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2003/11/28

麦藁の山の中の針●22針目●

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● 麦藁の山の中の針 ●
      22針目―――美と毒

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 「美」というのは、人々の心を癒すものなのか、それとも人々の心を
たぶらかすものなのか?
 過激なまでの美しさは、ときには毒にもなる。

 今日ご紹介しようと思うデレク・ジャーマンとピーター・グリーナウ
ェイは、まさにそんな美しさを極めた、映像作家たちである。

 ジャーマンとグリーナウェイは、どちらもUK出身。
 奇しくも二人とも1942年生まれで、絵描き出身と共通点が多い。
 いずれも1970〜1990年代に活躍し、ショッキングなモチーフ、音楽と
のコラボレーション、過激な映像美といった、独特の世界で一時代を築
いた。

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 デレク・ジャーマンは画家から衣裳デザインに進出。
 その後、当時BBCで芸術家のドキュメンタリーを撮って注目を浴び
ていた、ケン・ラッセル監督の【肉体の悪魔】(1971)で美術を担当し、
映画界入りした。
 代表作に【テンペスト】(1979)、【ラスト・オブ・イングランド】
(1987) 、【エドワード2】(1991)などがある。
 ホモ・セクシュアルを核としたテーマと、サウンドとビジュアルの独
特な世界を展開したが、残念ながら1994年に、エイズによる合併症で死
亡…。


 【ザ・ガーデン】(1990)。
 見終わったあと、画面から針が放たれていたかのように、目が焼け付
くように痛い。

 目まぐるしく変わる映像に、瞬きする暇もなく、極度に強い鮮烈なコ
ントラストに、目がやられてしまうのだ。
 だからといって、昨今のハリウッド映画のように、徒に暴力的なドア
ップの映像が、スピーディーに繰り出されるわけではない。込み入った
ストーリー展開と字幕を追ううちに、どんどん絵が飛んでしまうという
煩わしさもない。
 この作品の目まぐるしさは、計算され尽くしたアートの洪水なのであ
る。
 セリフは最初にナレーションが入るだけ。
 いわゆる「黙示録」がベースになっている。エデンの園の「楽園」と
「廃園」をモチーフに、同性愛者の受難を描いているが、解釈の押しつ
けは感じられない。

 全編、ポップ・ミュージシャンのサイモン・ターナーの音楽が、イメ
ージをさらに膨らませている。

 音楽に合わせて、ザルの中で小石が跳ねるセピアカラーの映像、ユダ
の縊死とクレジットカードのコマーシャルフィルム、花畑をモンタージ
ュしたピンク一色の映像…。
 蝶、鳥、花、海辺や夕陽、雲の流れといった、自然を撮したオーソド
ックスな絵もたっぷり魅せている。
 一方で、ジャーマンの家の裏にあったという、原子力発電所の高圧電
流の鉄塔や、都会の雑踏といった、「現代」を鋭く切り取った映像が痛
々しい。

 映像のすばらしさを説明しようとして、言葉の無力を感じる…。

           ◆∵∴∵∴◆∵∴∵∴◆

 ピーター・グリーナウェイは、美術学校を卒業後、小説や絵本で活躍
する傍ら、記録映画の編集や自主制作映画(8ミリ)を通して、映画の
世界へと入っていく。

 一貫して、「死とエロス」を「究極の美」で眩惑した作品を撮り続け
ている。

 【英国式庭園殺人事件】(1982)は、グリーナウェイの映像世界が、
一躍脚光を浴びるきっかけとなった作品である。

― ストーリー ―

 画家のネヴィル氏は、ある屋敷に招かれ、その館と庭園を12枚の絵
に収めるよう依頼される。
 高い報酬、屋敷内での自由な振る舞いが約束されるが、その契約には、
依頼主の夫人との性交渉まで盛り込まれていた。
 なぜか館主、ハーバート氏の姿は見えない。
 さっそく仕事に取りかかるネヴィル氏だが、奇妙なことが起こり始め
る。
 スケッチの場所を替わるたびに、ハーバート氏のマント、乗馬靴、部
屋に立てかけられたハシゴ、腕を切り裂かれた上着などが放置されてい
るのだ。
 はたして、ハーバート氏はすでにこの世の人ではないのか?

 ミステリアスな展開。奇妙な登場人物たち。母親と同じ契約を結ぶ娘。
池から発見された氏の遺体。ブロンズ像の扮装をして庭を徘徊する怪し
い男…。
 母娘の目的は夫不在、セックスレスがための快楽だけだったのか?
 氏を殺したのは誰なのか?ブロンズ像の男は一体何ものなのか?

