2009/03/02
ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジンneoneo 119号 2009.3.1
☆━┓ ┏━┓ ┏━┓ ┃n┣━┫o┣━┫e┣━┓ ★ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン ┗━┫e┣━┫n┣━┫o┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━○ ┗━┛ ☆━┛ ┗━☆ 119号 2009.3.1 ∽∽∽∽∽∽ HEADLINE ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ †01 ■ドキュメンタリー映画のかたち 道具としてのドキュメンタリー(5−最終回) 「見ること」の力 川村 雄次 †02 ■ワールドワイドNOW ≪北京発≫ 極私的ドキュメンタリー 前田 佳孝 †03 ■列島通信 ≪埼玉発≫ 故・茂木正男さんへの手紙 村上 賢司 †04 ■neoneo坐 3月前半の上映プログラム †05 ■広場 ■上映:『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』 (監督:フォン・イェン)3/7〜3/27 渋谷・ユーロスペース ■「自作を語る」などの原稿募集! ■上映の告知の有料化とカンパのお願い †06 ■編集後記 伏屋 博雄 ★バックナンバー閲覧はこちらまで まぐまぐ配信 http://blog.mag2.com/m/log/0000116642/ melma!配信 http://www.melma.com/backnumber_98339/ ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃01┃□日本のドキュメンタリー映画のかたち ┃ ┃■道具としてのドキュメンタリー(5−最終回) 「見ること」の力 ┃ ┃■川村 雄次 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 最終回は、いつも取材先やスタッフと話し合っている、気恥ずかしいようなことを 書かせていただこうと思う。 認知症の人や家族を取材して番組を作ることについて、「難しいでしょう」とよく 訊かれる。「他の取材と変わりません」というのが、私の経験上の答えである。確 かに戦後史の中で、「痴呆」は強力なステレオタイプとスティグマとに付きまとわ れてきた。「可哀そうなもの」「隠すべきもの」という意識が今なお根強い。いわ ば「見えない存在」にしようとされてきた。その意識こそが、認知症の人の劣悪な 状態を作り出してきたことは既に述べた通りである。だが、まず家族が声をあげ、 本人たちも声をあげ、徐々に「目に見える存在」になりつつある。今は、そんな夜 明けの途上である。私たちが「取材先」と考える人たちの側にも、取材を受けられ ない理由もあれば、受けてもよいと思う理由もある。ただその理由が分かればいい と、取材者として私は思う。「それなら無理だろう」とか「何かわけがありそう だ」とかいうことが分かること自体が、「いま認知症とともに生きる」ことについ ての取材だと思うからだ。だから説得はしない。が、よくよく話を聞かせてもらう ことが出来れば、結果としてかなりの人が取材を受けてくれる。「どうして受けて くれるんですか?」と私の方が驚き、尋ねることもしばしばである。 2003年、クリスティーン・ブライデンの来日に同行取材した時、私たちは一つの困 難に行き当たった。「認知症に見えない」ということである。彼女は、道を歩くこ と、会話を楽しむことなど、以前、当り前に出来ていたこと一つ一つが難しくなっ ている。自分の「症状」のために周囲の人を困惑させたりしないように、出来たら 心地よく過ごしてもらうため、「普通のふり」をすることに全身全霊を投入する。 その疲労は想像を絶する。部屋に帰るなり倒れこんでしまうし、度を過ぎると偏頭 痛のため数日寝込むこともある。だが、25分ほどの番組を見ただけではそんな苦労 は分からないし、認知症と結びつけて考えることも難しいだろう。番組制作者とし て私たちは、彼女の言葉を伝えるためには、「彼女は認知症である」ことを示す映 像が必要と考えたが、彼女の「普通のふり」はなかなか綻びを見せない。