2009/05/26
「落語に見るオモシロ江戸風俗」 ●一文惜しみ
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3分で読める! 「落語に見るオモシロ江戸風俗」
平成弐拾壱己丑年皐月弐拾陸日 其の弐佰陸拾肆號 (2009/05/26 No264)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━お━も━し━ろ━ば━な━し━━
出すのは息を出すのもイヤ 取れるものなら地蔵様の胸ぐらでも取る
落語で毎度お馴染みの ケチ しみったれ 吝嗇 あかにしや
●一文惜しみ
神田三河町の貧乏長屋に住む、四文使いの初五郎。大家の家に相談にやっ
て来た。長いこと患っていたが、病気も治り、これを機に、今までの稼業を
やめて、堅気になって、八百屋を始めたいと言う。大家も感心して、商売の
元手を作るために、奉加帳を作ってくれた。これを持って、知り合いの所を
廻り、元手を集めろ、と言う。
大家「奉加帳は、初筆が肝心だ。最初の家が五百両つければ、二軒目は三百
両、後は二百両、百両と帳面づらが落ちるもんだから、金持ちの家から
廻るんだ。」
ところが、初公、知り合いに金持ちなんざいない。思いついたのが、三河
町で徳力屋万右衛門と言う、蔵が七戸前もある質屋。ところがここの主人の
万右衛門は大変なしみったれ。番頭に掛け合うと、うちの旦那はケチだから、
奉加帳なんざ断られちまうだろう、しかし、お馴染みさんだから、あたしが
おつきあいをしてあげよう、と、奉加帳に三文つけたくれた。初筆に三文ば
かりつけてもらって、後いくらもらうんだ!と憤る初公の前に現れた万右衛
門、それなら、主万右衛門がおつきあいをしようと、一文つけた。
万右衛門「番頭は世間の事を何も知らないから、三文つけた。主人万右衛門
なら、一文のおつきあいだ。気に入らないなら、おいて行きな。」
怒った初公は、もらった一文を畳にたたきつける、それが跳ね返って、万
右衛門の顔へぶつかったから、何をするんだ!と、そばにあったキセルでポ
ーンとやると、はずみで雁首が額の所へ当たり、皮がやぶれて、血が流れた。
初公が泣きながら帰って来たので、大家が訳を聞くと、これこれと言う。す
ると大家は一計を案じて、初公にこの件をお奉行所に訴えさせたから、お調
べとなります。万右衛門に名主と五人組が付き添い、初公には大家が付き添
い、双方から事情を聞いたお奉行様の裁定は、天下の通用を投げつけた上、
家持万右衛門から膏薬代をむさぼろうとしたとして、初公にきついお叱りで、
万右衛門は無罪。
ここで話しが終わりなら、面白くもなんともないんですが、お奉行所では
万右衛門は平生どういう人間か、初五郎が堅気になりたがっているなんて事
は下調べがついておりますから、
奉行「奉加帳などを持ち歩き、他人に迷惑をかけるなぞはよろしくない。商
売の元手、五貫文をお上より貸し与え使わす。しかし、五貫文を一時に
返済するは大変であるから、日に一文づつ納めよ。ただ、その方が奉行
所へ通うは大変であろう、万右衛門の家には奉公人も大勢いる事ゆえ、
取次をいたし、その方から奉行所へ納めることといたせ。」
万右衛門、膏薬代ぐらいは取られると思っていた所が、お咎めなし、金の
取次くらいなら、おやすい御用と引き受けて、名主様に相当なお礼をして、
五人組には日当を払って、意気揚々と引き上げてきましたが、翌日になると、
朝早くから、初公が一文返却に来る。一文預かると、受取(領収書)を書い
てくれと言う。番頭は、一文の受取なんざ、書いた事がないと、ぶつぶつ言
いながら受取を書いて渡す。預かった一文を手の空いている手代が、お奉行
所に届けると、奉行所ではその金を受け取りません。主万右衛門自ら、名主、
五人組立ち会いの元に返済しろ、と言う、あわてて、名主、五人組を頼んで
奉行所へ出ましたが、半日待たされて、やっと一文の返済。いや、名主と五
人組の怒るまい事か、名主には相当なお礼をし、五人組には日当を払い、頭
を下げて、帰ってもらう。
翌日から、曲者の大家の差し金で、初公の一文返却が日に日に早くなって
来る。徳力屋の番頭も仕方がないので、初公が来るのを寝ないで待っている。
受取も書くのが面倒臭いと言うので、印刷をすると言う。万右衛門は、その
一文を持って、毎日、名主、五人組を頼んで、奉行所へ出ると言う。五貫文
の金を一文づつ返すのですから、十何年かかる訳で、そろばんをはじいてみ
ますと、残らず返した時には、徳力屋の身代が半分なくなると言う。ここで、
万右衛門、始めて、お奉行様の仕組んだ謎に気がつきます。驚いた万右衛門、
初公に、十両で示談にして欲しいと頼み込みます。初公は喜びましたが、大
家が、千両ビタ一文まからない、と大見得を切ったので、万右衛門は目を回
す。
しかし、千両はあまりにも法外、どうか一割の百両にまけてください、頼
みますと願い、はじめて百両の金で示談になったと言う、「強欲は無欲に似
たり」、一文惜しみの百両損と言うお噺でございます。
●能書き
別題「五貫裁き」。元は講釈ネタで、落語家さんによってはお奉行様を、
すばり大岡越前として、一連の大岡裁きとして演じる方もおられます。
話中、初公が生業としていると言う「四文使い(しもんつかい)」とは、
