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2008/10/30

絵のない画集 第395回 曽我蕭白 虎図

 絵のない画集 第395回  2008年10月30日号

 いま動物の出てくる絵画の紹介シリーズですが、しばらく
 虎の絵が続いています。もし読者で阪神ファンの方が、い
 らっしゃって、「ヘンな虎の絵ばかり出しやがって・・・
 これは、リーグ優勝確実と言われながら、大逆転されたの
 をからかっているのか」と、思われるといけませんので、
 敢えておことわりしておきますが、決してそんな考えはあ
 りません。川谷は、プロ野球には何の思い入れもなくて、
 面白いと思う絵を取りあげているだけですから。


   さて、今回の作品は・・・
 ──────────────────────── 
    曽我蕭白 虎図
 ────────────────────────

  まなざしはこちらを見上げているが、頭を肩の下に
 うなだれて、すわりこんだ虎の姿です。長い尻尾が力
 なく地面に伸びています。
  後ろ足を胴体の中に巻き込んで、立てたひざにあご
 をのせているおかしな格好です。そのひざに牙をたて
 ているのは、自分で自分を責めているかのようです。
  いったい、虎は何をくやんでいるのでしょう・・・

  仏教の開祖である釈迦牟尼仏陀(じゃかむにぶっだ)
 の前世の行いを伝える「本生(ほんじょう)譚」には、
 捨身飼虎(しゃしんしこ)という話があります。
  これは読んで字のごとく、身を捨てて虎の餌になる、
 という話です。
  むかし、インドのある国にひとりの王子がいました。
 王子さまですから、なに不自由なく暮らしていますが、
 こころの中にはいつも、煩悶をかかえていました。
  人間はいかに生きたらいいのか、どんな行いをする
 べきなのか、といった、むずかしい問題を考えていた
 のです。
  ある日のこと、王子が森の中を通りかかると、崖の
 下に、おなかをすかした虎の親子が見えました。
  ガリガリにやせた虎たちは、泣きながら、いままさ
 におたがいの身を食べ合おうとしています。
  母虎が子虎たちに、自分の手足を食べよ、と差し出
 せば、いえいえ、おかあさん、それはなりません、いっ
 ときでも長く親の命を守るのが子供の努め、と子虎は
 自分の頭を母の口元に持っていっています。
  これを見た王子は衣服をとると、崖の上から真っさ
 かさまにジャンプして、虎たちのそばに自分の体を投
 げ出しました。
  地面に落ちて息もたえだえになった王子は、驚いた
 虎たちに向かって、自分の体を指さします。
  母虎は、王子の気持ちを了として、その体を子虎た
 ちに分け与え、自らは残りの骨をありがたく、ちょう
 だいしたのでした。

  さすがに聖者となる人は、前世での行いもすばらし
 かったのだ、という話です。
  捨身飼虎図は、法隆寺の玉虫の厨子に描かれたもの
 や、敦煌莫高窟の第428窟の壁画などがあります。

  蕭白の描いたこの虎は、無我夢中で王子の体を食べ
 て、飢えをしのいだのちの、母虎の姿でしょうか。
  ほっと一息ついて、思い返せば、この人間の体はど
 うしたことか。もう骨のかけらしか残っていないが、
 自らの意志でわたしたちを飢餓から救ってくれた、こ
 の人間は、どういう人だったのだろう、この人は何を
 考えていたのだろう・・・
  そんな疑問と一緒に、母虎は、これからわたしたち
 はどのように生きていけばよいのだろうか、何かわけ
 がわからないがとにかく考えてみよう、などと思い始
 めているようです。
  じつに哲学的な虎のすがたと表情だと言えましょう。

    *  *  *

 作年不詳 ボストン美術館所蔵
 "Tiger"
http://tinyurl.com/6dzmku

 辻惟雄・著「奇想の系譜」に所収 

http://www.amazon.co.jp/dp/4480088776/ref=nosim/?tag=enonagash-22

 曽我蕭白(そが しょうはく)
 享保15年(1730年)生、天明元年(1781年)没
http://www.amazon.co.jp/dp/4808708310/ref=nosim/?tag=enonagash-22

 捨身飼虎図は「世界の中の日本絵画」にあります:
http://www.amazon.co.jp/dp/4892101192/ref=nosim/?tag=enonagash-22

────────────────────────── 

  次回は、

  『アンリ・ルソー 不意打ちだ!』

  を予定しています。 

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