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2006/12/10

★SLN−77 遺言執行★

★SLN−77 遺言執行★

みなさんこんにちわ。
新さっぽろリーガルネットの奥田です。

今日は、最近私が「遺言」という仕事を通じて垣間見た或る人の一生につ
いて感じたことを話してみたいと思います。

数ヶ月前に一人の男性が亡くなりました。以下A氏と呼びます。
A氏と初めてお会いしたのは5月。遺言書を作って欲しいという依頼でし
た。
病院の喫茶室でA氏と面会しました。彼は不治の病で医師の診断では余命
2ヶ月。
少し黄疸がかって見えましたがお元気そうでした。私は内心「早く遺言書
を作らないとマズイな」と思いました。A氏も医師の宣告を知っているの
ですが、やはり自分が「死ぬ」ということが信じられなかったのでしょう。
依頼しておきながら、なかなか遺言書を作る決心がつきません。

A氏には身内と呼べる人たちは妻と姉しかいない。前妻との間に子供が3
人いるのですが、もう15年近く連絡を取り合っていないという状態でし
た。前妻との離婚原因は詳しくは聞きませんでしたが、どうやら前妻に親
しい男性が出来て、子供を連れて駆け落ちしてしまったようです。私は前
妻には相続権はないが、3人の子供たちには相続権があること、また、遺
留分という最低限の遺産を請求する権利も持っていることなどを説明しま
した。

A氏は法律的にはともかく、3人の子供たちには、前妻が原因であったと
はいえ、随分つらい思いをさせてしまった。だから、いくらか残してあげ
たいが、受取ってもらえるだろうか?また、いくら残すのが妥当なのか?
といったことに悩み続けました。そうこうしているうちに余命1ヶ月を切
ってしまいました。A氏の(現在の)奥様と私は子供3人の金額以外は全
部遺言書を作っておいて、金額については本人にギリギリまで考えてもら
おうと相談し、公証人さんにも、出張の依頼をし、遺言書の作成日も決め
ました。

遺言書を作成する日が来ました。病院に出張してくれた公証人の前でA氏
は子供たちにいくら残すかまだ決めあぐねていました。とにかく金額を決
めてもらっていざ署名という段階になってA氏は署名がなかなか書けない
のです。お腹に氷を当てたり、水を飲んだりしながら、ミミズが這うよう
な字でようやく署名できるまで1時間もかかっていました。
ほんの1ヶ月半くらい前には、お元気で「自分の財産が少なければ公証人
の費用が安くなるから少なく遺言書を作ろうか?」などと冗談を言って私
を怒らせていた彼は、見るに耐えないほど弱ってしまっていました。

7月のある晴れた朝、私のもとにA氏が亡くなったという連絡が来ました。
遺言書を作成した5日後でした。「こんな時私のような他人が病院に駆け
つけるのは逆に失礼なのではないか?」とも考えましたが、A氏に一目会
いたくて病院に駆けつけました。病院でA氏の最期を看取ったのは、奥様
とお姉さまだけで、私は一番最初に駆けつけた他人でした。A氏は医師の
宣告どおりの日に58歳という若さで他界しました。そのお顔はまるで眠
るように安らかでした。

通夜と告別が済んで、私は遺言執行者になっていたので、すぐに仕事を始
めました。A氏が何十年もかけてコツコツ貯めてきた預金が、公正証書を
見せるだけでみるみる現金化されて引き出されてゆきます。私は20あっ
た預貯金口座、15筆あった不動産をたった2週間で全て現金化し、また
は名義の変更をし、A氏が住んでいた家を解体しました。
最後に子供3人に渡る分だけが残りました。子供たちの所在は調べてあっ
たので、連絡を取り、私はA氏の長男と会いました。遺言書を見せて遺言
執行がどう進んだのか説明した後に

私・・・・ これがあなたに残された○○円です。受取証を書いてくださ
     い。

長男・・・ 父さんは僕たちのことを何て言っていましたか?

私・・・・ Aさんは最期の最期まであなたたちのことを気にかけていら
     っしゃいました。

長男・・・ そうでしたか。

こんなやり取りをしました。
最期まで子供たちに詫び続け、悩み、そしてその子供たちに看取られるこ
となく亡くなったA氏、そして、父が自分たちのことをどう想っていたの
か、父の死後に知らされた子供たち、またA氏が元気であれば交わること
もなかった私と最期の2ヶ月間ずっと一緒にいたこと、彼が頑張って築き
上げてきた財産がいとも簡単に解約され、或いは壊されてしまったこと
・・・
彼の人生の最期を一緒に過ごした私は「愛するものたちに囲まれて死ねる
ことがいかに幸せで難しいことか」ということを考えてしまいました。

私たち行政書士は仕事柄、遺言書作成や相続などで、他人の人生を垣間見
ることがあります。そんな時はやっぱり辛いことが多いです。しかし、A
氏は生前こうも言ってくれました。
「遺言書が出来た。良かった。これで治療に専念できるぞ!!」こんな言
葉を聞かせてもらえるのが嬉しくて、日々の仕事を黙々とこなしています。

(今回のメルマガは 奥田 が担当しました。)

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