2009/05/25
[SciCom News]訂正 No.295 2009年5月25日号 vol.1
本日発行のメールマガジンの巻頭言を執筆くださった難波美帆さんの肩書が誤っていました ので、ここに訂正させていただきます。 関係者の皆様にお詫び申し上げます。 以下が正しいものです。再送させていただきます。 【インフルエンザパニック 】 難波美帆 2005年から北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任准教授 2009年2月から日本医療政策機構 5月16日から21日まで、アメリカのメキシコとの国境の町、サンディエゴに出張に出か けた。大学や大企業が出張を自粛する中、最後まで迷ったが、冷静に考えれば出張をとり やめるのは、単なる横並び的対応でしかないと思っていた。自分が罹患・発症する可能性 は極めて低く、感染しても死ぬような病気でないことはわかっていた。帰国後すぐに子供 の運動会が控えており、「成田足止め」が怖かった。実際、同時刻に日本に到着したシカ ゴ便から感染者が出て、周囲の11人に「停留措置がとられた」と報道されていた。 サンディエゴでは、インフルエンザの流行を思わせるようなことは、ほとんどなかった。 中国から来た参加者と話題にしたぐらいで、新聞・テレビでの報道も目立たず、小さな 記事を一度目にしただけだった。地元のジャーナリストに聞いてみると、メキシコで死者 が相次いだ初期には、メキシコ入国を取りやめる人がいたが、アメリカに感染が広がる頃 には、それも落ち着いていたという。 日本では16日に神戸の高校で国内感染者が出て以来、学校がどんどん、休校になり、マ スクを買うために人が行列する騒ぎになっていた。この間、日本にいなかったので、帰国 後人から伝え聞いたり、写真で確認しただけだが、テレビでは、感染者を執拗に追いかけ るような報道がなされていたという。 インフルエンザの流行が話題にもならないアメリカから帰国した私には、行政やメディ アも含めて、というより、行政やメディアにパニックが起きているように思えた。 どのような行動をとるかを考えるために、人々に必要な情報は、「感染が広がっている インフルエンザがどのくらい危険なものであるか」「それを知るために、たとえば例年冬 に流行するインフルエンザと比べて、感染のしやすさや、症状のひどさがどのように違う のか」「どのような経路で感染するのか」というようなことであろう。 ところがメディアで報道されたのは、「海外での感染拡大の模様」「WHOの態度」から 始まり、「誰が感染したのか」「検疫や隔離措置の厳しさ」といった「キワモノ情報」ば かりであった。どでかい話やあまりに個人的な話は、公衆衛生の話を人々に理解させるの に、役に立たない。 大事なのは「欧州で何人が感染した」とか「アメリカでは毎年インフルエンザで3万人 以上がなくなっている」という情報ではなく、たとえば、「昨冬のインフルエンザで神戸 では何人が感染して、何人が亡くなったのか」「それと比べて、今回のインフルエンザは どうか」という、身の丈で考えられる情報ではなかったろうか。 このようなメディア批判は、すでに多くのブログなどでなされている。ここで私が問い たいのは、このパニックにおいて、科学技術コミュニケーターが何をしたのかということ だ。医療関係者を中心とするメーリングリストや、科学的な思考に関心がある人たちの メーリングリストでは正しい対応について、さまざまな情報や意見がやり取りされてい た。しかし、科学技術コミュニケーターが、リスクコミュニケーションの一つとして、専 門家から情報を集め、市民に必要な情報を流布させる活動をしただろうか。私もしなかっ たし、誰かがそのような発案をしたのも、実際にしたのも、目にしなかった。 この4年間、国は3大学に毎年1億円の資金を投じて、科学技術コミュニケーターを養 成してきた。しかし、行政が鳥インフルエンザ並の対応を粛々と進め、メディアが煽り、 国民が右往左往しているパニック状態を何とかしようというコミュニケーターの活躍は、 残念ながら、活発ではなかった。科学技術コミュニケーションの人材養成に投じられる15 億円の成果は、どのような形で表れることを想定されていたのだろうか。 私が、サンディエゴ出張で学んできたのは、「インプットに対して、どのようなアウト プットとアウトカムが得られるのか、ロジックモデルを立てよ」というプロジェクトの評 価手法であった。 騒ぎが収まったとき、行政、メディアが自分たちの対応を振り返る必要があるのは、も ちろんであるが、科学技術コミュニケーターなるものが、何を想定して教育されてきたの かを振り返る機会も、持ち得るのではないだろうか。


