絵のない画集  RSSを登録する

「絵画鑑賞の本質は、その自由性にある」とむかしの人は言ったそうです。好きな絵を好きなように面白くみることを目指して、古今東西の絵画を紹介しています。このメルマガを読んで、あなたが素敵な絵に出会っていただければさいわいです。

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2008/09/15

絵のない画集 第386回 クレー 灰色男と海岸

 絵のない画集 第386回  2008年9月15日号

 パウル・クレーは、両親がともに音楽関係者で、幼いとき
 からバイオリンを習って、十代前半で地元ベルンのオーケ
 ストラの一員となるほどの腕前でした。画家の音楽との関
 わりを知ると、クレー絵画の意図が、ものの見えないとこ
 ろを見えるようにしようということではないか、と思えて
 きます。つまり、音楽には言葉とちがって、直接にものを
 指す働きはないのに、記号的・象徴的な表現によって、存
 在するものも、存在しないものも、そして、見えるものも
 見えないものも、いっしょにして表す力があるからです。


  さて、今回の作品は・・・
 ──────────────────────── 
    クレー 灰色男と海岸
 ────────────────────────

  男はピアノを前にして凍りついている。
  目は恐怖でいっぱいに見開き、手はブルブルとふるえて
 いる。

  男が目の前にしているのはピアノだが、男に見えている
 のはピアノの鍵盤ではなく、無数の刃だ。
  さまざまな種類の包丁やナイフの切っ先が彼に向けられ
 ている。
  おまけに、おびえる男をからかうように、刃の刀身には
 地図記号や発音記号のような模様が散らばっている。
  ほんとうは、それはピアノの上に置いた楽譜の音楽記号
 なのだが、錯乱した男の眼には、意味のわからない記号に
 なっているのだ。

  男はピアニストで、いままさに、おおぜいの聴衆を前に
 して演奏を開始しなければいけない。
  しかし、ピアノの前で固まってしまった。

  超絶技巧の天才ピアニストと言われながら、あなたはと
 ても気が弱い。気が弱すぎるため、舞台に立つとこんなに
 固まったり、凍りついたりすることがしばしばなのだ。
  いまではそんなピアニストの姿を面白がって、それを期
 待してあなたの演奏会に来る客までいるほどだ。

  いまもあなたはピアノの鍵盤が刃物に見えて、指を下ろ
 せなくなっている。
  しかし、その恐怖から逃れるのは、簡単なことだ。
  あなたは、自分のことを巨人と思えばいい。
  青い海から陸に向かっている巨人だ。
  刃に見えるのは、海に突き出た岬だ。
  あなたは、無数の入り組んだ突端のあるリアス式海岸に、
 海からあがって行こうとしている巨人だ。
  さあ、力をこめて、突き出た岩をたたき割るのだ。
  ナイフや包丁は、あなたの鉄拳の下に砕け散るはずだ。
  あなたはその幻の力のままに、鍵盤をたたき、ペダルを
 踏めばいいのだ。
  
     *  *  *

 1938年作
 パウル・クレー・センター(ベルン)所蔵
 " Der Graue und dir Kueste "
http://tinyurl.com/5ztrd5
 (本文では"der Graue"を「灰色男」としましたが、
 辞書には「老人」の訳語もあります。ドイツでは
 年取った男性は灰色なのでしょうか・・・)

 パウル・クレー(Paul Klee)
 1879年12月18日生、1940年6月29日没

 ────────────────────────── 

  次回は、

  『ポッター 雄牛』

  を予定しています。 

─────────────────────────── 
  
 絵のない画集は、『まぐまぐ』 http://www.mag2.com/ から 
 発行しています。 

  購読の解除と登録は、 
  http://www.mag2.com/m/0000108215.htm 
 または、 
  http://hw001.gate01.com/kko-ran/enonai/ 
 から、どうぞ。 

-----------------------------
最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る