どうすれ ば撮れるか?スタッフ間で話し合った。「無理をしないで、もっと楽に生きればい いのに…」と私は言った。その時、ともに同行取材を続けてきたカメラマンの言っ た言葉に、私は撃たれた。「人間として崇高な姿だと思うんだよね」。この一語を、 その後、取材を続けながらしばしば思い出した。 今朝あったことも忘れてしまう、未来のことを思い描けない、自分が自分でなく なっていく気がする…そんなおそらく人生最大の危機に直面しながら、なおかつ、 周囲を気遣い、威厳を保とうと全力を尽くす心の働き。危機であるからこそ発揮さ れる人間の底力のようなもの。クリスティーンが「普通のふり」にかなり成功して いるから言うのではない。作話、妄想、暴言、暴力など認知症の周辺症状として語 られるもののうちにも、「普通のふり」をしながら、あるいはそんなことも忘れる ほどに必死で生きようとする姿を感じる。卑小さも高貴さもさらけ出しながら、人 間としての全存在をかけて生きようとするひたむきさに感動する。美や崇高を感じ る。いま若者たちはこんなにも熱く生きているだろうか?私はどうだろうか?「ひ たむきに生きる」ということが、認知症になった人には出来て、認知症になってい ない人には出来ないとしたら、何とも寂しいことではないか? それは、撮らせてくれるのか、という問いへの答えにも通じる。「崇高」などとい う言葉を使わなくても、多かれ少なかれ光を見出した人たちなのだと思う。人間を 輝かせていた、認知能力の光が失われていき、闇が覆っていこうとする時、光源そ のものである「人間」が姿を現す。「人間」と出会う感動を味わっているのだと思 う。だが、それを美しいものとして輝かせるには、考古学者が地中から古代の碑文 を無傷で発掘し、そこに刻まれた古代文字を解読するように、手間暇と技術を要す る。なかなか周囲に分かってもらえない。出来ることなら、光とともにその「技 術」を伝えたい。そんな意志が、人々をして取材を引き受けさせるのだと思う。 時代の先頭を行く人は孤独である。褒められるどころか馬鹿にされる。自分でも間 違っているのではと思ったり、意味がないのではと思ったりする。今日もうやめよ うかと思っている時、テレビを見て、同じようなことを考えて実行している人が他 にいることを知れば、今日一日がんばってみようかと思うくらいの力が出るのでは ないか?今日が明日になり、数年になれば、もう歴史である。空間的に散在する光 の点と点とを結ぶ。過去の点と現在の点、未来の点を結ぶ。点が線になり、面とな り、光を増していく。 かつてはどうだったかわからないのが、テレビ番組一つで世の中が変わるとは考え られない。取材先に「番組を通して世間に訴えましょう」と言ったところで、その 「世間」がまじめに聞く耳を持っているのかどうかもわからない。私たちは、声を 上げてもたちまちに、闇の中に吸い込まれて消えて行ってしまう気がする、そんな 時代、社会の中で番組を作っている。それは、私たちの取材先が生きている時代、 社会でもある。一瞬光っても、光ることをやめたらたちまち闇に戻ってしまう。 だが、虚無に陥る必要はない。ドキュメンタリーを志す私たちに出来ることは、 「見る」ことである。そして「見た」と声を発することである。それだけは確実に 出来る。たとえビデオが回らなくても、番組にならなくても、一気に多くの人に分 かってもらうことが出来なくても、目の前の一人に対しては「見る」「見た」とい う経験を伝えることは出来る。テレビ番組は、電気信号の集合体であり、一度か数 度放送されれば虚空に消えていく現象であって、実体があるかどうか分からない。 だが、その現象に前後する、「見る」「見た」という生き物としての営みは確実に 存在し、続けていける。 認知症について私たちが作る番組は、NHKという組織の側から見れば、松江局なり 制作局文化福祉番組部なりのセクションに、「NHKの放送事業の一部」として請け 持たせたサラリーマンの仕事の産物である。だが、私は、何も番組を「NHKの側」 からだけ見る必要はないと思うのだ。「作り手の側」から見た「作品」として鑑賞 される必要もない。私は「人間の側」から見たい。「この時代を生きる人間の側」 「未来の人間の側」、あるいは「人間の生きる社会の側」から見たいと思っている。 