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日本再発見!チョイト小粋なダイジェスト落語と江戸のオモシロいお話しを雑談ふうに語ります。

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2009/03/17

「落語に見るオモシロ江戸風俗」 ●普段の袴


━━ら━く━ご━と━お━え━ど━の━━━━━━━━━━━━━━━━━

 3分で読める! 「落語に見るオモシロ江戸風俗」

  平成弐拾壱己丑年弥生拾漆日 其の弐佰伍拾肆號 (2009/03/17 No254)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━お━も━し━ろ━ば━な━し━━

 殿様の袴 ブグバグ ブグバグ 三ブグバグ
  合わせて ブグバグ 六ブグバグ  三回続けて 言えるかな? 

●普段の袴

 昔のお成り街道は、骨董屋などが並んでおりまして、一軒の骨董屋に立ち
寄りました一人のお武家様、黒羽二重の五所紋付き、仙台平の袴(はかま)、
白足袋に雪駄履き、白扇を持ちまして、誠に上品なこしらえで。

武家「亭主、ゆるせよ。お前の店はここであったか。」
亭主「これは、殿様でいらっしゃいますか。」
武「谷中まで墓参に参ったもどりで、供の者にはぐれて、ここまで来ると、
 お前が店にいる。お前の店はここか、良いかまえをしておるな。立派なも
 のではないか。」
亭「お上がりください。お茶を差し上げますので。」

 昔は、来客があると、まず、煙草盆を出すのが礼儀で、殿様は金皮か何か
の立派な煙草入れを出し、金のムクのキセルに葉をつまんで詰める。ムクな
んてのは、犬だけかと思ったら、キセルにもムクがありますんで。火に近づ
けますと、煙草が良いから、呼び火をします。とって返して、一服吸いなが
ら。

武「亭主、最前から見とれておるのだが、あの隅にかけてある鶴は、まこと
 に見事だのう。」
亭「相変わらず、お目が高くていらっしゃいますな。あの鶴にお目が止まり
 ましたか。惜しい事に落款がありませんが、文晁(ぶんちょう)と思って
 おります。」
武「文晁でなければ、こうは書けまい。見事な鶴だのう。ウーム。」

 キセルの掃除が行き届いているところへ、ウーム、と息が通ったから、火
玉がピョコっと抜けて、袴の上に落っこちた。
亭「殿様、殿様、お袴の上に火玉が落ちました。お召し物に傷が・・・」
武「(火玉をはらいながら)案じる事はない。これは、いささか普段の袴で
 ある。」

 これを見ていたのが、我々同様の連中で。
八五郎「へぇ、侍なんてのは、驚かしやがるねぇ。袴を焦がして、これはい
   ささか札の袴ある、だって。へぇ、俺もやってみよう。」

 なんてんで、袴が無いから、大家の家へ。
八「大家さん、袴を貸してくんねぇ。」
大家「お前が袴を?ああ、口上茶番の衣装にでも使おうてんだろ。おばあさ
  ん、貸してやんな、タンスの引き出しをあける事はない。そこの折れ釘
  にぶるさがってるだろ、それでたくさんだ。さあ、持って行け。何だ、
  これじゃ不足か?」
八「いいよ、どうせ焦がすんだから・・・へへへっ、借りて来たぞ、あ!い
 けねぇ、袴を借りたけど、着物を借りるの忘れちゃった。まあ、いいや。
 このままはいちゃえ。」

 なんてんで、印半天に袴を履いたんで、変な出で立ち。
八「おう、亭主、ゆるせよ。お前の店はここかぁ。」
亭「変な人が入って来たよ。御用でございますか。」
八「今日は墓参に参っての帰りである。供の者にはぐれた。」
亭「自分が供みたいで。」
八「ここまで来ると、お前が座ってやがったんで、ああ、狸の穴はここだな
 ってのが分かった、良い所へ巣くってやがるじゃねぇか。おい、小僧、早
 く、煙草盆を持って来いよ!」

 取り出したのは、真鍮のナタマメギセル、煙草入れの底を引っかき回して、
ようよう集めた粉煙草。ぎゅうぎゅう詰めにして口の方からお迎え火。
八「おう、亭主。すみの方にぶるさがっている絵は、良い絵だな。」
亭「これは恐れ入りました。あの丹頂にお目が止まりましたか。惜しい事に
 落款がありませんが、文晁と思っております。」
八「ブンチョウ?文鳥じゃねぇや、文鳥てのは、もっと小さくて、くちばし
 の赤いのが、文鳥だ。どう見ても鶴じゃねぇか。うーん、良い鶴だ。ウー
 ン、ふーふー。」

