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2009/07/04

「落語に見るオモシロ江戸風俗」 ●真景累ヶ淵・其の肆

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━━ら━く━ご━と━お━え━ど━の━━━━━━━━━━━━━━━━━

 3分で読める! 「落語に見るオモシロ江戸風俗」

   平成弐拾壱己丑年文月肆日 其の弐佰漆拾参號 (2009/07/04 No273)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━お━も━し━ろ━ば━な━し━━

●真景累ヶ淵・其の肆

 腫れて醜い顔になった豊志賀は、新吉がご飯を食べようとすると、這い寄
って「私はこんな顔になった」。新吉が寝ていると、馬乗りになって「私は
こんな顔になった」。やっと師匠が寝付いた様だと、新吉はふらりと外へ出
ますと、向こうから提灯を下げて来たのは、羽生屋のお久。新吉は、師匠の
いやがらせで、ご飯も食べられない、お腹がすいたからと、お久を誘って鮨
屋へ上がる。

新吉「師匠が嫌な顔で、変な事を言うので困ります。下総にしるべがありま
  すから、そこへ行ってしまおうかと。」
お久「おやまあ、私の田舎も下総ですよ。」
新「お前さんの所の屋号は、羽生屋と言いますが、羽生村ですか。」
久「私の伯父さんは三蔵と言うので、継母のする事がひどいので、手紙を出
 したら、下総へ来てしまえというから、私も下総へ参りたいと思います。」
新「本当に二人が情夫(いろ)なら、二人で下総へ逃げるのですが。」
久「私を連れて逃げたら、お師匠さんがのたれ死にをします。」
新「お前さんが逃げると言えば、義理にも何もかまわず、逃げます。」
久「ええ、お前さんという方は、不実な方ですねぇ。」

 と、胸ぐらを取られたから、フト見ると、綺麗なお久の顔ではなく、紫色
に腫れ上がった豊志賀の顔。梯子段を降りたのか、落っこちたのかも分から
ず、大門町の伯父の家まで逃げ出しました。

新「伯父さん、伯父さん。」
勘蔵「おい、騒がしいな、新吉か。あれだけの病人をおいて、看病人がヒョ
  コヒョコ出歩くもんじゃねぇ。あの利かねえ体で、師匠は四つ手(※)
  に乗って、ここへ来て、奥で待っているぜ。」
豊志賀「お前に愛想を尽かされたと思って。お前はここに来るだろうと待っ
   ていました。私は血縁(たより)が無いから、お前におかみさんが出
   来たら、二人で看病をして、死水だけは取ってもらいたいと思って。」

 勘蔵が呼んだあんぽつ(※)に豊志賀が乗ると、
男「勘蔵さんのお宅はこちらで?新吉さんは来ていませんか?新吉さん、病
 人をおいて出歩いては困ります。お前さんの留守に、師匠は死んだよ。」
新「冗談じゃない、師匠はここに来ているよ。」
男「(びっくりして)南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏!!」

 今、豊志賀が乗ったはずのあんぽつの引き戸を開けてみると、誰もいない。
新吉は水を浴びせられたような心持ちで、ブルブル震えながら、勘蔵と七軒
町へ帰りますと、豊志賀は、新吉の留守に、カミソリで喉を突いて自害をし
ている。布団を上げてみると、遺書があり、開いて見ると『新吉と言う人は
何という不人情。この怨は新吉の身体にまつわって、新吉が女房を持てば、
七人までは取り殺す』と言う書置に、新吉はゾッとする程おどろきました。

 豊志賀を、小石川戸崎町青松院と言う寺へ葬り、ちょうど三七日(※)。
新吉が墓参りをすると、先に拝んでいたのは、羽生屋のお久。継母の折檻に
耐えられないと言うお久と、豊志賀の看病から解放された新吉は、そのまま、
二人でお久の田舎である羽生村へ駆け落ちをします。途中、松戸の宿で一泊
をしますが、ここで、二人は割ない仲となります。翌日、宿を立って、古ヶ
崎へかかり、流山から花輪村鰭ヶ崎の渡しを渡り、水海道へかかり、麹屋と
言う家で夜食をして、二人でここを出ましたのが、八月二十七日の晩、鼻を
つままれても分からない真の闇。渡しを渡って、横曾根村へ着き、土手伝い
に廻って行くと羽生村へ出ますが、そこは累ヶ淵と申します。与右衛門が累
を殺した場所、祐天和尚が念仏供養をし、累が成仏得脱したと言われる所。
雨が降り出し、遠くではゴロゴロと言う雷鳴で、ピカリピカリと稲光がいた
します。

 土手の上から滑って、お久が膝を突く。
久「ア痛タタタ。」
新「おお、大層血が出る、どうしたんだ?」

 手をやると草刈り鎌。秣(まぐさ)を刈りに出た者が、草の中へしるしに
鎌を突っ込んで帰り、翌日来て、そこからその鎌を出して草を刈ろうと置い
て行った鎌でございましょう。そこへお久が転んだから、おびただしく血が
出る。手拭いで縛って、新吉の肩をかり、びっこを引きながら行こうとする。
久「新吉さん、私はこんな顔になったよ。」
新「ええ?」

 新吉が見ると、お久の綺麗な顔の、眼の下にポツリと腫物が出来たかと思
うと、たちまち腫れ上がって、まるで死んだ豊志賀の通りの顔になる。新吉
は怖さのあまり、無茶苦茶に鎌で打ちましたので、お久は息が絶えました。

 

●能書き

四つ手=四本の竹を柱とし、割竹で簡単に編んだ粗末な駕籠。辻待ちもあっ
て、江戸庶民が利用した駕籠。
あんぽつ=左右に畳表を垂れかけた江戸の町駕籠。四つ手より高級で、乗り
心地も良い。
三七日=みなのか。人が死んで二十一日目の事。さんしちにち。

●跋

 「豊志賀の死」から「土手の甚蔵」にかかる部分です。豊志賀の死は、落
語家さんの独演会でも、よく高座にかかる、真景累ヶ淵でも有名な部分です
ね。駆け落ちをした二人は、麹屋と言う店で食事をしますが、ここのお店、
実は、後々、重要な舞台として、再登場しますヨ。

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