会場や、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」などで、何度かお会いすること ができた。作品や著作の印象から、理詰めで知的な人というイメージを勝手に頭の 中に作っていたのだが、実際にお会いすると非常にアグレッシブで活動的な方で、 映画の現場で数々の困難と向き合い、乗り越えることで形成された、人間としての 懐の深さや厚みといったものを感じた。また快活で、物事に対して前向きに、積極 的に関わろうとするポジティブな人物像も、自分の中にあった佐藤真像とやや異な っていたのだが、それだけに一層、その人柄にも魅了されたのだった。個人的な出 来事という意味でも、佐藤監督の死は、突然その知らせがもたらされたこともあっ て、掛け替えのない存在の大きな損失となり、身体に刻まれた。 今回の特集は、佐藤真没後、当地では初めての、まとまった形での作品上映の機会 でとなった。『保育園の日曜日』(1997年)と『女神さまからの手紙』(1998年)とい う、子供との暮らしから紡ぎ出された、貴重な私家版ドキュメンタリーといった趣 を持つ作品の上映も得難い機会といえるが、今回より大きな意味を持つのは、残念 ながらこれまで名古屋で上映されることがなかった、『阿賀の記憶』(2004年)が初 公開されたことだろう。デビュー作である『阿賀に生きる』(1992年)の現場を再び 訪れた作品といった事前情報や、タイトルが喚起する続編的なイメージからは大き く異なり、一種の日記映画というか、風景映画といった作りは、『阿賀に生きる』 の正統的ドキュメンタリーという相貌から、大きく異なり、逸脱するものだった。 かつて本誌「neoneo」で、佐藤監督逝去に際し追悼特集が組まれた時、監督が著書 の中で日記映画の創始者ジョナス・メカスに言及していたことを思い出し、実験映 画や個人映画も視野に入れた、柔軟な姿勢をもった作家ではなかったかと綴ったこ とがあるが、『阿賀の記憶』を観ると、佐藤監督の中には実験映画志向といったも のが、本質的にあることが分かってくる。それは、テーマ的には人間の死や不在を 撮ることとして、今は亡き写真家・牛腸茂雄を追跡した『SELF AND OTHERS』から継 承され、『阿賀の記憶』でより本質的に追求されたものだったのだ。ここにはまた、 正統派ドキュメンタリーの継承者と認識された佐藤真とは異なる、作家としてのよ り本質的な姿もあるのではないだろうか。本特集のサブタイトルとして掲げられた 「ドキュメンタリー映画の未来へ」とは、その意味で実に意義深く、佐藤真作品を さらに見直し、読み込んでゆく作業の先にこそ、ドキュメンタリーの未来はあるの だと信じたい。 ■越後谷 卓司(えちごや たかし) 愛知県文化情報センター主任学芸員 現在、6月12日(金)〜14日(日)、23日(火)〜25 日(木)開催のテーマ上映会「実験映画の長編&大作」の準備に追われている。ジョ ナス・メカス『ロスト・ロスト・ロスト』(1975年)や大木裕之『松前君の映画』 (1989年)など、ドキュメンタリーとも関連深い作品の上映も予定しているので、ぜ ひ足をお運びいただきたい。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃04┃□neoneo坐 5月前半の上映プログラム ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 会場はいずれも神田・小川町のスペースneo(都営新宿線小川町駅B5出口より徒歩1 分JR御茶ノ水駅聖橋口より徒歩5分)です。詳細と地図はneoneo坐のHPをご覧下さい。 http://www.neoneoza.com/ 「知られざる短篇映画を見てみる」上映会 「短篇調査団」 16mm上映 会費500円(作品資料付き/映画は鑑賞無料) 年貢のおさめどき4本立(計119分) (87)結婚の巻...2009年5月2日(土) 14:00〜16:00※大安吉日昼間の上映です 稲田家の結婚 1953年/17分/白黒/制作:エルモ社 ■私達の生活のまわりには、古い因習、しきたりが根強く残っている。稲田家の結 婚を例に、結婚とは何かを問いかける。 結婚する娘ヘ―父の愛― 1971年/28分/白黒/制作:学研映画 /プロデューサー:原正次・石川茂樹/監督:城田孝子/脚本:廣澤栄/撮影: 八木正次郎 ■娘の結婚に対する父親の複雑な気持ちと願いを描く。特に父親の不安は、娘が異 性を理解し評価できるかにある。娘が結婚の相手を選ぶ際の、父親の助言の必要性 とあり方を考える。 