21世紀の人間は、活字や映像などのメディアを使って、空間を越え、時代を超えて、 他の人間たちの経験、知を参照して、自らの生き物としても命の営みを豊かにしよ うとする。特に、1億以上の人間からなる社会の命を考えることについて、ドキュ メンタリーというメディアは、必要な判断材料、選択肢を供する、重要な役割を持 っている。「命の現場」に誰もが長く深く関わることは難しいだろうから。私たち の番組は、そんな、命を豊かにするための、「社会の営みの一部」であると考えた い。それは、医師、畳屋、土建屋、音楽家と営みと同列である。 ドキュメンタリーは、人間が人間として生きるための「道具」である。 認知症の番組を共につくり続けてきた仲間たちと私は、そう実感している。 (了) ■川村 雄次(かわむら・ゆうじ) 1990年NHKに入局。ドキュメンタリー、教養番組などを制作。2005年から制作局文 化・福祉番組に所属。主な番組『16本目の“水俣”〜記録映画監督 土本典昭〜』 『山村の巡回診療班はいま〜長野県佐久総合病院の50年』『クリスティーンとポー ル〜私は私になっていく〜』など。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃02┃□ワールドワイドNOW ≪北京発≫ ┃ ┃■極私的ドキュメンタリー ┃ ┃■前田 佳孝 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 一応北京発ということで、中国に於けるドキュメンタリー映画事情などを発表して きたのだが、今回は趣向を変えて僕個人のドキュメンタリー体験、或いはドキュメ ンタリー観を述べてみたいと思う。 昨年の10月に胡新宇(フー・シンユィ)が僕の家に泊まりに来た。胡新宇は北京大 学の新聞学部で行われるドキュメンタリー映画の講座に講師として招かれていて、 僕はその撮影を手伝ってくれと頼まれた。もちろん友人である胡新宇の頼みなので すぐに引き受けたが、ただ講義の内容を撮影するだけにとどまらない事など先刻承 知済みである。講義の内容は「アンダーグランド精神」ということで、マルキド・ サド、ロラン・バルト、ニューヨークのアンダーグランド映画作家の映像を引き合 いにだし、何故創作活動を続けるのかというテーマで胡新宇自らの経験と折り重ね ての非常に興味深い内容であった。講義の中盤、「本題から外れるが」と前置きを して語った彼のエピソードがとても印象に残っている。普段は山西師範大学で教師 の仕事をしている胡新宇だが、教壇立つときはおならをしたくても我慢をするのだ という。ある日、授業中にどうしてもおならを我慢できなくなった胡新宇は少し用 事があるのでと言い、席を外しトイレに行ってからおならをしたのだ。新聞学部の クラスの9割ほどは女の子だったのだが、このエピソードには教室が爆笑に包まれ た。胡新宇曰く、自分が教えている大学では生徒の前でこのようなことは決して話 せないが、ドキュメンタリー映画という個人的な行為に於いては何でも構わずに記 録することができる。世間体や周りの意見を気にせずに、自分の好きなものを記録 していくということで、普段は体裁を気にする一大学教授でも、DVを持てば一人の 創作者になることができる。なぜサドが監獄に入ってから創作活動を始めるように なったのか? それは世間から開放されて始めて知る自分の欲望に誠実になることができたからと の言葉には胸を突かれた。 講義は終始笑い声に包まれ、参考映像として流された胡新宇の作品『男人』を織り 交ぜて胡新宇の経験談が語られていく。最後は講義前夜に僕と胡新宇の二人でも討 論をしたジャ・ジャンクー問題を俎上に上げ締めくくることになった。なぜ今のジ ャ・ジャンクーの作品は面白くないのか?ズバリ言えばジャ・ジャンクーは「アン ダーグランド精神」を忘れてしまったのではないかという問題提起である。 講義を終え、僕の家に戻ってからも胡新宇はなんだか物足りない感じで、DVを持っ て僕のことを撮り始める。僕は自由にやってくれとはおもっていたものの、だんだ んと鬱陶しくなってくる。ネットを見ているとき、ゲームをしているとき、テレビ を見ているときから、風呂に入るときまで何でもかんでも絶えず回しているのだ…。 