2009/04/14
「落語に見るオモシロ江戸風俗」 ●百年目
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3分で読める! 「落語に見るオモシロ江戸風俗」
平成弐拾壱己丑年卯月拾肆日 其の弐佰伍拾捌號 (2009/04/14 No258)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━お━も━し━ろ━ば━な━し━━
春 お花見の季節 芸者 幇間上げての船遊び
粋な遊びをしたいけど 先立つものが・・・
●百年目
とある大店の堅物番頭、今日も店の者に小言の連続。苦虫をかみつぶした
様な顔で、番町のお邸を回ってくると、お店を出ます。ひょいと横町から出
てきたのは幇間(たいこもち)。
幇間「もしもし、大将。」
番頭「馬鹿!こんな所で声をかけるな。店の者に見られたらどうする!」
幇「あなたは遊んでいる時は粋な方だが、お店にいる時は恐ろしい顔してま
すなぁ。閻魔様が塩辛を舐めたような。もう、みんなお待ちですよ、蔦奴
さん、里奴さん、歌奴さん、吉奴さん、冷奴さん、船はいっぱいでげす。」
二丁ばかり来て、路地へ入ると、駄菓子屋が一軒ある。駄菓子屋のおばあ
さんに軽く挨拶をすると、二階へ上がる。ここにタンスが預けてあり、着て
いるものをそっくり替える。どこから見ても、大家の旦那と言うこしらえで
柳橋へ、船の中は芸者が待ちかねている。もやいを解いて、こぎ出します。
番頭「酒の支度は出来ているか?船の障子はぴったり閉めておきなよ。」
芸者「閉めたら、暑いじゃありませんか。向島でお花見をするんでしょ。」
番「すれ違う船で、もし、顔を見られたら困るから、閉めておけ。花が見た
ければ、障子に穴を開けて、のぞけば良い。」
これから、大きいやつでクビクビ呑む、船は吾妻橋を越え、枕橋のあたり
へ来た時には、すっかり良い気持ちで、陽気の良い時分、船に大勢乗り込ん
で障子を閉めているものだから、その暑いのなんの。
番「暑いなぁ。なぜこうぴったり閉めちまうんだ、少し開けな。」
芸者たちは、お許しが出たてんで、すっと障子を開ける。ひょいと土手を
見ると、今が満開と言う。土手の上はお花見の人でうずまっております。人
に顔を見られるといけない、と渋る番頭に、幇間が扇を広げて逆さに顔に当
てて、紐でぐるぐるっとゆわけば、扇の骨の間から表が見えて、顔はかくれ
て分からないと、一工夫して、みんなで土手へあがって、鬼ごっこ。
番「よぉし、俺が鬼になる。捕まえたヤツは大きい器で呑ませるぞ!」
芸者たちは、きゃーっと逃げる、今まで殺していた酒がいっぺんに出まし
たので、有頂天になって、土手をあっちへよろよろ、こっちへよろよろ。と、
お店の旦那が、玄白と言うお太鼓医者を供に連れて、花見に来ておりました。
番頭、酔っているから、事もあろうに、芸者と間違えて、旦那に抱きついた。
旦那「これはこれは、人違い。」
番「人違いも何にもあるか、一杯呑ませるぞ。さ、顔を見てやるぞ。」
扇を取る、一番怖いと思う旦那とピタッと顔が合ったんで、驚いたのなん
の。思わず一間ばかり後へ飛び下がると、そこへペタペタっと座った。
番「どうも、お久しぶりでございます。(しどろもどろ)ご無沙汰を申し上
げておりました。その後、お変わりもございませんで・・・」
旦「あの、お連れの方、たいそう酔っているから、怪我のないように。あま
り遅くならないうちに帰してくださいよ。さぁ、玄白さん行きましょう。」
番「だから、船から上がるのはいやだと言ったんだ。とんでもない事になっ
た、あたしゃ、これからすぐに帰るから。」
お店へとって返すと、風邪をひいたと言って、二階へ上がって布団に入り
ますが、寝られたもんじゃない。もう暇を出されるに違いないてんで、一晩
中もんもんとしている。夜が明ける、ようよう一膳の食事を流し込んで、帳
場へ座ったが、帳面の字なんざかすんで見えない。そのうちに、旦那がお呼
び、所詮助からないと、旦那の前へしおしおと出る。
旦「番頭さん、一軒の主を、なぜ旦那と言うか知っているかい?栴檀(せん
だん)と言う木がある、その下に南縁草(なんえんそう)と言う草が生え
る、この南縁草と言うのは、栴檀に取ってなによりの肥やしになる。また、
栴檀も南縁草に露を降ろす。お互いに持ちつ持たれつ、そこで栴檀のダン
と南縁草のナンを取ってだんなん、旦那と言うそうだ。ここの家では、私
が栴檀、お前が南縁草、また、店へ行けば、お前が栴檀で、店の者は南縁
草だ。店の南縁草にも露を降ろしてやってください。昨日は大層お楽しみ
だったね、いやいや、言い訳をしなくても良い。あたしは夕べ、お店の帳
面を見せてもらいました、あんな事をしてどんな穴を空けているのかと思
えば、これっぱかりの穴もない。お前さんには改めてお礼を言いますよ。
来年は約束どおり一軒のお店を持たせます。それから、昨日、『お久しぶ
り、ご無沙汰を』と言っていたが、一つ家にいながら、『ご無沙汰』って
のはどうしてだい?」