 結局、「種馬」として利用されたネヴィル氏。
 そして画家としての鋭い観察眼がゆえに、悪巧みを働いた人間たちに
口を封じられる。

 何度観ても釈然としないストーリーとオチである。
 以前に紹介した【数に溺れて】に似ているのだが、要は、用済みの男
たちをポイ捨てする、かまきり夫人たち(母娘)の物語なのか?
 それにしても…。秘密を知られた犯人たちが、どうせ殺すのに、目を
潰してから殴り殺すあたりが、残酷極まりない。

 どろどろした人間の嫌らしさと残忍さを見せつけられ分、庭園のすば
らしい映像に、心が沁みる。
 コントラストが強いせいで黒っぽく見える樹々だが、圧倒的な緑を背
景に、真っ赤なソファ、紅葉など、ときおり赤を利かせている。
 また画家の衣裳やかつら、道具、日よけの番傘、喪服など、黒の使い
方が絶妙だ。

 グリーナウェイ作品には欠かせないマイケル・ナイマンのバロックな
音楽もキマっている。

 登場人物たちがしゃべりまくる皮肉と毒たっぷりのセリフも、グリー
ナウェイならでは。
 ただ英語がわかれば、字幕を追う煩わしさがなく、画面に集中できる
のだが…。アクセントによって犯人の正体が分かってしまうシーンでは、
その違いがわからず、面白味も半分かと思うと残念だ。


 ジャーマンとグリーナウェイ。どちらの作品も、はまる人ははまるが、
万人受けするタイプの映画ではない。

 ちなみに私は、「数に溺れて」で初めてグリーナウェイを観て以来、
ずっとファンである。
 拙誌で紹介するのもこれで3回目だ。我ながらしつこいと思うが…や
められない。

 以前、拙誌では、ジャーマンの【ヴィトゲンシュタイン】(1993)
 http://www1.kcn.ne.jp/~shigeru-/back-n/047.html
 グリーナウェイの【コックと泥棒、その妻と愛人】(1989)と、
 http://www1.kcn.ne.jp/~shigeru-/back-n/008.html
 【数に溺れて】(1988)
 http://www1.kcn.ne.jp/~shigeru-/back-n/076.html を紹介した。

 よかったら、バックナンバーをどうぞ。

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★ ぜひともご覧になりたい方に… ★

 ビデオやDVDを購入して観たい!…でも、探すのは面倒という方。
 Amazon.co.jp の情報をどうぞ。

【ザ・ガーデン】は、ビデオもDVDも在庫切れ。
【英国式庭園殺人事件】は、扱いなしでした。ごめんなさい。

■□■ 月森砂名のファインダー ━━━━━━━━━━━━━■□■


――― 東野元昭展 〜転 化〜 ―――

 今日は、古くからの友人の個展を紹介しようと思う。

 場所は兵庫県芦屋市大原町8−2ラフォーネ芦屋2階「芦屋画廊」。
 期間は、11/27(木)〜12/9(火)である。
 昨日から始まっている。
 お近くの方も、そうでない方も、ぜひこの機会にどうぞ。
 (詳しくはこちら)
 http://www.geocities.jp/tung_ye/pict/Cards/koten_annai_ashiya.jpg
 東野元昭氏のサイトはこちら。
 http://www.geocities.jp/tung_ye/

 わざわざサイトを見るのは面倒だという、ずぼらな方のために、簡単
に彼の人となりをご紹介しておこう。

「心の中の宙(そら)を描いた、独特の美学。中国留学後、フランスで
の個展を皮切りに本格始動。現在東京で活躍する」

 私も横着して、自分のサイトのリンクから文章を引っ張ってきてしま
った…。

 彼の絵は私も一枚持っているが、朝に晩に、日によって変化(へんげ)
する。
 いつ観ても、いつまで眺めていても、飽きが来ない。
 心の奥深くに染み込んでゆく「何か」がある。

 もともと書道家だったので、当時の作品には文字が書かれてあった。
 私の絵は、「更始」だった。
 「さらに始まる…」。
 くじけそうになったとき、この絵を観ると、勇気が湧いてくる。

 すばらしい絵には、そんな秘められた力があるのだ。

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◆関連サイトは http://www1.kcn.ne.jp/~shigeru-/
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