さすがに気になるので、そんなもの撮ってどうするんだと聞くと、撮りたいから撮 っていただけと返事が返ってくる。それじゃあ、あまりにも訳が分からないので、 この素材はどんな作品に使うのかと聞くと、今撮っているものはまとまりがなくて、 自分でもどう編集したらいいか分からないとのこと。だったら無駄に撮らずに少し 休めばいいじゃないかと言うと、そうじゃないと答えが返ってくる。彼がふと語っ た「どんな映像でも20年後に振り返ってみれば感じるものがあるかもしれないだろ ?」との言葉には非常に感動した。僕自身の事で言えば、ずっと撮り続けていた中 国のドキュメンタリー作家たちもただただ目の前の人物、出来事に心動かされ、気 づいた時にはDVを持って撮っていたのである。なんだ同じことじゃないか。 その後、家にいるのも退屈だから外に出て酒でも飲みにいこうとの言葉に誘われて 出たのだが、結果、まんまと胡新宇に乗せられてしまった。あまりよく覚えていな いのだが、腹の立つ大学の先生を一通り罵ってみたり、寂しいから彼女が欲しいな どとぼやいていたような気がする。ほかあまり文面ではいえないようなことも言っ てしまったような…。胡新宇にはその一部始終撮られてしまったのだ。 あんな失態を撮られてしまったとはいえ、胡新宇の初恋の物語など聞けたのでよし としよう。 今年の二月に僕の家に泊まりに来たもう一人のドキュメンタリー映画作家、呉昊昊 (ウー・ハオハオ)のエピソードも話したいと思う。胡新宇の友人で明日北京に向 かうから家に泊めてくれとのことだった。前々から彼の名前はネット上でも眼にし ていて、大学4年生にして今年3月行われる雲南映像フォーラムにコンペ1作品、学 生プログラム2作品の計3作品もが入選しているという実績には非常に興味があった。 初めて会う彼が手に携えてきたのは50枚ほどの彼の作品のDVD。何でも北京に来た のは自分の作品を売るためでもあるとのこと。どんな作品なのか聞いてみると、タ イトルは『批判電影学院』で、なんと彼は北京電影学院で売りたいと言い出すのだ (笑)。よくよく聞いてみると彼の通っている重慶の電影学院を批判したドキュメ ンタリー作品で北京電影学院のことではないのだが、「映画学校なんてどこも同じ ようなもの」という言葉には頷くしかない。さらに話を聞いてみるとどうやら彼は その重慶の電影学院に最初の一年足らずしか通っていなくて、普段は胡新宇も住ん でいる山西省太原市で作品を撮っているのだという。果たして全く出席せずに卒業 できるものなのかどうなのか、そこら辺の仕組みはよく分からないのだが、呉昊昊 曰く「テストの時だけ戻ってこなしていれば問題ない」とのことだった。そんな彼 の話を聞くと一気に好感がもてる。なんだか自分が妥協してきたことをストレート にやってきたのだなぁと思うとなんだか嫉妬心もこみ上げてくる。作品中でゴダー ルを同士と呼び、新共産主義に傾向する呉昊昊はどうやら僕の暮らし振りが気にな ったようで、プチブル前田批判のドキュメンタリーが撮りたいと言い出すのだ。人 の家に泊まりに来てしかも批判するとはなんという図々しさ…。呉昊昊によれば批 判は愛の表現で対話なのだという。僕だけ批判されるのも癪なので、僕から彼のこ とも批判するという条件で撮影を受けることにした。その日の夜は僕から彼へしっ かりとDVDを売って電影学院批判してこいと檄を入れて寝るのだが、次の朝なんと も彼らしいアクシデントの一報を受け、僕はDVを持って急いで電影学院に向かうこ とになる…。 朝が苦手な僕は早朝北京電影学院へとDVD販売に向かう呉昊昊を見送り昼まで寝て いた。昼ごはんを一緒に食べようと彼に電話すると彼からとんだ返事が返ってくる。 なんでも電影学院の警備員室で捕まっているらしい。この時期の電影学院はちょう ど入学試験でいくらか緊張しているのは分かるのだが、自分の作品を売るくらい何 が悪いのかと思い僕はDVを手に持って呉昊昊が捕まっている様子を撮影しに行く。 呉昊昊が警備員室で捕まっている様子を撮影しながら、どうして捕まったのか経緯 を聞いてみると、どうやら学校内でDVDを販売するには許可が必要だということが 分かった。しょうがないからそのままDVを回していると向こうは撮影するなと言う。 生徒が学校のことを撮影して何が悪い、なんて汚い体制なんだと言うと、どうやら 僕が在籍している監督科に連絡されたようで、そこから僕を学校外に追い出すよう に指示が出た。