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2005/09/04

麦藁の山の中の針●53針目●

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● 麦藁の山の中の針 ●
      53針目―――才能のあるところには才能が結集する

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 忘れた頃にやって来るのが、天災と砂名のメルマガ(笑)

 東京に来てから、まだ映画館に足を運んでいないという体たらくの中、
感性を揺さぶられるお宝ビデオに出会いました。

 ぜひみなさんにお伝えしたいという衝動に駆られ、キーボードに向か
った次第です。

 今日はブライアン・イーノのドキュメンタリー【ONE ENO】を
ご紹介しようと思います。
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 「ブライアン・イーノ」と聞くと、人それぞれに思い浮かべるイメー
ジが異なるようです。
 私はやはり、ブリティッシュ・ロックバンドの「ロキシー・ミュージ
ック」でのイーノです。
 しかし実際にイーノがロキシーにいたのは、1972〜1973年のたった2
年間だけ。デビューアルバムとセカンドの後、ロキシーを脱退していま
す。

 ボーカリストでリーダーのブライアン・フェリーより人気があったか
らという巷の噂ですが、そもそも二人の音楽性は異なるものでした。
 私自身はフェリーの曲と声に惹かれていましたので、【アヴァロン】
を最後に解散するまで、ロキシーのファンでしたが。
 イーノは「非音楽的」なるものを求めて、さまざまな実験を試みてゆ
きました。
 「自分の聴きたいもの、聴いたことがないもの」を作り出したい。
 ロキシーではシンセサイザーとテープによって、新しい音を作り出し、
技術アシスタントとビジュアル面を担っています。

 ロキシーを去った後のイーノは、「アンビエント・ミュージック」を
提唱。
 アンビエントとは、今で言う癒し系のヒーリング音楽ですが、当時は
まだそのようなジャンルはなく、おそらくイーノが最初だったのではな
いでしょうか。
 交通事故で入院したとき、オーディオのスピーカーが壊れていたこと
に気づかず、延々と小さな音で音楽が流れていたことにヒントを得たと
いいます。
 こうして「聴くこともできるが無視することもできる音楽」が生まれ
たのです。

          **************************

 才能のあるところには才能のあるアーティストが集まってくる。

 イーノは多くのミュージシャンのプロデュースを手がけ、音楽を提供
し、デビッド・ボウイ、DEVO、U2らともコラボレーションしてい
ます。
 特に実験的な試みで注目をあびたトーキング・ヘッズのデヴィッド・
バーンやキング・クリムゾンのロバート・フリップとのコラボは、まさ
に類は友を呼ぶといった感じでしょうか。

 さらに、異端なモチーフと究極の美で観るものを圧倒するピーター・
グリーナウェイとは初期の頃の短編映画で音楽を担当。
 アートの洪水、センセーショナルな映像で一世を風靡したデレク・
ジャーマンとは【セバスチャン】(1976年)で一緒に仕事をしています。

 さてイーノ自身はどんな人?

 1948年生まれ。
 意外なことに、UKの片田舎イプスウィッチのカトリック系の修道院
で16歳まで過ごし、その後ウィンチェスターのアート・スクールで造
形美術を専攻しています。
 先に述べたブライアン・フェリーもまた美大出身という共通点が興味
深くもあります。

 既成概念を壊し、電脳空間をクリエイトするイーノですが、自身では
車を所有せず、ロンドンの街中を自転車を乗り回し、来日したときは
カルピスが気に入り、大量に本国に送ったという逸話もあります。

 そのアンビバレンツ(矛盾)と、とどまるところを知らない創作意欲
は、彼の大いなる好奇心に起因しているのではないでしょうか。

 【ONE ENO】(1993年、ジェローム・レフデュップ監督)にも
出てきますが、「Brian Eno」をアナグラムで文字を並べ替え
ると、「ONE BRAIN」、すなわち「一つの脳」となります。
 彼には右脳と左脳の葛藤がないのです。
 それについてイーノはこう言っています。
 「好きなことしかやらない」
 ………そう、いたって簡単です。
 複雑そうに見えることも、実はとてもシンプルなのです。
 それがイーノの魅力の一つでもあるのでしょう。

 【ONE ENO】には、たった22分の中に、イーノの哲学が詰ま
っています。

「最良の方法の逆を行ってみる」
「大きな混乱ならそれを小さな部分にしてゆくんだ」
「知らないことは恥ずかしいことじゃない」
「重要なのはアイデアそのものではない。それを実行することだ」