博打場での使いっ走りで、博打で負けたお客さんの着物なり、煙草入れなり
の換金などを請け負う、などの雑用をし、一回につき、四文の手数料をもら
う仕事です。
今回は、江戸の金銭単位事情についてお話しします。江戸の金銭単位につ
いては、04/05/11の時そばの回でお話ししているのですが、いかんせん、五
年も前の事で、それ以降に読者さんになられた方もおられると思います。五
年前から読んでるよ、と言う読者さんには、「長年のご贔屓、ありがとうご
ざいます。」とお礼を述べて、復習の意味も込めまして、おつき合いくださ
い。
江戸時代は、日本と言う一つの国の中で、円とドルとユーロの三種類の通
貨が通用していたような感じでした。一つ目は「金貨」計数貨幣(けいすう
かへい・硬貨の事)で、一両が四分(ぶ)、一分が四朱(しゅ)になります
から、十六朱で一両です。
二つ目が「銀貨」称量貨幣(しょうりょうかへい・豆板銀、馬蹄銀と言わ
れるお金、使うたびに重さを量って価格を決める)で、1貫(かん)=1000
匁(もんめ)、1匁=10分(ふん)、1分=10厘(りん)、1厘=10毛(も
う)。三つ目が「銭貨」計数貨幣で、1貫文=1000文(もん)。
この三種類の通貨が通用し、それぞれの交換レートは、今の円相場のよう
に毎日変動しますが、大まかな交換レートは、金一両=銀六十匁=銭四貫文
でした。二百文の品物を購入する時に、一朱銀(一朱の硬貨)しかないと、
一朱は一両(=4貫=4000文)の十六分の一ですから、文に直すと、4000÷
16=250文、五十文のおつりをもらって購入することができます。
当時の商人は、このくらいの計算ができないと勤まらないのです。なお、
一両小判を出しても、相手におつりがなければ売買は成立しません。二百文
という値段なら、二百文を用意するのが基本で、一両小判しか持ち合わせが
ないのなら、両替商へ行って両から文に換金してもらいます。「時そば」の
のとおり、当時のおそばの値段は十六文ですが、お饅頭などの餅菓子は一つ
四文、安い煙草一玉四文、お湯屋の入浴料八文、床屋代子供二十四文・大人
三十二文など、これは一文銭の他に、一枚で四文に通用する「波銭」という
硬貨もあり、この硬貨で支払いしやすいように、四の倍数の値段が多いので
す。また、幕末には天保銭といって、一枚で百文に通用する硬貨も鋳造され
ました。07/03/27黄金餅の中で、「天保六枚」というフレーズがありますが、
六百文の事です。今回お届けした噺で、初公は五貫文のお金を毎日一文づつ
返済する事になっています。つまり、五貫文とは五千文になりますから、そ
れを一文づつ返していくと、5000÷365=13余り255となりますから、現代の
暦法で、閏年無しで換算して、十三年二百五十五日、つまり、十四年弱かか
る事になります。これだけの長期間にわたり、毎日、日当を払って、名主、
五人組を頼んで、お奉行所へ行くと言う、手間と費用を考えれば、万右衛門
が音を上げるのも無理はありませんね。
次に一両は現在の価格に換算するといくらになるか、と言うことですが、
現代と江戸時代では、物の価値観や諸物価が異なるので、簡単には比較でき
ません。いろいろな江戸時代関連の本を読むと、一両五万円説から一両二十
万円説まであるようです。私なりに考察したのですが、明歴三年(1657)米一
升(約1.4kg)の値段は約銀0.4匁でした。現在の標準米の値段が1kg700円ぐ
らいですから、1.4kgで1,000円とすると、
江戸 米 一升で 0.4匁 現在 米 一升で 1,000円
米 一斗で 4匁 米 一斗で 10,000円
米十五斗で 60匁=1両 米十五斗で 150,000円
となり、一両は十五万円となります。すると一分は四万円弱、一朱は一万円
弱。一両と十五万円をともに千倍すると、千両と一億五千万円、千両富(江
戸の宝くじ)に当たるのは、現在の宝くじ一億五千万円に当たったのに匹敵
します。とすると一文は150,000円÷4,000=37.5円になります。この「落オ
モ江戸風俗」では、特にお断りのない限り、この一両十五万円説で話しを進
めております。
●跋
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前振りでも書きましたが、落語に出てくるケチな方を、「あかにしや」と
言います。赤螺(あかにし)と言うのは、15cmほどのアッキガイ科の巻貝で、
日本各地の暖かい浅海の砂泥底に生息しています。肉は食用になるのですが、
殻を閉じてしまうと、なかなか開かないところから、なかなか財布の口を開
けない、ケチな方をあざけって言うたとえになったのです。ご意見・ご感想、
お待ちしております。頂いたメールは、お断りのない限り、メルマガの中で
紹介させていただく場合がありますので、よろしければ、HNを。江戸時代、
あこがれます・・・
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■お話:落語とお江戸のフリーライター・福々亭 笑助(千葉落語同好会)
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