婚前教育のすすめ 1965年/40分/白黒/制作:ファースト教育映画社/企画:日本結婚センター /プロデューサー:高橋登/脚本・監督:上砂有弘/撮影:松本健二 ■婚前交際のあり方、結婚と遺伝、政略結婚の是非などの問題をとりあげ、婚前の 人たちとその両親たちに、正しいあり方を示唆する。 アイヌの結婚式―日本文化のふるさと― 1971年/34分/カラー/制作:グループ現代 /プロデューサー:小泉修吉/脚本・監督:姫田忠義/撮影:伊藤碩男/出演: 萱野茂 ほか ■アイヌを愛し、また誇りとするひとりの女性の申し出に端を発して、既に消滅し たアイヌの結婚式が復活した。アイヌ民族のユーカラ(韻文物語)とウェペケル (散文物語)を唯一の指針として復活した儀式を正確に記録し、そこに吹きあげる アイヌ魂を把える。 【料金】会費500円(作品資料付き/映画は鑑賞無料) 【お問合せ】清水 E-mail: shimizu4310@bridge.ocn.ne.jp ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃05┃□広場 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■展覧会 ドキュメンタリー作家 土本典昭 Tsuchimoto Noriaki: The Life of a Documentary Filmmaker 会期:2009年6月30日(火)―8月30日(日) *月曜日は休室 会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室(7階) 開室時間:午前11時―午後6時30分(入場は午後6時まで) 料金:一般200円(100円)/大学生・シニア70円(40円)/高校生以下、障害者 (付添者は原則1名まで)、MOMATパスポートをお持ちの方、キャンパスメンバーズは 無料 主催:東京国立近代美術館フィルムセンター 特別協力:映画同人シネ・アソシエ 2008年6月24日、日本のドキュメンタリー界を代表する映画作家、土本典昭監督が逝 去されました。1928年、岐阜県に生まれた土本は、1956年に岩波映画製作所に入社、 映画作りの研鑽を積むとともに、黒木和雄・小川紳介などドキュメンタリーの同志 との交流を深めながら、映画と世界とのかかわりを模索しました。 1963年には国鉄のPR映画『ある機関助士』のダイナミックな表現で頭角を現します が、その後に直面した水俣病の現実が、映画作家としての土本の生涯を決定づけま す。『水俣患者さんとその世界』(1971年)に始まる「水俣」シリーズは、撮影対 象に徹底して寄り添い、問題の深奥をえぐる一貫した姿勢を通じて国内外の観衆に 衝撃を与えました。また1980年代以降は主題の幅をより拡げ、その著作とともに今 日まで日本のドキュメンタリー界を牽引してきました。「映画は生きものの仕事で ある」との信念のもとに生み出されたその作品群は、社会への批判精神だけではな く、人間や他のあらゆる生命に注ぐ視線の暖かさによっても特徴づけられます。 監督の没後一年となるこの機会に、フィルムセンターは、ご遺族や製作プロダクシ ョンの所蔵する写真や遺品を中心とする展覧会を開催し、この記録映画の巨星の 思考と行動の軌跡をたどります。 *会期中、関係者・専門家によるギャラリートークを開催いたします。 *8月には関連の上映企画も行われる予定です。 詳細は後日ホームページなどでお知らせいたします。 〒104-0031東京都中央区京橋3-7-6 お問い合わせ:ハローダイヤル03-5777-8600 東京国立近代美術館ホームページ http://www.momat.go.jp/ ◇────────────────────────◆◇◆ ■「自作を語る」などの投稿、歓迎! 「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や 撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。 原稿締め切り:配信日(1日&15日)の3日前までに、下記に送信ください。 E-mail: visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋まで ◇────────────────────────◆◇◆ ■上映の告知の有料化とカンパのお願い ■伏屋 博雄(本誌編集長) neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の 告知は有料にしています。なお皆様にカンパもお願いしていますので、ぜひご協力 ください。 (1)上映等の告知の有料化 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき、2,000円 です。