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2008/09/30

絵のない画集 第389回 モーヴ 羊たちの帰還、ラーレン

 絵のない画集 第389回  2008年9月30日号

  アントン・モーヴ(オランダ読みではマウフェ)は、
 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(オランダ読みではホッ
 ホ)の年上の親戚で、絵を始めたばかりのゴッホに手ほ
 どきをしましたが、ゴッホはあまりよい生徒ではなく、
 規律に縛られた描き方を嫌って先生を怒らせてしまい、
 二人は決裂しました。しかし後に、アルルでモーヴの訃
 報を聞いたゴッホは、満開の花樹を描いて、その絵に
 「モーヴの思い出」と書き入れました。


  さて、今回の作品は・・・
 ──────────────────────── 
   モーヴ 羊たちの帰還、ラーレン
 ────────────────────────

  日がかたむいた。もうすぐ日暮れだ。
  羊たちは、牧人に付いてねぐらに帰る。
  その後ろ姿が、いそいそと楽しいそう。
  純白の毛をした子羊もいる。
  彼らの平安をたたえるように、前方からあかるい光が
 あたっている。

  それを後ろから見守るわたしには、帰る家がない。
  羊たちと違って、夜になっても、やさしい屋根のある
 場所には行けない。
  荒野の狼となったわたしには、帰るところはないのだ。

  かつて、晩秋の日の夕暮れ、荒涼とした野原に立った
 わたしは、これから自分が荒野の狼として生きていこう、
 と、こころに決めたのだった。十代の初めごろだった。
  もちろんそれは比喩的、精神的な意味だが。
  ファンタジーではあるまいし、狼男への変身などあり
 はしない。
  しかし、こころは荒野の狼だ。

  時間はそんな男の心づもりには関係なく、過ぎた。
  いまや年取った男には、荒野暮らしもきつくなった。
  なんだかんだ、社会保障のお世話にならねばならなく
 なれば、精悍な精神も失われようか。
  顔もだらしない表情を見せるようになれば、だれがわ
 たしのことを荒野の狼と思おうか。

  羊たちの群れの仲の良さをを見て、「荒野の狼」同好
 会だの「一匹狼」組合などを作ろうか、と、ふと思いも
 したが、すぐにそんな馬鹿なことは忘れてしまった。
  ひとりで、静かに、狼として一生を終えよう。

     *  *  *

 1886年頃の作
 フィラデルフィア美術館所蔵
 " The Return of the Flock, Laren"
http://www.philamuseum.org/collections/results.html?searchTxt=&bSuggest=1&searchNameID=14768
 ラーレンは、オランダの地名、アムステルダム東方の町です。

 アントン・モーヴ(Anton Mauve)
 1838年生、1888年月日没
http://www.artcyclopedia.com/artists/mauve_anton.html

 ゴッホの「花咲く樹、モーヴの思い出」は、前にこのメル
 マガでも取りあげています:
http://archive.mag2.com/0000108215/20060325030000000.html?start=180
────────────────────────── 

  次回は、

  『ブリューゲル 2匹の猿』

  を予定しています。 

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