こうなってしまうとどうしようもないので「電影学院は黒社会みた いなもんだ」と捨て台詞を吐いて一旦学校の外に出る。しばらく待ってからやっと 出てきた呉昊昊に事情を聞くと、どうやら彼の方でも落ち度があったのだと分かる。 『批判電影学院』と書かれたDVDを警備員に売りつければ捕まってもしょうがない か…。それにしても長く捕まりすぎじゃないかと聞くと、後半は僕のことを弁護し ていたのだという。どうやら僕の捨て台詞が警備員長に対する罵倒と理解されたよ うで、大使館に連絡をして僕のことを退学にさせると脅されたみたいだ。そのこと を聞くと一瞬冷や汗が出るのだが、すぐにも理不尽な処理に憤りを覚える。呉昊昊 の言を借りればちょっと電影学院を批判しただけでこの対応、はじめ『批判電影学 院』なんてなんとも大仰なタイトルだと思っていたが、これはどうしても徹底的に 批判する必要があると確認することになった。 呉昊昊が必死に弁護してくれたおかげで僕はなんとか退学を逃れ、彼の方でも上手 くやったのだろう、10枚DVDを没収されただけで済んだ。午後は呉昊昊が偶然北京 電影学院で見かけたという彼の元同級生と三人でどうやってDVDを売るか作戦会議。 少し話がそれるが、この元同級生というのも非常に強烈なキャラクターで、重慶の 電影学院は環境の酷さに耐え切れず大学二年の時に自主退学しているという。環境 に悪さが原因だったため学費は一銭も払っていないと自慢げに言うのだが、今回は またしても北京電影学院を受験しに来ている。電影学院ならば学費は払うのかと聞 くと、そんなつもりは毛頭なく、お金がないので二年間在学して学費を払わず退学 する予定なのだという。結局午後は北京電影スタジオ内の映画学校の受験生をター ゲットにDVD販売を行うことになった。僕も呉昊昊を撮影する傍ら販売を手伝うこ とにした。 自分で自分の作品を街頭販売するドキュメンタリー作家を撮影するのも初めてだが、 それを手伝うのも初めて、これから映画学校を受験する受験生に向けて電影学院の 批判だよ〜といって売り込むのだが、大抵の人は怪訝な顔をして足早に去っていく。 それでも何人かの人は興味を示してくれて少しずつ売れていく。結局夕方まで北京 電影スタジオ内で粘って20枚ほど売れた。DVDの原価が3元もしないのに対して、 20〜30元で売っているのでいい商売である。夜は例の元同級生(名前を失念してし まった)と別れて呉昊昊と食事をして家に戻る。 夜は約束していた“プチブル前田”批判が始まる。呉昊昊は自分でDVを持ってきて いないので、僕の機材とテープを使って撮影することになった。図々しいことこの 上ないとは思うのだが、僕も午後は面白い素材を撮らしてもらったので何も言わな いことにしよう。ただ批判を受けるというのもつまらないので僕のほうからも彼を 批判していく。今回も胡新宇の時と同じように呉昊昊の初恋のエピソードを聞きだ すことに成功した。この初恋のエピソードというのが非常に面白くて、好きな女の 子と高校の頃から連絡を取らなくなって、彼女は大学はイギリスに進学してしまい、 今はどこにいるのだか分からないのだという。連絡が絶えてからも呉昊昊の彼女の への思いは日増しに大きくなっていくばかりで、今では彼女を信仰の対象にしてい るのだという。僕は彼女を思うのはいいことだと思うのだが、信仰の対象にするの はおかしいということを批判していたのだが、呉昊昊の熱意があまりにも強く最終 的には根気折れしてしまい、続けて彼女を信仰することを応援することになった。 呉昊昊は今でも彼女の消息を探していて、その過程をDVで記録しているのだという。 呉昊昊のほうは僕がこれだけ北京電影学院を嫌っているのになんで大学院に入ろう としているのかという点が気になったらしくそこを重点的に批判された。僕にもい ろいろな打算があって、とりあえずの安全策が院に入ることなのだと答えたのだが、 確かに呉昊昊に比べればプチブルなのかも…。 という感じで、僕が身近に接した二人のドキュメンタリー作家のことを書いたのだ が、彼らや僕の普段の制作風景なんかを感じ取ってもらえれればうれしいと思う。 僕個人のことでいえば、今は長い間中国のドキュメンタリー映画制作者たちを追っ た作品の編集作業に取り掛かっている。自分で言うのもなんだが、飾らない僕と彼 らの交流の過程が撮れていると思うし、素材には自信がある。