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2003/12/05

麦藁の山の中の針●23針目●

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● 麦藁の山の中の針 ●
      23針目―――テネシー・ウィリアムズ

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 さて今日は、珍しくアメリカ映画をご紹介しよう。

 読者の方から、「…欧州、旧ソ連圏に中南米と本当に偏向してますね」
というメールを頂戴したから………ではない。
 それどころか、「もっとどんどん(偏向して)やって下さい」と発破
をかけられた。
 なんのことはない。
 ヨーロッパ映画、とりわけルイス・ブニュエルが大好きという映画フ
ァンの方からのメールだったわけだが、たまには古き良きアメリカ映画
について書くのもいいかと思った次第である。
 こういう応援メールは励みになるし、思いこみの強い私には、目先が
変わるいいきっかけにもなる。
 ありがとうございました。

 ところで今日は、テネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した作品を
3本、お届けしようと思う。

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 【欲望という名の電車】(1951年度。エリア・カザン監督、テネシー・
ウィリアムズ原作、脚本)。
 たいへん、残酷なストーリーである。
 ヒロインに対する眼差しが、たいへん冷徹である。
 この映画を観て、大なり小なり、身につまされる女性もおられるかも
知れない。

 芝居を意識した立ち位置やアングルが目立つ。
 セリフがやたら長い。橋田寿賀子の比ではない。
 時間も122分と長めで、ラストのシークエンスも少々冗長に思える。
 それでも目が離せず、一気呵成に最後まで観てしまうのは、克明で容
赦ない人間描写と、ヴィヴィアン・リーの迫真の演技であろう。

 アル中の中年女ブランチは、放蕩の末に屋敷、財産を手放し、下町で
暮らす妹のところに転がり込む。
 名家で育ったブランチは、学歴も気位も高い。美貌を鼻に掛け、虚栄
心が人一倍強い。
 居候して金もない癖に、毎日ドレスをとっかえひっかえ、女王様気取
り。人を小バカにし、何かにつけ教養をひけらかす、嫌な女なのである。
 妹の夫はポーランド系の貧しい環境で育った、粗野な男である。
 ブランチはそんな義弟を見下し、侮蔑している。一方そんな彼女を、
鼻持ちも信用もならないと、鼻から反感を抱く義弟。
 こんな二人がうまく行くはずはなく、ことあるごとにいがみ合う。
 板挟みで苦しむ妹。
 ある日、義弟の友人ミッチに求愛されるブランチだが、自堕落な過去
を暴かれ、あえなく破局。
 素性を知った男たちは、ブランチを娼婦のように扱い、プライドの高
い彼女は、ついに精神の均衡を崩してしまう…。

 デートはいつも夜。裸電球にはシェードを被せる。
 美貌の衰えをどぎつい化粧と派手なドレスで誤魔化し、年齢の話にな
ると巧みに話をすり替え、男を焦らしては作り話と涙で同情を誘う…。
 あの手この手の芝居に、男を翻弄する悪女の姿はなく、必死で幸せを
求めようとする哀れな女の姿しかない。また、自分しか愛せない高慢ち
きな女の、深い孤独を見る思いがする。

 ブランチの汚れた過去を知ったミッチは、「結婚して」と懇願する彼
女に、「家に迎えるには汚れすぎている」と拒絶するが、身体だけは求
める。実に残酷だ。
 また義弟も、追い詰められた小動物をいたぶるかのように、ブランチ
に襲いかかる。

 ムシムシした狭い部屋の中で繰り広げられる、やりきれない愛憎劇だ。

 精神病院からの迎えに、暴れるブランチ。そのそばで、「知らんぷり
でポーカーに興じる男たちの図」というのも、まるで救いがない。
 精神病院から来た老紳士が、丁重にエスコートすると、微笑みを浮か
べてエレガントに車に乗り込む。実に悲しいラストシーンだ。

 本当にあの【風邪と共に去りぬ】のヴィヴィアン・リーか?…と目を
疑いたくなるほど、老けた汚れ役を演じている。
 それでいて気品を失わず、精神的に追い詰められていくパラノイアな
女をみごとに演じきっている。

 エリア・カザン監督は、今年9月28日、94歳で亡くなった。
 【ブルックリン横丁】(1945)で監督デビュー。
 【エデンの東】(1954)でジェームズ・ディーンを見いだし、【草原の
輝き】(1961)でウォーレン・ビーティをデビューさせた名監督である。

           ◆∵∴∵∴◆∵∴∵∴◆

 【熱いトタン屋根の猫】(1958年度。リチャード・ブルックス監督)

