2009/07/05
絵のない画集 第443回 脇田和 貝殻と鳥
絵のない画集 第443回 2009年7月5日号 夏になると、海岸やプールで男性が喜ぶのが女性の水着 姿ですが、中でも布の使用量が極端に少ないのがビキニ です。この水着は、1946年7月5日にパリのデザイ ナーが発表したもので、その名前の由来はその数日前に USAが原爆実験を行ったのが、太平洋マーシャル群島 内のビキニ環礁で、その衝撃の大きさとその露出の高さ を結びつけたものだそうです。たしかに、広島、長崎か ら一年もたたないうちの原爆実験は、世界を恐怖におと しいれたことでしょう。その後もUSAは核実験を繰り 返し、8年後にはビキニ環礁で行われたの水爆実験によ り、日本の漁船、第五福竜丸が死の灰を浴びて船員が犠 牲になりました。いまその船は、東京都の夢の島公園に 永久保存品として展示されています。 さて、今回の作品は・・・ ──────────────────────── 脇田和 貝殻と鳥 ──────────────────────── 海水浴に来ていた男たちが、浜で砂の彫刻をこしらえ ました。 男たちは期待していたナンパにことごとく失敗したの で、その腹いせもあって、女性の姿を形作りました。 それは、岩にもたれた女の姿でした。岩の角に腰をお ろして、片ひざを立てて、ふたつの足裏を合わせた格好 をしています。 頭は丸いボールのようで、顔は素朴な造作です。 出来上がった砂の像に、肩からバスタオルを掛けて、 胸を隠してあります。 男たちは近くに転がっていた大きなホラ貝を拾ってき て、女像のひざの上に置きました。太ももの上で、貝の 開口部が桃色がかった光をきらきらと発しています。 女像の片腕が下から貝を支え、もう一方の手が上から 貝の肌をなでています。 できあがった女像を見ながら、一人の男が言いました、 これが、ほんとの女なら、なぁ、 すると言い終わるか終わらぬうちに、声が聞こえてき ました。だれか女の声です、りりしく力強い声です。 だったら、どうなの? わたしが人間の女だったら、どうにかするというの? 男たちはいっせいに女像に目を向けました。しかし砂 の像は、静止したままです。まわりに、ほかの女のいる 気配もありません。 また、男たちに声が聞こえてきました。 ったく、いやになるわね、あなた達、男ってのは! 女と見れば、抱くことしか考えないの? なさけない!!おまけに、あなた達が言う女は、若 くてきれい、という条件付きなんだから。 まっ、それはあんたたちだけのせいじゃない、かも 知れないけど、 あなた達が生まれるずっと前から、長い時間の中で、 男と女の関係が作られてきて、それは男の都合で作っ たんだけど。あなた達は、生まれてからずっとそれを 身につけているんだから。 男が女を支配するのが当たり前。男に都合のいいよ うにされるのが女の幸せ。それで人間の世の中はうま くいく、ってね。 この声は、男たちのそれぞれのあたまの中で発生して いるのに、みんな同じ声を聞いていることがわかってい ました。 見ると、女像の片手がホラ貝の開口縁をなでています。 そこから出る振動が音になり、言葉になっているのでし た。 聞いている男たちの体はいつの間にか、ホンダワラや わかめのくずになっています。彼らは、砂浜の波打ちぎ わで、うろうろするばかりです。 でもね、何百万年もある人類の歴史の中で、いまの ように男が女を支配するようになったのは、ほんのこ の前、数千年前からのことよ。それまでは、子を産む 女がすべてを決めていて、男が女を抱くのは女が望ん だときだけだったのよ。でもそれは女の支配ではあり ません。 あなた達にこんなこといっても、仕方なかったわね。 でも、これは私が生身の女じゃないから言えること・・・ と、そこに海の向こうから一羽のハトが飛んできまし た。 鳥は女像の肩にとまると、クークーと低く鳴きます。 それは、女像のいらだちをなだめているかのようです。 そして、いつの間にか満ちてきていた波が、砂像のと ころまで、押し寄せてきました。大きな波が砂にかかる と、女像はたちまち崩れ果てます。あとには、たいらな 砂浜が残るばかりです。 * * * 1954年作 東京国立近代美術館所蔵 http://search.artmuseums.go.jp/gazou.php?id=4353&edaban=1 脇田和(わきた かず) 1908年生、2005年没 ────────────────────────── 次回は、 『三岸好太郎 画集”蝶と貝殻”から旅愁』 を予定しています。 ─────────────────────────── いつもお読みいただき、ありがとうございます。 読者のみなさんの存在が、なによりの励みです。 これからもよろしくお願いいたします。 お好きな絵や、面白いと思われる絵などありましたら、 こちらから、お知らせ下さい。 よろしければ取りあげさせていただきます。 http://form.mag2.com/thaitraete (まぐまぐさん提供のメッセージフォームを使っています。 メールアドレスは不要です) 絵は、有名なものや広く流通していないものでも、結構 です。自作を紹介したい方などの作品も歓迎です。 絵のない画集は、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ から 発行しています。 購読の解除は、 http://www.mag2.com/m/0000108215.htm または、 http://hw001.gate01.com/kko-ran/enonai/ から、お願いします。 -----------------------------


