2009/05/10
絵のない画集 第432回 原勝四郎 白浜(江津良)
絵のない画集 第432回 2009年5月10日号 田植えの終ったばかりと思っていた水田で、かぼそ かった苗が日に日にたくましい稲草になっています。 まだ水の表面が広く見える田んぼには、このごろ小さ なサギ鳥がやってきます。ひょこひょこ歩いて、足元 の水にくちばしを入れたりしています。エサを探して いるのでしょう。からだのほとんどが白いのですが、 頭と背中には黄土色のところがあります。もう少し大 きくなると、それが消えて全体に真っ白になるから不 思議です。 さて、今回の作品は・・・ ──────────────────────── 原勝四郎 白浜(江津良) ──────────────────────── 絵を見る楽しみには、色や形から来る視覚の喜びが もちろんありますが、ときどきは、自分でも絵を描い てみたくなる、という欲求を感じる楽しみもあります。 結果的に絵を描くことは、ほとんどないのですが。 この絵の場合も、見る喜びと描きたくなる欲求のふ たつともに、満足させてくれます。 さわやかな海岸の景色を見るのは、楽しいものです。 そして、てらいも力みもない描き方が、自分でもこん な絵を描いてみたいものだ、と思わせてくれるのです。 海と空、雲と岩、それだけです。 空の雲は、箱形の模型飛行機か、四角い凧のよう。 海の水は、近いところと遠くで、色が異なっている。 空の青は、とても軽い色です。 しみじみと見てると、こんな絵を描いてみたい、と いう思いの先に、遠い記憶の箱の底から、忘れていた ものが、ひとつ浮かんでくる。 子供の頃から「大きくなったら何になりたい」とか 「どんな偉い人になる」とかいうことを考えることは たえてなく、夢や希望とは縁のない青少年だっただっ たと思うが、いちどだけ、なりたいとおもったものが あった。 それは、灯台ではたらき、まいにち雲を眺めて暮し たい、と思ったことだった。 どういうわけで、そんなことを考えたのか、いまは もちろん、その時でも、わからない。 学校の卒業を前にして、そろそろ就職先を決めなけ ればならなくなった時、「灯台で働きたい」と、教師 に打ち明けると、「そんなこと言ってないで、はやく 入社試験を受けに行け」と言われ、紹介された会社に 行ったら、幸か不幸か受かってしまい、そのまま就職 したのだった。 それからずっと、雲を見る暮らしではなく、雲が風 に流されるような人生を送ってきた。 そんな希望を抱いたことなど、すっかり忘れていた が、この絵を見ていて、ふとそれを思い出したのは、 あの時、思い浮かべた灯台が、こんな海岸の岬の先に 立っていたからなのだろうか。 * * * 制作年不詳 和歌山県立美術館所蔵 http://www.bijyutu.wakayama-c.ed.jp/exhibition/hara.htm 原勝四郎(はら かつしろう) 1886年生、1964年没 ────────────────────────── 次回は、 『ミロ 絵画』 を予定しています。 ─────────────────────────── いつもお読みいただき、ありがとうございます。 読者のみなさんの存在が、なによりの励みです。 これからもよろしくお願いいたします。 お好きな絵や、面白いと思われる絵などありましたら、 こちらから、お知らせ下さい。 http://form.mag2.com/thaitraete よろしければ取りあげさせていただこうと思います。 絵のない画集は、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ から 発行しています。 購読の登録と解除は、 http://www.mag2.com/m/0000108215.htm または、川谷香蘭のホームページ、 http://hw001.gate01.com/kko-ran/enonai/ から、お願いします。


