2009/04/28
「落語に見るオモシロ江戸風俗」 ●春雨宿
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3分で読める! 「落語に見るオモシロ江戸風俗」
平成弐拾壱己丑年卯月弐拾捌日 其の弐佰陸拾號 (2009/04/28 No260)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━お━も━し━ろ━ば━な━し━━
旅は憂いモノ辛いモノ? そんな事はありせん
春は旅行のシーズン 気楽に観光にでかけましょう
●春雨宿
春の山の旅、気のあった同士がお二人連れで・・・
男壱「早くお出でよ、どうしたんだ。」
男弐「腹減った。」
壱「もう少し我慢して歩け。ほらほら、あそこに家が一軒あるよ、『旅館』
と書いてあるね。ちょと聞いてみよう。おい、ネェちゃん、これから二人
とも、君塚温泉へ行くんだ。まだ、ここから大分あるのかい?」
女中壱「へぇ、君塚(ケメヅカ)温泉でごぜぇますかね?たんとはネェけん
どよ、山越え八里(ハツリ)ばかしごぜぇます。」
壱「聞いたかい?山越え八里。今日中にそこまで行けないな。ここは旅館と
してある、ここへ泊まろうじゃないか。部屋は空いてるかい?ああ、お客
はいないの?じゃ泊めてもらうよ。途中に谷川があったろ、あれを渡って
来て、足が泥だらけだ、バケツに水を汲んで持って来ておくれ。」
女壱「ここいらへんは水が不便でごぜぇまして、あの谷川まで水を汲みに行
きませんと、水ごぜぇませんので、今すぐ汲んでめぇります。あのー、
ケメ子さーん、ケメさーん。」
壱「ケメ子ってのはあの子だな、ええ?もう、水は汲んであるって?ああ、
足を洗ってくれるのかい?ありがとう、あんた、ケメ子さんって言うの?
変わった名前だね。どんな字を書いて『ケメ子』と読ませるんだ?」
女中弐「お前さんたちが行く言うた、君塚温泉の君(ケメ)書くだよ、君と
僕(ケメとボコ)のケメだよぉ、ケメボコのケメだよ。」
壱「ああ、ケメボコのケメねぇ。顔はカマボコの板みたいな顔して。ごはん
とね、お酒を二、三本頼みます。それから、風呂は沸いてるかい?」
女壱「へぇ、湧いてごぜぇます。」
壱「じゃ先に風呂へ入ろう、客は他にいないんだ、裸になっちゃえ。」
女壱「あれまぁ、裸んなってはダメだよ。途中に駐在所があるよ。」
壱「ええ、ずいぶん広い家だね、家の中に駐在所があるの?」
女壱「ここは、支店(ステン)なんだよ。支店の方は水が不便で風呂湧かさ
ねぇんだよ、本店に風呂が沸いてごぜぇーます。」
壱「本店まで行くのか。本店てのはどこにあるんだい?」
女壱「君塚温泉に本店がごぜぇーまして。」
壱「これから、往復十六里歩いて、風呂に入れるかよ!そこへ行かれないか
ら、ここへ泊まったんだよ。飯にするから、お酒が来たね、じゃネェちゃ
ん、お酌しておくれ。ああ、ありがとう、ネェちゃん、お前国はどこだい?」
女壱「秋田だよ。」
壱「秋田の名物ってのは何かあるかい?」
女壱「美人(ビズン)だよ、秋田美人言うて、美人だよ。」
壱「秋田ビズンね、名物に美味いモノ無しとは良く言ったもんだ。秋田は民
謡の宝庫だ、何か歌でも歌えるかい?」
女壱「秋田音頭でもやるかねぇ。♪ハー、ガッコのフェンフェがキンタマオ
トステ、セイトぬフロワリィタぁ、コヅケェタノンデフロイニヤッタバ、
ミソヘテネテクテタぁ。」
弐「おおい!これ、日本の歌かい?チベットの歌じゃねぇか?」
壱「俺が通訳してやる。これは『学校の先生が』と言うんだ、秋田の言葉は
鼻に抜けるから、先生が『フェンフェ』となる。先生がどうしたって?」
女壱「キンタマ、落とすて。」
壱「ええ!あんなモノ、落ちるのかい?そそっかしい先生だね。」
女壱「生徒に(ヌ)、拾われた(フロワリィタ)」
壱「生徒が拾って、持って行っちゃったんだ。そしたら、どうした?」
女弐「小使ぇ(コヅケェ)頼んで、拾い(フロイ)にやったば。」
壱「ふんふん、小使さんを頼んで拾いにやったらどうした?」
女壱「ミソヘテネテクテタぁ。」
壱「これは、通訳にも分からないよ、何だい?それは?」
女壱「みそ煮にして喰っちゃった。」
壱「それを!あんなモノ喰えるのかい?・・・そのキャンタマって何だい?」
女壱「コンニャク玉のこった。」
壱「それを早く言え!!余計な心配しちゃったよ。どうでも良いけど、この
みそ汁は、何かジャリジャリするな。」
女壱「すまねぇよ。ここいらへんは、水が不便なんで、さっき、お前さんた
ちが足洗った水で・・・」
壱「おい!冗談じゃねぇよ。あれあれ、家の中で雨が降って来たよ。」
女壱「心配(スンパイ)する事はねぇよ、長靴の傘と貸すからねぇ。」
壱「長靴はいて、傘さして、布団の中で寝られるかよ!」
女壱「そうではネェよ。長靴はいて、傘さして、本店行って寝てくだせぇ。」
●能書き
先代の雷門助六師匠が高座にかけてくれた、希少落語です。助六師匠は、
この噺のように、あまり他の噺家さんが演じない落語のネタを多く持ってい
た師匠で、「化け猫(04/08/21)」「虱(しらみ)茶屋(まだお届けしてませ
ん)」「両国八景(まだお届けしてません)」「一升酒(まだお届けしてま
せん)」などなど、珍しい噺を聞かせてくれた師匠です。
ところで、この噺の舞台となるのは、いつの時代なのでしょうか?話中に
「旅館」や「駐在所」などという、江戸時代にはなかった用語が出てきます
し、紙面の関係で省略しましたが、ケメ子さんが自分の名前を紹介するに当
たり「君の名は」を引用したりしています。たしか「君の名は」が、ラジオ
ドラマで放送されたのは、私が生まれるはるか前の昭和二十七年頃のはず。
とすると、この落語の舞台は、昭和二十年代終わりから三十年代と言う事に
なるのでしょうか?