 キセルの掃除がしていないから、火玉が出やしません。やけになって、ぶ
ーっと吹いた。キリキリっと舞い上がった火玉が、袴の上に落ちないで、す
とーんと頭の上に落ちた。
亭「あなた様、おつむりに、火玉が落ちましたが。」
八「うーん、心配するねぇ、普段の頭だ。」



●能書き

 元ネタは不明。この噺を時々高座にかけてくれたのが、先代の林家正蔵
(彦六の正蔵)師で、あの正蔵師独特のしゃべり口調でこの噺を聞くと、い
かにも、おうような殿様の感じが出て、のどかな、ほんわかとした雰囲気が
味わえます。若手の落語家さんたちでも、何回かこの噺を聞きました、お前
が偉そうに言うせりふではない、と怒られるかもしれませんが、「まだ若い
・・・」と感じてしまいます。

 今回は、谷文晁(たにぶんちょう)についてお話しします。文晁は、宝暦
十三年(1763)九月九日生まれ、江戸後期の日本画家です。円山応挙(応挙に
ついては、04/08/11応挙の幽霊参照)、狩野探幽(1602〜74)と並び、徳川時
代の三大家として数えられます。

 江戸の下谷根岸の生まれで、通称は、文五郎または直右衛門。名は正安、
号は文朝・師陵で、後に文晁を名乗ります。幕府の下役の家系に生まれた文
晁は、祖父・父の影響もあり、幼いうちから、和歌、漢詩、狂歌などに親し
みます。

 十二歳で狩野派の加藤文麗に学び、十八歳で渡辺玄対に師事。二十歳の時、
玄対が没したので、北山寒巌に師事し、北宗画を習います。さらに、狩野派、
古土佐、琳派、円山派、四条派を学び、朝鮮画、西洋画も学びます。二十六
歳の時、長崎へ向かう途中、大坂で木村蒹葭堂に正式な南画の指導を受け、
長崎に着いてからは、張秋谷に画法を習います。

 古画の模写と写生を基礎とし、今まで学んだ各派の技法を織り交ぜた画風
で、山水画、花鳥画、人物画、仏画まで描き、関東南画の第一人者となりま
す。

 三十歳になるまで、全国を行脚、各地の山を写生し、「日本名山図譜」と
して出版。富士山を好み、富士峰図・芙蓉図などの名作を残しています。門
人には、渡辺崋山、立原杏所。谷幹々(妻)、秋香(妹)なども女流画家と
して著名な他、養子・文一、実子・文二も優れた画家でしたが、後継者であ
る文一、文二がともに夭折したため、やがて、谷一門は零落します。

 テレビのお宝鑑定番組で、時々「谷文晁の絵」が出ますが、多くは期待を
裏切り(あるいは期待どおり?)、贋作です。文晁は、弟子に求められると、
弟子の描いた作品にも、気軽に自分の落款を押してしまう性格で、自分の絵
に文晁の落款を押して、文晁作として売りさばき、生活費にあてる弟子がた
くさんいたと言います。購入者が贋作ではないか!と、文晁の元に怒鳴り込
んで来ても、「私の落款があるから、本物でしょう」と言って意に介さなか
ったと言いますから、かなりの数の「谷文晁の贋作」が市中に出回っていた
ようで、文晁の落款があるだけでは、本物とは言えないのです。

 天保十一年(1842)十二月十四日没、享年七十九歳。墓所は浅草源空寺、戒
名は「本立院生誉一如法眼文阿文晁居士」。辞世の句は「ながき世を化けお
ほせたる古狸尾先なみせそ山の端の月」。



●跋

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 さてさて、前号で「鶴」のお話しをしましたが、あれは実はちょっとした
「前置き」です。今号で「文晁の鶴の絵」が出てきますが、これは、本当に
文晁作なのか?贋作なのか?もし、今号の「鶴の絵」、鶴が松の木の上に止
まっていれば、前号でもお話ししたとおりで、実写を基本とした文晁として
はおかしい事になり、贋作の可能性大!!亭主も殿様もその程度の目利きで
しかない、フフフ、私の方が目利きだぞ、と、優越感に浸れます。鶴が地上
にいるのであれば、もしかすると、本物?かもしれません。うーん、亭主、
殿様、なかなかやるねぇ。と言うところです。こんな、重箱の隅をつつくよ
うなウンチク傾けるのも、落語通の楽しみ?でしょうか・・・

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