完成したら日本でも 上映会など開いて自作を見てもらいたいと考えている。編集といってもまだ大量の 素材と向き合っている状態で、しばらくは暗中模索で形が見えてこない。次回の北 京発では自作に関して何か語れればと考えている。 ■前田 佳孝(まえだ・よしたか) 1984年生まれ。高校卒業後映画美学校入学。王兵の『鉄西区』に影響されて中国へ 留学を決意。二年間の語学勉強の後、北京電影学院に入学、監督科に在学中。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃03┃□列島通信 ≪埼玉発≫ ┃ ┃■故・茂木正男さんへの手紙 ┃ ┃■村上 賢司 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 茂木正男さんこの手紙は大阪・京橋にあるほぼ半世紀前に建てられたラブホテルの 部屋で書いています。今、私は関西地方で撮影中です。実は現在制作中の作品の テーマがずばり「ラブホテル」でして、主に昭和30年代〜50年代に建造されたもの を中心に関東、関西合わせて13軒の物件を撮影しています。茂木さんはこの手紙を 読みながら、どうせまた「ムラケンらしいな〜」と笑っていることでしょう。あ なたは私の生まれ育った環境をよ〜くご存知ですものね。そうです、この企画の原 動力のひとつは群馬県の中心都市である高崎のもっとも猥雑な地域で生きてきた私 のノスタルジーかもしれません。 茂木さん、変なことを聞きますが「ラブホテル」と聞いてどんな光景が浮かびます か?回転ベット、大きな鏡、それともベットルームから丸見えのお風呂ですか?残 念ながら今、これらラブホテルらしいアイテムがどんどん世の中から消えているの です。たしかに設備の老朽化の問題もありますが、最大の原因は風営法です。この 法律はこれら情欲を助長するアイテムをラブホテルとして届出を出していない物件 の設置を厳しく禁じています。最近、主に関西で社会問題化されている「偽造ラブ ホテル」も元々はこの法律があっての現象なのです。この辺のことは、読書好きの 茂木さんでしたらすでに読んでいるかもしれませんが、金益見著「ラブホテル進化 論」(文春新書)に詳しく解説されています。 茂木さん、この頃、失っていくものを記録しておくのが映像に関係する人間の義務 だと思うようになりました。企画立案や脚本作業中に「あ〜、○○(作品上に重要 な物事)の映像資料が遺っていたらな〜!」となんども嘆いたのが原因です。すご くシンプルな動機なのですが、自分が気になるのもの、好きなものが消えてなくな るとき、手近かな機材でもかまわないから、とにかく愛情をもってそれを記録する ことが、後世を生きる人々への大切な贈り物になると確信したのです。ああ、今、 この手紙を書いていて合点したのですが、こんな気持ちになった最大の原因は私に 子供が生れたからですね!今更、気がつきました。相変わらず馬鹿ですね。すみま せん。 そんなわけで、私は一昨年の春に破壊された世界最大のセックスミュージアム・元 祖国際秘宝館(三重県)がこの世に消滅する寸前に記録、昨年秋には今年の春に閉 鎖されることが噂される北海道秘宝館を撮影、現在編集中です。ほんと、「三つ子 の魂、百まで」ですね。「猥雑」に魅かれる一生になりそうです! 茂木さんが旅立たれてから、あなたが生み出した高崎映画祭、シネマテークたかさ きはますます活気を増しています。ご安心ください。またどこかで逢いましょう! 映画の話をしましょう!映画館の客席の片隅で、撮影現場の合間に私は時々、あな たを感じるときがあるのです。 村上賢司 拝 追伸 私の最新監督映画『細菌列島』は4月より公開されます。『ALLDAYS 二丁目 の朝日』に続く「便乗映画」です。どうせまた「ムラケンらしいな〜」と笑ってい ますね。次は例の作品になると思います。茂木さんが旅立つ寸前に、企画の件、伝 わったこと知りました。月並みな言葉ですが「がんばります!」。 ■村上 賢司(むらかみ・けんじ) 映画監督/テレビディレクター。埼玉県川口在住。ラブホテルの従業員皆さんの温 かい心に癒される 日々。 