そのくらいの年代になれば、電車・バスは整備されていたはずで、そんな
時代に、宿泊をかさねて、歩いていかなければたどり着けない「君塚温泉」。
何か秘湯の宿って感じがします。「君塚」と言う地名は、京都府亀岡市と、
千葉県市原市にありますが、そこに秘湯の宿があるかどうかまでは、分かり
ません。幻の秘湯・君塚温泉・・・
今回は江戸の「旅館」事情について、お話しします。日本の地でも太古の
昔から、人間は、交易、狩猟、交戦などのために、自分の住み慣れた場所を
離れる事がありました。しかし、それは、盗賊団に財産や命を狙われ、山に
入れば、狼などの野獣の餌食となる事もあり、道を誤れば、凍死・餓死が待
ち受けると言う、死と隣り合わせの危険な任務でした。
やがて、時が流れ、戦国時代が終わり、徳川家康公が江戸に幕府を開きま
す。治安も良くなり、家康公は、江戸の日本橋を起点とした、東海道・中山
道・日光街道・甲州街道・奥州街道の、いわゆる五街道を始めとする、道路
網を整備します。当初は、大名の参勤交代をスムーズに行わせるための道路
網でしたが、当然、庶民も利用する事となり、以前は命がけだった「移動」
も、行楽や観光を目的とした「旅」となり、行き交う人々に、宿泊場所を提
供する施設も出来ます。
宿泊施設は、素泊まりだけ、それも、いろりのまわりで見知らぬ旅人同士
が雑魚寝をするような、安易・安価なものもあります。食事をしたければ、
旅人は持参している糒(ほしい)などを湯でもどして、自炊します。糒は携
帯できますが、湯を沸かす燃料となる薪(まき)までは携帯できませんので、
宿泊施設に頼むと、薪だけは、売ってくれます。この様な宿を、薪(木)の
賃金を払って泊まる宿と言う事で、「木賃宿(きちんやど)」と呼びました。
宿泊客は、一階に雑魚寝しますが、宿の主は、二階に自分の部屋があり、そ
こで寝ます。「薪を売ってほしい」など、主に用事がある時、宿泊客は、棒
で天井をつつくと、その音で主が二階から顔を出し、用件を聞くシステムに
なっていました。
また、宿泊すれば、食事も出してくれる様な宿は、「旅籠(はたご)」と
呼びます。本来、旅籠とは、旅をする時の馬の飼料を入れた籠(かご)の事
でした。やがて、旅行用の食物を入れる器も旅籠と呼ばれ、その食物自体も
旅籠となり、その旅籠(旅行用の食事)を提供する施設を「旅籠屋・旅籠」
と呼ぶようになったのです。
●跋
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前号の「鼻ねじ」につきまして、「隣の花」と言う別題があるとの情報を
お寄せ下さいました「落語大好き老人」様、ありがとうございました。限ら
れた紙面で、いろいろな事をご紹介しているので、落語の別題もご紹介する
場合と、ついつい、省略・・・と言うか、忘却してしまう事もあります。読
者さんからの積極的な情報提供は、戯作者としても嬉しい限りですので、何
かございましたら、メールをいただけれは幸甚です。
さあ、ゴールデンウィークです。江戸変わり咲き朝顔を育てている皆さん、
種を蒔く季節となりました。「江戸変わり咲き朝顔」って何?と思われた読
者の皆様へ、私は毎年、江戸時代から続く、変わった形の花や葉を付ける可
能性のある「江戸変わり咲き朝顔」を育てています。
変わり咲き朝顔については、こちらをどうぞ
http://mg.biology.kyushu-u.ac.jp/mg-files/henka/index.html
毎秋、読者の皆様に、「変わり咲き朝顔」の種をお配りしていたのですが、
昨秋は、なぜか、発芽率が極端に悪く、読者さんへの種プレゼントが出来ま
せんでした。今年は、朝顔君たちにがんばって咲いてもらい、種を収穫して、
希望される読者さん全員に「江戸変わり咲き朝顔の種プレゼント」を再開し
ようと思っておりますので、その種欲しい!と思われた方は、種が取れる秋
まで、メルマガ、解約しないでネ・・・
ご意見・ご感想、お待ちしております。頂いたメールは、お断りのない限
り、メルマガの中で紹介させていただく場合がありますので、よろしければ、
HNを。江戸時代、あこがれます・・・
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