「兵藤先生メルマガ第10回」第114回【勇気倍増計画】
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日本列島勇気倍増計画 行動までのあと一歩について
2008/5/7:No.114 登録読者総数:5489名
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著者:後藤芳徳
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■連載(10)/兵頭 二十八
ありえないことが起きた。それが「アメリカ13植民地の英帝国からの
独立」でした。
まず、ありえないだろう、と世界が思っていた「イギリス領土の分
割」を1776年に起こしてみせた男の名は、トーマス・ペインといいました。
1776年以前は、ペインは法的に完全なイギリス臣民です。
英国人がロンドンの新聞に投稿して「植民地なんて儲からないから捨
てよう」と発言するのは自由でした。が、英国人が植民地に渡って「英
国から独立しよう」と現地住民を煽動するのは、英国王の下の統治機構
からは「大逆罪」とみなされました。
つまり、もし英国が1776年の早い段階でペインの言論に注目してそれ
を有害視すれば、ペインはアメリカで死刑に処された可能性がありました。
しかし、妻と永久別居(英国教会はカトリックに似たところがあり、
正式には離婚ができなかった)して、1774年に単身渡米してきた37歳の
ペインには、ヤケッパチな勇気があったようです。
いくら天才的なプロパガンディストでも、その言説が支持されるだけ
の環境がそこにできていなかったなら、荒野で叫ぶ予言者と同じことです。
しかしさいわい、米国植民地には、点火すれば爆発しそうな「可燃ガ
ス」が醸成されていました。
1763年に終結した「七年戦争」は、英国にとって望ましい欧州大
陸の勢力均衡を維持することには成功しました。が、英国の財政は、さ
すがに大赤字になってしまいました。
そこで英国国王は、当時はイギリス植民地であった、米国東部の13
州(「州」と和訳されますけれども、実態は「国家」)の住民に、あら
たな重税を課すことを決めました。
13州の住民たちは、怒りました。彼らは本国住民には課せられない税
金を取り立てられるのに、その国家歳入は、13州には少しも還元されて
こないからです。
13州からは、英本国の議会に代議士を送ることもできません。公式に
クレームを訴える方法がありません。
英国王が戦争などのために新しい税金を臣民に賦課しようとするとき
には、有力貴族からなる英国議会の同意を得なければならない――とい
うのは、マグナカルタいらいの英国のコンセンサスでした。
植民地人は法律上は、英国臣民です。もし、新課税に逆らえば、英国
官憲から罰せられても文句が言えません。
かたや、長期戦争に勝利したばかりのイギリスの国家指導層は、軍事
的な「万能感」に充たされてしまっており、もし植民地住民が反抗でも
しようとしたら、軍隊を送って無理矢理にでも納税させるまでだと、鼻
息荒く、将来のなりゆきを、ずいぶんイージーに見通していました。
ちなみに、1776年時点で英国王には男子臣民を強制徴兵する権利があ
あり、それは植民地人に対しても例外ではなかったのです。
ペインは1775年の10月から、新聞への寄稿や、パンフレット(だいた
い60ページ以下の活版印刷の小冊子で、有料頒布される)の書き下ろし
を開始し、充満しつつある爆発性ガスに着火する火種の投下を開始しました。
このうち、アメリカ大衆を説得して反英武力蜂起のための動員をなし
とげたパンフレットとされていますのが、1776年1月発刊の『コモン・
センス』(意味は「大衆の政治的にふつうな感じ方」)です。この文章
を含めた1776年のペインの著述は、小松春雄氏が翻訳したものが岩波文
庫におさめられています。
1776年の13州植民地の人口は250万人だったそうです。ところが、
『コモン・センス』は2週間で1万部を完売。3ヶ月後には12万部、
