絵のない画集 第397回 ヒックス ノアの箱船
絵のない画集 第397回 2008年11月10日号
エドワーズ・ヒックスは豊かな画才がありましたが、熱心
なクェーカー教徒でしたので、人間の虚栄心を讃える肖像
画を描くことは信仰心と矛盾すると考えていました。そこ
で、主として動物の登場する聖書の物語を描くことで、信
教生活と画業の折り合いを付けたということです。
さて、今回の作品は・・・
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ヒックス ノアの箱船
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旧約聖書の創世記によると、神は天地の創造に続いて
人間アダムを作りました。アダムから数えて十代目の子
孫にあたるノアの時代になると、世の中が乱れて暴虐が
地に満ちたので、神は一度世界をリセットすることにし
ました。しかし、こころがけがよく、行いが正しいノア
だけは助けてやることにして、彼に大きな箱船を造るよ
うに命じました。
ノアが言われたとおりの寸法の船を造ると、神は全て
の四つ足と空飛ぶ動物のそれぞれを雌雄一対ずつ、その
船に乗せるように命じました。
そして人間は、ノアとその妻と三人の息子と彼らの妻
だけが乗りました。
絵は、集められた動物たちが、一列になって船に乗り
込んでいるところです。
木造の大きな船の入口におしりが見えているのは、カ
バでしょうか。その後には、りっぱな角のサイやラクダ
が続いています。熊や虎や象もいます。
画面の左側で、列は大きく曲がって、手前で横一列に
なって続きます。
そこには、山羊や羊、鹿などがいて、その後には格好
のいい白馬が軽く前足をあげています。
動物は全て、雄と雌が仲良くそろっています。
白馬の向こう側には、二本の木が幹を交差させて立っ
ています。高い枝先に赤い葉が生い茂っていて、不吉な
様相を呈しています。上空には真っ黒い雲が湧きあがっ
て、今にも激しい雨が降りだしそうです。
ノアたち人間はどこにいるのかな、と探してみると、
画面の左端、ひとこぶらくだとキリンのかげに、ひと型
の黒いシルエットがふたつ見えます。ただそれだけです。
動物たちを丁寧に描いているのに、人間に対しては、
ちょっといいかげんな扱いに思えます。画家の気持ちが
そういうことなのでしょうか。
おもしろいのは、前列にいるライオンです。顔をこち
らに向けて、なにか問いかけるような表情をしています。
それは、
――あなたも一緒に来ませんか。なんなら、ノアさん
か、カミさんにお願いしてみましょうか。
と、言っているようです。
やさしいライオンです。その尻尾が持ち上がって、き
れいなS の字を描いているのも楽しくなります。
奥の列にいる虎もやはりこちらに顔を向けて、そのラ
イオンに賛意を示しているようです。
全ての動物とノアたちが船に乗り込むと、その七日後
に天に穴が開いたように大雨が降り始め、雨は四十日間
続いたそうです。そして、箱船の外にいた動物と人間は、
みんなおぼれ死んでしまったのでした。
ノアと動物たちが船から出て、水の引いた地上に降り
立ち、あたらしい生活を始めるのは、一年の後です。
* * *
1846年作
フィラデルフィア美術館所蔵
"Noah's Ark"
http://www.philamuseum.org/collections/permanent/52107.html?mulR=16188
エドワード・ヒックス(Edward Hicks)
1780年生、1849年没
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次回は、
『ピエロ・ディ・コジモ 森の火事』
を予定しています。
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