http://d.hatena.ne.jp/MURAKEN/ ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃04┃□neoneo坐 3月前半の上映プログラム ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 会場はいずれも神田・小川町のスペースneo(都営新宿線小川町駅B5出口より徒歩1 分JR御茶ノ水駅聖橋口より徒歩5分)です。詳細と地図はneoneo坐のHPをご覧下さい。 http://www.neoneoza.com/ 「知られざる短篇映画を見てみる」上映会「短篇調査団」 毎月第2・第4水曜/20:00〜21:40 終映予定 16mm上映 会費500円(作品資料付き/映画は鑑賞無料) ペンは剣より強し3本立(計115分) (85) マスコミの巻...2009年3月11日(水)20:00〜 『ページの向こうに広がる世界』 1981年/28分/カラー、制作:電通映画社/企画:集英社 プロデューサー:田辺洋/脚本・監督:藤久真彦/撮影:瀬川順一・藤田国雄 ■定期刊行物から全集、単行本まで、時代の文化の担い手として活動してきた集英 社の歩みを描く。二つの時代の学生の下宿部屋の変化から、過去の出来ごとを振り 返っていく。 『報道マスコミと真実』 1966年/24分/白黒、制作:東映教育映画部/脚本・監督:榊原武男/撮影:村山 和雄 ■現代の私達の生活にとって、報道マスコミは欠かすことができないが、報道する 側にもいろいろな問題がある。そこで、マスコミの実態や事実性を解明し、いかな る態度で報道に接したらよいかを描く。 『ある出版社 五十年』 1963年/63分/カラー、制作:岩波映画製作所/企画:岩波書店 プロデューサー:小口禎三・坊野貞男/構成:羽仁進・高村武次・吉原順平・伊勢 長之助/撮影:藤瀬季彦・坂爪栄雄・西尾清/作曲:三善晃/ナレーション:宇野 重吉 ■大正、昭和の五十年の時代の流れを背景に、出版界の巨峰・岩波書店の歴史を回 顧する。 【料金】会費500円(作品資料付き/映画は鑑賞無料) 【お問合せ】清水 E-mail: shimizu4310@bridge.ocn.ne.jp ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃05┃□広場 ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■上映:『長江にいきる 秉愛(ビンアイ)の物語』(監督:フォン・イェン(馮 艶))いよいよ、劇場公開!! ●山形国際ドキュメンタリー映画祭2007 アジア千波万波 小川紳介賞(グランプ リ) ●コミュニティシネマ賞2007 ●ナント三大陸映画祭2008 銀の気球賞(準グランプリ) 三峡ダム建設による国の移住計画に、一人のごく平凡な中国の女性が抵抗する。ミ カン園とトウモロコシ畑の大地に根ざした生活を貫く彼女の生き様を、カメラは7 年間見つめ、ドキュメンタリーの地平を切り開く傑作が生まれた。 フォン・イェンが費やした時間の厚みは、ビンアイのゆるぎない意志と見事に一致 し、二人の女性の友情と理解に基づいた、感傷に流されない肖像画が完成した。 ナント三大陸映画祭より ●フォン・イェン監督来日! 初日舞台挨拶あり 3/7日(土) 11:00の回上映後&13:30の回上映前 ●トークイベント開催! ゲスト:秦早穂子さん(エッセイスト)、加藤千洋さん(朝日新聞 編集委員/テ レビ朝日コメンテーター)、山根貞男さん(映画評論家)ほか、日程などの詳細は ホームページまで http://www.bingai.net 3/7(土)〜3/27(金) 渋谷・ユーロスペース (TEL:03-3461-0211 http://www.eurospace.co.jp )にて 3週間ロードショー、以下、全国順次公開 ◇────────────────────────◆◇◆ ■「自作を語る」などの投稿、歓迎! 「自作を語る」欄は、監督自らが作品について語るコーナーです。制作した動機や 撮影のポイント、編集で心がけたこと等を内容に盛り込んで頂きたいと思っていま す。その他の投稿も歓迎します。「自作を語る」は1600字程度。監督のプロフィー ル(150字)、作品のデータ、上映スケジュール、HP等をお知らせください。 原稿締め切り:配信日(1日&15日)の3日前までに、下記に送信ください。 