番「堅いと思われている私が、あんなざまでお目にかかりましたので、ああ、
もう『これが百年目』と思いました。」
●能書き
長年捜していた敵に巡りあった時などに言うセリフ、ここで会ったことで
すべてが終りだと言う意味の「ここで会ったが百年目」を落ちにした人情噺
です。
元ネタは宝暦十二年(1762)刊の江戸の笑話本「軽口東方朔巻一」にある
「手代の当惑」で、旦那が色町で喧嘩をしている自家の手代を見つける、主
人に見られた手代は「久しう御意得ませぬ」と言って逃げてしまう。主人が
家に帰ってから、手代を呼びつけ、その意味を問うと「アイ、私も百年目と
存じました。」と言うものです。文化四年(1807)江戸の落語家・喜久亭寿暁
のネタ帳には、すでに「百年目」と記載があります。上方にも同じがありま
すので、江戸の噺が上方へ移され、再度、上方から東京へ再輸入されたもの
と思われます。ちなみに、上方で演じられる時の花見の場所は、「桜の宮」
です。
江戸時代の商店では、番頭さんに絶対的な権限が与えられ、旦那は店の事
にはあまり口を出しませんでした。帳尻が合っていれば、旦那は文句を言い
ません。出来の悪い番頭ですと、「紫壇楼古木(09/02/10)」の様に、大穴を
開けて店をつぶしてしまいますが、出来の良い番頭さんなら、今回のお噺の
ように、年々、それなりの利益を計上しながら、自分もその余録に預かる事
も出来ます。余録に預かると言っても、百両儲けがあったとして、九十両を
利益として計上して、十両は自分のポケットへ・・・などと言うしみったれ
た余録ではありません(その程度の才覚では大店の番頭は勤まりません)。
百両まるごと、自分の力量で、旦那や店の者には内緒でやっている、自分の
サイドビジネスに投入し、百両を百五十両に増やし、その五十両を自ままに
する、と言った利殖なのです。
今回は、江戸のお花見事情についてお話しします。江戸の花見の名所は、
長屋の花見(04/04/12)でお話ししたとおり、今回のお噺の舞台となる向島、
花見の仇討ち(04/04/06)の舞台となる飛鳥山、上野東叡山寛永寺、品川の御
殿山、谷中、日暮里根津権現、音羽護国寺、小石川伝通院、中野宝仙寺、愛
宕山、目黒祐天寺、池上本門寺、小金井の堤、などなどがあり、現在も花見
の名所として現存している場所がほとんどですね。
将軍家・徳川様の菩提寺である上野の寛永寺は、鳴り物や飲酒、馬鹿騒ぎ
が禁じられていましたので、ドンチャン騒ぎをしたい方々は、向島を始めと
しす隅田川沿いや、飛鳥山などへ繰り出しました。特に、隅田川沿いは、夜
桜見物をして、そのまま吉原遊廓へと言う、遊び人には定番のお花見コース。
船宿に繰り込み、船で酒宴を繰り広げながら、隅田川をさかのぼり、吾妻橋
を越えたあたりで、隅田堤の夜桜を愛で、そのまま吉原へ・・・吉原が無く、
隅田川もどぶ川になってしまった現代では、絶対に味わえない「贅沢」です。
正徳元年(1711)、名将軍八代・吉宗公(紀州04/04/22参照)によって、千
本余りの桜が植えられた飛鳥山は、近くに王子稲荷があったため、その参詣
者も集める花見の名所となります。
小金井の桜は、玉川上水(家見舞い06/06/20・水屋の富07/05/15参照)の
両岸に植えられた数千本と言う桜が売り物でした。江戸市中からは約六里
(およそ24Km)離れているので、馬や駕籠をチャーターして、泊まりがけで
のお花見小旅行となります。
江戸のお花見は、江戸娘たちにとっても、待ち遠しいイベントです。江戸
娘たちは、花見の日にそなえ、衣装を整え、かんざし、くし、こうがいなど
の装飾品を調達し、あるいは、お友達同士で貸したり借りたりして、艶やか
ななりで花見に繰り出しました。着飾った娘たちの衣装は「花衣(はなごろ
も)」と呼ばれ、娘たちの「お花見デビュー」です。そして、花より団子よ
り、その娘たちを見物するのも、江戸の男どものお楽しみでもありました。
●跋
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お花見、したいなぁ・・・けど、どこの桜の名所も満員で、一人、ぽつね
んと花見を堪能する私を受け入れてくれる場所はなさそう。どこかに、隠れ
た穴場みたいなお花見の場所ないかな?彼女(いないけど・・・)を誘って、
桜の下で、お酒を呑みながら、江戸と落語のうんちくを傾けるなんて、夢の
また夢?ご意見・ご感想、お待ちしております。頂いたメールは、お断りの
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ければ、HNを。江戸時代、あこがれます・・・
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■お話:落語とお江戸のフリーライター・福々亭 笑助(千葉落語同好会)
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