 「オブリーク・ストラテジー」なる、既成概念を壊すためのカードと
いう発想もユニークです。
 自分の行動を再考し、方法を見つける手段として、何をするかを書い
たたくさんのカードからたった一枚だけを引く。
 そして引いたカードの通りに行動する。
 無視したり、引きなおしたりすることは決してしない。
 一見「行き当たりばったり」のようで、もっとも強い意志を必要とす
る、最良の方法論ではないでしょうか。

 レフデュップ監督の映像手法としては、デレク・ジャーマンの
【ザ・ガーデン】(1990年度)や、【ヴィトゲンシュタイン】
(1993年度)に通ずるものを感じます。
 コラボレーションしたアーティストとのビデオ・クリップや、全アル
バムジャケットも挿入されていて、懐かしさもひとしおのドキュメンタ
リー作品です。

           ◆∵∴∵∴◆∵∴∵∴◆

 このビデオを薦めてくれたのは、フォトグラファーの松本明彦氏。
 「すべてのアーティストの教科書」として、写真を学ぶ人たちに見せ
ていらっしゃるそうです。

 松本氏の作品について少しご紹介を。

 http://www.aurora.dti.ne.jp/~a-matsu/
(松本明彦写真事務所の右横にマウスを持ってゆくと、
「GALLERY」という文字が出てくるのでクリックしてください。
さらに各作品タイトルをクリックしてゆくと、作品が観られます)

 『神々の黄昏』『OPERA ARIAS』はオペラを聴きながら
イメージを膨らませた幻想的な作品で、たいへん完成度が高い。
 さまざまなアーティストとのコラボレーションで実現した、「写真」
というカテゴリーを超越した、まさに総合芸術です。
 一枚一枚観ていると、ルノワール、ヴィスコンティ、パラジャーノフ、
タルコフスキーなど、さまざまな監督の映画のワンシーンが過ぎるので
すが、作品群として観る時、クォリティーの高い、統一された美意識に
圧倒されます。

 松本氏に、撮影当時のお話をおうかがいしました。
 衣装デザイナーが、「こんなのを作ってみたんだけれど…」と、撮影
当日に帽子を作って持ってきたそうです。
 それをかぶせてみたら、なんとイメージがぴったり。即、採用。

 「いやあ、才能のある人たちと仕事をすると、本当に楽しいよ」

 映画も同じです。
 ホン、舞台、衣装、音楽、カメラ、俳優…それを監督がまとめて、み
んなで一つの作品を創り上げてゆく。

 まさにものづくりの醍醐味ではないでしょうか。

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 ピーター・グリーナウェイ、デレク・ジャーマンの作品については以
前拙誌にても紹介しました。良かったらお読みになってください。

■ピーター・グリーナウェイとデレク・ジャーマン(『美と毒』号より)
 http://blog.mag2.com/m/log/0000112314/75889725?page=3#75889725

■ピーター・グリーナウェイ【コックと泥棒、その妻と愛人】(1989年度)
 http://www16.ocn.ne.jp/~collabo/back-n/008.html

 【数に溺れて】(1988年度)
 http://www16.ocn.ne.jp/~collabo/back-n/076.html

■デレク・ジャーマン【ヴィトゲンシュタイン】
 http://www16.ocn.ne.jp/~collabo/back-n/047.html

 ところでこの【ONE ENO】。ちょっと調べてみたのですが、
現在、レンタルのみならずセルにおいても、どこにも扱いがありません
でした。

■□■ 月森砂名のファインダー ━━━━━━━━━━━━━■□■

 今回の記事を書くにあたり、高円寺の『ターン・テーブル』のマスター
にはたいへんお世話になりました。

 ここは、「無いレコードは”ない”!」超オタクなバー(笑)です。

 このメルマガを始めるきっかけになった「「無いビデオが“ある”!」
『ふや町映画タウン』に匹敵します。

 「イーノについて書いてるんだけど…」と相談すると、瞬く間に、
ロキシーとイーノの全アルバム、専門誌数冊をカウンターに並べて、
コンサートの思い出やいろんなネタを教えてくれました。
 ありがとね♪
 ロックを聴きたいときは、いつもここに行きます。

 ちなみに、ロキシー・ミュージックの「ロキシー」とは、ロンドンに
ある、ODEONと並ぶ映画館の名前です。

 ところで。
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