E-mail: visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋まで ◇────────────────────────◆◇◆ ■上映の告知の有料化とカンパのお願い ■伏屋 博雄(本誌編集長) neoneoの購読は無料ですが、経費を(その大部分は稿料ですが)賄うため、上映等の 告知は有料にしています。なお皆様にカンパもお願いしていますので、ぜひご協力 ください。 (1)上映等の告知の有料化 40字×30行(行数の空きも計算)以内につき、2,000円 です。それ以上の行数の場合は加算します。 (2)カンパのお願い 一口2,000円。何口でも。 送金方法:郵便振込み:00160-8-666528 neoneoの会、又は、 みずほ銀行池袋支店、普通口座、2419782 (有)ネットワークフィルムズ (銀行振込の場合は、その由を visualtrax@jcom.home.ne.jp 伏屋宛にお知らせく ださい。) 以上、neoneoの継続ため、よろしくお願い致します。 ┳━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃06┃■編集後記 伏屋 博雄(ふせや・ひろお) ┻━┻━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●川村雄次さんの連載が今回で終わった。一貫して認知症に取り組んできたプロセ スを報告してくださった。2003年の取材以来、これまで30本近い番組をNHKで作っ てきた川村さんだが、その背景には、46歳でアルツハイマー病と診断されたオース トラリアの女性、クリスティーン・ブライデンとの出遭いがあった。認知症の脳の 障害そのものは医学の力に依拠するほかない。しかし、彼女の証言などから、「徘 徊、暴力、暴言、失禁」といった症状が、主として周囲の人々の無知、偏見によっ て起こること、つまり、環境に起因するというのである。このことは、川村さんに とっては衝撃だったのだ。 「いま最も求められている情報を提供する」というスタンスが、川村さんの番組作 りにはある。今号は、取材する者が常々話し合ってきたことを開陳してくださった が、テレビ局に生きる方の気骨を感じ、私は熱いものがこみ上げてきた。 ●中国のインディペンデント作家たちの映画づくりがどのように行われているかは 興味がある。今回北京に在住している前田佳孝さんが自身のドキュメンタリー観を 述べる中で、併せて日ごろ親しくしている作家の撮影の様子をレポートしている。 ●村上賢司さんからは「ラブホテル」を撮影しているとの原稿が寄せられ、撮影に 至った動機が書かれている。一読後、「なるほど、そうだったのか!」と、合点が いった。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■発行:ビジュアルトラックス visualtrax@jcom.home.ne.jp ■責任編集:伏屋 博雄 ■編集デザイン:能川 悦子 ───────────────────────────────────── ★ご意見・ご感想はビジュアルトラックスまで ★いただいたメールには全て目を通しますが、必ずしも返信できるわけではありま せん。また、いただいたメールをこのメールマガジンに掲載させていただくことが ありますが、掲載不可の場合はその旨をお書き添えくださるよう、お願いいたしま す。 ───────────────────────────────────── ★バックナンバー閲覧、およびメールマガジン配信解除はこちらまで まぐまぐ配信 http://www.mag2.com/m/0000116642.htm melma!配信 http://www.melma.com/backnumber_98339/ ※編集部では配信解除、メールアドレスの変更などは受け付けておりません。 お手数ですが、ご自身でお願い致します。 注」デザインが崩れて見える場合は等幅フォント(MSゴシック、Osaka等)でご覧 ください! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright (C) 2003-2009 visualtrax



