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2008/10/15

絵のない画集 第392回 長沢蘆雪 無量寺の虎図


 絵のない画集 第392回  2008年10月15日号

  長沢蘆雪は円山応挙の弟子でした。修業時代から優れた
 腕前を発揮し、応挙の手本帳をもらったので「先生、手本
 をまねて描きました」と言って、それをそのまま提出した
 ところ、応挙はそれに指導の筆を入れました。そこで今度
 は蘆雪が描いたものを出したら、「うん、これでよい」と
 言ったそうです。後に真相を知った応挙は、怒って蘆雪を
 破門しました。しかし、応挙に無量寺からふすま絵の注文
 があった時、都合で行けなかった応挙の代理として制作に
 あたったのですから、その時には破門は解けていたので
 しょう。

  さて、今回の作品は・・・
 ────────────────────────
    長沢蘆雪 無量寺の虎図
 ────────────────────────

  お寺の和尚さんが子猫をもらったので、紙袋に入れて
 鞠がわりにして遊ぼうかと、思ったところ、手のひらに
 のせた子猫が、ミャーと泣いたので、かわいそうになっ
 てやめました。
  座敷に下ろされた子猫は、よちよちと歩いていました
 が、そのうち襖の前にやって来ました。
  閉まっている襖の枠木の間に、子猫が前足の爪を引っ
 かけて開けようとすると、さすがはりっぱなお寺の襖で
 す。立て付けが良く、子猫の力でもすーっと開きました。
  開いた襖を通って、子猫は次の間に入っていき、その
 まま、次の襖も開けて、次々に座敷を通り抜けていきま
 す。
  不思議なことに、子猫が、襖を開けて通るたびにその
 体が大きくなっていきます。手のひらにのるほどの大き
 さから、中型猫、大型猫、はては猫股となり、その次に
 は、襖いっぱいの大きさになってしまいました。
  そして、その大きな体で次の襖を開けて、のっしのっ
 しと片足を出すと、その座敷には男がひとり、正座して
 いました。
  それは、その襖に虎の絵を描くよう注文された絵師で
 した。空白の襖を前にして、画想を練っている最中だっ
 たのです。
  そこに現れたのが巨大猫です。
  絵師ははっしと手を打って、これだ、これを描けば、
 よいのじゃ。
  ところが、猫は体が大きくなっていてもこころは、子
 猫のままでしたから、絵師の打った手の音にびっくりし
 て、またたく間にもと来た方に逃げ帰っていきました。
  逆のコースをたどるうちに、猫の体が小さくなっていっ
 たことは言うまでもありません。

  一方、絵師は自分が見たのが、子猫の変化した巨大猫
 だなどと、思いもしません。自らの絵に対する一念が呼
 び寄せた虎の姿だと思ったのです。
  そして評判の筆をふるって、ひと目、目にしただけの
 その姿を、またたく間に襖に描きあげました。

  ぬぐっと突き出した前足とその爪の力強さ、低く構え
 た顔と見据えたまなざし、跳ね上がった精悍な胴体と、
 後足、尾の先はひょうきんにも輪っかを描いています。
  顔のひげは、ぜんぶ黒々としてつきたっていますが、
 これは絵師の思い込みでしょう。だって、飛び逃げてい
 くような臆病な猫のひげがこんなにりっぱに立っている
 はずがないからです。
  それから、この絵の虎がほんとうは、巨大猫の写し絵
 だということは、その目からわかるのです。本当の虎の
 目は猫と違って、瞳孔が丸いのですから。

     *  *  *

 1786年(天明6年)頃の作
 無量寺所蔵

 画像は、テレビ番組の「美の巨人たち」のホームページに
 あります:
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/picture/f_050212.htm

 「世界の中の日本絵画」(美術年鑑社、1994年)所収
http://www.amazon.co.jp/dp/4892101192/ref=nosim/?tag=enonagash-22

 辻惟雄・著「奇想の系譜」(ちくま学芸文庫、等)所収
http://www.amazon.co.jp/dp/4480088776/ref=nosim/?tag=enonagash-22

 長沢蘆雪(ながさわ ろせつ)
 宝暦4年(1754年)生、寛政11年(1799年)没

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  次回は、

  『ルーベンス 四大陸』

  を予定しています。

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