2009/07/30
絵のない画集 第448回 アンリ・ルソー 牛のいる風景
絵のない画集 第448回 2009年7月30日号 1910年3月、第28回アンデパンダン展にルソーは 大作「夢」を出品しました。これが彼のこの展覧会への 最後の参加になりました。いつ頃の怪我なのか足の傷を そのままにしておいたのが悪化して、8月末にはとうと う動けなくなって病院に担ぎ込まれ、9月2日帰らぬ人 となりました。最期を看取ったのは、アパートの管理人 夫妻だけで、遺体は、パリのバニューにある共同墓地に 埋葬されました。 さて、今回の作品は・・・ ──────────────────────── アンリ・ルソー 牛のいる風景 ーーパリ近郊の眺め、バニュー村 ──────────────────────── アレクセイ・ガチャメンコがゆっくりと近づいてきた。 白い顔をわたしに向けて来る。「どうした、アレックス」 と、声をかけると、うれしそうに、舌を出して、鼻面を なめた。笑ったように見えた。 どうして、牛がアレクセイ・ガチャメンコなんて言う 名なのか、わたしは知らない。 死んだばあさんが、つけた名だから。ある日の朝、牛 を指さして、「アレクセイ・ガチャメンコという名にし たから。アレックスでいいわ」と言った。わけは言わな かった。そのうちに聞いてやろう、と思っていたら、ば あさんはいなくなった。 わたしとアレックスは、毎日この野原にやってくる。 アレックスは草を食べ、わたしは原っぱの養生をする。 きょうは、野原の枯れ草を積み上げた。大きなとんがり 帽子のような枯れ草の山を作った。だからとても疲れた。 さっきから残った枯れ草に腰をおろして、じっとして いる。アレックスは、わたしがちっとも動かないので、 心配になってやってきたのだろうか。 いいんだよ、ありがとう。心配しないで、おまえは草 を食べておいで。もう少ししたら、家に帰るから。 体を動かすのが、たいへんだ。ひざを伸ばして立ち上 がろうとすると、軟骨がすっかり無くなったひざは、骨 と骨がこすれあって、ガリガリ、キンコンカーンと音を たてる。それが鳴り響くと、村人たちが、夕暮れの鐘の 音とまちがえるかも知れない。それに、腰だ。背なかを まっすぐに伸ばすときの腰の痛み。たたみを縫う、あの 巨大な針を脊髄に何千本もぶち込まれるような・・・ だから、わたしは立ち上がるのがおそろしい。 ときどき、このまま坐って眠ったまま、あの世に行か れないものか、と思ったりもする。 でも、そうなると、行った先には、ばあさんがいて、 こう言うだろうな、「あれまっ、もう来たのかい、もう ちっと、あたしをノンビリさせといてちょうだい」って。 そして「まぁ、せっかく来たんだから、茶でも一杯飲ん でいきな。」と。 それで、こちらは茶をごちそうになって、また地上に 追い返されてしまう。きっとそうだな。 * * * 1909年の作 大原美術館所蔵 http://www.ohara.or.jp/200707/jp/1_web/1/exh/031.html アンリ・ルソー(Henri Rousseau) 1844年生、1910年没 ────────────────────────── 次回は、 『和田三造 海』 を予定しています。 ─────────────────────────── いつもお読みいただき、ありがとうございます。 読者のみなさんの存在が、なによりの励みです。 これからもよろしくお願いいたします。 お好きな絵や、面白いと思われる絵などありましたら、 こちらから、お知らせ下さい。 よろしければ取りあげさせていただきますので、その旨、 お知らせ下さい。なお、頂いたご意見などを、メルマガで 紹介させていただけるなら、その旨も。 http://form.mag2.com/thaitraete (まぐまぐさん提供のメッセージフォームを使っています。 メールアドレスは不要です。PCのOSやブラウザの種類 によっては、使えないかも知れません、あしからず) 絵は、有名なものや広く流通していないものでも、結構 です。自作を紹介したい方などの作品も歓迎です。 絵のない画集は、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ から 発行しています。 購読の解除は、 http://www.mag2.com/m/0000108215.htm または、 http://hw001.gate01.com/kko-ran/enonai/ から、お願いします。 -----------------------------