それ以上の行数の場合は比例して加算します。 (2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。 送金方法:郵便振込み:00160-8-666528 neoneoの会、又は、 みずほ銀行池袋支店、普通口座、2419782 (有)ネットワークフィルムズ (銀行振込の場合は、その由を visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛にお知らせく ださい。) 以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃06┃■編集後記 伏屋 博雄(ふせや・ひろお) ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●私は時折、金井勝監督の個人サイト「映像万華」を拝見している。ユーモア溢れ た文章が好きで、おまけに満載の写真にこちらの気分もよくなってくる。最近にな って、金井さんが全作品をカバーするDVD-Boxを自主発売されていることを知った (発売を記念して5月下旬にはneoneo坐で記念上映会が行われることにもなってい る)。サイトでは、2月のイェール大学での上映とアメリカの映画研究者たちとのシ ンポジウムの様子も報告されている。相変わらず旺盛な活動は眼を見張りばかりで ある。ならば本誌初登場をお願いせねば思い、先日お会いしたところ(久しぶりに 聞く金井節に堪能)、快諾を得、今回の実現となった。 そもそも私が金井作品に注目するのは、どの作品にも工夫が施され、一作一作相貌 を異にしながら、それでいてどの作品にも金井ワールドが炸裂している点である。 まず第1回目は、映画の世界に足を踏み入れる前史が語られているが、追々創作の秘 密が明らかにされてゆくものと思う。読者ともども期待したい。 ●水野祥子さんが「今年5月より暫くロサンゼルスを離れることになり、ここでこれ だけは絶対やっておきたい」と決意して、「土本典昭追悼上映会」を行った。幸い にも当日は盛会で、活発な意見が交わされたようだ。アメリカでは「MINAMATA」に 関する文献は膨大にあっても、土本作品の上映はまだまだ少なく、それだけに今回 の上映は意義深いものだったといえよう。 本文でも記されているが、土本監督と水野さんの出会いは今から7年前。私も同席し ていたが、この時の話し合いがきっかけとなり、翌2003年にニューヨークで開催さ れたロバート・フラハティー・セミナーでの土本作品上映へと結実化した。それだ けに、こうした水野さんのような黒子的存在が海外の作品への共感と理解を拡大さ せてゆくものだと実感せざるをえない。 ●佐藤真の監督論がいまだ真っ当に論じられていないと思うのは、私だけではない であろう。今回、越後谷卓司さんが佐藤作品の中で『阿賀の記憶』の持つ重要性を 指摘しておられるが、私もまたこの作品に内在する「人間の死や不在」がずっと気 になっている。彼の突然の死が衝撃的であったことを思えば、これから本格的な佐 藤真論が待たれるのである。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■発行:ビジュアルトラックス visualtrax@jcom.home.ne.jp ■責任編集:伏屋 博雄 ■編集デザイン:能川 悦子 ───────────────────────────────────── ★ご意見・ご感想はビジュアルトラックスまで ★いただいたメールには全て目を通しますが、必ずしも返信できるわけではありま せん。また、いただいたメールをこのメールマガジンに掲載させていただくことが ありますが、掲載不可の場合はその旨をお書き添えくださるよう、お願いいたしま す。 ───────────────────────────────────── ★バックナンバー閲覧、およびメールマガジン配信解除はこちらまで まぐまぐ配信 http://www.mag2.com/m/0000116642.htm melma!配信 http://www.melma.com/backnumber_98339/ ※編集部では配信解除、メールアドレスの変更などは受け付けておりません。 お手数ですが、ご自身でお願い致します。 注」デザインが崩れて見える場合は等幅フォント(MSゴシック、Osaka等)でご覧 ください! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright (C) 2003-2009 visualtrax