 成金一家の当主ビッグ・ダディ。剛健そうに見えるが、実は余命幾ば
くもない。
 息子が二人いる。
 子供の頃から弟ばかりえこひいき。愛に飢えた兄が、父親からむしり
取れるものは、財産しかなかった。
 元フットボールの名プレイヤーで、親の愛情と期待を一身に受けた弟
は、足を故障して挫折。それ以来酒浸りで、妻に冷たく当たってばかり
いる。子供はいない。
 どこにでもありそうな家族の確執と葛藤を描いた、人間ドラマである。

 夫に邪険にされる妻、エリザベス・テーラーが美しい。
 しかしあまりに凛とした美貌のために、夫に無視されて身悶えし、次
々と子供を孕む不細工な兄嫁に劣等感を持つ図というのが、どうもしっ
くりこない。
 こんな美人を前にして、女は子供を産んでなんぼ、みたいな義父のセ
クハラじみた言動も気に食わない。
 ま、NYの職業婦人を描いたわけではないから、これでいいのだが…。
 リズはこの作品で、演技の開眼となった…という評判もあるが…。
 上記の、【欲望という名の電車】のヴィヴィアン・リーのことを思え
ば、どうと言うことはない。

           ◆∵∴∵∴◆∵∴∵∴◆

 【ガラスの動物園】(1987年度。ポール・ニューマン監督)
 上記の【熱いトタン屋根の猫】で、リズの夫役を演じたポール・ニュ
ーマンがメガホンを撮った力作。

 いい大人になった子供たちに、いまだに口うるさく干渉する母親。
 足の悪いことが原因で、引きこもりの姉。
 一家の家計を支えてはいるが、ことあるごとに母親に反抗する弟。
 父親はとうの昔に、家庭を捨てて出ていった。
 ある日、職場の先輩を食事に招待する弟。
 内気な娘と上手く行けばと、秘かに期待する母親だが…。

 テネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した中で、舞台を意識した作
品が多い中、家を飛び出した弟の回想とオーバーラップさせる導入部分
が、いかにも映画的である。

 気を利かせて娘ローラと招待客を二人きりにする母親。しだいに彼女
の個性的な美しさと人柄に惹かれてゆく青年だが…。
 秀逸なカメラワークと、繊細で丁寧な作りが、緊張感を生んでいる。

 狭い家の中で繰り広げられる、母親役のジョアン・ウッドワード、姉
役のカレン・アレン、弟役のジョン・マルコヴィッチの名演技が静かに
火花を散らし、大いに見せてくれる。

 また、姉が蒐集しているガラス細工の動物が、始終、壁に光のゆらめ
きを投影していて、それがこの家族の、儚く脆い関係を暗示している。

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★ ぜひともご覧になりたい方に… ★

 ビデオやDVDを購入して観たい!…でも、探すのは面倒という方。
 Amazon.co.jp の情報をどうぞ。

【欲望という名の電車】(DVD)
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【熱いトタン屋根の猫】(DVD)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00005HC86/tachiyomiboot-22/249-1640431-4230745

【ガラスの動物園】
 ビデオは在庫切れ、DVDは扱いなしでした。

■□■ 月森砂名のファインダー ━━━━━━━━━━━━━■□■

 いつぞや映画に対する批評について、「感性に引っ掛かってこない映
画は、書きようがないからしょうがないし、押して書くほどの想像力も
文章力もないからパスする」と書いた。
 しかし果たしてそうだろうか?

 デジカメ写真の某同好グループで、今一つピンと来ない作品に対して
も、誠実にコメントしている講評を見かけた。
 どんな作品に対しても一つ一つ向き合って、評論を書いてみる。
 その姿勢こそが、自分の目を養い、また広い意味で、文化を育てるこ
とに繋がるのではないか?
 大いに反省した。

 さて今日は、尊敬する映画評論家、「寺脇研」氏について、少し触れ
てみたい。
 彼の本業は「官僚」である。「官僚」というと、昨今すこぶる聞こえ
が悪いが、精力的に仕事をこなし、真面目に勉強をしている人は多い。
 彼もそのうちの一人で、文部省時代には、全国の教育現場に足を運び、
教師や親、子供たちの声に耳を傾け、熱心に教育改革に取り組んだそう
である。

 寺脇氏の映画鑑賞のスタイルには特徴がある。

 日本映画しか観ない。だがアニメを除いて、その年に公開された作品
は全部観る。

 元々日本映画にこだわりがおありのようなのだが、多忙の合間を縫っ
て鑑賞するのだから限界がある。あれもこれもと中途半端になるよりは、
徹底して一つに絞るという潔さが良い。

 ご本人をときどきお見かけすることもあったが、「本当は外国映画も
観てるんじゃないの?」「いろいろ観なきゃダメだよ」と周りから雑音
が入っても何のその。
 その真摯で強い姿勢が、日本映画を育てることに繋がっているのだと
思う。

【寺脇研氏のサイト】 http://www2.odn.ne.jp/~cap59560/k-top.htm

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