トータルでは50万部も売れたそうです。識字階層は全員がこれを読んに
違いない、という。
インターネットも電車中吊り広告もない時代でも、筆力のある作家は、
このような「パイド・パイパー」(ハメルンの笛吹き)になることが可
能だったのです。
日本では似たようなメガヒット現象を、明治9年完結の福沢諭吉の
『学問のスゝメ』が巻き起こした例があります。しかし福沢のこの成功
に続くことのできた作家は、いまだに存在しません。
余談ですが、今日、兵頭二十八が活字だけの新著を出したとしますと、
その部数はおそらく4000部未満であり、そこから得られる手取りの印税
は50万円前後(共著ならばその半分)です。著者は、最低でも1ヶ月間
の労働を、1冊のために投入しなければなりません(共著でも手間は同
じ)。もちろん、それを毎月続けられるわけではない。いくらがんばっ
ても3ヶ月に1冊が、体力と知力の限界です。
いっぽう、今の日本では、40歳代の地方公務員は、給料として1ヶ月
に60万円くらい貰えるそうです。自由業者である作家・著述家には、
「ボーナス」は無論一度も支給はされませんけれども、公務員には、
ボーナスが3回も出る。
1ヶ月、6万5000円で一戸建ての家を借りられる北海道にでも住まな
い限り、フリーの著述業だけで世帯を構えられないことが、皆さんには
お分かりになるでしょう。
日本で「試験の成績さえ良ければ普通以上に楽して儲かる商売」とし
て「公務員」が温存される限り、おそらく日本人の頭脳と体力と勇気は
非生産部門で集中的に浪費され続け、日本国民の「権力」は減耗するし
かないでしょう。
新しいことを始めるためには、既製の枠組みを崩さなければなりませ
ん。それには、物凄いエネルギーが必要です。既製の仕組みは、それな
りに効率が良いので、保っているからです。
自由競争の商業活動の場合ですと、その物凄いエネルギーを敢えて出
させる原動力とは、将来に期待ができる多額の報酬なのです。
しかし、もしも、たんに既存の枠組みを墨守するだけで、月に60万円
ももらいつづけられるのだとしたならば、誰も、自分の管轄する仕事の
分野で、何か新しいことをしてやろうなどという気には、なりますまい。
だから、公務員の待遇を、新しいことをやろうとする民間人よりも良
くしてはいけないのです。それを許せば、その社会は人間の能力をすべ
て公務員が浪費してしまい、必然的に衰亡してしまう。結果として隣国
人に支配されてしまうことになるでしょう。
今の日本の公務員の待遇は、すでに危険な高さを超えています。もっ
と公務員の数を増やすと同時に、その一人あたりの報酬は、誰の目にも
薄給であると分かるほどに、減額をしなければなりません。もしそれが
できなかったとしたら、日本はおしまいでしょう。
さて、『コモン・センス』は、大逆罪で訴追されることをおそれたペ
インが署名を「一英国人」とのみしていました。
つまり匿名著者による出版物が、世界初の大衆動員革命につながった
のです。この伝統があるために、米国人はインターネット空間では「匿
名投稿」に同情的です。
わが日本国では、匿名の著作物が世の中を変えたという国民史は共有
されていません。逆に、「田中上奏文」のような匿名の捏造情報が、
国民に大禍をもたらしたという歴史が共有されている。アメリカ国民は、
シナ大陸が隣になかったがために、幸福な歴史を持ち得ているのでしょう。
マイケル・ハワードの『戦争と知識人』(邦訳1982年)は、〈トマ
ス・ペインが『人権論』のなかで、西洋自由主義の教義をつくりあげた〉
とします。すなわち、戦争は、君主や貴族やプロ軍人や武器メーカーの
利益のためになされると。だから民衆の利益が代表される政体をつくり、
国際交流に有害な障壁をなくすれば国際紛争も裁判所で解決できる、と。
ところがペインの1776年の論文集には、かなりこれと違うアジテーシ
ョンが並んでいる。ペインが理にも情にも訴えられる名プロパガンディ
ストであったことが、よく分かるのです。
たとえばペインは言います。――商業は愛国心と軍事的防衛の精神と
をともに減退させる――と。
「かれらはもう二度と再びこんなことをやらないだろう、と言うのは
ばかげた幻想だ。《中略》そんな幻想が許されるなら、一度負けた国は
二度と戦争することはない、と考えてもよいだろう」(岩波文庫
p.54)。
東洋の大帝国はたいてい海から離れている。ヨーロッパの海岸線は短
く、木材は枯渇している。だからアメリカが造船で世界を支配できるは
ずだ(同 pp.74-5)。
海外領土をもたず、自国の海岸線だけ守ればよい米国は、イギリスの
海軍力の2割を持ちさえすれば、イギリスに圧勝できる(p.77)。
どうも、アルフレッド・マハンの最大の先輩は、トマス・ペインでは
なかったか、とも思えてきます。
1776年12月には、ペインは次のようにアジりました。
――13植民地に住むトーリー党シンパは屑だ。彼らは8歳の子供を前
にしてこう言う。「ともかく、わたしが生きている間は平和であって欲
しいんです」と。子供を思う父親ならば、「もめごとが避けられないと
すれば、わたしの時代にそれを片づけて、子供には平和な暮らしをさせ
てやりたい」と言うだろう(岩波文庫 pp.124-5)。
さらに畳み掛ける。
――臆病のため屈従するなら、ヘッセン兵のために兵舎や売春宿に化
したわが家を見ることになるだろう(同 pp.131-2)。
ヘッセン兵というのは、とうじ英国が雇っていたドイツ人からなる傭
兵集団です。ちなみに、1969年に撮影開始された(おそらくベトナム反
戦目的の『コモン・センス』たらんと欲した)映画『キャッチ=22』を
観れば、第二次大戦後期にイタリアにあった米兵相手の売春窟の様子を
イラストレイティヴに理解することが可能でしょう。そのようなものが
アメリカ領土内にもできる、と200年前の植民地人には想像ができたん
です。
この連載では、読者のみなさんが肉体を鍛えるのもいいが、人間の最
強の武器は身体ではなくて言語による他者コントロールなのであること
はハッキリしているんだから、有限の時間資源はその言語という武器を
鍛えることに費やした方が、ずっと合理的に勇気を獲得できますよ、と
主張しています。
トマス・ペインや福沢諭吉のような大衆感化力のある個人言論は、
これまでの歴史を振り返れば、天才的な特例でした。それに続こうと努力
した者は大勢いたにもかかわらず、あれほどの影響力を再現できた個人
は、いまだに現われてはいません。
しかし組織的なプロパガンダによる大衆動員は、ペイン以前から、
そして諭吉以後も、一貫して有効に機能しています。
みなさんは既に、在日のシナ人留学生が一斉に動員された姿を見たでしょう。
シナ人留学生は、体の良い「徴兵忌避者」です。特権を享受する共産
党幹部の子弟として、軍隊に入るのを免れて、外国の都会で遊んでいる
のです。彼らの身体つきを見れば、軍隊で鍛えられたことなどないこと
は明瞭でしょう。シナ人のインテリは、大昔から口だけ弁慶なので、だ
からこそ、例外的な王陽明などは、壮士からもてはやされてきたわけです。
しかしそんな卑劣な〈口だけインテリ〉が、演説や論文の技術を磨く
ことによって、やがてはシナの地方政府や中央政府の支配者になって、
警察や軍隊に指図ができ、異民族を踏みつけにすることができるのです。
1937年の支那事変を惹き起こしたのも、彼らのアジテーション活動だと
言って良いでしょう。それが、言語という人類最凶の武器の力なのです。
ペインは39歳ではじめて銃をとり、独立軍の一部隊の副官にまでなっ
ていますから、口先だけの人物ではありませんでした。そのくらいのガ
ッツがあったればこそ、迫力ある言論活動も展開できたのでしょう。
けれども、おびただしい数の他者集団を支配するのも、また彼らを独
立自治革命のために結束させてしまえるのも、そもそも、言語の力でし
かあり得ない。この現実から、目を逸らすとすれば、それも一種の臆病
な態度です。
(以下、次号に続きます)
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